ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「デカローグ 5 ある殺人に関する物語」

2024-05-28 23:36:55 | 芝居
5月21日新国立劇場小劇場で、クシシュトフ・キェシロフスキ作「デカローグ 5と6」を見た(演出:小川絵梨子)。



タクシー運転手を殺害した青年と、若い弁護士。
死刑判決を受けた青年を救えなかった弁護士の悲嘆。

街中でたまたま、傲慢で好色な中年の運転手のタクシーに乗り込んだ
20歳の青年ヤツェクは、人気のない野原で運転手の首を絞め、
命乞いする彼を撲殺する。殺人により法廷で有罪判決を受けたヤツェクの
弁護を担当したのは、新米弁護士のピョトルだった・・・(チラシより)。

若い男ヤツェクが2階から石を落とすと、下で車が事故を起こす大きな音がする。
タクシー運転手が洗車中。
老人が鳩に餌をやっている。
ヤツェクが来ると、「あっちへ行け」「鳩が怯えてる」
するとヤツェクは立ち去りかけるが、すぐに戻って来てわざと鳩たちを蹴散らす。
鳩たちは驚いて飛んで行ってしまう。

ピョトルが、弁護士資格を取るための最終試験である面接を受けている。
なぜ弁護士になりたいのか、と質問された彼は、死刑制度に反対なのだと言う。

ヤツェクは映画館に行く。
窓口の女性に今やっている映画がどんなのか尋ねると、「つまらないよ」、
「男と女が出会って、別れる話」・・
ヤツェクは写真屋に入り、折り目のついた少女の写真を引き伸ばして欲しい、と言う。
彼は「写真屋って、写真に写った人が生きてるか死んでるかわかるって本当?」と尋ねる。
ヤツェクはカフェに入る。
紅茶を頼むが、ないと言われ、仕方なくミルクとケーキを注文する。
近くのタクシー乗り場の場所を尋ねる。
彼は、なぜか太い縄をリュックに入れている・・。

無事、試験に合格したピョトルは、すぐにカフェに入り、電話を借りて妻に知らせる。
コーヒーを注文し、ヤツェクがケーキを食べている時、近くの席に座って飲む。
身重の妻を病院に連れて行くためタクシーに乗ろうとするが、一台しかいないタクシーの運転手は
洗車中だと断る。しかも、彼が待っているのを知っているのに、洗車が終わると意地悪く車を出してしまう。

ヤツェクはタクシーに乗り込む。
人けのない場所に止めると、運転手が不審がる。
突然ヤツェクは、手にした縄で運転手の首を絞める。
運転手は苦しみもがき、抵抗するが、ヤツェクは執拗に絞め続ける。
運転手が地面に倒れ、死んだかと思ったが、片手を挙げて何か必死に声を出す。
ヤツェクは近くにあった石を持ち上げて、運転手の頭を殴り出す。
そうして完全に息の根を止めると、車に戻り、運転手の食べかけのパンか何かをむさぼり喰い、金を盗む。

その後、ヤツェクは捕まったらしい。
裁判で、ピョトルが彼の弁護をしたらしいが、結果は有罪で死刑。
ピョトルは、弁護士として初めて臨んだ裁判で負けた。
失意に沈む彼に、裁判長は温かい言葉をかける。
だが、彼があまりに落ち込んでいるので、「あなたは繊細過ぎる。この仕事には向いていないかも知れませんね」と言うのだった。
連れて行かれるヤツェクを見て、ピョトルは思わず「ヤツェク!」と叫ぶ。

ヤツェクの処刑の日。
検事も立ち会う。
検事はピョトルに「お子さんが生まれたそうですね」
ええ。2日前に。息子が。
「おめでとう」

ピョトルはヤツェクが会いたがっていると聞いて、会いに行く。
ヤツェクは妹のことを話す。
5年前、妹がまだ小6で12歳の時、彼女はトラクターに轢かれて死んだ。
ヤツェクと友人が家の酒を飲み、友人がトラクターを運転して彼女を轢いた。
ヤツェクには兄が4人いた。妹は6人兄妹の末っ子で、やっと生まれた女の子だった。
その後、ヤツェクは家にいられなくなって村を出た。
両親は、妹の好きだった野原に墓を買った。
父は妹の死後、死んだようだった。

「先生がオレの名前を呼んだ時、先生は敵じゃないって思った」
「オレの周りはみんな敵ばっかりだった」
 ・・君じゃなくて君のしたことに対してだよ
「違いがわかんねえ」
「父と妹の間にオレを埋めてほしい」
ピョトルが死刑囚ヤツェクと接見していると、係官から何度も電話がかかってくる。
まだかまだか、と。
話をじっくり聴いてやりたいピョトルは、しまいに怒り出す。
だが、ついに時間切れとなり、会話は途中で打ち切られる。

医者と聖職者が直前に現れ、それぞれの仕事をする。
脈を計ったり、手にキスをさせて祝福?したり。
それから人々は、ヤツェクを2階の処刑台の前に連れて行き、宣告文を読み上げ、首吊り縄にかけようとするが、
ヤツェクは泣き叫び、さんざん抵抗する・・。

ピョトルは、初めての仕事でつらい挫折を味わい、地に突っ伏す。

~~~ ~~~ ~~~

弁護士との接見が刑の執行当日とは。
もっと時間をかけて話を聴いて欲しかっただろうに。

日本では1人殺しても死刑にはならないので、だいぶ違うと感じる。
ただ、最後まで彼の動機がわからない。
そもそもそんなもの、なかったのか。
彼は、この世のどこにも居場所がないと感じている。
若者の、そんな空漠たる心象風景が悲しい。

十戒の第5戒は、「殺してはならない」。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「二人の主人を一度に持つと」

2024-05-26 23:43:28 | 芝居
5月16日下北沢 本多劇場で、カルロ・ゴルドーニ作「二人の主人を持つと」を見た(加藤健一事務所公演、演出:鵜山仁)。



口から出まかせ系コメディ in ヴェネツィア
召使いカトケン、デタラメ言いまくり!

