明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1242)『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(小出裕章著)を読んで

2016年04月13日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160413 23:30)

すでにお知らせしたように、この週末、4月16日に京都桂川で尊敬する小出裕章さんとジョイント講演をさせていただきます。
小出さんが「福島原発事故から6年目 放射能から身を守る術」というタイトルで1時間半お話され、僕がそれを受けて、原発からの命の守り方について、とくに災害対策の具体的な面にしぼって、30分ほどお話します。

企画案内のFacebookページを再度示しておきます。
「近くの原発が動き始めた・・・私たちの防災教育」
https://www.facebook.com/events/108395789558470/


日本の反原発運動の歴史の中でも、福島原発事故後のこの5年間の中でも、小出さんの記されてきた足跡は本当に素晴らしく、ありがたいの一言に尽きます。
もっとも小出さん自身は、原発事故後の多くの講演会の場で「事故を止められずに申し訳ありません」と深々と頭を下げられました。
動画などを観ていて心の底からそう思われていることが伝わってきました。
あの時、僕にも似た思いがありましたが、しかし誰よりも原発の危険性を分かりやすく説き続け、同時に民衆の側に立って生きることを鮮明にしてこられた小出さんの「謝罪」であるがゆえに、心の中に染み入るほどに感動を覚えました。

その小出さんとご一緒にするにあたり、京都大学原子炉実験所を退職された後に書かれた最新の書である『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版 2015年9月15日一刷)を読ませていただきました。
あらためて小出さんの、最も大切な原則と言うべきものをしっかりと通していくあり方に触れた思いがして、感動するとともに、みなさんにご紹介したくなりました。

小出さんは第一章に「原子力緊急事態はいまも続いている」というタイトルをつけて、本書を始められています。
これは私たちが今の日本社会を認識する上で、最も重要な点です。この国には福島原発事故直後から、憲法の人権条項の一部を停止した非常大権が発動され、それまでの法律の多くが無視されてしまっているのです。
もちろんそれが合法かというとそんなことはありません。「原子力緊急事態」は合法的な根拠などない違憲のものでしかありませんが、それが強引に通されてしまっているのが現状です。

しかしこの重大事態があまりに忘れ去られてしまっている。この状態にあることを継続的に批判し続けているマスコミもあまりありません。
そもそも、人権条項の一部を停止しなければならないような緊急事態、しかも原子力災害のただなかにある国で、世界から人々を集めてオリンピックを行うなどということがあって良いのでしょうか?
こんなことはこの国に住まう人々だけに対してだけでなく、世界に対する裏切りです。この「原子力緊急事態」についての小出さんの記述を少し長くなりますが引用します。

「日本は法治国家と言われます。法治国家であるならば、半径20~30キロ圏内の住民はもちろん、放射線管理区域ほどに汚染された土地にいる人たちも、強制避難させなければいけませんでした。
しかし日本の政府はそれをしなかった。事故をできるだけ小さく見せたいし、何より原子力緊急事態宣言下にあるのだから、そんな法律は守れないし、守らなくていいということにしました。
同じ理由で反故にした法律はこれだけではありません。普通の人々の被曝限度は「年間1ミリシーベルト」と定められています。しかし、今は緊急事態でそんな法律は到底守れないので守らなくていい。
子どもだろうと、赤ん坊だろうと、「年間20ミリシーベルト」までは大丈夫だから我慢しなさいということにしてしまいました。」(p30~31)

「私はこれまで機会があるごとに、どんなに少ない線量でも、被曝に安心、安全、大丈夫はないと言ってきました。『ここまでは安全』、『ここからは危険』などと線引きすることはできないのです。
『原爆被爆者の死亡率に関する研究』を行ってきた放射線影響研究所も、『(死亡リスクの)しきい値(安全性と危険性の境を示す値)は認められない。すなわちゼロ線量が最良のしきい値推定値であった』と明言しています。
・・・つまりこれが現在の学問の到達点なのです。ですから本当は平時の年間1ミリシーベルトという基準だって大丈夫とは言えません。」(p31)

