昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~(十七)もう少し召し上がらない?

2015-10-22 09:03:12 | 小説
「ねえ、先生。もう少し召し上がらない? それとも、こんなおばさんではだめかしら」
妖艶な目付きで、彼を見つめてきた。
思わず目を逸らしながら、黙ってビールをコップに受けた。

「ねえ、先生。由香里のこと、どう思います? 
いえいえ。生徒としてではなく、女姓としてです。
あの子を見てると、いじらしくて。

本当に先生のことが好きなんですよ。
もう涙ぐましいほど、先生に認めてもらいたくてがんばっています。
おかげで成績の方も、グングン上がりました。
手伝いも、しっかりとしてくれます。

ただねえ、反動がこわいんです。
先生もお若いし、恋人も居らっしゃる事だしねえ。
由香里には、一本気なところがありましてね。
こうと決めたら一直線なんです。
もう周りのことなんか、まるでお構いなし。

ちょっと最近、不安な面があるんですよ。
この間なんか、『お母さんのファーストキスは、いつだった?』なんて、聞くんです。
まあね、わたしの時代は現在とちがいますから。
それに昨夜も、ドキッ! とするような事を。
『初体験はいつ? お父さんだったの?』
もう、矢継ぎ早の質問で。ほんと、返事に困りましたわ」

彼は母親の意図を量り兼ねた。
彼を酔わせて本心を吐露させようとしているように見えた。
あくまで生徒として見ているのか、それとも女性として意識し始めていないのか。

そのことを確認したいのではないか、と思えた。
案外に、キスぐらいはしただろうと考えているように思えた。
そして、一線を超えたと思っているのだろうか、とも危惧された。

“いっそ、つい先ほど”と、告白しようかと考えた。
しかし口にすべきではない、と考えた。
確信があってのことではなく、探りなのかもしれない、と考えた。
由香里が漏らしてしまえばそれまでだが、己の口から言うことではないと、逃げた。


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