18世紀、ヴェネツィア。
とある男性主人の召使い・トゥルッファルディーノ(加藤健一)は、
仕事中、召使いを雇いたいと言う男に出会う。
「二人の主人に仕えれば、給料も2倍になる!」
と思いついたトゥルッファルディーノ。
主人が増えたことで起こる数々の難題を、ウソでごまかし乗り越えていく。
けれども彼の周囲の人々は、
男装中、婚約破棄、恋人との死別・・などなど、カオスな状況。
そこへトゥルッファルディーノのウソがとんでもない誤解を呼び、事態は大混乱!
お調子者のトゥルッファルディーノ、果たして上手く場を収められるのか?(チラシより)

パンタローネ(清水明彦)の家では、娘クラリーチェ(増田あかね)と恋人シルヴィオ(小川蓮)との婚約が無事済み、
シルヴィオの父ドットーレ(奥村洋治)共々お祝い気分。
そこに、トリノから来たという召使いトゥルッファルディーノ(加藤健一)登場。
彼はクラリーチェの婚約者ラスボーニの召使いで、ラスボーニももうすぐこちらに到着すると言う。
変わった男で、早速女中ズメラルディーナ(江原由夏)に言い寄ったりしている。
だがラスボーニは最近男に刺されて死んだはずなので、誰も相手にしない。
それに、ラスボーニと娘の婚約は父であるパンタローネが決めたことだったが、彼が死んだので、娘は晴れて恋人と結婚できることになったのだった。

だがそこに本当にラスボーニがやって来たので、一同大あわて。
その場にいたホテルの支配人ブリゲッラ(土屋良太)だけが、かつてトリノでラスボーニと面識があったので、
今ここに来たのが、実はラスボーニではなく彼の妹ベアトリーチェ(加藤忍)の男装した姿だと見抜く。
だがブリゲッラに気づいた彼女から、秘密を守ってほしい、と陰で密かに言われるので、彼女の芝居に協力することにし、
パンタローネたちに、この人は確かにラスボーニです、と請け合う。
するとパンタローネが、娘はかつて決めた通りにあなたと結婚させます、と言い出すので、娘たちは大パニック。

トリノからフロリンド(坂本岳大)という男もやって来る。
この男はベアトリーチェの恋人で、彼女の兄が二人の結婚に反対したため、決闘して刺し殺してしまい、
ベアトリーチェを追ってこの町に来たのだった。
彼はトゥルッファルディーノを見て、召使いにならないか、と持ちかけ、相手は給料欲しさにOKする。

パンタローネがラスボーニに返す金=金貨百枚(入りの袋)をトゥルッファルディーノに預け、「お前の主人に渡せ」と言ったので、
どちらの主人に渡したらいいのかわからず、フロリンドに渡してしまったり、
郵便局に行って、私宛の手紙が届いているかどうか見て来い、と両方から言われたり、
てんやわんやの騒ぎになる。
彼は昼飯がまだなので早く食べたいのだが、なかなかありつけない。

クラリーチェは、ラスボーニになりすましているベアトリーチェを嫌い、避けている。
ベアトリーチェは、クラリーチェと二人きりにしてほしい、とパンタローネに頼む。
二人きりになると、彼女は自分が実は女だと秘密を打ち明ける。
クラリーチェは驚くが、これでシルヴィオと結婚できる、と喜び、彼女の秘密を守る、と約束する。
こうして「たったの4分で」二人が和解し、手を取り合うのを見て、父は驚く。

一方シルヴィオは恋敵ラスボーニ(実はベアトリーチェ)に決闘を挑み、またしても騒ぎに・・。

トゥルッファルディーノは二人の主人の荷物を開けて服に風を通すことにする。
白と黒の二つのトランクを持ち出し、それぞれ預かった鍵で開け、中身を広げる。
ナイトガウン、緊急用トイレ、しょうゆ味のラーメン、水のペットボトル。
もう一方には同じくナイトガウン、緊急用トイレ、ペットボトル、味噌味のラーメンなど(笑)。

そこにフロリンドが来たので慌てて中身をしまうが、一部を間違えてもう一方のトランクに入れてしまう。
彼は自分のトランクを開けさせガウンを着ると、ポケットに、かつて自分がベアトリーチェにあげた肖像画が入っているので驚く。
トゥルッファルディーノは問いただされて苦しまぎれに「これは間違えて入れてしまいました。実は私のものです。
ある人の遺品としてもらったのです」と言い出す。
驚いたフロリンドがさらに問い詰めると、つい一週間ほど前まで雇われていたご主人が亡くなり・・と。
フロリンドは「その人は髭が生えていたか」と尋ね、生えてなかった、と言われると、
ベアトリーチェが死んだと思い、絶望。嘆きながらよろよろと立ち去る。

そこに、今度はベアトリーチェがやって来る。
彼女は自分のトランクから、かつて自分がフロリンドにあげた本と手紙を見つけ、驚いてトゥルッファルディーノに問いただすと、
彼はさっきと同じ手を使ってごまかそうとする。
かつての主人の遺品・・だと。
するとベアトリーチェはフロリンドが死んだと思い、大声で嘆き悲しむ。
そこにパンタローネが通りかかり、ベアトリーチェが悲しむ声を聴いて、彼女が女であることに気がつく。
パンタローネは喜び勇んで帰り、シルヴィオの父親に話そうとするが、相手はまるで聞く耳を持たない。

クラリーチェはシルヴィオの誤解を解こうとするが、ベアトリーチェとの約束があるので秘密は打ち明けることができない。
シルヴィオが冷たくするのでクラリーチェは死のうとしてシルヴィオの剣を取り、首に当てるが、シルヴィオは止めない。
そこに女中のズメラルディーナが来て止め、シルヴィオを責める。
ズメラルディーナはクラリーチェに、世間は女が浮気をしたら寄ってたかって非難するけど、男が浮気したって誰も何も言わない、
