ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ドクターズジレンマ」

2024-11-14 16:35:30 | 芝居
10月22日調布市せんがわ劇場で、バーナード・ショウ作「ドクターズジレンマ」を見た(演出:小笠原響)。



結核パンデミックに見舞われた20世紀初頭のロンドン。
新たな治療法を発見した天才医師リジョンの診療所には、限りあるワクチンを求めて患者がひしめき合う。
病魔に侵された同僚医師の治療を優先しようと決めたリジョンであったが、突然現れた女性ジェニファーの魅力に
打ちのめされてしまう。彼女の夫ルイスは無名の天才画家だが金銭問題あり女性問題ありの食わせ者で、
病魔に侵されていた・・・。
美貌と才能に翻弄されズブズブとジレンマの渦に吞み込まれていく医者たちが見たものは・・・(チラシより)。

日本初演。

舞台は非常に狭い。ほぼ三方を客席が囲み、出入り口が四方にある。
リジョン(佐藤誓)の助手(星善之)のところに女中エミー(なかじま愛子)がやって来て、リジョンがついに「サー」の称号を授与されたと知らせる。
リジョンにお祝いを述べようと、お客が次々と現れるが、これがみな医者仲間。
かくて医者5人が病気とその治療法についてしゃべりまくる。
一人は「かくのう」とかいうものが、すべての病気の原因だと言う。
一人は外科医で、何でもかんでも手術さえすれば治ると言う。
一人は食細胞(白血球)とか敗血症とかの名称を繰り返す。
素人にはよくわからないが、皆、自説をただ主張するばかりで、今風に言えばエビデンスがまるでない(笑)。

そんな彼らが去ると、ジェニファー(大井川皐月)登場。
リジョンは誰であれお客は通すな、とエミーに言ってあるが、エミーはジェニファーからお金をもらっているので
しつこく口をきいてやり、しまいに「それに・・先生のタイプです」と告げる(笑)。
それでも彼は頑として、帰ってもらえ、と言い張るが、ジェニファーは入って来てしまい、夫ルイスは天才画家で、
彼を救えるのは先生だけです、と切々と訴える。
リジョンの手元にあるワクチンは、予約した患者の分の他に一人分しか残っていない。
彼はそれを貧しい同僚医師ブレンキンソップ(佐藤滋)のために使おうとしていたが、ジェニファーの訴えに心動かされ、とりあえず一度、ルイスに会うことにする。
近々ホテルのレストランで叙勲のお祝いの食事会を開くので、そこにジェニファーとルイスを招待することになった。

次の場面は食事会が終わったところ。
画家夫妻は席をはずし、医者5人がテーブルに残り、夫妻について語り合う。
皆、二人について大いに感銘を受けた様子。
夫妻は若くて美しく、魅力的だし、おまけにルイスがサラサラと描いてくれた絵が実に素晴らしく、やはり天才画家らしい。
彼の病気を治してやることに皆の意見は一致する。
ルイスが戻って来て、また絵を描き、更に人々の心をつかむが、一方で、誰彼構わず借金を申し込む。
それも相手の懐具合を考えて、その都度細かく金額を変えるというやり口で。

夫妻が帰ると、突然メイドのミニー(なかじま愛子の二役)が飛び込んで来る。
「今帰られたお客様の住所を教えてください!」「あの女といた男の人・・」
男たちが驚いて問いただすと、彼女は「私はあの人の妻です!」と爆弾発言。
ちゃんと結婚して式も挙げ、しばらく一緒に暮らしたが、ある時、急にいなくなった、彼には貯金を全部あげたのに・・
連絡したくても住所もわからない、と言う。
男たちは困惑する。
そういう奴だったのか・・。

次の場面はルイスのアトリエ。
ジェニファーがルイスに言う。
「もう誰からも借金しないで。借金する時は、まず私に言って。いいわね?」
ルイスは「わかったよ。君は立派だ」とか何とか答える。
ルイスは絵を描いている。
ジェニファーが「まず〇〇さんと約束した絵を仕上げたら?」と言うと、「え~、だってあの人からはもうお金ももらってるし。いいよ」
何て奴!だが、要するにこんな奴なのだ。
ここに医者たちが来る。
するとルイスは、たった今妻と約束したばかりなのに、会う人ごとに借金を申し出て・・・。

ここから彼と医者たちとの議論が始まる。
医者たちは、彼がミニーにしたことを責めるが、ルイスは口がうまく、本当なのか嘘なのかわからないが、簡単に皆を説得してしまう。
男たちは、さらに人間として当然振る舞うべき倫理を説いて聞かせるが、それに対してルイスは、まるで悪びれることなく、しれっと芸術論をぶつ。
彼の言い分は、なかなかどうして筋が通っている。
聴いている方が、むしろ感心するくらいだ。

リジョンはジェニファーに、ルイスの人格的な問題について話す。
彼女は夫の金銭関係だけでなく、女性関係のことも知っており、認めるが、それでもなお彼を治して欲しい、と懇願する。
リジョンは悩み迷うが、結局、自分のワクチンは誠実で貧乏なブレンキンソップに使うことにし、
ルイスの治療は友人のサー・ボニントン(清水明彦)が担当することになる。
治療はうまく行かず、ルイスは助からない。
死を待つばかりの彼はベッドに横たわり、長々と語り出す・・・。

ラストシーンはルイスの個展の会場。
その後、ちょっとびっくりな展開が待っている・・。
~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~ 
「バーナード・ショーの隠れた名作」という演出家の言葉通り、素晴らしい戯曲だった。
ルイスと医者たちとの議論が興味深い。
ただ、ルイスが死ぬまでがちょっと長過ぎる。
その他は実に面白い戯曲なのに、惜しい。

役者陣はみなうまいし、滑舌がよくて心地良い。
特にルイス役の石川湖太郎には驚かされた。この男、一体何者?
この役のために生まれてきたような・・。
エミー役兼ミニー役のなかじま愛子にはすっかり騙されたし。
ジェニファー役の大井川皐月は美しく、演技も的確。
実に楽しいひと時だった。



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「セツアンの善人」

2024-11-06 23:07:37 | 芝居
10月21日世田谷パブリックシアターで、ベルトルト・ブレヒト作「セツアンの善人」を見た(上演台本・演出:白井晃、音楽・パウル・デッサウ)。





9月に俳優座劇場で見たばかりの芝居を、世田谷パブリックシアターでもやるというので急きょ見ることにした。
前回は田中壮太郎の脚色・上演台本・演出で、今回は白井晃の上演台本・演出。
これが、同じ原作の戯曲とは思えないほど違う。

善人を探し出すという目的でアジアの都市とおぼしきセツアンの貧民窟に降り立った3人の神様(ラサール石井、小宮孝泰、、松澤一之)たちは
水売りのワン(渡部豪太)に一夜の宿を貸して欲しいと頼む。ワンは街中を走り回って神様を泊めてくれる家を探したが、その日暮らしの街の人々は、
そんな余裕は無いと断る。ようやく部屋を提供したのは、貧しい娼婦シェン・テ(葵わかな)だった。
その心根に感動した神様たちは彼女を善人と認め、大金を与えて去っていった。
それを元手にシェン・テはタバコ屋を開いたのだが、店には知人たちが居座り始め、元来お人好しの彼女は彼らの世話までやくことになってしまう。
ある日、シェン・テは、首を括ろうとしていたヤン・スン(木村達成)という失業中の元パイロットの青年に出会い、
一目惚れしてしまう。その日からシェン・テはヤンが復職できるように奔走し、金銭的援助もしはじめるのだが、
その一方で、人助けを続けることに疲れはじめていた彼女は、冷酷にビジネスに徹する架空の従兄、シュイ・タ(葵わかなの二役)を
作り出し、自らその従兄に変装して、邪魔者を一掃するという計画を思いつく・・(チラシより)。

