7月11日シアターコクーンで、ルーシー・カークウッド作「ザ・ウェルキン」を見た(演出:加藤拓也、シスカンパニー公演)。
1759年、英国辺境の町で、殺人犯サリー(大原櫻子)が絞首刑を宣告される。しかし彼女は妊娠を主張。
妊娠している罪人は死刑だけは逃れられるのだ。その真偽判定に12人の女性たちが陪審員として集められた。
その中の一人、助産婦エリザベス(吉田羊)は公正な判断を下そうと闘うが・・・。
果たしてサリーの妊娠は本当なのか?死刑を逃れるための嘘なのか?(チラシより)。
ネタバレあります注意!
冒頭、「家事」というタイトルが掲げられ、女たちがさまざまな家事に従事している。
何しろ18世紀のことなので、洗濯も手洗いだし、今ではなくなった仕事も多い。
次の場面のタイトルは「犯行の夜」。夫の家に妻サリーが帰宅。3日前に男と出かけたきりだ、と責める夫。だがサリーは平然としている。
彼女の服は血で真っ赤。黄色いお下げ髪を取り出してローソクの火にかざし、燃やすので、客席の我々はぞっとする。
狼狽した夫が神に祈ると、サリーは「神様は天にはいないんだよ。あんたの中に、私の中に、いるんだよ」と冷笑。
シーン3。
エリザベス(以下リジ―)が庭でバターを作っていると、男が訪ねて来て裁判所から呼び出されている、と告げる。
サリーは少女殺害の犯人として逮捕されたが、自分は妊娠していると主張するので、その真偽を判定するための陪審員に12人の女が必要だという。
リジ―は最初は断わるが、被告がサリーだと聞いて、気が変わる。
シーン4。
陪審員長以下12人の女たちが規則を聞かされ、聖書に誓いのキスをする。
それぞれ短く自己紹介をするのを聞くと、本当にバラバラで、寄せ集めの人たちだとわかる。
シーン5。
11月。陪審員12名は一つの部屋に集められ、結果が出るまで帰宅できない。
暖炉はあるが、規則が厳しく火もロウソクも使ってはならぬ。監視のために入口に立っている男はしゃべってはならぬ。
被告サリーが連れて来られるが、態度が悪い。ふてくされていて反抗的。この娘、助かりたくないのだろうか、と不思議に思える。
陪審員たちによい印象を与えようとはまるで思っていないようだ。
決を取ると、7対5。全員一致でないといけない。
サリーが乳が出そうだ、と言うので、彼女の指名した一人がサリーの乳房にハンカチを当てて懸命に絞るが、なかなか出ない。
一人が、顔がほてって暑がるので、瀉血したらいい、と足の指を切ってやると、楽になる。
この騒ぎの最中にサリーが「コップを!」と言うのでリジ―がコップを胸にあてがうと、本当に乳が出てくる!
その時、突然暖炉から突風が何度も吹き込み、黒いすすが部屋中に舞い上がる。
2幕
誰かが焼け焦げたカラスを暖炉から取り出す。
リジ―はコップをみんなに見せるが、乳はすすで黒い液体になっていた。
挙手させると妊娠していると思う者は3分の1くらい。
リジ―はなめて見せて「ほら甘い」と言うが、一人が貸して、と言うのでコップを渡すと、この女はやおらそばにあったバケツにコップの中身を捨てる!
みなさすがに驚いて声を上げる。この人、なぜこんなことをするのか、怪しい。
実はこの女性、身分を偽っており、かつてサリーが子守として働いていた家庭の家政婦だった。
その家の坊ちゃまが暖炉で火だるまになって死んだ事件があり、奥様は子守だったサリーが殺した、と信じている。
家政婦は奥様に頼まれて、あの時の犯人がとうとう捕まって絞首刑にされるところを見届けるためにやって来たのだった。
サリーを医者に見せるという提案がなされるが、なぜかリジ―が一人反対する。
だが結局若い医者が現れ、テーブルを並べてベッド代わりにしてサリーを寝かせ、女たちを周りに立たせて衝立にし、診察する。
結果、妊娠と判明。女たちの中に一人、何度も妊娠したのにみんな死産だった人がいて、泣き出す。「まさか妊娠してるなんて・・どうして神様はこんな女に・・」
一人が彼女を抱きしめ、歌を歌い出す。皆もそれに加わり、彼女を慰める歌声が広がる。
評決の結果を男に伝え、みな出てゆく。
これで無事、話は終わりかと思ったが、この先に衝撃のラストが控えていた・・。
疑問①リジ―はなぜ、サリーを医者に見せることに反対したのか?助産婦としての誇りが傷つけられたから?