世の中の規則や法律は男たちが作ったものだからよ!、とズバリ言って聞かせる。

ようやく誤解が解けてクラリーチェとシルヴィオは仲直り。
トゥルッファルディーノは二人の主人に問い詰められて、ペペロンチーノ(笑)という架空の男をでっち上げる。

互いに恋人が死んだと思って自殺しようとしたベアトリーチェとフロリンドは、すんでのところで相手に気づき、再会を喜ぶ。
こうして二組の結婚が決まるが、そこにトゥルッファルディーノがズメラルディーナと結婚したいと申し出る。
そこから彼のこれまでのウソがバレ、ペペロンチーノなどという男はそもそもいなかったこと、彼が二人の主人に一度に仕えていたことがバレてしまう。幕

目まぐるしいが、楽しかった。
女中が力強く小気味よくジェンダー論を語るのが素晴らしい。
これだから、今でもこの人の芝居は大人気で、よく上演されるのだろう。
時代を考えると、作者カルロ・ゴルドーニという人は男性なのに実に新しい。
シェイクスピアを思わせるところもある。
女性が男装して恋人を探すのは「ヴェローナの二紳士」と同じだし。
主人と召使いとの間で何度も人違いが起こるのは、その名も「間違いの喜劇」と同じだし。

あちこちに笑える箇所があって楽しい。
トリノから来た手紙を書いたのはルチアーノ・パヴァロッティという召使いで、「この男はいい奴で、おまけに歌もうまいんだ」とか(笑)。
こういうのとかトランクの中身とかは、もちろん現代日本人向けに演出家が付け加えたり、書き変えたりしたのだろう。
宴会の料理の品数と出す順番、そして皿の並べ方についてのトゥルッファルディーノのうんちくもおかしい。
料理の中身も、歯の悪いパンタローネのための「一口コロッケ」とか「イギリス名物のプリン」とかも興味深い。

役者ではベアトリーチェ役の加藤忍が素敵だった。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「出番を待ちながら」

2024-05-24 21:27:26 | 芝居
5月9日シアターχで、ノエル・カワード作「出番を待ちながら」を見た(制作集団真夏座公演、演出:木内希)。



  リタイアした女優だけが入所できる養老施設「ウィングス」。
強烈な個性の面々が、絶妙なバランスを取りながら仲良く暮らしていた。
  しかし、あるとき彼女たちの心を乱す出来事が起きた。
三十年前に決裂したままの人気女優二人が、ここで顔を合わせることになったのだ。
  一方は和解に努め、一方は頑なに拒み、そして周囲は気を揉み・・・。
    中々雪解けはやってこない。
そんな折、この施設の秘書が友人のジャーナリストを伴ってやってきた。
  フレッシュな訪問者に老女優たちは心浮き立つ。
だが、ジャーナリストが持ち込んだのは単なる新鮮な空気ではなかった・・・(チラシより)。

ピアノを弾いたりカードゲームで賭けをしたり編み物をしたり、元女優たちは思い思いに過ごしている。
そこに、かつての人気女優ロッタ(江口ふじ子)が入居すると聞いて、彼女と30年も諍いを続けているメイ(大橋芳枝)は動揺する。
他の女性たちは彼女に気を使って、その知らせを聞いてから一週間も隠していた。
ロッタが付き人ドラ(俊えり)とやって来る。
この付き人が奇妙。特にメイク。頬紅がピエロのよう。
女主人と別れるのが悲しくて、ずっと泣いている。
自分はこれから恋人と結婚するというのに。
挙句、「彼に、他の人と結婚して、って言います!」と言い出す始末。
ロッタの愛犬が先日、死んだという。付き人は、その写真も持参し、部屋に置くという。

毎週日曜に面会に来る初老の男性がいる。
彼はマーサという96歳の寝たきりの元女優の熱烈なファンで、長年彼女を崇拝し、今なお毎週すみれの花束を持って見舞いに来るのだった。

ある夜、みながチャリティーショーに出かけて帰って来ると、サンドイッチとスープの夜食が用意されている。
サリータ(岩崎幸代)は、心臓が悪いので医者に止められて行かなかった。
彼女は認知症らしい。
なかなか寝に行かず、院長(小谷佳加)らスタッフを困らせる。

彼女らはサンルームを作ってほしいという要望を理事会に出し、見積もりも出したが、予算の関係でなかなか認められない。

ロッタがメイに話しかけるが、メイは頑なに拒絶する。
ある日、秘書ペリー(羽藤雄次)に案内されて、ジャーナリストのゼルダ(森川梢)が現れる。
彼女は偽名を名乗り、ジャーナリストであることを隠して、みんなから施設での暮らしぶりについて聞き出す。
だがロッタが彼女の正体を見破る。
みんなは驚き、この施設のことをあれこれ書かないでほしい、と頼むが・・・。
<休憩>
ロッタとメイは唐突に仲直りする。
ゼルダの一件でペリーはクビになりかけるが、メイのお陰で復職できた。

認知症のサリータが、また夜中にマッチで遊んでいて、とうとうボヤ騒ぎを起こす。
舞台の一部(前面)に燃えかすが残り、みんなは寝ていたところを起こされたらしくガウン姿。
サリータは、もうここにはいられなくなり、別の施設に移ることになる。
医者が迎えに来ると、彼女は白いドレス姿で階段を降りて来る。
また芝居をひとくさり。
みんな、医者に言われた通り、さよならは言わず、いつもと変わらぬ自然な様子で見送る。

クリスマス。ゼルダがシャンパンをひと箱(!)プレゼントに持参する。
結局あの後、この施設についての記事を書いて載せたので、そのおわびらしい。
しかも院長に2万ポンドの小切手を渡す!