まず、音楽が大音量で、耳が痛くて困った。
水売りワンの売っている水のボトルを持ち上げて、「上げ底だ」と神様の一人。だから彼は善人とは言えない、と。
それでもシェン・テは神様たちから千元もらい、それでたばこ屋を開く。

床屋のシュー・フーがシェン・テにプロポーズするが、シェン・テは彼ではなくヤン・スンを選び、二人で手に手を取って出て行くところで1幕終わり。
<休憩>
ヤンのズボンがシェン・テの家にあるのをシン(あめくみちこ)が見つけて不審に思うが、シェン・テはちゃんと説明できない。
それでシンはシェン・テの秘密に気づく。
シェン・テは時々めまいがする。シンは彼女が妊娠していることにも気がつく。

じゅうたん屋の夫婦に借りた200元を返し、たばこ屋を売るのをやめて一緒にたばこ屋をやる、とシェン・テは主張するが、
ヤンは断る。「この俺がたばこ屋を?」
結婚式には黄土色の衣を着た坊さんがいる。
ヤンは、シュイ・タが300元持って現れるのを待つと言う。
シェン・テはようやく気がつく。
「この人は悪人です。私にも悪人になれと言います」

シュイ・タはタバコ工場を始め、ヤンも雇う。
シュイ・タはまためまいがする。
ヤン「この頃よく目まいを起こすし、なかなか決められない・・」
シンはシュイ・タと二人だけになると、「もう7ヶ月だもんねぇ」といたわり、上着を脱がせ、ネクタイをゆるめてやる。
ある時、シュイ・タは部屋の奥ですすり泣く。
そこにやって来たヤンは、女の泣き声が聞こえるので驚いて奥を探す。
彼は、シュイ・タがシェン・テを監禁しているんじゃないかと疑い、警察に通報する。

裁判。裁判官3人は神様たち。黒い衣をつけている。
人々はシュイ・タの悪い点を口々に挙げる。
シュイ・タは追い詰められ、「お人払いを」。
みな去り、裁判官たちだけになると、彼女は上着を脱ぎ、顔につけた面を剝がす。
3人は驚くが、シェン・テが「私は善人ではありません」と言うと、「お前は善人だ」と言う。
人々はそろそろと出て来て、彼女を見て驚く。
神様たちは黒い衣を脱ぐと、薄青いスーツ姿!
また旅に出ると言う。
みな固まり、一人が口上を述べる。
「これで終わりかと思われるでしょうが・・・何の解決もない・・・」
暗転。終わり。
~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~
歌が多いが、それが残念ながら退屈。
主役の葵わかなは好演。
ヤンの母親役の七瀬なつみも期待通り。

今回、ヤンは死なない(一体原作はどうなっているのか?)。
ラストの口上が興醒め。
ところで妊娠したら目まいがするのだろうか?そんなの聞いたことないけど。

同じ原作から、こうも違うものができるのが不思議。
いつか疑問を解くために原作の戯曲を読んでみたい。

面白い芝居を二種類の上演台本と演出で見比べることができて、楽しかった。
主人公の変装(変身)の仕方が違うのも面白い。
総じて、田中壮太郎版の方が胸に迫るものがあり、感銘深かった。
今回は有名な俳優が多く、前回は俳優座の重鎮が何人かいたとは言え桐朋学園短大の学生たちもたくさんいて、
いずれにせよ無名な人たちだったが、みな驚くほどうまかったし、音楽も素晴らしかった。




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「芭蕉通夜舟」

2024-10-29 22:56:20 | 芝居
10月15日紀伊國屋サザンシアターで、井上ひさし作「芭蕉通夜舟」を見た(演出:鵜山仁)。



内野聖陽の、ほぼ一人芝居。
彼の他に男女4人が、他の役を適宜演じつつ進行する。
芭蕉19歳からの一代記。
彼は弟子たちに囲まれていたが、実は一人でいるのが好きだったとか、知らなかったこともあり興味深い。
便秘に悩み、「人生50年のうち、25年は雪隠にいる」と弟子たちに嘆いたとか。
雪隠をくるっとひっくり返すと文机(文箱)になるのがおかしい。
旅に出る時も、それを背中にしょって出かける。

内野は声を変えて何人もを演じ分ける。相変わらず達者なもの。
ただ、まったく面白くない場面もいくつもあって残念。
これは役者や演出家のせいではなく、原作のせい。
観客はみな、笑ったり泣いたりしたくて待ち構えているが、いくら演出家が頑張っても台本自体に問題があるから
うまくいかない。
それに加えて、この日、内野は時々危なかった。
この人は本来うまいはずだが、最近忙し過ぎるのか。しっかりしてほしい。
興が醒めてしまう。

自然の中に潜む「宇宙意志」を感じる芭蕉。
19歳の時は料理人で、俳句もやる、というただの若者だったが、主君が亡くなり・・・。
最初は駄洒落が好きで他の俳諧師たちに馬鹿にされていたが、談林が流行り出すと、にわかに流行の先端を行くようになった・・。

評伝劇だから仕方ないのかも知れないが、ヤマなしオチなしだった(イミなしとは申しません)。

脇を固める女性2人がうまいと思ったら、1人はあの小石川桃子だった。
今年3月、「アンドーラ」で主役の青年アンドリを演じた人。
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「リア王の悲劇」

2024-10-18 23:09:38 | 芝居
10月3日 KAAT 神奈川芸術劇場で、シェイクスピア作「リア王の悲劇」を見た(翻訳:河合祥一郎、演出:藤田俊太郎)。





フォーリオ版での本邦初の公演。その楽日を見た。

冒頭、赤ん坊の泣き声がする。女が赤ん坊を抱いて登場。リア王と家来たちが来て彼女を見ると、女は子供を抱いたまま去る。
家来の一人がリア王に王笏と王冠をぶっきらぼうに渡す。
これは何?こんなシーンないでしょ?違和感が募る。早くも嫌な予感が・・。

音楽(宮川彬良)はカッコイイ。
1幕1場(グロスター伯爵がケント伯爵に庶子エドマンドを紹介する場面)は無い。
舞台の背後に古代ブリテン王国の地図。
「地図を持て」と王が命じるのに誰も持って来ない。
バーガンディ公爵とフランス王は最初からそこにいる。実に変だ。
この二人がすべてを目撃していたのなら、コーディーリアの身に何が起こったかもわかっていたはずだ。
ケント伯爵(石母田史朗)が王(木場勝己)に進言すると、王は「わしに向かってため口か」と言う。
ゴネリル役の水夏希とリーガン役の森尾舞がうまい。

