(一)
前夜まで降り続いていた雨も上がり、ぬかるんでいた道もほぼ乾いた。
そこかしこにある小さな水たまりに車輪が入ると、水しぶきが上がる。
「キャッ!」
「うわっ!」
そんな奇声が上がるたびに、
「すみません」と小声で呟き、頭を下げる竹田だ。
が、当の相手には聞こえる筈も見える筈もない。
「仕方ないじゃない、道が悪いんだから。
そんなことで一々頭を下げることなんか、ないでしょ!」
“心根の優しい竹田らしいわね”と心内では思いつつも、口から出る言葉は辛辣だった。
「はい、申し訳ありません」
何度も、頭を下げる竹田に対し
「米つきバッタじゃあるまいし、男がそんなに頭を下げないで!もっと毅然としなさい!」
と、声を荒げた。
「申し訳ありません、性分なものですから」
「竹田、あなたね…いいわ、もう。
あたしが何か言うと、決まって『申し訳ありません』だものね。
でも、やめて。なんだかいつも怒っているみたいで、不愉快になるのよ。
今日はお姉さんにお会いできる嬉しい日なんだから。いいわね」
「申し訳…いえ、はい、分かりました。
とに角姉も大喜びでして、雨が降っているのに傘もささずに飛び出してしまう始末で。
母も又、前々日から料理の下拵えに念が入りまして。
手間ヒマをかけるほどに料理は美味しくなるから、なんて言いまして、はい」
前夜まで降り続いていた雨も上がり、ぬかるんでいた道もほぼ乾いた。
そこかしこにある小さな水たまりに車輪が入ると、水しぶきが上がる。
「キャッ!」
「うわっ!」
そんな奇声が上がるたびに、
「すみません」と小声で呟き、頭を下げる竹田だ。
が、当の相手には聞こえる筈も見える筈もない。
「仕方ないじゃない、道が悪いんだから。
そんなことで一々頭を下げることなんか、ないでしょ!」
“心根の優しい竹田らしいわね”と心内では思いつつも、口から出る言葉は辛辣だった。
「はい、申し訳ありません」
何度も、頭を下げる竹田に対し
「米つきバッタじゃあるまいし、男がそんなに頭を下げないで!もっと毅然としなさい!」
と、声を荒げた。
「申し訳ありません、性分なものですから」
「竹田、あなたね…いいわ、もう。
あたしが何か言うと、決まって『申し訳ありません』だものね。
でも、やめて。なんだかいつも怒っているみたいで、不愉快になるのよ。
今日はお姉さんにお会いできる嬉しい日なんだから。いいわね」
「申し訳…いえ、はい、分かりました。
とに角姉も大喜びでして、雨が降っているのに傘もささずに飛び出してしまう始末で。
母も又、前々日から料理の下拵えに念が入りまして。
手間ヒマをかけるほどに料理は美味しくなるから、なんて言いまして、はい」
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