昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~(十四)母さんも非難めいた言葉をかけますか?

2015-07-18 11:33:30 | 小説
「牧子さんて、どんな方? その方も不倫中なの? どうも、武士さんって分からないわ」
「いえ、違います!」
「でも、牧子さんって仰有ったわよ、今」
「確かに不倫で悩んでみえました。でも、精算されました」
「そうなの。でも、不倫はされていたのね。
で、武士さんとお付き合いされるようになって、お別れになったのね。
ふしだらだわ」

「…、‥」
何とか反論したい彼だったが、 言葉が出てこない。
「牧子さんを知らないからそんなことを言うんだ」
のどまで出かかるのだが、言葉にしてしまうとその言葉が胡散霧消してしまうような、そんな思いに囚われた。
うまく説明できない自分に苛立ちを覚えてしまう。

「ねっ、タケシさん。目を覚ますべきよ。
もっと、普通の女性とお付き合いしなくちゃ。
そんなことでは、私、安心できません」
麗子は、諭すように言った。
母親気取りのように、彼には感じられた。

「貴子さんね、貴子さんが、武士さんを毒してしまったのね。
私が悪かったのかしら、やっぱり。
あんなお別れの仕方をしてしまったので、武士さん、毒牙にかかられたのね。
ごめんなさいね、配慮が足りなかったわね」

じっと前を見つめたままで、彼を見ることなく話し続ける麗子に
“今日の麗子さんはやっぱりおかしい”
そう感じる彼だった。

“母さん。母さんもやっぱり同じ事を言いますか? 
麗子さんのように、ぼくに非難めいた言葉をかけますか?”
目を閉じた彼は、まぶたに浮かぶ小夜子に問いかけた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