昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~ (九十五) 看護婦さん、来て! 早く来て!

2014-08-08 08:56:39 | 小説
(二)

「看護婦さん、来て! 早く来て!」

半狂乱で叫ぶ小夜子の姿が、今日もまた見られた
。慌てて飛んできた看護婦に対し
「おかしいの、おかしいのよ。赤ちゃんが、私の赤ちゃんがね、おっぱいを戻しちゃったの。
先生に診て貰ったほうがいいわね?」と泣き叫ぶ。

「大丈夫ですよ、御手洗さん。ゲップを出した折にね、少し戻すことは珍しくないんですよ」
「いいえ! 何かの病気だったら、どうするの。やっぱり、診て貰わなくちゃ。早く先生を呼んで!」

一事が万事だった。些細なことを大げさにとらえては、泣き叫んだ。

「針小棒大って、このことよね。仕事にならないわ、ほんとに」
「先生が甘やかすからよ。なんでも、『はいはい大丈夫だよ、もう』なんてね」

不満の声が渦巻く看護婦たちに対し
「多額の志を頂いたでしょ。多少の我がままは辛抱なさい」と、婦長は取り合わない。

「でも、婦長。仕事になりません、あたしたち。
何でもないことで一々呼び出されたんでは、他の患者さんたちにも悪影響を与えます。
ほぼ全員から、嫌みを言われているんですから」

「まあね、確かにね。度を越してるかな? って思う時もねえ。
でもねえ、先生に言われているしねえ。
『初めての出産で、不安がいっぱいなんだ』って、わざわざ念を押されたし」


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