エドマンド(昌平)はジャングルジムみたいなものの上にいる。
手紙は羊皮紙みたいなの。
グロスター伯爵を伊原剛志が演じる。
エドガーを土井ケイトがやるというので、彼女が男の役をやるのかと思ったら、そうではなくて、エドガーを何と女にしてしまっている!
青いワンピース風の服にアクセサリー。長い髪。
これには驚いた。
だが、それでいいのか。
当時、遺産は嫡男がすべてを相続することになっており、娘は相続できない。
では息子がおらず、娘しかいない場合、どうしたか。
娘は未婚のままでは財産を相続できないが、誰かと結婚すれば相続できた。
だからコーディーリアの婿選びが財産分与と同時に行われるのだ。
エドガーが嫡男でなく長女だったら、エドマンドが嫉妬することもないはずだ。
彼は自分が私生児で庶子だから、父グロスター伯爵の財産をもらえないことを恨んでいるのだから。
エドガーが姉だったら、エドマンドは長男として、父の財産を全額もらえるわけだから、陰謀を企む必要もないでしょう。
エドガーを女にするという奇天烈なアイディアがどうして出て来るのか、まったく理解に苦しむ。
責任者出てこい、と言いたい。
エドマンドが何度か「姉上」と言うので、「兄上」のはずなのに、この人滑舌が悪いのか、と思っていた(笑)。

リアが道化(原田真絢)を待っていて、道化が登場すると、音楽に合わせて家来たちもみな歌って踊る。
道化が王に向かって皮肉を言うと、みんな一緒になって笑う。
でもここは王が道化と二人っきりの方がいい、と思う。

嵐。最前列の席だったので、半ば狂ったリアと、狂人に化けたエドガーとのひそひそ話が聞こえた。
「キンチョール」とか「「フマキラー」とか(笑)。
王をドーバーにお連れするところで休憩。

<2幕>
狂ったリアは、エドガーが途中で変装のためにかぶった白い帽子を「この帽子いいねえ。阿呆の帽子より・・」と言いかけ、
阿呆(道化)のことを思い出し、「阿呆、阿呆・・」と呼ぶ。