彼女の上司のサー何とかからで、目的はサンルーム建設のためのみ、との条件で。
みな喜び、早速シャンパンで乾杯し、アイリッシュダンスを踊り出す。
3人が踊るうち、ディアドリー(藤夏子)が倒れる。
ブランデーを飲ませようとするが・・・。

半年後、舞台奥についにサンルームが出来ている。
だが、みんなは暑い暑いと言って、中に戻って来る。
ロッタの最初の夫との間の息子アランが訪問。
17年ぶり。
シンシアと結婚して二人はカナダに住んでいた。
息子の突然の訪問に驚いた母は、彼を抱きしめ、座らせるが「何しに来たの?」
「母さんをここから出すためだよ」
「こんなところにいるなんて全然知らなかった」
彼らはゼルダの書いた記事を読んで驚き、相談した結果、ロッタを引き取ることにしたのだった。
だが母は「ここはそんなに悪いところじゃないわ」
彼女は息子の申し出を丁重に断る。
彼が持参したシンシアの手紙を読み、「返事を書くわ」

離婚後、息子は父親に引き取られていた。
彼はお父さん子だった。
「離婚の時、どっちの親と暮らすか選ぶ時、あなたは父親を選んだ」
「自分で十分考えられる年齢だった」
二人は長い間、離れて生きてきた。
その時間はとても簡単に埋められるものではなかった。
「あなたが切符を送ってくれたら私がカナダに会いに行くわ。シンシアに、そして孫たちにも」
・・・幕

とにかく長かった。
あれもこれも詰め込み過ぎという印象が強い。
そもそも原作自体が悪いのか、演出のせいか、役者たちのせいなのか。
さらに、ボケた人を演じているのか本当にボケちゃったのかわからない人たちもいてびっくり。
セリフが出て来ず、芝居が止まるかと、ちょっぴりハラハラさせられた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「帰れない男 ~遺留と斡旋の攻防~」

2024-05-18 16:55:05 | 芝居
4月30日、本多劇場で倉持裕作「帰れない男~遺留と斡旋の攻防~」を見た(M&O Plays プロデュース、演出:倉持裕)。



招かれた屋敷にて、
帰り方を忘れて滞在し続ける男。
引き留める代わりに
目で共謀を訴えかける若い女。
度々留守にして
男と妻の時間を作る屋敷の主人。
遠くの宴と、
呆れるほど長い廊下を背にした
幻想譚。(チラシより)

ネタバレあります注意!!
まったく知らない作者の芝居だったが、この日見て驚いた。
とにかく面白い。

まず舞台の構造が面白い。
長方形の和室の前面に細長い廊下。
下手に和室の出入口と廊下。その先に引き戸か障子戸があるらしい。
上手に二階への階段とまっすぐ続く廊下。
さらに左に折れて右に続く廊下。その先に玄関があるらしい。
和室と前面の廊下との間に見えない壁があるらしい。
和室の奥は大きな障子窓になっているが、障子紙が貼ってないので中庭が見える。
(だが登場人物たちには見えない設定)。
その先に屋敷の一部であるお座敷が見える。

時代は昭和初期らしい。
季節は梅雨時。
若い作家・野坂(林遣都)と、この家の妻・瑞枝(藤間爽子)がテーブルについている。
男は着物姿で、食事を済ませたところ。
女中(佐藤直子)が皿を下げに来る。
書生(新名基浩)も来る。
瑞枝は馬に危うくひかれるところを野坂に助けてもらったので、お礼に屋敷に招き、仕出しの食事でもてなしたらしい。
野坂が着ているのはここで借りた着物だった。
彼は帰宅する前に着替えようと思い、「私の服は?」と尋ねる。
彼の服は泥だらけになったので、今洗って干していると言われる。
書生が「お泊まりになられてはいかがですか?」と出過ぎたことを言い出し、女中にたしなめられる。
この家には客がよく来る、中には何日も泊まって行くのもいる、
今彼が着ているのは、その中の誰かの着物だろう、と言われる。

初老の主人(山崎一)が帰宅する。
白いスーツ姿。60歳くらい。
妻が野坂に助けられたことをすでに聞いていて、礼を言う。
彼は、自分より「うんと若い妻」を持っていることを気にしている。
野坂の書いた幻想小説を読んでいて、彼のことを「先生」と呼ぶ。
 自分は仕事で忙しく留守がちだが、どうぞゆっくりしていってください。

この屋敷はとにかく広いので、客がトイレに行こうとして迷い、どうしてもたどり着けずにとうとう中庭でやってしまった人もいるという。

次の場面で、野坂は和室の隅にある机で仕事している。
もうこの家に馴染んでいるようだ。
そこに彼の友人・西条(柄本時生)がやって来る。
野坂の家では妻・ひよりが待っているというのに「ひよりさんを何日も待たせて」と彼を責める。
実は昨年、ひよりは久保という男と何やらあり、それを野坂が強く責めたため、ひよりは自殺未遂するという事件があった。
久保というのは、野坂が作家になるのをずっと助け、導いてくれた恩人だった。
二人のことを知り、久保のひよりへの気持ちを知った時、野坂は久保に対して初めて優越感を覚えたのだった。

その後、野坂は突然失踪。
その数日後、瑞枝も消える。
だが野坂は女中の手を借りて、この広い屋敷のどこかに潜んでいた。
誰もいないと思った女中が合図の鈴を鳴らしたため、野坂は上手の廊下の上の納戸みたいなところからゴソゴソと出て来るが、そこを西条に見つかってしまう。
瑞枝も一日で戻って来る。
西条は野坂に「ひよりさんを僕にくれないか」と言い出す!
