昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ お母さんは、信じてるからね

2014-12-03 08:39:13 | 小説
「二次会に出るから。そのまま照子の家にお泊まりしてくるわ」
母親の視線を避けるように、背中越しに言う真理子に
「茂作さんのお孫さんに、会うのかい? お母さんは、真理子のこと信じてるからね」
と、母親の言葉が返ってきた。
母親の直感とでも言うのだろうか、真理子の尋常ならぬ雰囲気を感じていた。
真理子はその言葉が聞こえないふりをして、
「行って来まあす!」
と、努めて明るく振る舞った。

『信じてるからね』
母親の言葉が、真理子の頭にこだまのように響いた。
決意をした筈であったが、”母親の信頼を裏切ることになる”という思いが、真理子を責めた。
そしてその瞬間に遭遇すると、恐怖心が蘇ってきた。

「ごめんなさい。まだ、やっぱり…」
真理子の両手が、彼の体を離しにかかった。
突然の真理子の心変わりにも、彼の動きは止まらなかった。
お互いの、体の押し問答が暫く続いた。

彼の全てから力が抜けた。
その機を逃さず、真理子は彼の下から抜け出た。

彼はベッドにうつ伏せになった状態のまま、身じろぎ一つしなかった。
一時の激情が冷めた彼は、真理子に対しどう相対すればいいのか、わからずにいた。
真理子にしても、彼に対しどんな言葉をかければいいのか、、、。
静寂の時が流れ、その沈黙に耐えられなくなった真理子が、ぽつんと呟いた。


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