ゴネリルは陰謀がばれると短剣を出して夫を殺そうとする!
ゴネリルとリーガンは、最後に舞台に出て来て、ドッと倒れて死ぬ。分かり易い。
ラスト、王はコーディーリアを車椅子に乗せて登場。

~~~~~~~ ~~~~~~~

リア王役の木場勝己が素晴らしい。
彼は、今までよく井上ひさしの戯曲で説教臭いことを言う役柄だったので、そのイメージが強くて特に期待していなかったが、
今回、彼のリア王が見られて本当によかった。
コーディーリアと道化を演じる原田真絢も好演。
この二つの役を同じ役者が演じるのは、外国では時々あるようだが、実際にナマで見たのは初めて。

翻訳はよくない。
エドマンドは最後近くでゴネリルとリーガンの死体が運び込まれると、
 だが、エドマンドは愛されていた。
 姉が妹を毒殺したのは俺のため。
 そのあとで自殺した。(松岡和子訳)
と言う。
原文は Yet Edmand was beloved . ・・・
この日、ここの「愛されていた」を「モテたんですよ」にしていた。
それはないでしょう。
現代風にしたつもりだろうが、あまりに軽い。
このセリフには、彼の鬱屈した思い、愛されることへの意外な渇望が見えて(悪人ではあるが)胸打たれるのだ。
その辺のことがまるでわかってない。ぶち壊しだ。
「王に向かってため口か」も嫌だ。ケント伯爵は命懸けで王の行為を止めようとしているのに、
ここも軽過ぎる。

結局このフォーリオ版が上演されなくなったのは、やはり感動が薄いからだと言えるのではないだろうか。
1幕1場もやっぱりあった方がいい。


   






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「広い世界のほとりに」

2024-10-11 22:47:44 | 芝居
10月2日あうるすぽっとで、サイモン・スティーヴンス作「広い世界のほとりに」を見た(劇団昴公演、演出:真鍋卓嗣)。



英国マンチェスター郊外のストックポートで暮らすホームズ家の物語。
家の修理工ピーターと妻アリス、彼らの二人の息子、そしてピーターの父と母。
ピーターの長男アレックスに恋人ができ、そのことに15歳の弟の胸はざわめく。
また、ピーター夫婦とその父母たちは小さな不満を感じながら生活している。
そんな時、ある事故をきっかけに家族それぞれの思いがすれ違っていく。
結びつきを失った三世代の家族の再生を描く(チラシより)。

その初日を見た。
18歳の長男アレックス(笹井達規)が、彼女サラ(賀原美空)を連れて実家に帰る。
両親に会う前に、15歳の弟クリストファー(福田匡伸)が会いたいと言うので、3人で会う。
クリストファーはサラに一目ぼれしてしまう。
アレックスがタバコを買いに行っている間二人きりになると、「キスして」と言い出す。驚くサラ。
みなよくタバコを吸う。
父母はサラに良い印象を持つ。
クリストファーは祖父母宅に行き、祖父チャーリー(金尾哲夫)のカードマジックを見て感心する。
彼はサラにプレゼントを買うため、祖父から5ポンドもらう。
何に使うのか聞かれて答えると、祖父は「アレックスがプレゼントするのが普通じゃないか?」
「そうなんだよね」自分でも分かっているらしい。
父親ピーター(江崎泰介)にも直接言う。「サラのことが好きだ」
父「お前、一度しか会ってないだろう」「うん、おかしいよね。狂ってるよね」
うーん、この子は・・どうしたものか。
サラとアレックスが実家に泊まると、彼は夜、sexの音がするかどうか壁にコップを当てて耳をそばだてる。

二人は町を出てロンドンに2~3年住む計画でいるが、もう月曜の切符を買ってあるというのに、アレックスはまだ親に言っていない。
それを知ってサラは怒り出す。
アレックスがようやく母親アリス(落合るみ)に伝えると、思った通り母は怒り出す。
特に、自分に話す前に、すでに切符を買ってあると聞いて。

祖父は常に酔っている。
ある日、妻エレン(姉崎公美)に食ってかかり、もみ合いになり、彼女が床に倒れたところにクリストファーが来る。
クリストファー「おばあちゃんを殴ったの?!」
二人は否定して取り繕うが、クリストファーはショックを受け、「おじいちゃんなんて腰抜けだ!クソだ!」と吐き捨てて去る。
彼は兄と父にもこのことを話したらしい。

アレックスは何とか母をなだめ、二人は両親に見送られて出発する。
アレックスは母に「今夜電話するよ」。

ピーターは家の内装や修理の仕事をしている。
スーザン(舞山裕子)という女性の家で改装工事を請け負う。
彼女は妊娠中で、場面が進むにつれて、少しずつお腹が出てくる。
ピーターは彼女に「次男が事故死した」と話す。
「人に話すのは初めて」と言うが、我々観客もびっくり。
あの子が、あっけなく死んでしまったのか・・・。

<休憩>

サラはアレックスとけんかして出て行く。
アレックスは実家に戻り、母アリスは喜ぶ。
彼女は「もうどこにもいかないで。ずっと私の目の届くところにいて」と言い出す。
(この人狂ってる!)
アレックス「それは無理だよ」

エレンが息子の家に来て嫁のアリスに会う。
夫が癌だと言われた、と言うのでアリスは同情する。
「あなたは大丈夫なの?」「ええ、私、また働くことにしたんです」「それがいいわ」
と、そこまではよかったが。
話は微妙にそれて行き、「ピーターにもっと優しくしてほしいの」「ピーターは私の息子よ」
「これまであなたのピーターに対する態度を見てきたけど・・」と、姑は言いたい放題。
ついにアリス「出て行って!」

入院中の祖父をピーターが見舞う。
彼の浮気について尋ねる。エレンを殴ったことも。

スーザンは仕事中のピーターにマンゴージュースを渡そうとするが、その前に、なぜか自分で一口飲んでから渡す。

サラはアレックスのところに戻る。
「謝ってほしくて来た」
二人はまた缶ビールを飲む。
アレックスの友人ポール(赤江隼平)は彼らの家に放火し、捕まって刑務所にいるという。
二人は仕事も見つからず(うまく行かず?)、アレックスの実家に戻って来る。

働き始めたアリスが、ある日、会社を出ると、若い男が待っていた。
彼はクリストファーを車ではねたジョン(須々田浩伎)だった。
彼はしきりに謝るが、アリスは聞く耳を持たない。
しまいに彼は、自分の電話番号を書いた紙を無理矢理彼女の手の中に押し込んで去る。

次の場面で二人はコーヒーか何かを飲んでいる。
ジョンは自分の専門の数学の美しさについて語り、アリスは楽しそうに聴いている。
二人は再会を約束する。
二度目には、ジョンの部屋で二人は赤ワインを飲んでいる。
アリスは手料理をご馳走になったらしい。
アリスは夫と出会った時のこと、まだ17歳の高校生で、成績でA を取って大学に行くつもりだったけど、
数回デートしたら妊娠。
いったんは中絶することにしたが、ピーターがプロポーズし、結婚して大学は諦めた。
アリスは次男クリストファーが「そんなに好きじゃなかった」。
「あんなことになって、自分のせいかと思った・・・」
ジョンはアリスにタバコを勧め、アリスは「夫に知れたら・・」と言いつつ吸う。
ジョンが彼女に迫ると、彼女は歯ブラシを借りて歯磨きする。
その姿を見た彼は早合点し、勇んでネクタイをはずしてシャツを緩めるが、アリスは彼を振り切って帰宅。

ピーターは仕事が終わり、スーザンから小切手をもらう。
彼女は丁寧に感謝の言葉を述べ、彼の腕を触る。
(この人も変だ。夫との仲は大丈夫なのだろうか)

祖父はアレックスに、子供の頃、父だか祖父だかによく殴られた話をする。
暴力は連鎖する、と言いたいのだろう。
アレックスもそれを聞いて、少し祖父のことがわかってくる。

ピーターは妻アリスが浮気していると疑っている。
酒を浴びるほど飲む。
帰宅したアリスに「わかってるんだぞ・・」
アリスは相手が事故の加害者であることは告げず、会社の人で・・と言う。
でも寸前で「踏みとどまったの」
そして「あなたに私の頭を乗っけてもいい?」
ピーターは床に横たわり、アリスは彼に寄り添う。

食事会。アリスがチキンを焼き、祖父母、父母、アレックスとサラの3世代が和やかに食卓を囲むところで幕。

~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~

セリフの訳語がちょっと難しい。
サッカーのチームや人気選手の名前が頻出。