そうか、そういうことだったのか。
だが野坂はすぐには答えない。
その後、瑞枝と野坂は出奔。
だが何があったのか、二人はすぐに戻って来る。
廊下で野坂に会うと、瑞枝はとげとげしい。
彼の態度が煮え切らず、いつまでも妻ひよりを手放そうとしないのを知って怒ったのだろうか。
彼も意外と冷たい。

中庭の向こうの座敷で、瑞枝が花を活けている姿が障子に映る。

女中によると、20年位前、前妻がひどいいびきをかき始め、主人は「しっかりしろ!」と言い続けたが、前妻はそのまま死んだ。
女中は「その頃のご主人に、またお会いしたいというのが望みです」と意味深なことを言う。
だが、これが後の伏線になっているわけでもないのが残念。
ただの思わせぶりなセリフだった。

みなが居間にそろっている時、女中が瑞枝に、花バサミがなくなりました、と言い出したことから騒ぎが起こる。
瑞枝が、花バサミはちゃんと片づけたわ、と言うが、女中は、いえ、ありません、きっとまだお座敷にあるのでは、と言う。
瑞枝がきつく、片づけたわ!と言い続けると、突然、それまで黙って聞いていた野坂が大声を上げ、無いんだったら座敷にあるんだろう、
探してみればいい、と怒鳴る。
彼の剣幕にみなシーンとなる。
その後、みなバラバラに散り、主人の影が中庭の向こうの座敷の障子に映ったかと思うと・・・。
瑞枝は気配に気がついたのか、障子を開けて立ちすくむ。
野坂もそばで見ている。


実に独創的で面白い戯曲だ。
作者は昔の人かと思ったら、まだ50代だという。
すっかり騙された。
ただ、「省線」などという言葉が若い人にわかるだろうか。
劇団チョコレートケーキみたいに「用語解説」が必要かも。

ところで、ラストで夫はなぜああいう行動をとるのだろうか。
妻と野坂が深い仲になったことを、彼らの激しい諍いから察したからだろうか。
いや、そうではあるまい。
もともと彼は、理由はわからないが、二人を接近させようとしていたし。
それよりも、ああいう場面で妻を𠮟るのは、客であり居候である男のすることではなく、夫たる彼のすべきことだった。
野坂の振舞いによって、この家にはもはや主人の居場所がなくなってしまったのだ・・・。

彼の心の謎は謎のまま残るが、西条、女中、書生のいずれもくっきりと個性的に描かれている。
芝居の中心である3人は言うまでもない。
舞台の構造も非常に面白い。

友人の奥さんを「僕にくれないか」だなんて人権無視もいいところだが、当時はそんなものだった。
妻は夫の所有物だった。
谷崎潤一郎と佐藤春夫の間の「細君譲渡事件」というのもあった。

山崎一は、期待通りの好演。
こういう役をやらせたら右に出る者はいない。
作家役の林遣都も妻役の藤間爽子も初めて見たが、驚くほどうまい。
女中役の佐藤直子もベテランらしく、いい味を出していた。

実に不思議な雰囲気の戯曲だ。
久し振りに、これからが楽しみな劇作家を発見した。













コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「夢の泪」

2024-05-14 10:07:32 | 芝居
4月25日紀伊國屋サザンシアターで、井上ひさし作「夢の泪」を見た(演出:栗山民也)。



東京裁判3部作の夢シリーズ第二弾。

昭和21年、新橋駅近く。
弁護士・伊藤菊治は、継父を慕う秋子の娘・永子、事務所に住み込みで働く田中正と
暮らしている。
亡父の残した法律事務所で働く菊治のもとへは、永子の幼なじみ・片岡健やクラブ
歌手のナンシー岡本とチェリー富士山から数々の騒動が持ち込まれる。
そんな折、妻・秋子が東京裁判においてA級戦犯・松岡洋右の補佐弁護人になるよう依頼される。
事務所の宣伝のため、とりわけ秋子との関係修復のため、菊治も勇んで松岡の補佐弁護人になるが、難問が山積み。
ついにはGHQ の米陸軍法務大尉で日系二世のビル小笠原から呼び出しが菊治にかかる・・・(チラシより)。

芝居の内容に入る前に、まずこの文章にいちゃもんをつけたいとおもいます。
みなさん、これを読んですんなり理解できましたか?
まず、いきなり「継父」が出てくる。これって誰?
次に、やはり唐突に「秋子」という人が出てくる。
これも誰のことなのかさっぱりわからない。
何度も読んで、やっとわかったのは、菊治の妻の名前が秋子で、彼女の「連れ子」が永子、だから、継父というのは永子から見た菊治のことだった。
ではどうしてそういう風に書いてくれないのか。
まったく責任者出てこい!って話です。

菊治(ラサール石井)と秋子(秋山菜津子)は共に弁護士で、いわゆるおしどり夫婦だが、現在離婚の危機にある。
それは菊治の「浮気病」が原因。
秋子の連れ子・永子(瀬戸さおり)、復員兵で住み込みの事務員となった田中正(粕谷吉洋)、
クラブ歌手のナンシーとチェリーなどが入り乱れて賑やかに話が進む。
例によって、冒頭からつまらない唄や合唱を聴かされるがじっと我慢。
たまに面白いセリフがある。
例えば菊治の言う「弁護士依頼人正比例の法則」。
弁護士は依頼人の地位が高ければ高いほど弁護料も高くなる、というだけのことだが(笑)。

ナンシーとチェリーは同じクラブで歌っている。
そこは米軍に接収された帝国ホテルの一室。
二人が「持ち歌」にしている曲がなぜか同じ曲で、しかも二人とも自分の夫が作詞作曲した曲だと主張するため争いが止まない。
二人は菊治の事務所にやって来て、何とかこの問題を解決して欲しい、と手付金代わりに「本物の」洋酒2本を提供し、菊治と共に飲んで陽気に歌う。

永子は8歳の時、母・秋子と菊治が結婚したのでここに来た。

永子の幼なじみ・片岡健(前田旺志郎)は片岡組の組長の息子。
この組は朝鮮人たちの組で、対立する尾崎組が健の父を襲って傷を負わせた。
だが警察に訴えても何もしてくれないので、健は菊治の事務所に助けを求める。

<休憩>
田中正は持ち歌の出所を調べるため、ナンシーとチェリーの夫たちの入院先へ行く。
夫たちは原爆投下翌日の広島に入り、入市被爆していた。
彼らに話を聴くと、軍隊の同じ隊にいた男から、その曲を聞いたという。
彼らはその男の名前をメモしてくれた。
これで歌の本当の作詞作曲者がわかり、二人の歌手の一件は解決。
その後、作曲者は亡くなり、彼の未亡人に会いに行くと、夫の歌を、これからもぜひ歌ってほしい、と言われる。

その後、松岡洋右外相の病状が悪化し、主任弁護人一人を残して補佐弁護人たちは不要とされる。
がっくりくる夫婦。

組員らを束ねることになった片岡健が事務所に来て、日本社会への疑問を口にする。
秋子の恩師(久保酎吉)が、彼と、その場にいた人々に日韓の歴史を教える。
終戦後、日本にいた朝鮮人たちは「捨てられたってこと」。
去年の8月14日までは帝国臣民とされていたが、それは名ばかりだった。
そして翌日から日本人にさせられた。
だがそれは「昇格」ではなかった。
外国人のままだと保護せねばならないから日本人にしたに過ぎなかった。
その間のことを調べようと秋子が役所に行くと、重要書類は終戦直後、焼却されていた。
「証拠隠滅」。

勝った方が負けた方を裁くってどうなの?