小出さんはここでとても大事な原則を述べられています。まずは放射線被曝に「ここからは安全」というしきい値などないこと。それが学問の到達点であることです。
だから低線量はどれだけ危険か、安全かという以前に、どんな量でも危険な放射線を浴びさせられない権利が私たちにあるのです。
しかし現行の法律では、1ミリシーベルトまで政府が住民に浴びせてもいいことになってしまっている。それだって本来は間違っているのに、さらに緊急事態だから20ミリまで浴びせても良いとなっているけれども、そんなものは言語道断なのです。
小出さんは「原子力緊急事態」だから20ミリシーベルトまでは浴びせても良いという暴論に反対しつつ、そもそもその根拠となっている「緊急事態」が宣言されていることが忘れ去られていることへの警鐘を鳴らしているのです。

さらに小出さんの眼は、こんなにひどい政府の政策によって、最も苦しめられている人々に向かっていきます。そしてこのように述べられるのです。

「事故が起きてしまったばかりに、強制避難させられた人たちは、避難する本当の理由も知らされることなく、着の身着のまま、家も土地も財産も置いて、バスに乗せられました。
『逃げたければ勝手に逃げろ』と言われて自主避難した人たちは、苦渋の選択をして福島県外に移り住みました。
そして仮設住宅で暮らす大半の人々が、乳幼児や小さな子どもを抱えて暮らしています。
子どもを守りたい一心で家族が分かれて暮らす決断をした人々の中には、夫と妻が分かれて暮らす中で生じてしまった溝を埋められずに離婚してしまったケースが少なくありません。
そうした人たちの多くが生活に困窮し、そのような決断をしてしまった自分自身を責めながら、やっとの思いで生きているのです。」(p43)

小出さんはどこまでも福島原発事故によってもっとも大きな苦しみを背負ってしまった人々の立場に寄り添っていきます。寄り添って、悲しみと苦しみを共にし、その奥底から湧いてくる怒りをバネに論を続けられています。
そしてこの章を次のように結論されるのです。

「原子力緊急事態宣言というのは本来、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的に出されているものです。
・・・にもかかわらず、そうした責務を課せられている人たちは、『国民の生命、身体及び財産を保護」しようなどということは、これっぽっちも考えてないのです。
今もそうですが、日本の政府は福島第一原子力発電所の事故が起きてからずっと、事故をできるだけ小さく見せかけようとしてきました。事故を起こした張本人である東電を庇い、原子力の安全神話を唱えて旗を振ってきた自分たちの誰もが処罰されないようにし、身体も一切傷つかないようにして、正面切ってものを言えない人たち、力の弱い人たちに、すべてのしわ寄せを押しつけ、我慢を強いてきました。保護してきたのは、被害に遭った国民の生命と身体と財産ではなくて、原子力を推進してきた人たちの利権と地位でした。」(p44~45)

小出さんはその末に、必死で避難した人々が再び汚染された土地に押し込められて切り捨てられようとしていること、そのもとで復興ムードが日本中に蔓延され、原発の世界への売り込みまでがなされようとしていることを厳しく批判しています。

今回紹介できたのは全体で6章で編まれている本書の冒頭のこの1章だけなのですが、しかしここまで見てきただけでも私たちは最も大事なポイントを学ぶことができると思います。
放射線被曝の問題は、本来、どこまでが危険でどこからが安全かという話ではないのです。まったく被曝などさせられる必要のない人々が被曝させられたのだということ。にもかかわらず被曝を強要した人々の責任が極めてあいまいにされ、免罪され続けているのだと言うこと。ここにこそ明確に加害者と被害者のいる最悪の公害としての原発事故の本質があるのだということです。
私たちは放射能公害という原点にこそ不断に立ち戻り、加害者の責任を追及し、被害者を守り抜いていかなくてはなりません。

これを忘れて「低線量被曝は思ったほど怖くはないから、被曝地に住んでも大丈夫だ」とか「低線量被曝の影響を気にし過ぎてはいけない」などというこは、重大な責任から逃れようとしている加害者を利するものにしかならないのです。
あくまでも「すべてのしわ寄せを押しつけ、我慢を強い」られてきた「正面切ってものを言えない人たち、力の弱い人たち」の立場から発想し行動していくことが私たちに問われている。小出さんはそれを身をもって体現しつつ訴えているのです。

そんな小出さんや、お話を聴きに来てくださるみなさんと、時と場を共有できる4月16日の企画は本当にありがたい場です。
僕自身、心を込めて、僕なりに編み上げてきた「原発からの命の守り方」について、一生懸命にお話したいと思います。

4月16日に京都桂川にぜひともお越しください!

 

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