守田です。(20121201 08:00)
今日はこれから京都駅に向い、特急はしだて1号で若狭湾に向かいます。午後2時から大飯町でお話します。大飯町・高浜町の見学・取材もしてきます。
これから戻ってのことですが、12月6日(木)午前10時から、京都市伏見区深草の「あゆみ助産院」さんで話をさせていただくことになりました。情報を以下に記しておきます。
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講演「明日に向けて~放射能時代に私たちが知っておくべきこと~」
日時 12月6日(木曜日)
時間 午前10時から12時
主催 あゆみ助産院 のびの会
参加費 1000円
場所 京都市伏見区深草山村町992-2
電話 075-643-2163
http://www.eonet.ne.jp/~ayumi55/index.html
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この日、お話する内容は、東北・関東の汚染の現状、内部被曝のメカニズム、放射能時代をいかいに生きるかなど、これまでも他のところでも話している内容ですが、今回は助産院さんでのお話ですので、産科医療についても触れておこうと思います。
それで今回の記事のタイトルを「放射能時代と産婦人科医医療」として、連載を行おうと思うのですが、僕が書こうとしていることは大きくは二つです。
一つに、この間、日本の医療は、世界の中でも飛び抜けて高い水準(医療の質とかかりやすさと安さ)を維持してきたものの、小泉政権のもとでの、あらゆる領域への市場原理の持ち込みによって、著しく疲弊してしまっていることです。
その中でも筆頭に疲弊を深めているのが、産婦人科医療です。それに続くものとしては、外科、小児科が挙げられます。産婦人科医療は小児科医療と密接につながっていますから、総じて出産と子どもをみる医療と、外科医療が疲弊していることになります。
これらの医療に共通していることは、労働時間が長い医療労働の中でも、さらに飛び抜けて長い労働時間、深夜労働の連続などが問われていることで、あまりの労働の激しさに、医師が次々と疲弊してしまっている現実があります。
しかしこうした実態が、驚くほど世の中に伝わっていません。むしろマスコミによる一時期の過剰で適正を欠いた医療バッシングの影響で、医療関係者への尊敬・尊重が薄れ、医療ミスに対する訴訟が増えたり、無理な要求をするモンスター・ペイシェントが増えたりで、現場の疲弊は深まるばかりです。
そもそも日本の医療従事者、とくに医師たちの平均労働時間は、韓国に続いて世界2位の長時間で、労働基準法からも著しく逸脱している状態が平常化してしまっています。外科医の場合、24時間労働のあとにそのまま続けて働き、手術を行うことも珍しくありません。
つまり日本の中で、もっとも過酷な労働に耐えながら、必死になって人々の健康と幸せを維持しているのが日本の医師たちであり、医療労働者たちの現実でありながら、この現状を知っている人がまれなのです。
何よりもこうした現実を多くの人々がきちんと把握し、医療者を守り、支えていかないと、やがて私たちの健康を下支えしてくれている医療体制が大きく崩れてしまいます。いやすでに崩れだしているのが現実です。
とくに分娩を扱う産婦人科医は、いつ生まれるとも分からない赤ちゃんを前に、常に緊張を強いられています。出産は24時間いつ行われるか分からない。通常の労働時間を朝の9時から夕方の17時までの8時間とするならば、出産は労働時間外の16時間の間に起こることの方が多いのです。
にもかかわらず、人口に比して、私たちの国は医師が非常に少ない国であり、その少ない医師の中でも産婦人科医がどんどん減ってきてしまっています。産婦人科を担うことの困難さ故ですが、それがまた残された医師たちの負担を増やしています。
大きな悪循環が生まれてしまっている。それをなんとかしないと大変なことになります。なんでも市場にまかせればいいという考えを捨てて、社会的共通資本としての医療を守ること、とくに産婦人科医療、小児科医療、外科医療に手厚い手当が必要です。
僕が伝えたい第一の内容はこのことです。
二つ目に、この疲弊を深める産婦人科医療と、小児科医療の体制で、放射能被曝時代への対処をしていかなければならないこと、その大変さをきちんと認識していく必要があるということです。