②サリーの共犯の男が処刑された、というが、それは誰か?
夫は明らかに犯行について何も知らないし、サリーの言う「幻の男」は実在しないのでは?
③おしだった女が見たという、悪魔がリジ―からサリーを引っ張り出した、という話はどう解釈したらいいのか?
④リジ―の赤ん坊を拾って育てた養父母の家庭は、これ以上ないほどひどい環境だったらしい。性的虐待もあったという。
それだったらむしろ、10代半ばの本人と母親が育てた方がましだったのではないか?
それに普通、貧乏な人間は捨て子を拾ったりしないのではないだろうか?
⑤医者がいるのなら、なぜ最初から彼に診察させないのか?(そうなると、この劇自体が成立しなくなるけど・・)
戯曲「12人の怒れる男たち」を彷彿させる。人数も同じ12人だし。あれの女性版か。
当時、実際にこんな事件があったのかも知れない。
芝居としては、被告の女性が悪魔のような人間に描かれ、気味が悪くて全然同情できないのが困る。
つまり、この人の命が何とか助かってほしい、とは思えないのだ。
役者は那須佐代子、梅沢昌代、吉田羊など、みな達者な人ばかりで期待通り。
ただ、サリー役の大原櫻子という人にはたまげた。
まったく知らない人だったが、とんでもなくうまい。大竹しのぶの再来か、というくらい。
今回は残念ながら人間的魅力のかけらもない、不気味で冷酷な女の役だったが、いつか、全然違う役を演じるところを見たい。
1759年、英国辺境の町で、殺人犯サリー(大原櫻子)が絞首刑を宣告される。しかし彼女は妊娠を主張。
妊娠している罪人は死刑だけは逃れられるのだ。その真偽判定に12人の女性たちが陪審員として集められた。
その中の一人、助産婦エリザベス(吉田羊)は公正な判断を下そうと闘うが・・・。
果たしてサリーの妊娠は本当なのか?死刑を逃れるための嘘なのか?(チラシより)。
ネタバレあります注意!
冒頭、「家事」というタイトルが掲げられ、女たちがさまざまな家事に従事している。
何しろ18世紀のことなので、洗濯も手洗いだし、今ではなくなった仕事も多い。
次の場面のタイトルは「犯行の夜」。夫の家に妻サリーが帰宅。3日前に男と出かけたきりだ、と責める夫。だがサリーは平然としている。
彼女の服は血で真っ赤。黄色いお下げ髪を取り出してローソクの火にかざし、燃やすので、客席の我々はぞっとする。
狼狽した夫が神に祈ると、サリーは「神様は天にはいないんだよ。あんたの中に、私の中に、いるんだよ」と冷笑。
シーン3。
エリザベス(以下リジ―)が庭でバターを作っていると、男が訪ねて来て裁判所から呼び出されている、と告げる。
サリーは少女殺害の犯人として逮捕されたが、自分は妊娠していると主張するので、その真偽を判定するための陪審員に12人の女が必要だという。
リジ―は最初は断わるが、被告がサリーだと聞いて、気が変わる。
シーン4。
陪審員長以下12人の女たちが規則を聞かされ、聖書に誓いのキスをする。
それぞれ短く自己紹介をするのを聞くと、本当にバラバラで、寄せ集めの人たちだとわかる。
シーン5。
11月。陪審員12名は一つの部屋に集められ、結果が出るまで帰宅できない。
暖炉はあるが、規則が厳しく火もロウソクも使ってはならぬ。監視のために入口に立っている男はしゃべってはならぬ。
被告サリーが連れて来られるが、態度が悪い。ふてくされていて反抗的。この娘、助かりたくないのだろうか、と不思議に思える。
陪審員たちによい印象を与えようとはまるで思っていないようだ。
決を取ると、7対5。全員一致でないといけない。
サリーが乳が出そうだ、と言うので、彼女の指名した一人がサリーの乳房にハンカチを当てて懸命に絞るが、なかなか出ない。
一人が、顔がほてって暑がるので、瀉血したらいい、と足の指を切ってやると、楽になる。
この騒ぎの最中にサリーが「コップを!」と言うのでリジ―がコップを胸にあてがうと、本当に乳が出てくる!
