昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (六) 最初で最後のチャンスよ

2014-12-05 08:54:19 | 小説
「シャワーを浴びたいわ」
真理子がベッドから下りながらも、二人の手は繋がれたままだった。
そして彼もまたベッドから下りると、再び唇を重ねた。
「お願い、浴びさせて、、」
真理子の懇願するような声に、
「僕も、入ろうかな」と、彼が答えた。
「だめ。一人で浴びさせて。タケシさんは後にして、ね」

シャワーを浴びながら、真理子は自問した。
”いいの、このままで? 最初で最後のチャンスよ”
”二度とないわよ、きっと”
佐知子にしろ照子にしろ、結婚というゴールが見えている。
しかし真理子の場合は、今夜一夜限りのことだった。
彼に対する想いは、確かなものではあった。
今夜彼と再会し得たことで、その想いはより強くなった。

”ひょっとして、覗いているかも?”
しかしガラス越しに見える彼は、ベッドに大の字になって横たわっていた。
突然淋しさに襲われた真理子の目から、涙がどっと溢れ出た。
その涙を洗い流すように、シャワーの水量を強くした。

「真理ちゃん…」
突然に彼の声が耳に入った。
後ろから彼に抱きしめられた真理子は、体を反転させて
「バカ、バカバカ!」と、彼の胸を叩いた。
堰を切ったように流れ出る涙は、止まることはなかった。

その涙に彼は、胸が締め付けられた。
一同級生として見ていた真理子が、急に愛おしく思えた。
「好きだよ」
思わず口にした。
もう彼の中には、真理子しか居なかった。
麗子もユミも、そして貴子も消えていた。
真理子の手が彼の背中に回り、しっかりと彼を抱きしめてきた。
彼もまた、真理子を抱きしめた。
真理子の迷いが消え、全てを彼に預けた。


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