守田です。(20150619 16:00)
6月17日に兵庫県篠山市で僕も参加する篠山市原子力災害対策検討委員会から酒井隆明市長に対して「原子力災害対策計画に向けての提言」を提出しました。
提言の内容を酒井市長ご自身が「市長日記」の中で端的にまとめてくださっているのでそのままご紹介します。
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安定ヨウ素剤配布へ(市長日記)
篠山市ホームページ 2015年06月18日
http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/mayor/diary/post-826.html
昨日、6月17日、篠山市の原子力災害対策検討委員会から「提言」を受けました。この委員会は自治会、消防団、医師会、原子力の専門家、市民などで構成され、熱心に議論されてきました。
提言の内容は
(1)市民が避難する計画の策定
(2)安定ヨウ素剤の事前配布
(3)事故の際の対策本部の設置による市民への情報提供や勧告
(4)日頃からの災害全般に対する備えの強化
などとなっています。
万一の事故の場合、何より大切なのは「とっとと逃げる」こと、そして逃げる時には「(甲状腺の内部被ばくを防ぐため)安定ヨウ素剤を服用」するということです。
避難計画については、国においても県においても定めておらず、市民が完全に避難できる方法などあり得ないとも思われますが、どこにどのように避難すべきなのかのガイドラインは示したいと考えます。
又、安定ヨウ素剤については昨年3月に5万人分を市役所や診療所に備蓄しているのですが、いざという時に市民に行き届けられません。
そこで、特に服用が必要な成長期にある子どもや希望者を中心に事前配布の準備をすすめたいと考えます。
篠山市は福井の原発から約50キロの距離になりますが、安定ヨウ素剤の事前配布は30キロ圏外では全国で初めてとなるとのことです。
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この日は委員会の中から副委員長の森口久篠山市自治会長会・会長を中心に5人の委員が参加しました。
提言書を提出すると、市長はまとめの項目に目を通されて、積極的に思うところを述べられ、取材に来ていた記者さんたちも交えて2時間近くの懇談がなされました。
それらを通じ、また事後的に書かれた「市長日記」を通じ、私たちの委員会の言わんとするところがきちんとくみとっていただけていることを感じ、心強く思っています。
これまでこの「明日に向けて」でも繰り返し原子力災害対策について触れてきましたが、原発ないし原子力施設の事故は始まってしまえばどこまで拡大するか予想もつきません。
しかも一度始まってしまえば、制御はおろか、何が起こっているのかすらつかめなくなってしまう。福島原発事故の時は、1号炉から3号炉までがメルトダウンしていたというのは事故後2カ月経って5月にようやく発表されたのでした。
いやその段階でも、炉心が溶けだして原子炉圧力容器の下部へと落ちてしまう「メルトダウン」だけではなく、圧力容器を貫通し、格納容器下部に落ちてしまう「メルトスルー」がおきていることはつかめていませんでした。
それどころかたった今でも、溶け落ちた核燃料がどこでどういう状態になっているのか把握できていないのです。
このため事故が始まったら、現場の運転員ですら何がどうなっているのかつかめないのが原発事故のリアリティであることを踏まえた上で、とにかく「とっとと逃げる」こと、十分、遠くまで逃げてから安全性を確認し、戻れるなら戻るのが最も合理的です。
ただしその時に、事故そのものがどこまでも拡大するか分からないのですから、人々が完全に逃げ切れる保証などありません。原発事故とはそういうものであることをしっかり見据えて、いざとなったら各人が必死に逃げるしかないのです。
そのことで、完全に逃げ出すことはできなくても少しでも被害を減らす=減災の観点に立ち、日ごろから必要な準備を進めていくことが問われているのです。
提言書では冒頭に近いところでそれらを次のように表現しています。
原子力災害が起こった時の対処として一番大事なのは「とっとと逃げる」ことです。いったん安全地に逃れてから危険の度合いを判断し、安全が確認されれば戻ってくるという対応をすることが、早期の対応として最も合理的です。
事故に遭遇した時に、理想的にすべての被害を防ぐことは困難であることを前提としつつ、少しでも被害を減らすこと、減災の観点に立って原子力災害対策の計画を練り上げることをこの提言は目的としています。
そのためには事前にできる準備を重ねておくことが大事なのですが、その大きな柱に私たちが置いたのが安定ヨウ素剤の事前配布を進めることでした。
兵庫県の行ったシミュレーションで、高浜原発や大飯原発で過酷事故があった場合、篠山市にはIAEA(国際原子力機関)などが定めるヨウ素剤服用国際基準の倍にもあたる量の放射性ヨウ素が飛来しうるという結果が出ています。