2時間50分という長尺。短いシーンがくるくると続くが、全体にダラダラした印象。
登場人物はほとんどが奇妙でアブノーマルで感情移入できない。
長男を偏愛・溺愛して縛り付けるアリス。
優柔不断で、見ていてイライラさせられるアレックス。
職人にジュースを差し出すが、先にそのコップに口をつけて飲む女。
やたらとビールを飲みへべれけになる酔っ払いたち。
何かというとタバコ、タバコというヘビースモーカーたち(15歳の子も!)。
ヤクも吸うし、汚い言葉を平気で口にする人々。
ワイフビーター(妻を殴る男)。
息子の嫁に余計な口出しをして嫌われる女。
まともなのはジョンくらいか。

役者では祖父チャーリー役の金尾哲夫が好演。
アリス役の落合るみは声がいい。

この作品は、2006年にローレンス・オリヴィエ賞最優秀新作プレイ賞を受賞したという。
こういうことが時々あるから、最近では賞というものが信じられなくなった。

当日パンフを見て知ったが、作者は「ハーパー・リーガン」を書いた人だった。
そうと知ってたら来なかったかも。
だってあれは、あまり好みではなかったから。









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「セチュアンの善人」

2024-10-04 22:10:03 | 芝居
9月26日俳優座劇場で、ベルトルト・ブレヒト作「セチュアンの善人」を見た(脚色・上演台本・演出:田中壮太郎、音楽:寺内亜矢子・森山冬子)。



人間が人間を搾取する架空の町セチュアン。
そこに住む男娼のシェン・テは、神様に一晩の宿を提供し、そのお礼にちょっとしたお金を手に入れる。
シェン・テはそのお金で小さな店を開くと、噂を聞きつけた知人や親戚が店に押し寄せ、居候。
困ったシェン・テは架空の人物、従兄のシュイ・タに変装。
優しいシェン・テがこさえる問題を、時折現れる従兄のシュイ・タが冷徹に解決していくのだが・・・(チラシより)。

俳優座創立80周年・俳優座劇場創立70周年・桐朋学園芸術短期大学創立60周年記念事業。

ブレヒトの有名な戯曲を初めて見た。

善人シェン・テ(森山智寛)は夜、公園で首を吊ろうとしている男ヤン・スン(八柳豪)を見つける。
ヤンはパイロットになる資格を取ったが、職がなく、絶望して死のうとしていた。
彼女は恋に落ちてしまい、金があればパイロットになれる、という彼の話を信じる。
じゅうたん屋の夫婦が金を200貸してくれる。
ヤンの母親(青山眉子)が来て、息子がパイロットになれそうだが、そのために500いる、と言う。
シェン・テは、その場でじゅうたん屋が貸してくれた200を渡してしまう。

女家主ミー・チュー(坪井木の実)がシェン・テに半年分の家賃を請求する。
シェン・テは店を売りたいと言い出す。
売った金(300)で恋人にパイロットになってもらうつもりなのだ。
だが、その後シュイ・タ(森山智寛の二役)がヤンから話を聞くと、航空会社に知り合いがいて、一人辞めさせれば、その代わりにパイロットになれるが、
そいつはベテランで落ち度がない、と言う。
どうも難しそうだ。

水売りの少年ワン(渡邊咲和)は床屋シュー・フー(加藤頼)に手を殴られ、傷つき、右手が使えなくなる。
訴えるから証人になって、とその場に居合わせた人々に頼むが、みな後ろ暗いところがあるので警察と関わりたくない、と断る。
一方、床屋シュー・フーはシェン・テに惚れる。

ヤンは、残りの300をもらいにシェン・テの元に来る。
そこにいたのはシュイ・タ。
スンは彼に「シェン・テは頭が悪い、あの女には理性なんてないんだ・・」と言う。
シュイ・タ(実はシェン・テ)はやっと男の正体に気がつく。
シン(山本順子)はシェン・テに、床屋と結婚するといい、と勧める。
シェン・テもその気になる。
床屋とヤンが鉢合わせし、そこにシェン・テが来て・・だがヤンが泣き出すと、シェン・テはすぐにほだされ、抱き起こしてキスする。
驚く床屋を置いて二人は出てゆく。

結婚式。スンは赤いスーツ。彼の母はシェン・テの従兄シュイ・タを待たなきゃ、と主張する。
シェン・テは二人に、シュイ・タは来ません、と言うのだが。
シュイ・タはなかなか来ない。(そりゃそうだ)
牧師は、次の式の時間があるから、と行ってしまう。
スンは「俺はシュイ・タと妙に気が合うんだ。あいつと俺は一心同体なんだ」と、これまた妙なことを言い出す。
牧師が帰ったので式もお流れとなり、みな帰り、スンは歌う。
<休憩>
また3人の神様が来る。
ワンと話す。シェン・テの結婚がダメになったことなど。
神様「経済のことはちょっと・・・」(笑)
他の人々が来ると、神様3人は下手に退き、ジャングルジムに登って顔を葉っぱなどの描かれた紙で隠す。

床屋は太っ腹なところを見せようと、からの小切手を切ってシュイ・タに渡し、好きな金額を書き込むようシェン・テに言ってくれ、と言う。
シュイ・タは「1万」と書く。周りの人々は驚く。
この金で店は大きくなり、シュイ・タは居候たちを雇って働かせることにする。
スンと母親も来る。
母親は「息子はもらった200を使い込んでしまいました。とんだドラ息子・・」と嘆く。
シュイ・タはスンも雇う。
彼はうまく立ち回り、現場監督になる。
突如ショスタコーヴィチの5番が鳴り響き、場面は2年後。
Shentes Coffee という銀色のライトが頭上にきらめく。
スンはシュイ・タに、コーヒーにニコチンを入れたらどうか、と密かに提案。

ある日、シュイ・タは青いスカーフを肩にかけ、口紅を塗ろうとしてシンに見られる。
シンは驚くが、口止め料の代わりに役員にしてくれ、と要求。
役員会はシュイ・タと役員2名だったが、これで計4名になる。
ここで車のブレーキの大きな音が響く。
4人での初の会議で、シュイ・タは、昨晩スンが車に轢かれて死んだ、と報告。
だが事故か事件かわからない、とも。
彼が「シェン・テに会いたい。会わせろ、でないとコーヒーにニコチンが入ってることをばらすぞ」と自分を脅していた、とも。
そして、自分は近々ここを去らなければならない、しばらくシェン・テの代わりをするつもりだったが、長くい過ぎた、とも。
みな驚いて反対するが、シュイ・タは聞かない。

シュイ・タは店の従業員たちの前に立ち、実は・・と告白。
だが皆、さほど驚かない。前から気がついていたらしい。
そこにワンと神様たちが来る。
ワンは明るい色の服を着て、ペットボトルの水をたくさん載せた車を引いている。
「湧き水を見つけて売ったら、観光客が買ってくれて、しかも高くするほどよく売れるんだ。お陰でちょっとした小金持ちになったよ」
シェン・テとワンは再会を喜び合う。
めでたしめでたしかと思いきや・・
シン「ちょっと待って!じゃあシュイ・タがシェン・テだったってわかってなかったのは私とスンとワンと神様たちだけだったっての?」
これがおかしい。
この後、死んだヤンも出て来て、シェン・テと再会したり・・
ワンが「カフェとコンビニと百均があれば・・」と愉快なことを言ったり・・
神様たちは、この世になぜ悪がはびこり、善人が報われないのですか?と問い詰められると、
困った顔をして言う。
「そうですか・・・では、これからは善も悪もありません。・・・多様性・・でしょうか。
2000年後に、また来るかも知れません。来ないかも知れません」
・・・ワンは「だって」と言って客席の上方を見上げる。
暗転の後、舞台上に「2000年後」の文字が掲げられ、みな楽しげに歌い踊る。幕。

~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~

少年ワン役の渡邊咲和が声もよく通り、演技もうまい。
シェン・テとシュイ・タ役の森山智寛も声がいい!
神様役の3人のうち1人は危なっかしい。セリフが止まりがちでハラハラ。
他の役者さんたちは、みなうまい人がそろっていて楽しい。

ブレヒトの言いたいことはよくわかるし、この人は真面目で誠実な人だと思う。
途中、皆でこの世の不条理を神に問いかけ、歌い踊るシーンが圧巻。
神様たちが、まるで頼りなくて自信なさげなのがおかしい。
3人なのは、三位一体を表しているのだろう。
キリスト教を揶揄し、茶化し、おちょくっているけど、面白い。

今回、疑問が一つ、シェン・テは「男娼」とパンフにあり、確かに男性俳優が演じているが、