その時、突然暖炉から突風が何度も吹き込み、黒いすすが部屋中に舞い上がる。
2幕
誰かが焼け焦げたカラスを暖炉から取り出す。
リジ―はコップをみんなに見せるが、乳はすすで黒い液体になっていた。
挙手させると妊娠していると思う者は3分の1くらい。
リジ―はなめて見せて「ほら甘い」と言うが、一人が貸して、と言うのでコップを渡すと、この女はやおらそばにあったバケツにコップの中身を捨てる!
みなさすがに驚いて声を上げる。この人、なぜこんなことをするのか、怪しい。
実はこの女性、身分を偽っており、かつてサリーが子守として働いていた家庭の家政婦だった。
その家の坊ちゃまが暖炉で火だるまになって死んだ事件があり、奥様は子守だったサリーが殺した、と信じている。
家政婦は奥様に頼まれて、あの時の犯人がとうとう捕まって絞首刑にされるところを見届けるためにやって来たのだった。
サリーを医者に見せるという提案がなされるが、なぜかリジ―が一人反対する。
だが結局若い医者が現れ、テーブルを並べてベッド代わりにしてサリーを寝かせ、女たちを周りに立たせて衝立にし、診察する。
結果、妊娠と判明。女たちの中に一人、何度も妊娠したのにみんな死産だった人がいて、泣き出す。「まさか妊娠してるなんて・・どうして神様はこんな女に・・」
一人が彼女を抱きしめ、歌を歌い出す。皆もそれに加わり、彼女を慰める歌声が広がる。
評決の結果を男に伝え、みな出てゆく。
これで無事、話は終わりかと思ったが、この先に衝撃のラストが控えていた・・。
疑問①リジ―はなぜ、サリーを医者に見せることに反対したのか?助産婦としての誇りが傷つけられたから?
②サリーの共犯の男が処刑された、というが、それは誰か?
夫は明らかに犯行について何も知らないし、サリーの言う「幻の男」は実在しないのでは?
③おしだった女が見たという、悪魔がリジ―からサリーを引っ張り出した、という話はどう解釈したらいいのか?
④リジ―の赤ん坊を拾って育てた養父母の家庭は、これ以上ないほどひどい環境だったらしい。性的虐待もあったという。
それだったらむしろ、10代半ばの本人と母親が育てた方がましだったのではないか?
それに普通、貧乏な人間は捨て子を拾ったりしないのではないだろうか?
⑤医者がいるのなら、なぜ最初から彼に診察させないのか?(そうなると、この劇自体が成立しなくなるけど・・)
戯曲「12人の怒れる男たち」を彷彿させる。人数も同じ12人だし。あれの女性版か。
当時、実際にこんな事件があったのかも知れない。
芝居としては、被告の女性が悪魔のような人間に描かれ、気味が悪くて全然同情できないのが困る。
つまり、この人の命が何とか助かってほしい、とは思えないのだ。
役者は那須佐代子、梅沢昌代、吉田羊など、みな達者な人ばかりで期待通り。
ただ、サリー役の大原櫻子という人にはたまげた。
まったく知らない人だったが、とんでもなくうまい。大竹しのぶの再来か、というくらい。
今回は残念ながら人間的魅力のかけらもない、不気味で冷酷な女の役だったが、いつか、全然違う役を演じるところを見たい。