昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一章~(一) 行き交う人全てが、麗子を振り返っていく

2014-09-04 08:26:52 | 小説
(四)

「どうなさったの? 何を緊張してらっしゃるの」
「あっ、すみません」

“麗子さんのような美しい方が、隣に座られたので”
と浮かびはするのだが、喉がひりついて声にならなかった。

「ほほほ、変な方。ほほほ、ほんとに楽しいわ」
コロコロと、鈴のような笑い声が店の中に響いた。
一斉に、皆の視線が集まる。彼の緊張は更に高まり、思わず俯いてしまった。

「ねっ、お食事に行きましょう」
テーブルの上に置かれた飲み物には目もくれず、麗子は立ち上がった。
慌てて彼も立ち上がった。

“ガタッ、ガタッ!”
危うく、カップを落としかけた。
“しまった!『鈍くさい』と、思われてしまう”

瞬時、彼の脳裏をかすめた。しかし麗子は素知らぬ顔で店を出ている。
慌てて彼は、必死に追いかけた。

闇の中に、麗子はスポットライトを浴びて立っていた。
店からの明かりで舗道は明るいのに、彼にはそう感じられた。
行き交う人全てが、麗子を振り返っていくー彼にはそう思えた。


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