40歳代の男性が「両腕の皮膚に黒いところができて広がってきている」との訴えで受診されました。皮膚科的な疾患じゃなく皮下出血のようです。ご本人から「オレかなり酒飲むんねん」その量を聞くと、500ml、7%の缶酎ハイを一晩に5本ぐらいという事でした。500ml×5本×0.07(7%)×0.8(アルコールの比重)=140gの計算で一日の純アルコール摂取量が計算されます。

一般的には純アルコールとして1日20gまでとされていますので、とんでもない量です。血液検査でも肝臓の数値の異常(AST、ALT、Bil、γ-GTP)と血小板数の減少がみられ、皮下出血の理由となります。この方はいけないのはわかっていても、時間が来ると我慢できなく飲んでしまうという明らかにアルコール依存症です。
こうなると私の守備範囲を超えていますので、精神科もしくは心療内科受診で、入院「断酒」することが大原則となります。この方は以前から某メンタルクリニックで精神安定剤などの投与を受けていましたので、そちらで相談、入院が難しい(収入が絶たれる)ようなら、飲酒量を減らしながらの通院治療もあると思う(飲酒量低減薬の内服)と再受診を勧めました。
数日後に当院に来られ、そのメンタルクリニックでは、そのような薬は使っておらず、近隣の精神科病院での加療を勧められたとのことでした。でもその精神科病院受診には抵抗があるので行かないといいます。飲酒量はどうしたと聞くと「だいぶ減らして1本…」「そうなのすごい!」「1本減らした」そんなに激減させられるわけないなと自分でも苦笑いです。
このままだとアルコール性肝硬変→肝がん、もしくは食道静脈瘤破裂による吐血→急死だよなと大学病院にいたころの患者さんたちの顔が浮かんできました。
このアルコール依存症の患者さんは、うまく言えませんが「弱い」人なんです。このままだとダメだから、私がこの飲酒低減薬を使えるように講習(ネット上)とテスト(これもネットで)をうけました。受験料も支払いましたよ。10日ほどでこの薬を私も使うことができるようになり、受講どおりの指導を行い、まずは3か月の内服継続と減酒量(1日2本まで)の目標を掲げてもらいました(初めの目標はそんなに高くしないと講義にありましたので)
それから2週間ほど経過、その間も「〇〇さん、どうしてるかな」と時々気にしていましたが、ある日電話があり看護師が受けました。内容は腕の黒いところが広がっていると。また内服については「まだ服薬していない」と話したそうです。再診を勧めたそうですが、こちらへの受診はいまだありません。
「また空回りだった」と。よくあるんです。こちらが思うほど相手は考えていないという事。
結果は出ませんでしたが、まったく専門外のアルコール依存症について、私が投薬するために受講し、テストは満点じゃなければ受講証明はもらえない(つまり投薬できない)ので真剣に聞き、これまでになかった知識を得たので、「まあええか」と思うようにします。