永子は言う、「私たちが裁くのよ」。

GHQ の米陸軍法務大尉で日系二世のビル小笠原(土屋佑壱)が述懐する。
米国に住んでいた私たち家族は、戦争が始まると差別され、収容所に入れられた。
父は財産をすべて没収された・・・朝鮮人と同じだ。
「見捨てられた」
このような話が続く。
例によって大衆を啓蒙してやろうという作者の意図が感じられる。
だが考えてみれば不思議だ。
この人の芝居は大人気で、いつも満席状態なのに、なぜこの国の右傾化は止められないのだろう・・。
在日の人々への差別もなかなかなくならないし。

秋山菜津子とラサール石井という異色の顔合わせが面白かった。
それと、土屋佑壱が、最近こういう役にすっかり馴染んでいておかしい。
がっしりした体格と、滑舌のいい話し方と良い声の持ち主なので、似合っている。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゼレール作「La Mere 母」

2024-05-07 23:14:26 | 芝居
4月23日東京芸術劇場シアターイーストで、フロリアン・ゼレール作「母」を見た(演出:ラディスラス・ショラー)。



ゼレールの家族三部作の最後となる作品。
これまで「Le Pere 父」(2019年)と「Le Fils 息子」(2021年)を見た。
「息子」では岡本健一が父親役を、岡本圭人が息子役を、若村麻由美が母親役を演じた。
その三人の関係が、今回そのまま同じというのが面白い。
実は、この「 母」が最初に書かれたそうだ。
2010年パリで初演。今回が日本初演。

アンヌはこれまで自分のすべてを捧げて愛する子どもたちのため、夫のためにと家庭を第一に考えて生きてきた。
それはアンヌにとってかけがえのない悦びで至福の時間であった。
そして年月が過ぎ、子どもたちは成長して彼女のもとから巣立っていってしまった。
息子も娘も、そして今度は夫までも去ろうとしている。
家庭という小さな世界の中で、四方八方から逃げ惑う彼女はそこには自分ひとりしかいないことに気づく。
母は悪夢の中で幸せだった日々を思い出して心の万華鏡を回し続ける・・・(チラシより)。

夫ピエール(岡本健一)が帰宅。「少し遅くなった」
妻アンヌ(若村麻由美)は妙に明るい。「今日はどんな一日だった?」
 ずっと会社にいたよ。
 さっき会社に電話したのよ。そしたらあなたはいなかった。
 ・・じゃあ打ち合わせだ。
 そう・・。
彼女は夫が浮気していると疑っている。
そしてまた「今日はどんな一日だった?」
 さっきも同じことを聞いたよ。
こうして妻は何度もぐるぐると同じ話を繰り返す。
しまいに「・・クソビッチたちとやりまくるがいい」とつぶやく様は、もはや狂気。

だが暗転の後、同じシチュエーションが始まる。
夫が帰宅するが、その後は、前と少し違う。
妻は穏やかで、少し沈んだ様子。
夫「何か変だ」「暗いよ」

朝、緑のドレスを着たアンヌは、明るく生き生きとして、軽やかに動き回る。
飛ぶように朝食の用意をしている。
昨夜遅く、息子ニコラ(岡本圭人)が突然帰って来たのだ。
 どうして急に帰って来たんだろう。
(恋人の)エロディと喧嘩したんでしょ。
(エロディは)きっと他の男と寝たんだ・・・。
アンヌの妄想が続く。
アンヌにとって、ニコラの恋人エロディは、自分から息子を奪う悪者なのだ。

ニコラはエロディから連絡がないので、イライラして待っている。
アンヌは新しい赤いドレスを着ている。
 どう?私、いくつに見える?
 一緒にディナーに行きましょうよ。シーフードのお店でワインを飲んで。
 その後、踊りに行きましょ。
 親子だなんて思わせない。
 年下の若い男と踊ってるって・・。
沈んでいるニコルのそばで、一人はしゃぐアンヌ。
その時、エロディ(伊勢佳代)が来る。
喧嘩していたので、ニコラはどうしようかとためらう。
アンヌは二人の間に割って入り、露骨に邪魔するが、結局二人は抱き合って仲直りし、手を取り合って去る。

赤いドレスを着たままワインを飲み、居間で寝ているアンヌ。
エロディが来る。
ずっとニコラからの連絡を待っている、と言う。
彼女はニコラにメッセージを書き、そのメモを彼に渡してください、とアンヌに頼んで帰る。
アンヌは、もちろんすぐに燃やしてしまう。

ニコラはアンヌに「どうしてメッセージを渡してくれなかったの?」
 僕は出て行く。もうここにはいられない。
すがりつく母。
ニコラが出て行くと、舞台は暗くなり、アンヌはテーブルの上の鎮静剤を手に取る・・。

舞台上手の壁が動き、病院の白い壁と白いベッドが出現。
白衣の看護師たちがアンヌに白衣を着せ、ベッドに寝かせようとする。
抵抗するので鎮静剤を打って静かにさせる。

ニコラがそばの椅子に座っている。
アンヌが目を覚ます。
ニコラが手を取ると、喜ぶ。
 ここはどこ?