彼に求愛する二人の男は、相手を男だとわかって求愛しているのだろうか?
かつて、例えば日本では、市原悦子や栗原小巻がこの役を演じたというが?

音楽の使い方がうまくて快感。
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「L.G.が目覚めた夜」

2024-09-16 22:57:20 | 芝居
9月3日シアターχで、ブシャール作「L.G.が目覚めた夜」を見た(翻訳・演出:山上優)。



作者はカナダの劇作家の由。

著名な死体保存処理の専門家(タナトプラクター)となったミレイユは、母の死をきっかけに30年ぶりに
故郷であるケベック州アルマに戻ってきた。ミレイユ自ら母の遺体の防腐処理をするために。
疎遠となっていた兄ジュリアンとその妻シャンタル、弟のドゥニとエリオットら家族とも再会する。
母の遺体の処理に関わりながら、その周囲で交わされる過去の、現在の、日常の家族の会話。
やがて母が死の直前に残した遺言が明かされる。母が死を前にして行った決断とは?
そして後には、すべての謎を解く、隠され続けていた秘密の告白という必然が待っていた。
・・・L.G. (ロリエ・ゴードロ)とは誰なのか。
ロリエ・ゴードロが目覚めた夜に一体何があったのか(チラシより)。

舞台は白壁に囲まれた殺風景な部屋。
遺体が一つ、ベッドに寝かされ、灰色の髪の毛がこちらを向いている。
ミレイユ(平栗あつみ)がカートを引いて登場。客席に向かって語り出す。
 「私が小さい頃、夜眠れない時、近所の家に入って、人々の寝顔を見た。
 どこの家も玄関に鍵などかけていない頃だった・・」
彼女が母の遺体に近づいていると、部屋に助手が入って来て驚く。
「ここに来てはいけません!」
だが彼女は有名なミレイユのことを知っていて、彼女の書いた本も読んでいた。
少し話すうちに助手は態度を変え、彼女に指図されてエンバーミング(遺体衛生保全)を手伝い始める。

三男(小柳喬)が来る。少し精神的な障害があるらしく、治療を受けている。
彼は母と二人暮らしだった。
彼は、姉に言われて母の手にマニキュアを塗る。

長男ジュリアン(本多新也)とその妻シャンタル(一谷真由美)が来る。
ジュリアンはミレイユを見て気絶する!

ジュリアンは母が遺言で、全財産と別荘を「あの男」に遺した、と怒っている。
みんなはそれを聞いて驚く。
「ミレイユをレイプしたロリエに!?」
みな立ち去り、一人になったミレイユは、前に出て語り出す。
 「ロリエ・ゴードロは16歳。素敵な若者だった。サッカー部で・・・
 私は彼の寝顔を見るのが好きだった・・」
 あの夜、彼の部屋の洋服ダンスの陰に隠れていると、彼は目を覚ましてビールを飲み・・」

次の場面で、母の遺体は横向きにされ、土色の顔がむき出しになっている。
部屋に豪華な花が次々と運び込まれる。
花と共にカードが世界中から届く。
ほとんどが、ミレイユがかつてエンバーミングした人々の遺族からだった。
彼女はヨハネ・パウロ二世の遺体も処置したという。

次男ドゥニ(玉置祐也)が来る。
彼はミレイユに「何しに来た?」とけんか腰。
ミレイユが何十年も帰省せず、ドゥニの妻が男を作って出て行ったことも知らない。
兄弟たちがどうしているかも知らない、となじる。
ミレイユは語り出す。
 「あの夜、ロリエ・ゴードロの部屋にいると、ロリエが目を覚ましてビールを飲み、・・・」
途中でジュリアンがシャンタルに「外で待ってろ」と言って、彼女を部屋から出そうとするが、シャンタルは聞かない。
ミレイユは話し続ける。
  「誰かがやって来て、ロリエ・ゴードロはその人にキスした・・
  私は持っていたボールを落としてしまった。
  ボールはロリエ・ゴードロのところまで転がって行き、ロリエ・ゴードロは私を見た。
  私は大声を上げた。
  ジュリアンは・・・
  ロリエ・ゴードロの両親も、うちの両親もやって来た。
  ジュリアンは「ロリエ・ゴードロが僕の妹をレイプしようとしたけど、僕がその前に止めた」と言った。
  ロリエ・ゴードロは何も言わなかった。
  12歳の私も何も言わなかった・・」。

ドゥニとエリオットは衝撃を受ける。
だがシャンタルはわけが分からず、「ロリエの相手の女性は誰?」と聞く。
義弟たちは彼女に「察しろよ!」と言い、ドゥニは兄に向かって「このホモ野郎!」となじる。
ようやく真相を知ったシャンタルは椅子に座ったまま呆然とし、ジュリアンは床に座り込んで両手で顔を覆う。
それを見て、エリオットは言う。「母さんと同じだ!死んだ時、母さんも、こうやって顔を隠してた」

ミレイユは母が死ぬ少し前、母に電話して真実を話した。
母はすぐにエリオットに電話帳を持って来させ、恐らくロリエ・ゴードロに電話したらしい。
その後、公証人にも連絡し、遺言を書き換えたのだった。

あの事件の後、ロリエ・ゴードロの人生は激変した。
ドゥニが回想する。
高校の部活も辞め、かつての仲間たちに「この幼児性愛者!」と罵られ、激しい暴力を振るわれた・・。
ジュリアンとドゥニも一緒にやるように言われて・・・ジュリアンは震えながら・・
だが皆が去ると、ジュリアンは傷ついてボロボロになったロリエを抱き起して、服をかけ、やさしく抱きしめた・・
その時、ドゥニは兄がなぜそんなことをしたのかわからなかった。

皆、部屋から出て行き、シャンタルとミレイユだけが残る。
しばらくたつとシャンタルはミレイユに言う、「私にはジュリアンがすべてなの。いろいろあったけど、これまでも乗り越えて来た。
今度も乗り越えるわ」(この時、ジュリアンは部屋の入り口で聴いている)
彼女はミレイユに14歳の息子の写真を見せる。
「この子には父親のことは知らせない方がいいと思うの」
ドゥニの二人の娘の写真も見せる。
ジュリアンが入って来て、帰宅する妻を見送った後、ミレイユと二人だけになると「もう二度と戻って来るな」と冷たく言い放つ。幕

~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~ ~~~~~~~~~~~~~~~~
後味の悪い芝居だった。
謎は解けるが、悪い奴が幸せになり、罪の意識に苦しむわけでもない。
遺産が全部、犠牲者であるロリエ・ゴードロに行くからいいのか。
カタルシスとはほど遠い。
ジュリアンが幸せになっていいのか?
こいつのウソのために二人の人間が人生をメチャメチャにされたというのに。
・・・と、見終わった直後は思ったが、よくよく考えてみると、ミレイユが夜、よその家に侵入していなければ、
また、彼女が手にしたボールを落とさなければ、そして大声を出さなければ、二人はいつものように(?)
二人だけの楽しみにふけっていただけだし、誰に迷惑をかけたわけでもない。
現代の感覚から言えば、特に悪いことをしていたわけでもない。
そう考えると、ジュリアンから見てミレイユが疫病神みたいな存在だというのも理解できる。

また、ジュリアンとロリエとの間では、その後、ああするしかなかったという了解と許しが、すでに出来上がっていたのだろう。
だからジュリアンは、母の遺産を彼に贈って埋め合わせをする必要も感じず、
むしろ妹が余計なことをした、と思ったのではないだろうか。
弟たちに秘密を知られて罵倒され、今後もずっと恥ずかしい思いをしなければならなくなったし。

ただ引っかかる点も残る。
①「レイプ未遂」のはずが、いつの間にか「レイプされた女」「レイプした男」になっているのが妙だ。
②途中で「別荘が火事だ」という知らせに、みんな駆け出していくが、その話はそれきり触れられない。
 果たして別荘は燃えてしまったのだろうか?まさに尻切れトンボだ。

そもそも女の子が夜、他人の家に勝手に入り込んで、人の寝顔を見るのが密かな楽しみだった、って、どうなんでしょう?
昔の日本の田舎なら、縁側から上がり込むとか想像できるけど、カナダって、家の造りが日本とは全然違うはずだし。
だからなかなか想像できないけど、もしかしたら、地域によってはそんなことが可能だったのかも知れない。

カナダのフランス語圏の話だから、恐らく人々はカトリックだろう。
彼らが子供の頃、同性愛者であるとわかったら、どんな迫害を受けることになるか、青年たちは怖かったに違いない。
ゲイだとバレるより、「小児性愛者」「レイプ犯」と言われる方が、まだましだったのだろう。
