10月22日調布市せんがわ劇場で、バーナード・ショウ作「ドクターズジレンマ」を見た(演出:小笠原響)。
結核パンデミックに見舞われた20世紀初頭のロンドン。
新たな治療法を発見した天才医師リジョンの診療所には、限りあるワクチンを求めて患者がひしめき合う。
病魔に侵された同僚医師の治療を優先しようと決めたリジョンであったが、突然現れた女性ジェニファーの魅力に
打ちのめされてしまう。彼女の夫ルイスは無名の天才画家だが金銭問題あり女性問題ありの食わせ者で、
病魔に侵されていた・・・。
美貌と才能に翻弄されズブズブとジレンマの渦に吞み込まれていく医者たちが見たものは・・・(チラシより)。
日本初演。
舞台は非常に狭い。ほぼ三方を客席が囲み、出入り口が四方にある。
リジョン(佐藤誓)の助手(星善之)のところに女中エミー(なかじま愛子)がやって来て、リジョンがついに「サー」の称号を授与されたと知らせる。
リジョンにお祝いを述べようと、お客が次々と現れるが、これがみな医者仲間。
かくて医者5人が病気とその治療法についてしゃべりまくる。
一人は「かくのう」とかいうものが、すべての病気の原因だと言う。
一人は外科医で、何でもかんでも手術さえすれば治ると言う。
一人は食細胞(白血球)とか敗血症とかの名称を繰り返す。
素人にはよくわからないが、皆、自説をただ主張するばかりで、今風に言えばエビデンスがまるでない(笑)。
そんな彼らが去ると、ジェニファー(大井川皐月)登場。
リジョンは誰であれお客は通すな、とエミーに言ってあるが、エミーはジェニファーからお金をもらっているので
しつこく口をきいてやり、しまいに「それに・・先生のタイプです」と告げる(笑)。
それでも彼は頑として、帰ってもらえ、と言い張るが、ジェニファーは入って来てしまい、夫ルイスは天才画家で、
彼を救えるのは先生だけです、と切々と訴える。
リジョンの手元にあるワクチンは、予約した患者の分の他に一人分しか残っていない。
彼はそれを貧しい同僚医師ブレンキンソップ(佐藤滋)のために使おうとしていたが、ジェニファーの訴えに心動かされ、とりあえず一度、ルイスに会うことにする。
近々ホテルのレストランで叙勲のお祝いの食事会を開くので、そこにジェニファーとルイスを招待することになった。
次の場面は食事会が終わったところ。
画家夫妻は席をはずし、医者5人がテーブルに残り、夫妻について語り合う。
皆、二人について大いに感銘を受けた様子。
夫妻は若くて美しく、魅力的だし、おまけにルイスがサラサラと描いてくれた絵が実に素晴らしく、やはり天才画家らしい。
彼の病気を治してやることに皆の意見は一致する。
ルイスが戻って来て、また絵を描き、更に人々の心をつかむが、一方で、誰彼構わず借金を申し込む。
それも相手の懐具合を考えて、その都度細かく金額を変えるというやり口で。
夫妻が帰ると、突然メイドのミニー(なかじま愛子の二役)が飛び込んで来る。
「今帰られたお客様の住所を教えてください!」「あの女といた男の人・・」
男たちが驚いて問いただすと、彼女は「私はあの人の妻です!」と爆弾発言。
ちゃんと結婚して式も挙げ、しばらく一緒に暮らしたが、ある時、急にいなくなった、彼には貯金を全部あげたのに・・
連絡したくても住所もわからない、と言う。
男たちは困惑する。
そういう奴だったのか・・。
次の場面はルイスのアトリエ。
ジェニファーがルイスに言う。
「もう誰からも借金しないで。借金する時は、まず私に言って。いいわね?」
ルイスは「わかったよ。君は立派だ」とか何とか答える。
ルイスは絵を描いている。
ジェニファーが「まず〇〇さんと約束した絵を仕上げたら?」と言うと、「え~、だってあの人からはもうお金ももらってるし。いいよ」