 あなたが連れて来たの?
 ひと瓶全部飲んだでしょう。それに鎮静剤も。
 リビングで倒れてるのを発見されたんだ。
ニコラは上着を脱ぎ、腕まくりする。
 これから何をするの?
 これからママを抱きしめる。
アンヌは歓喜。
 抱きしめてくれるの?
 そのあと、両手でママの首を絞める。
そして実行。
アンヌは死ぬ。
ニコラは母に近づき、顔を見て泣く。
そこにピエールとエロディが来る。
エロディ「終わったの?」
ピエール「ああ。あいつがやった」
エロディ「私のために」「幸せな瞬間だわ」
ニコラは二人のそばを通って立ち去る。

ベッドのそばの椅子にピエールがいる。
アンヌが気がつく。
 ここはどこ?
 私がここにいるってニコラに連絡してくれた?
 どうして来ないのかしら。
 きっと来るよ。
 日曜日に来るよ、きっと・・・。


「父」の時と同様、同じシーンが手を変え品を変え演じられるので、やはり最初は面食らう。
一体どれが事実でどれがアンヌの妄想なのか、観客は翻弄される。

ここで描かれているのは、いわゆる「空の巣症候群」と呼ばれるものだ。
だが、作者が男性のせいだろうか、女性の描き方には素直に賛同しかねる気もする。
今どきこんな女性がいるだろうか。
彼女には娘もいるが、息子にだけ異常に執着し、彼の自然な成長を喜ぶことができないでいる。
こんなことになるよりずっと前から、彼女には仕事も趣味も友人も、何か打ち込めるものも、何もなかったらしい。
そんな人がいるのだろうか?
夫との関係も、あまりに希薄。
もう少ししたら、孫が欲しいとか思う年齢だろうに、彼女には難しいようだ。

アンヌ役の若村麻由美がすごい。
声の微妙な変化。優雅な、あるいはダイナミックな動き。狂気のさま。
他の誰にこんな役ができるだろうか。
他の3人も好演。

繰り返されるシーンは似ているものの、少しずつ微妙に違う。
そのセリフと段取りを間違えないようにするだけでも大変だと思う。
そして今回、例えばこの日は、昼間「母」を上演して夜「息子」をやるという。
「息子」なんて、これ以上にシリアスな芝居なのに・・・。
どうやって切り替えるのだろう。
役者ってすごい、と改めて思った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「デカローグ Ⅳ ある父と娘に関する物語」

2024-05-05 15:56:22 | 芝居
前回の続き、新国立劇場小劇場で見た、クシシュトフ・キエシロフスキ作「デカローグ Ⅳ ある父と娘に関する物語」について。



快活で魅力的な演劇学校の生徒アンカは、父ミハウと二人暮らし。
母はアンカが生まれた時に亡くなった。
父娘は友達同士のように仲睦まじく生活していたが、ある日アンカは「死後開封のこと」と父の筆跡で書かれた封筒を見つける。
その中身を見たアンカがとった行動とは・・・。

父ミハウ(近藤芳正)が出張するので、娘アンカ(夏子)は空港まで見送りに来た。
親子はアツアツで、しばしの別れを惜しむ。
最後に父は「そうだ、電話代と部屋代を払っておいてくれ」
請求書は?
机の引き出しの中。
帰宅後、アンカは引き出しの中から大きな封筒を発見する。
父は、どうも、わざと彼女に発見させようとしたらしい。
だがアンカは目が悪いのか、よく読めない様子。

アンカは眼科医(近藤隼)のところに行き、視力検査を受ける。
医者は、彼女が20歳で〇〇大学の俳優コースに在学中と知って興味津々。
「息子の志望校だ」
どんな試験だった?
・・詩の朗読と・・・
何の詩?
T.S.エリオット。
エリオットかぁ、うちの息子にはやっぱり無理だな・・

検査表の下の方が F・A・T・H・E・R なので、アンカはファーザーと発音してみる。
じゃあ君は英語ができるの?
はい。
じゃあますますうちの息子じゃ無理だな。
でもどうしてファーザーと?
ちょっとした知能テストだよ。

アンカの部屋に恋人ヤレク(坂本慶介)が来るが、彼女はすげない。
オレ、何かした?
別に。・・・帰って。

父が帰る日、アンカは空港の寒い場所で父を待っている。
父が来ると、彼女はいきなり母の遺書を朗読し始める。
父はアンカの頬をはたく・・。

大学で、教授(近藤隼)がアンカとヤレクに演技指導中。
二人は王女とその恋人の役だが、アンカはなかなか役に入ることができない。

アンカは家で、机に向かい、何かの文字を何度も練習している。
その文字が奥のスクリーンに映し出される。

あの封筒の中には別の封筒が入っていて、そこには亡き母の筆跡で「私の死後開封のこと」「アンカへ」とかかれていた。

アンカ「どうしてもっと早く教えてくれなかったの?」
父「お前が10歳になったら言おうと思っていた」
だけどお前はまだ幼過ぎた。
15歳になったら言おうと思い直した。
でもその時は遅過ぎた。お前は大きくなり過ぎていた。
 (ここで当然ながら客席から笑いが起こる)
アンカ「今までパパは嘘をついてた!」
父「(18歳の時)、お前に初めて恋人ができた時、俺は何日も家を空けた・・」
実は、彼は娘を女として愛していて、その気持ちを吹っ切ろうとしていた。
娘もまた・・・。
アンカは19歳の時、妊娠したことがある、と爆弾宣言。
これには父もさすがに驚く。

二人は母の遺品の詰まったトランクを開ける。
実はアンカは、母の遺書を読んではいなかった。
父に見せたのは、母の字を、何度も練習して真似て書いたものだった。
実はミハウも、妻の遺書をまだ読んではいなかった。
二人はキッチンに行き、母の遺書を封筒ごと燃やす。
焼け残った紙をつまみ上げてアンカは読む。
「実はミハウは・・・」
「あとは燃えちゃった」


だがどうしてこんな中途半端なことをする?