当然にも安定ヨウ素剤の服用が必要になりますが、それなら事故の時に配るよりも、市民が手に持っていた方が圧倒的に早く、確実に服用することができます。
また安定ヨウ素剤で防げるのは甲状腺への放射性ヨウ素からの被曝のみですから、放射性ヨウ素が飛んでくるならばその場にとどまっていてはいけない。一刻も早く逃げ出す必要があります。
その避難を早くするためにも、安定ヨウ素剤をとりにいく時間も労力も減らし、かつ市の災害対策関係の職員にとっても、安定ヨウ素剤配布の労を大きく減らすことで、その分、市民を逃がすための他の作業に人を割けるわけです。
すでに篠山市では私たちの提言を受けた市長の決裁で市民分の安定ヨウ素剤の備蓄を終えていますが、提言書を受けて、今秋から配布に踏み出します。すでにそのための市民向け学習会もかなりの回数を重ねています。
ただし他にもこれから重ねていかなければいけないことはあまりにたくさんあります。
例えば要介護者はどうするのか。どのような備えをしておくべきなのか。子どもたちを効率よく逃がすために何を準備しておく必要があるのかなどなど、枚挙にいとまがありません。
というよりも、最も大事な点は、どれほど対策を重ねても、起きてしまった事故の規模によってはとても逃げられないこともありえるのです。あるいはごく一部の人々しか逃げられないかもしれない。
大切なのは原子力災害とはそういうものだということを市民の間できちんと認識することなのです。そんなとんでもないものが私たちの目の前に何十と存在していることを認識して、少しでも命を守りうる可能性を探ることが求められているのです。
私たちは提言書の中で、このように完全な安全を確保できないと言う原子力災害対策の観点から、原発の再稼働には同意できないこともはっきりと書いています。
しかし原発の再稼働がなされなくても、私たちの周りには危険な核燃料プールがたくさんあります。ここで水抜け事故や再臨界が起こった時も、私たちは命がけの避難をしなければなりません。
その意味で、私たちはすべての核燃料がプールから出され、安全な状態に移されるまで、原子力災害対策をとり続けざるを得ないのです。
このリアリティに立ちきって、原子力災害対策をさらに進めていくこと、計画を練り上げていくことを提言書は求め、市長はこのポイントをしっかりと受け止めて下さったと認識しています。
みなさん。ぜひ放射能事故から人々を守るための一例として篠山市のことを参考にしてください。
提言書は篠山市議会への提出を経たのちに、篠山市ホームページに全文掲載されて閲覧可能となります。そのときに「明日に向けて」でも全面的なご紹介を行いたいと思います。
なお提言書提出をめぐるより詳しいことを、6月28日に龍谷大学伏見校舎で行われる原発災害対策の講演会でお話しますので、興味のある方はぜひお集まりください。同企画のFacebookページをご紹介しておきます!
福島原発事故から4年 守田敏也さんに学ぶ「原発事故・避難計画」
https://www.facebook.com/events/839804416103316/
最後に提言書提出に対する神戸新聞の記事もご紹介しておきます。
原発から命を守るために、各地で原子力災害対策を重ねていきましょう!
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安定ヨウ素剤、今秋から事前配布へ 篠山市
神戸新聞 2015/6/17 20:45
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201506/0008131412.shtml
原発事故の際、甲状腺の内部被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤について、兵庫県篠山市は17日までに、今秋から希望する市民に事前配布する方針を固めた。
同日には、市の第三者委員会が「事前配布を速やかに行うように」とする提言書を酒井隆明市長に提出した。
同委は2012年、放射線治療が専門の医師や市民らで発足。国や兵庫県が原子力災害対策計画を策定していない中、市が単独でできることを提言としてまとめた。
安定ヨウ素剤の配布以外に、自主避難や屋内退避の勧告体制を整える▽市による避難誘導の計画策定-などが柱。
酒井隆明市長は「医師会との調整や市民への周知などハードルは多いが、篠山市としてできることを進めていきたい」と話した。
安定ヨウ素剤をめぐって、原子力規制委員会は原発から5キロ圏内の自治体には事前配布を求め、30キロ圏内では同委の判断の下で服用するとの指針を示している。
県内では西脇市が備蓄しており、高浜原発から30キロ圏内の京都府舞鶴、宮津市なども保管している。(安福直剛)
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