何て奴!だが、要するにこんな奴なのだ。
ここに医者たちが来る。
するとルイスは、たった今妻と約束したばかりなのに、会う人ごとに借金を申し出て・・・。
ここから彼と医者たちとの議論が始まる。
医者たちは、彼がミニーにしたことを責めるが、ルイスは口がうまく、本当なのか嘘なのかわからないが、簡単に皆を説得してしまう。
男たちは、さらに人間として当然振る舞うべき倫理を説いて聞かせるが、それに対してルイスは、まるで悪びれることなく、しれっと芸術論をぶつ。
彼の言い分は、なかなかどうして筋が通っている。
聴いている方が、むしろ感心するくらいだ。
リジョンはジェニファーに、ルイスの人格的な問題について話す。
彼女は夫の金銭関係だけでなく、女性関係のことも知っており、認めるが、それでもなお彼を治して欲しい、と懇願する。
リジョンは悩み迷うが、結局、自分のワクチンは誠実で貧乏なブレンキンソップに使うことにし、
ルイスの治療は友人のサー・ボニントン(清水明彦)が担当することになる。
治療はうまく行かず、ルイスは助からない。
死を待つばかりの彼はベッドに横たわり、長々と語り出す・・・。
ラストシーンはルイスの個展の会場。
その後、ちょっとびっくりな展開が待っている・・。
~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~
「バーナード・ショーの隠れた名作」という演出家の言葉通り、素晴らしい戯曲だった。
ルイスと医者たちとの議論が興味深い。
ただ、ルイスが死ぬまでがちょっと長過ぎる。
その他は実に面白い戯曲なのに、惜しい。
役者陣はみなうまいし、滑舌がよくて心地良い。
特にルイス役の石川湖太郎には驚かされた。この男、一体何者?
この役のために生まれてきたような・・。
エミー役兼ミニー役のなかじま愛子にはすっかり騙されたし。
ジェニファー役の大井川皐月は美しく、演技も的確。
実に楽しいひと時だった。
結核パンデミックに見舞われた20世紀初頭のロンドン。
新たな治療法を発見した天才医師リジョンの診療所には、限りあるワクチンを求めて患者がひしめき合う。
病魔に侵された同僚医師の治療を優先しようと決めたリジョンであったが、突然現れた女性ジェニファーの魅力に
打ちのめされてしまう。彼女の夫ルイスは無名の天才画家だが金銭問題あり女性問題ありの食わせ者で、
病魔に侵されていた・・・。
美貌と才能に翻弄されズブズブとジレンマの渦に吞み込まれていく医者たちが見たものは・・・(チラシより)。
日本初演。
舞台は非常に狭い。ほぼ三方を客席が囲み、出入り口が四方にある。
リジョン(佐藤誓)の助手(星善之)のところに女中エミー(なかじま愛子)がやって来て、リジョンがついに「サー」の称号を授与されたと知らせる。
リジョンにお祝いを述べようと、お客が次々と現れるが、これがみな医者仲間。
かくて医者5人が病気とその治療法についてしゃべりまくる。
一人は「かくのう」とかいうものが、すべての病気の原因だと言う。
一人は外科医で、何でもかんでも手術さえすれば治ると言う。
一人は食細胞(白血球)とか敗血症とかの名称を繰り返す。
素人にはよくわからないが、皆、自説をただ主張するばかりで、今風に言えばエビデンスがまるでない(笑)。
そんな彼らが去ると、ジェニファー(大井川皐月)登場。
リジョンは誰であれお客は通すな、とエミーに言ってあるが、エミーはジェニファーからお金をもらっているので
しつこく口をきいてやり、しまいに「それに・・先生のタイプです」と告げる(笑)。
それでも彼は頑として、帰ってもらえ、と言い張るが、ジェニファーは入って来てしまい、夫ルイスは天才画家で、
彼を救えるのは先生だけです、と切々と訴える。
