闘い終えて。
佐々木小次郎との闘いにおいて勝利したムサシは、今度こその思いで小倉屋に戻った。
賞賛の声で迎えられるものと信じていたムサシに対し、主の出迎えはなかった。
表から入ろうとするムサシに対し、慌てて手代の一人が小声で「裏手にお回り下さい」と告げた。
怪訝な面持ちのムサシを待っていたのは、あれこれと世話を焼いてくれた番頭だった。
破顔一笑で近寄るムサシに対し、
「ムサシさま。誠に残念ではございますが、御指南役のお話は流れてしまいました」
と、苦渋の表情を見せつつ告げた。
「話が違うではないか。佐々木小次郎を倒せば、今度こそ間違いなく剣術指南の道が…」
呻くようなムサシの声を、番頭が冷たくさえぎった。
「ムサシさま。あなたさまのお姿を、この川にお写しごらんください。そして手前と見くらべて下さりませ」
「姿形が、どうしたという……」
生まれてこの方、髪結いなどとはまったくに縁のなかったムサシである。
育ての親のごんた同様に、後ろで縛っているだけだった。
長く伸びた折には、小刀でもってざっくりと切り落とすだけだった。
赤ら顔で太い眉に青い目、そして鷲鼻の先は酒焼けでもって赤くなっている。
どれを取っても番頭とは似つかわぬ顔立ちだ。
「しかし、だからといって…」
佐々木小次郎との闘いにおいて勝利したムサシは、今度こその思いで小倉屋に戻った。
賞賛の声で迎えられるものと信じていたムサシに対し、主の出迎えはなかった。
表から入ろうとするムサシに対し、慌てて手代の一人が小声で「裏手にお回り下さい」と告げた。
怪訝な面持ちのムサシを待っていたのは、あれこれと世話を焼いてくれた番頭だった。
破顔一笑で近寄るムサシに対し、
「ムサシさま。誠に残念ではございますが、御指南役のお話は流れてしまいました」
と、苦渋の表情を見せつつ告げた。
「話が違うではないか。佐々木小次郎を倒せば、今度こそ間違いなく剣術指南の道が…」
呻くようなムサシの声を、番頭が冷たくさえぎった。
「ムサシさま。あなたさまのお姿を、この川にお写しごらんください。そして手前と見くらべて下さりませ」
「姿形が、どうしたという……」
生まれてこの方、髪結いなどとはまったくに縁のなかったムサシである。
育ての親のごんた同様に、後ろで縛っているだけだった。
長く伸びた折には、小刀でもってざっくりと切り落とすだけだった。
赤ら顔で太い眉に青い目、そして鷲鼻の先は酒焼けでもって赤くなっている。
どれを取っても番頭とは似つかわぬ顔立ちだ。
「しかし、だからといって…」
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