「ごめんね、由香里ちゃん。
明日の朝は、できるだけ早く帰ってきますからね。
ひと晩だけ、がまんしてちょうだい。心配することはないのよ。
そうそう、せんせいをあそこにご案内してあげてね。
せんせい、由香里をおねがいします」
父親に促されながら、母親は慌てて外に出た。
由香里は彼の手をしっかりと握りながら、不安げな表情を見せつつ二人を見送った。
くねくねと曲がりくねった道を、車が猛スピードで走り抜けていく。
余ほどにさし迫った事情があるのだろう。
由香里は小さな声を上げて、じっと見つめていた。
彼を握る手に力が入り、少し汗ばんでもいる。
なにか声をかけなければ、と思いつつも言葉が浮かばなかった。
由香里の肩を抱いてやるのが、彼のできる精いっぱいのことだった。
「せんせえ…さむい。中に入ろう」
車が見えなくなって、やっと由香里が口を開いた。
彼は、やっと呪縛から解き放たれたように感じた。
「大丈夫、心配ないよ」
「うん‥‥」
力なく答える由香里を、包みこむように抱き締めた。
重い足取りの由香里を、抱えるようにして歩いた。
「もう行きなすったかね? 嬢ちゃん、だいじょうぶかね」
お千代さんが、玄関先で待っていた。
由香里の目からみるみる涙が溢れ、その胸に飛び込んでいった。
「婆ちゃん、婆ちゃん‥‥」
「うんうん、心配ないって、のう。嬢ちゃん、このばばが居るからの、嬢ちゃんの大好きな先生ものう‥‥」
由香里の背をポンポンと叩きながら、
“嬢ちゃんをたのむよ”とでも言いたげに、彼に視線を投げかけた。彼は黙って頷いた。
明日の朝は、できるだけ早く帰ってきますからね。
ひと晩だけ、がまんしてちょうだい。心配することはないのよ。
そうそう、せんせいをあそこにご案内してあげてね。
せんせい、由香里をおねがいします」
父親に促されながら、母親は慌てて外に出た。
由香里は彼の手をしっかりと握りながら、不安げな表情を見せつつ二人を見送った。
くねくねと曲がりくねった道を、車が猛スピードで走り抜けていく。
余ほどにさし迫った事情があるのだろう。
由香里は小さな声を上げて、じっと見つめていた。
彼を握る手に力が入り、少し汗ばんでもいる。
なにか声をかけなければ、と思いつつも言葉が浮かばなかった。
由香里の肩を抱いてやるのが、彼のできる精いっぱいのことだった。
「せんせえ…さむい。中に入ろう」
車が見えなくなって、やっと由香里が口を開いた。
彼は、やっと呪縛から解き放たれたように感じた。
「大丈夫、心配ないよ」
「うん‥‥」
力なく答える由香里を、包みこむように抱き締めた。
重い足取りの由香里を、抱えるようにして歩いた。
「もう行きなすったかね? 嬢ちゃん、だいじょうぶかね」
お千代さんが、玄関先で待っていた。
由香里の目からみるみる涙が溢れ、その胸に飛び込んでいった。
「婆ちゃん、婆ちゃん‥‥」
「うんうん、心配ないって、のう。嬢ちゃん、このばばが居るからの、嬢ちゃんの大好きな先生ものう‥‥」
由香里の背をポンポンと叩きながら、
“嬢ちゃんをたのむよ”とでも言いたげに、彼に視線を投げかけた。彼は黙って頷いた。
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