(僧侶 二)
「あたまだけはまもれ。てやあしをけがしてもしぬことはない」
そんなごんたの声が、ごんすけの頭をよぎった。
「ごんすけ、こんなところに居たか。
よしよし、よく頑張った。さあ、一緒に来い」
昨夜ごんたの家を訪れた僧侶が声をかけた。
年に一度は立ち寄る僧侶だが、先月に来たばかりなのに、その折のごんたの沈みきった目の中に尋常ならぬ怒りの炎を見てとった。
いつもなら本山での所用を終えた後に北へ東へと足を伸ばすのだが、今回ばかりはごんすけが気になりそのまま戻ってきた。
「おねがいです。にしのほうに、なんばんじんたちがやってくるみなとがあるとか。
ごんすけをなんばんのちにもどしてやりてえ」
ごんたの、苦渋の決断だった。
「ごんすけはおらのこじゃねえ。なんばんじんのこだ。
かえしてやるのが、ほんとうだ。
ここにいちゃ、いつまでもいじめられつづけるだけだ」
「おうめ婆が死んで、もう二年の余か。
よう頑張った。よくぞここまで育てたものじゃ。
任せなさい。ごんすけの行く末は、拙僧が見届けてやろう。心配いらんぞ」
背を丸めて大粒の涙を流すごんたに、やさしく声をかけてやった。
「もしも、もしも…。
ごんすけがかえりたいというたら、おらはもうこのむらにはおらんというてください。
たたきだされてどこかにいってしもうたと。
いやそんなことをいうたらしかえしじゃというかもしれん。
とにかくおらもでていったというてください」
ごんたの低くくぐもった声に、再度聞き返した。
「二度と会わぬということか」
「あゝ、そうですに。おうてしもうたら、にどとてばなせなくなるきがする」
今度ははっきりとした口調で、吹っ切れたように言った。
「よし。その覚悟や良し、だ」
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