昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十六)の五と六

2011-12-30 17:41:21 | 小説


「私は、あなたの何なの?妻だと思えばこそ、これ程に尽くしてきたのに・・」
涙ながらに訴える聡子に対し、武蔵は冷たく言い放った。
「それだけのことは、してやっているじゃないか!
お前を妻にする気はない!気に入らないなら、出て行けばいいだろう!
代わりは、幾らでも居るんだ!」
翌日、聡子は黙って武蔵の元を去った。
『男にとって、男のエゴが生命の素だ!』
武蔵の口癖だった。




朝鮮特需の好景気が去り、中小企業の倒産が目立ち始めてきた。
順調に業績を伸ばしていた富士商会にしても、少なからず影響を受けた。
しかし先年の教訓を活かした武蔵の手腕と共に、
新しい販売方法のお陰で軽微なものに済んでいた。
しかし武蔵の気性からして、焦げ付きを黙然と看過する訳ではなかった。
容赦ない債権回収は、相変わらずだった。
お構いなしに、夜中にトラックで乗り付けては品物を引き上げにかかった。
“富士商会の引き上げ後には、ぺんぺん草も生えていない・・”と、
他社から怨嗟の声が上がったのも、一度や二度ではなかった。
しかし、情け容赦ない回収ばかりではなかった。
再生の見込みがあると判断とした折には、他社の債権を肩代わりすることもあった。
それもあって、富士商会との取引を望む問屋は引きも切らなかった。
“富士商会が取引している問屋ならば、安心だ。”
そんな声も又、聞かれていた。


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