読みたければ読めばいいし、読まないつもりなら、完全に跡形もなく燃やせばいいんじゃないか?
まあ二人の揺れる気持ちが、こんなわけのわからない行動に現れているのだろう。
母の遺書のほんの一部ではあるが、その書き方から見て、ミハウがアンカと血がつながっていないことは明白なようだ。
これから二人はどうするのか。
名づけることの難しい関係かも知れないが、彼らの間には、ある強い感情が存在することは確かだ。
そしてそれは、他の誰にも否定したり責めたりすることはできないだろう。
周囲の人々からは奇異の目で見られるだろうが、彼らはお互いなしには生きられないようだ。

親子のこれまでの歩みが少しずつ明かされてゆく過程も面白い。
だがゴミ箱の蓋のところはくどかった。
ミハウがゴミ箱にゴミを入れて閉めるが、数秒たつと、なぜか蓋が自然と開いてしまう。
それが何度も繰り返される。
何度目かで、さすがに笑いが起きたけど、でもこれって面白いのか?
しつこくてくどい。私だったらカットする箇所です。

十戒の第4戒は、「あなたの父母を敬え」。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「デカローグ Ⅱ ある選択に関する物語」

2024-05-02 21:16:02 | 芝居
4月22日新国立劇場小劇場で、クシシュトフ・キエシロフスキ作「デカローグ Ⅱ ある選択に関する物語」を見た(演出:上村聡史)。



交響楽団のバイオリニストである30代の女性ドロタと、彼女と同じアパートに住む老医師の二人。
ドロタは重い病を患って入院している夫アンジェイの余命を至急知りたいと尋ねる。
ドロタは愛人との間にできた子を妊娠していた・・・。

下手のベッドに男が寝ている。そばで女が見ている。

集合住宅の医師(益岡徹)の部屋を女(前田亜希)が訪問する。
「ドロタです。上の階に住んでいます。ご存じですか」
「ああもちろん。2年前、私の犬を轢いた」
「主人の容態を知りたいんです」
「水曜の3時から5時の間に来なさい」
「今日は月曜日、水曜まで待てません!」
医師が断ると、ドロタは「犬でなく、あんたを轢けばよかった」と捨てゼリフを残して去る。

医師の部屋に若い男(亀田佳明)が来る。
ベランダの鉢植えの世話をして、医師の話を聴く。
カウンセラーなのだろうか。
医師は昔の身の上話をする。男は終始セリフ無く、聴いている。

ドロタは病院に行き、医師と話す。
チェーンスモーカーで、タバコを吸いまくる。
彼女は米国のように「告知」をして欲しいと言う。
医師は「本に書いてあることから言えば死ぬことは確かだが、見込みのないはずの患者が助かった例を幾度も見て来た。
反対に、特に悪くなかったのに死んでいった人もたくさんいた。告知なんてできない」

ドロタはまた医師の家に行く。
またタバコ。
実は、私妊娠してるんです。
子供の父親は夫じゃなくて別の人です。
・・二人を愛することができるんですよ。
私たち、なかなか子供ができなくて。今、この子をおろしたら、年齢的に、もう子を持つことはできません。
でも夫が死ななかったら、子供を産むことはできません。
・・先生は神を信じますか。
神?・・・私は私の神を信じている。
じゃあそのあなたの神にひざまずけばいい、と言い放って女は去る。

医師の家では給湯器の具合が悪い。
そこで、会話の途中、彼は彼女に尋ねる。
お宅では風呂場のお湯は出ますか?
・・鍋で沸かしています。
彼女の部屋でもやはりお湯は出ないようだ。

ドロタは部屋に戻ると、机の上の鉢植えの葉をじっと見ていたかと思うと、全部むしり取る。
恋人ヤネク(近藤隼)が来る。
ドロタの夫アンジェイとは山岳クラブで仲間だったらしい。
「アンジェイのリュック持って来た」とリュックを置く。
もうお葬式の用意?!
持って帰って!

ヤネクから留守電。
だがドロタは出ない。

ドロタは別の若い医師(近藤隼)と面談する。
医師「順調ですよ」
ドロタ「私、堕ろさないといけないんです」
医師「・・順調なのに?」
「ええ」
明日の朝9時に、中絶手術をすると決まる。

ヤネクからの電話にようやく出る。
中絶のことを告げると、彼は驚いたらしく、しばし考えて「アンジェイが死んだら僕と別れるつもりだね」
ええ
僕は君と一緒にいたい!
だが彼女は電話を切る。

病院で、医師は病巣の変化に気づいて驚く。

ドロタはまた医師の部屋に行き、告げる。
いいお知らせです。明日の朝一番に子供を堕ろします。
やめなさい!絶対いけない!ご主人は死ぬ!
言い切れますか?
間違いない。転移していて・・

ところが、その後アンジェイは生き返った。
彼は、まだよろめきながら医師の前にやって来て言う。
妻と僕に子供が生まれるんです!二重の喜び!
・・・幕

妊婦がタバコを吸いまくる。
現代ではあり得ない光景だが、この作品が作られた1988年当時は、喫煙の害について、まだ認識されていなかったのだろう。
この医師には、かつて家族を一夜にして失ったという壮絶な過去がある。
戦争か災害、おそらく戦争でだろう。

十戒の第2戒は、カトリックでは「あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない」。
この話とどういう関連があるのかは、よくわからない。







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする