昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(七十六) 水しぶきが上がる

2013-12-26 20:10:31 | 小説
(一)

前夜まで降り続いていた雨も上がり、ぬかるんでいた道もほぼ乾いた。
そこかしこにある小さな水たまりに車輪が入ると、水しぶきが上がる。

「キャッ!」
「うわっ!」

そんな奇声が上がるたびに、
「すみません」と小声で呟き、頭を下げる竹田だ。

が、当の相手には聞こえる筈も見える筈もない。

「仕方ないじゃない、道が悪いんだから。
そんなことで一々頭を下げることなんか、ないでしょ!」

“心根の優しい竹田らしいわね”と心内では思いつつも、口から出る言葉は辛辣だった。

「はい、申し訳ありません」

何度も、頭を下げる竹田に対し
「米つきバッタじゃあるまいし、男がそんなに頭を下げないで!もっと毅然としなさい!」
と、声を荒げた。

「申し訳ありません、性分なものですから」

「竹田、あなたね…いいわ、もう。
あたしが何か言うと、決まって『申し訳ありません』だものね。

でも、やめて。なんだかいつも怒っているみたいで、不愉快になるのよ。
今日はお姉さんにお会いできる嬉しい日なんだから。いいわね」

「申し訳…いえ、はい、分かりました。
とに角姉も大喜びでして、雨が降っているのに傘もささずに飛び出してしまう始末で。

母も又、前々日から料理の下拵えに念が入りまして。
手間ヒマをかけるほどに料理は美味しくなるから、なんて言いまして、はい」


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