昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

原木 Take it fast! (十三)放課後

2024-08-15 08:00:07 | 物語り

 翌日の放課後、真面目派は、期待と不安とのからむ複雑な心境で、体育館にはいった。
その子の姿はまだ見えない。
と、ヒネクレ派が、更衣室の中から手招きで呼んでいる。
しかし、昨日のことはひと言も口にしない。
すこし裏切られたような、変な気持ちになった。

 いつものようにグランドを走っている時、行動派がドスドスと追いかけてきた。
そして、例の風紀についてはなしあいたい、と言う。
ヒネクレ派は、即座に「嫌だ!」と、答えた。
真面目派は、「あと十分後ならいいよ」と、答えた。
行動派は、満足そうにうなずくと校舎へとむかった。

 ヒネクレ派は、校舎内に行動派が消えたのをみとどけてから、
「おい、きょうはあの子にお前を会わせる予定だゾ。
そこで告白しろ。わかっているのか?」
「いいんだよ、そんなこと。ぼくだって、彼女と話しをしてみたい気はあるさ。
だけどいまは、与えられた仕事をはたしたいんだ」

「ご立派な考えだよ、それは。
しかしなあ、行動派がひとりで突っ走ったんだ。おまえが従うことはない。
おまえ、結局のところは、恥ずかしいんだろう。
大丈夫だって、おれも付き合うから」
「うん、そうかもしれない。でも、やっぱり教室に行くよ」
 ヒネクレ派は、相変わらずの真面目さに、「馬鹿だなあ!」と、連発した。

 真面目派が、体育館にもどる途中、その子にバッタリ出会った。
なのに、せっかくのチャンスをみずから放棄した。
その子のことなど、まるで眼中にないかのごとくに、サッサと中にはいった。
ヒネクレ派が、なにごとか話し込んでいるのが気にはなったが。

 真面目派の着がえが終わったとき、ヒネクレ派がニコニコしながら入ってきた。
そして真面目派の肩をポンとたたき、ニヤリと笑った。
「なんだい、気味がわるい」
 しかしヒネクレ派は、ただニヤニヤするだけで、ひとことも言わなかった。
真面目派も、連られてニヤリとした。
 真面目派は、無造作にかばんを引っさげて、体育館をあとにした。
そして、追いかけてきたヒネクレ派の声にも振りむきはしなかった。



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