だからロリエも、愛人ジュリアンのとっさの嘘を敢えて否定せず、レイプ犯の汚名を着る方を選んだのだろう。
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「シンベリン」

2024-09-05 22:45:26 | 芝居
8月30日すみだパークシアター倉で、シェイクスピア作「シンベリン」を見た(イエローヘルメッツ公演、脚本・演出:山崎清介)。



王シンベリンは、王妃の連れ子と結婚させようとしていた王女イモージェンが身分の低い紳士ポステュマスと結婚したため、激怒。
ローマに追放されたポステュマスは一人の男にだまされ、妻の不貞を信じ込み絶望・・・。
王の後妻である王妃は、息子のために王位継承権を狙って毒薬作りにいそしみ、ウエールズではかつて国王の元から二人の王子を
盗み出した臣下・ベレーリアスが彼らと共に暮らしていた・・。

訳は小田島雄志訳を元にしている。

この芝居は2012年4月に彩の国さいたま芸術劇場で見たことがある(蜷川幸雄演出、大竹しのぶ、阿部寛、鳳蘭、勝村政信ら出演)。
今回は劇場がずっと小さくて、役者の数も少ない。
この劇団を見るのは久し振りなので、知らない人が多く、誰が何の役をやるのかさっぱり見当もつかない。
というわけで、あまり期待せずに出かけた。

山崎さんは、冒頭にいきなり5幕4場を持ってきた。
ブリテン軍とローマ軍の戦いの折、ポステュマス(大西遵)は死を求め、敢えて負けていたローマ軍の側の人間だと偽り、捕らえられている。
後半、また同じシーンが繰り返される。つまり枠構造のような形。これには当惑してしまった。
このマイナーな芝居を初めて見るお客さんたちのことを考えているのだろうか。
わざわざ原作をいじって変える必要はまったくないし、かえって分かりにくくて不親切だ。

イモ―ジェン(すずき咲人心)の寝室が何もないのは仕方ないが、最低限、ベッドは欲しい。
今回、イモ―ジェンは机の上に突っ伏して寝ちゃったが、やっぱりベッドに寝ていて欲しい。
だってそんな格好だと、いつ目が覚めるかわからない上に、腕輪をそっと外したり、胸元のほくろを見たりするのは
至難の業でしょう。

邪悪な王妃役の星初音がうまい。鳳蘭よりよかったです!
ポスチュマス役の大西遵も好演&熱演。阿部寛よりもちろん滑舌がいいし(笑)。
ヤーキモー役兼ベレーリアス役の谷畑聡もうまい。窪塚洋介よりよかったです。
谷畑聡はヤーキモーとベレーリアスを兼ねるので、後半やたらと忙しい。
舞台から何度もそっと引っ込んでは衣装を変えて出て来る。
息子たちに「父上、今まで一体どこに?!」と聞かれて「物陰から一部始終を聞いておりました」と
答えるのがおかしい。
この戯曲はセリフのある役だけでも21人必要なのに、それをたった8人でやるため一人何役も兼ねるが、それがかえって面白い。
逆境を逆手にとって笑いをとる、なるほどこういう手があったか。

ラストで、ローマ軍の将軍リューシャス(伊沢磨紀)は「ジュピターの神殿で平和条約を批准し、宴会をもって調印することにしよう・・・」と言った後、
客席の方を向いて「だが、世界中に戦争は絶えない・・」と語る。
これは原作にはない。
今回の上演にあたってここに加筆したのは適切で、好感が持てた。
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「オーランド」

2024-08-06 22:42:10 | 芝居
7月27日パルコ劇場で、ヴァージニア・ウルフ作「オーランド」を見た(翻案:岩切正一郎、演出:栗山民也)。





16世紀の英国貴族の男性オーランドは、ある日突然、女性に変わる。
そればかりか、さらにその後何百年も生き続ける、という途方もない物語。
チラシにある通り、彼は「時代も国境もジェンダーも飛び越えて、数奇な運命に立ち向かい、真実の私を探究する」。
宮沢りえ主演。ヴァイオリンの生演奏つき。
ネタバレあります。注意!

男として黒い衣装で登場するオーランド(宮沢りえ)。
ある日、父の屋敷をエリザベス女王(河内大和)が訪問する。
オーランドは指を洗う水の入った鉢を捧げ持つ重要な役目。
女王は彼の美しさに目をとめ、彼のほっそりした足や「すみれ色の目」が美しい、と言って、彼を財務大臣に任命する。
彼はその後も女王に追い回されるが、何とか愛撫を避けるうちに女王は死ぬ。

オーランドは樫の木が好きで、詩を書き、詩人ニック(山崎一)に見せるが、あまり評価されない。

ルーマニアの皇女・ハリエット(ウエンツ瑛士)が突然、彼の部屋を訪問する。
宿にオーランドの肖像画が掛けてあり、それが亡き妹にそっくりなので、たまらずやって来たと言う。
彼女は彼に、愛しています、と迫るが、オーランドはまたも必死になって避ける。

その後、オーランドは英国を離れ、トルコのコンスタンチノープルに行く。
彼の家は代々貴族だが、ひいおばあさんは羊飼いだったという。
彼は、その血が自分の中にも流れているのを感じる。
ここには樫の木はないが、草原がある。
4人の男たち(羊飼い?)がオーランドの噂をする。
 あの男は俺たちと違うものを見ている。
 乳しぼりや羊の世話に身が入らず、座り込んで何か書いている。
 文字というものを。
 若い奴が「あいつを殺してやる」と言っている・・。
その後、彼は英国に戻る。
その途中、眠っていて目覚めると、女になっていた。
「わけがわからない」
「またすぐ男に戻るのかなあ」
彼、いや彼女は自分の屋敷に戻る。
記者(山﨑一)がやって来て召使いたちに取材する。
召使い「旦那様は旦那様として出かけられ、奥方様としてお帰りになられました」
記者「あっちで性転換したのでは?もともと男であることに違和感があって・・?」
召使い「いえ、そんな風には見えませんでした。男性だった時はとても勇敢な方でした」
記者「でもどうして名前がオーランドのままなんでしょう?ロザリンドとか(に変えればいいのに)?シェイクスピアの『お気に召すまま』みたいな?」
召使い「女性には相続権がないんです。女になった途端に生活するのも困難になってしまいますから。名前くらいはそのままにしておかないと」
記者「ハリエット皇女が睡眠薬を飲ませて無理やり性転換させた、という噂もありますが?」
召使い「いや、それもないでしょう」

男装のハリエット(ウエンツ瑛士)来訪。
オーランドは驚いて「あなた誰?!」
ハリエット「実はルーマニア大公ハリーです。女装していました。男なんです」
彼は、オーランドが同性愛者を嫌がるかと恐れて、敢えて女のふりをして近づいた、と言う。
だが、オーランドが女性になったので、本来の姿に戻ってやって来たのだった。
つまり、彼にとってオーランドが男か女かということは、どうでもいいことらしい。
こうしてハリーはまたしてもオーランドに迫るが、オーランドは「ゲームしましょう」と彼を誘う。
ハエが3つの角砂糖のどれにとまるか賭けるという奇妙なゲーム。
召使いがポケットからハエを出して放つ。
ヴァイオリンが羽音を奏でる。
オーランドと召使いは、ズルをしてハリーを負かす。
2度目にズルするところを目撃して、ハリーは泣き出す。
そんな彼の背中にオーランドがヒキガエルを入れると、さすがにハリーは逃げて行く。

オーランドは独白する。「私は処女だ。でも童貞じゃない。何人もの女性と・・」
「女と男って、どう違うんだろう。どっちが・・・」
オーランドは女郎屋へ行く。
「実は女なの」・・

<休憩>
死んだ男(ウエンツ瑛士)がゆっくり歩いて来る。
腰に白布を巻いただけでほぼ全裸・・。
時代は先へ先へと進む。
イギリス人はマフィンを食べるようになり、食後にはポートワインでなくコーヒーを飲むようになった。
オーランドは一人の船乗り(谷田歩)と出会い、恋に落ちるが、彼は太平洋に向けて出航する。
オーランドは詩人ニック(山﨑一)と再会。
いつも持ち歩いている小さなノートを見られ、これは売れるかも、と言われる。
「美魔女だし」
「男から女になったという・・話題性もあるし」
こうして出版された彼の詩の本が文学賞を取り、彼は「ちょっとした有名人」になる。

ラスト、瓦礫のようなもの(紙)が上から大量に落ちて来て舞台を埋める。
男4人は倒れる。
オーランドも倒れるが、起き上がり、瓦礫の中から何か拾い上げる。
ぬいぐるみかと思ったら、何と人間の赤ん坊(の人形)!
素っ裸。
オーランドはそれを抱きしめて、奥に歩み去る。