リジョンの手元にあるワクチンは、予約した患者の分の他に一人分しか残っていない。
彼はそれを貧しい同僚医師ブレンキンソップ(佐藤滋)のために使おうとしていたが、ジェニファーの訴えに心動かされ、とりあえず一度、ルイスに会うことにする。
近々ホテルのレストランで叙勲のお祝いの食事会を開くので、そこにジェニファーとルイスを招待することになった。
次の場面は食事会が終わったところ。
画家夫妻は席をはずし、医者5人がテーブルに残り、夫妻について語り合う。
皆、二人について大いに感銘を受けた様子。
夫妻は若くて美しく、魅力的だし、おまけにルイスがサラサラと描いてくれた絵が実に素晴らしく、やはり天才画家らしい。
彼の病気を治してやることに皆の意見は一致する。
ルイスが戻って来て、また絵を描き、更に人々の心をつかむが、一方で、誰彼構わず借金を申し込む。
それも相手の懐具合を考えて、その都度細かく金額を変えるというやり口で。
夫妻が帰ると、突然メイドのミニー(なかじま愛子の二役)が飛び込んで来る。
「今帰られたお客様の住所を教えてください!」「あの女といた男の人・・」
男たちが驚いて問いただすと、彼女は「私はあの人の妻です!」と爆弾発言。
ちゃんと結婚して式も挙げ、しばらく一緒に暮らしたが、ある時、急にいなくなった、彼には貯金を全部あげたのに・・
連絡したくても住所もわからない、と言う。
男たちは困惑する。
そういう奴だったのか・・。
次の場面はルイスのアトリエ。
ジェニファーがルイスに言う。
「もう誰からも借金しないで。借金する時は、まず私に言って。いいわね?」
ルイスは「わかったよ。君は立派だ」とか何とか答える。
ルイスは絵を描いている。
ジェニファーが「まず〇〇さんと約束した絵を仕上げたら?」と言うと、「え~、だってあの人からはもうお金ももらってるし。いいよ」
何て奴!だが、要するにこんな奴なのだ。
ここに医者たちが来る。
するとルイスは、たった今妻と約束したばかりなのに、会う人ごとに借金を申し出て・・・。
ここから彼と医者たちとの議論が始まる。
医者たちは、彼がミニーにしたことを責めるが、ルイスは口がうまく、本当なのか嘘なのかわからないが、簡単に皆を説得してしまう。
男たちは、さらに人間として当然振る舞うべき倫理を説いて聞かせるが、それに対してルイスは、まるで悪びれることなく、しれっと芸術論をぶつ。
彼の言い分は、なかなかどうして筋が通っている。
聴いている方が、むしろ感心するくらいだ。
リジョンはジェニファーに、ルイスの人格的な問題について話す。
彼女は夫の金銭関係だけでなく、女性関係のことも知っており、認めるが、それでもなお彼を治して欲しい、と懇願する。
リジョンは悩み迷うが、結局、自分のワクチンは誠実で貧乏なブレンキンソップに使うことにし、
ルイスの治療は友人のサー・ボニントン(清水明彦)が担当することになる。
治療はうまく行かず、ルイスは助からない。
死を待つばかりの彼はベッドに横たわり、長々と語り出す・・・。
ラストシーンはルイスの個展の会場。
その後、ちょっとびっくりな展開が待っている・・。
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「バーナード・ショーの隠れた名作」という演出家の言葉通り、素晴らしい戯曲だった。
ルイスと医者たちとの議論が興味深い。
ただ、ルイスが死ぬまでがちょっと長過ぎる。
その他は実に面白い戯曲なのに、惜しい。
役者陣はみなうまいし、滑舌がよくて心地良い。
特にルイス役の石川湖太郎には驚かされた。この男、一体何者?
この役のために生まれてきたような・・。
エミー役兼ミニー役のなかじま愛子にはすっかり騙されたし。
ジェニファー役の大井川皐月は美しく、演技も的確。
実に楽しいひと時だった。