なぜか。私たちのうちで、放射能に一番弱いのが、お母さんのお腹の中にいる胎児であるからです。これに対して放射線防護を徹底することを僕は訴え続けていますが、悲しいかな、それが前に進んでいるとはけしていえない。今も高線量地帯にたくさんの妊婦さんが住んでいます。
また1キログラム100ベクレル以下という、非常に緩い規制のものとで放射能汚染された食材が流通してしまっており、それが妊婦さんの体内に入ってしまう可能性もまだまだ続くのが現実です。
そうするとどうなるのか。胎児の被曝は、流産・死産の増加に結びついてしまいますし、そこまでいかずとも、さまざまなトラブルの発生が予想されます。そしてそのこと自体が、産婦人科医療を非常に難しくしていくのです。なぜなら今までに比べて、危機が増えるからであり、その度に医療者もますます緊張が強いられるからです。
それはあるいは医療事故の増加にもつながり、それ自身が医療者を著しく疲弊させてしまいます。さらにこれに訴訟の増加が追い討ちをかけるならば、産婦人科医療からの医師たちの離脱が必然的に加速してしまいます。
つまりただでさえ疲弊を深めている産婦人科医療と小児科医療の領域に、放射線被曝が追い討ちをしようとしているということです。いやすでにそうしたことは始まっているはずです。統計的数字を持っていませんが、死産・流産が増えているという声をたびたび耳にしています。
私たちはこのことへの覚悟を固めなくてはいけない。今後、障がいや先天的な病を持っていたり、病弱な体質で生まれてくる子が増えていく可能性が濃厚にあります。そのことが家族と同時に、現場の医療者にものしかかってくる。大変なことです。なのでこの領域の予算とマンパワーを拡大しないといけない。
そのためには政府や行政を動かさなくてはならず、困難な道のりが予想されるわけですが、少なくとも今から手を打つべきことは、この日本の医療制度の疲弊した実態を多くの人々できちんとシェアし、自らのものとしてそれを支えていくムーブメントを強めていくことです。
行政からお金を増やしてもらえなくても、せめて患者さんが、お医者さんたちに対して、もっと尊敬と労りをもって接していくだけでも、随分あり方が違ってきます。本当にぎりぎりで働いている医療関係者が多いので、人々の意識を変え、モンスターペイシェントを減らしていくだけで、医療のパフォーマンスは変わってくるはずです。
とくに産婦人科医療と小児科医療が、放射線被曝の影響と向き合う最前線であることをきちんと認識し、被曝時代の中で、私たちが生命を育み、つなげていくために、本当に全国民・住民・市民が一丸となって、この領域を支えなくてはいけない。
お医者さんたちに救ってもらうだけでなく、市民がお医者さんたちを救い返し、それでもって、困難な中での、幸せと豊さを、ともに生み出していく強い決意を作り出していかなくてはならないのです。
まさにそのことの中で生まれてくる生命を守らなければならないし、生まれる前に奪われる命も少しでも減らさなければいけない。そのために産婦人科医療、小児科医療を支えなければいけません。
以上、二つの点について、今後、連載で記事を書いていきたいと思います。これらのことは、僕が同志社大学社会的共通資本研究センターに属し、「社会的共通資本としての医療」の研究で行ってきたことの延長としてあります。
ただしこの領域での僕の研究は、いったん止まっており、データ的には2008年ぐらいまでのことしかフォローできていません。可能な限り、アップツーデートを試みますが、現状では研究に大きな時間を避けないので、まずは2008年までの蓄積で論を進めたいと思います。
そのため、今、ここに書いていることも含めてですが、現状ではすでに変わっていることも含まれている可能性があります。その点が分かる方がいればぜひご指摘ください。それらを適宜取り込みながら、論を進めていきたいと思います。
いずれにせよ、今後も僕は放射線防護のために走り続けますが、一方では「防護」を呼号しているだけではもはや足りない。すでに起こってしまった被曝への対応を深めなければいけないのです。こうした観点から医療問題の連載を開始します・・・。
続く
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