~~~~~~~ ~~~~~~~

途中、主役の長いモノローグがはさまれる。
原作を読んでおけばよかったと後悔した。
特に今回のような翻案ものは、どこをどう変えたのか知りたいので。
ラストもだいぶ変えたらしい。
原作では船乗りの夫が無事に帰還するシーンで終わるらしいが、それでは今風でないと思ったのだろう。

「人は女に生まれない。女になるのだ」というオーランドの独白が響き渡る。
これってボーヴォワールの「第二の性」でしょ?!
ボーヴォワールがウルフの小説から取った言葉だったのか??
それとも翻案の岩切正一郎氏が遊び心で挿入したのか??
たぶん後者だね、きっと。

ヴァージニア・ウルフの原作の、時代を超えた新しさに驚いた。

宮沢りえが圧巻。
男装の時のスリムで凛々しい美しさ!(女装になった時ももちろんだが)
前半はずっと、少し低めの声で、後半、女性になってからは(心は男のままなので)意識的に女らしい高い声にする。
いずれも美声なので、聴いていて非常に心地良い。
セリフ回しも演技も素晴らしい。
この人と同時代に生きていることが嬉しい。
衣裳(前田文子)もいい。
共演の山崎一らのキャスティングもよかった。



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「シャーリー・ヴァレンタイン」

2024-07-30 18:20:40 | 芝居
7月23日下北沢OFF・OFFシアターで、ウイリー・ラッセル作「シャーリー・ヴァレンタイン」を見た(演出:加藤健一)。





平凡な主婦シャーリー・ヴァレンタイン(加藤忍)。
それは彼女の結婚する前の名前。
その頃の彼女は生き生きと冒険心を持って生きていたはずだった。
しかし今、年月が経ち、中年となった彼女は、台所の壁に向かって、夫や子供たち、そして自分自身への
愚痴をしゃべる日々を送っている。
そんな虚しい毎日を送ってきたシャーリーが、ふとしたきっかけにより出かけたギリシャへの一人旅で、
自分の姿を再確認していく姿を描く。

現代を生きる女性たちの普遍的な叫びをすくい上げた傑作ヒューマンコメディ(チラシより)。

加藤忍の一人芝居。その初日を見た。

息子ブライアンは自称「詩人」。
女性校長との嫌な思い出、学生時代のクラスメイト・マージョリー、
隣人ジリアン、娘ミランドラ、バツイチの友人ジェーン。
ジェーンが一緒にギリシャに旅行しよう、と誘ってきたけど、シャーリーはまだ迷っている。
台所の壁に向かってこんなことをしゃべりつつ、彼女はチップス(フライドポテト)と目玉焼きを作る。
彼女は48歳。
料理しながら白ワインをおいしそうに飲む。
本当は木曜の夕食はお肉と決まっていて、スーパーでひき肉500gを買っていた。
だが、近所の人に犬の世話を頼まれていて、その飼い主がヴェジタリアンで、その犬は大きな狩猟犬なのにヴェジタリアンにされているので
可哀想になって、そのひき肉をやってしまったという。
そのために今日の夕食はチップス&エッグになった。
きっと夫は怒るだろう・・。
案の定、夫は怒って皿を押しやり、妻の膝に卵などが流れて・・。
その時、彼女は決心する。
それから3週間かけて準備万端。
2週間分の料理を作って冷凍。
自分がいない間は、毎日母に来てもらって、それらを解凍してもらう約束もとりつけた。
(この夫は解凍もできないのだろうか?)
<休憩>
ギリシャ。日焼けしたシャーリー。ビキニ姿。その上に白いTシャツを着る。
一緒に来たジェーンは、飛行機の中で知り合った男にディナーに誘われて行き、4日も戻って来ない。
その男は島の反対側に別荘を持っているとか。
夜、海辺のレストランに行き、テーブルを浜辺まで持って行っていいかとボーイに尋ねる。
それがコスタスとの出会い。
彼は、その夜遅く閉店すると、グラスを片づけに来るが、その時シャーリーは泣いていて、ワインはまだ飲んでいなかった。
コスタスはそばの砂浜に座る。
「明日、兄の船に招待します。沖に出ましょう」
迷うが、彼が強引に誘うのでOKする。

翌朝ジェーンが戻って来て「ごめんなさいね!」と謝っているところにコスタスが迎えに来る。
呆然とするジェーン。
「これだから旅慣れてない中年女は!こっちの男のいいカモなのよ!」
これを聞くと、シャーリーはまっすぐ部屋を出て行った。

楽しい一日。
彼女は船の上で服を全部脱いで海に飛び込み、コスタスも続く・・。
だが別れの日が来る。
空港で、ジェーンと列に並び、スーツケースがベルトコンベアに乗って吸い込まれて行った時、
ここを離れてはいけない、と思った。
すぐに後戻りする。
後ろでジェーンが大声で叫んでいた。

コスタスの店に戻ると、彼が女性客に話しかけていた。
初めて会った、あの夜に、シャーリーに話しかけたのと全く同じ口説き文句だったw。
彼は彼女を見ると椅子から転げ落ちそうになった。
だが彼女は落ち着いていた。
「大丈夫よ。あなたの邪魔はしないわ。ここで働かせて欲しいの」
こうして彼女は、主に英国人観光客相手に接客の仕事を始める。

夫から2度電話があった。
今日、夫がここに来る。
彼女に会いに、そして連れ戻しに。
だがこれからどうするかは、まだ彼女自身にもわからないのだった。

~~~~~~~ ~~~~~~~

チラシのあらすじを読んで、つまらなそうだなと思ったが、残念ながら予想通りの展開。
まず主人公に感情移入できない。
子育ても終わり、夫と二人だけの生活。
親の介護もなく、実母とは良好な関係。
家事をすればいいだけの優雅な暮らしなのに、何が不満なのか。
長年の夢は海外旅行。特に葡萄の採れる土地の海辺でワインを飲むことだが、夫は旅行が苦手。
ただそれだけ。
生活のためにあくせく働かなくても済むことに、感謝の気持ちがない。
夫のいない昼間、ありあまる時間を使って好きなことができるのに。
特にやりたいことがないのだろう。
自分でも自分のことをバカだ、と言っているが、とにかく衝動的で、家族や友人を振り回す。
わざわざ遠い外国に行かないと自分探し(自己実現)ができないのか。
ストーリー的には、ギリシャですぐに仕事が見つかるのも都合が良すぎる。

デイテールには面白いところもあった。
かつてのクラスメイト・マージョリーに憧れていたが、何十年も後に再会して話をしてみると、何と彼女もシャーリーに憧れていた、とか。
「歩くワイドショー」のようなジリアンというおしゃべりな隣人が、彼女の旅行のことを聞いて、邪魔するかと思いきや、
「あなたは勇気がある」と尊敬の眼差しを向け、ステキなピンクのガウンをプレゼントしてくれる、とか。

それと、加藤忍がうまいことが、改めてよくわかった。
彼女は何人もの声を自在に使い分ける。
ポテトを手際よくカットするのも、見てて面白い。

芝居をしながら料理するというのは、かつて蒼井優主演の、英国の劇作家の作品でも見たことがある。
2019年12月、デヴィッド・ヘア作「スカイライト」(演出:小川絵梨子、新国立劇場小劇場)。
あの時は、大量の野菜を次々と洗って切って炒めてパスタソースを作り、パスタを茹で、しまいにちゃんと食べていたっけ。





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