いつの間にかまどろんだ彼が目覚ると、もう辺りは真っ暗になっていた。
「しまった! 今日は、バイトの日だった。うわあ、もう八時じゃないか」
慌てて飛び起きると、タバコ屋前の公衆電話に飛びついた。
何と言い訳したら良いんだ、と考えあぐねたが、呼び出し音が鳴りやむことはなかった。
首をかしげつつも、とに角バスに飛び乗った。
先日、成績がアップしたからと、月々のバイト料とは別に謝礼を出してくれた先だった。
牧子と出会ってからは、バイト先を二軒に絞り込んだが為に、いまは断られるわけにはいかないのだ。
土下座してでも許して貰おうと考えた。
幸いなことに、バスにはすぐに乗れた。
急く気持ちを抑えながら色々の言い訳を考えてみたが、結局のところ正直に話すことに決めた。
嘘の言い訳では、どこでほころびが出ないとも限らない。
腹を決めた頃に、バス停に着いた。
玄関のチャイムを鳴らしてみたが、何の応答もなかった。
灯りも玄関先だけのようで、留守のようだった。
〝しまったあ。六時の約束だったんだよなあ。困ったな、少し待ってみるか〟
何気なしにチャイム下のポストに目をやると、「御手洗先生へ」と書かれた封筒が差し込んであった。
最後通牒を告げられるようで、絶望的な気持ちになった。
暫く立ちすくんでいたが、意を決して封を開けた。
=御手洗先生へ
急なことで、申し訳有りません。本日から暫くお休みさせてください。 迫田
短い文面が、突発の事態が起きたことを示している。
迫田家には申し訳ないが、彼としては救われた気がした。
どんな事態なのかは分からないけれども、余程に切迫しているらしい。
思い当たる事としては、田舎の祖父のことだった。
正夫がポツリと漏らしたことがある。
「大好きな爺ちゃんが、悪いんです。僕のことをすごく可愛がってくれるんだ。
すごく心配なんだ。何かしてあげたいんだけど、ぼくなんかでは…」
「そうだな、正夫君に出来ることと言えば。
神様にお願いすることと、お爺ちゃんが喜びそうなことをしてあげることだね。
どうだい、もう少し頑張ってみるか、勉強を。
成績が上がれば、喜ぶんじゃないか」
「そうだね。毎日神様にお祈りするよ、僕。勉強も、頑張る。きっと、喜んでくれるよね」
そんな会話を思い出した。
「しまった! 今日は、バイトの日だった。うわあ、もう八時じゃないか」
慌てて飛び起きると、タバコ屋前の公衆電話に飛びついた。
何と言い訳したら良いんだ、と考えあぐねたが、呼び出し音が鳴りやむことはなかった。
首をかしげつつも、とに角バスに飛び乗った。
先日、成績がアップしたからと、月々のバイト料とは別に謝礼を出してくれた先だった。
牧子と出会ってからは、バイト先を二軒に絞り込んだが為に、いまは断られるわけにはいかないのだ。
土下座してでも許して貰おうと考えた。
幸いなことに、バスにはすぐに乗れた。
急く気持ちを抑えながら色々の言い訳を考えてみたが、結局のところ正直に話すことに決めた。
嘘の言い訳では、どこでほころびが出ないとも限らない。
腹を決めた頃に、バス停に着いた。
玄関のチャイムを鳴らしてみたが、何の応答もなかった。
灯りも玄関先だけのようで、留守のようだった。
〝しまったあ。六時の約束だったんだよなあ。困ったな、少し待ってみるか〟
何気なしにチャイム下のポストに目をやると、「御手洗先生へ」と書かれた封筒が差し込んであった。
最後通牒を告げられるようで、絶望的な気持ちになった。
暫く立ちすくんでいたが、意を決して封を開けた。
=御手洗先生へ
急なことで、申し訳有りません。本日から暫くお休みさせてください。 迫田
短い文面が、突発の事態が起きたことを示している。
迫田家には申し訳ないが、彼としては救われた気がした。
どんな事態なのかは分からないけれども、余程に切迫しているらしい。
思い当たる事としては、田舎の祖父のことだった。
正夫がポツリと漏らしたことがある。
「大好きな爺ちゃんが、悪いんです。僕のことをすごく可愛がってくれるんだ。
すごく心配なんだ。何かしてあげたいんだけど、ぼくなんかでは…」
「そうだな、正夫君に出来ることと言えば。
神様にお願いすることと、お爺ちゃんが喜びそうなことをしてあげることだね。
どうだい、もう少し頑張ってみるか、勉強を。
成績が上がれば、喜ぶんじゃないか」
「そうだね。毎日神様にお祈りするよ、僕。勉強も、頑張る。きっと、喜んでくれるよね」
そんな会話を思い出した。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます