3月25日世田谷パブリックシアターで、マーティン・マクドナー作「イニシュマン島のビリー」をみた(演出:森新太郎)。
1930年代半ば。アイルランドのアラン諸島にあるイニシュマン島。辺鄙な島の中でもさらに田舎の一角に、アイリーンとケイトという二人の老女
が営む小さな商店がある。彼女らと一緒に住んでいるのは、生まれつき手足が不自由な甥のビリー(古川雄輝)。島民みなから哀れまれ、馬鹿に
されているビリーだったが、彼自身は悟りでも開いたかのような穏やかさで、読書と、時折ぼんやり牛を眺めて日々を過ごしている。
島中の噂話を新聞屋よろしく触れ回っては食料などをたかるジョニーパティーンマイク(山西惇)とアル中の母親マミー(江波杏子)。可愛い容姿
とは裏腹に口も態度もサイアクのヘレン(鈴木杏)と薄馬鹿のバートリー(柄本時生)姉弟。島の人々に振り回されるドクター・マクシャリー
(藤木孝)。ろくでもないご近所づきあいと変わらぬ毎日に誰もがうんざりしているのが島での暮らしだ。
そんな時ジョニーパティーンマイクが、近くのイニシュモア島にハリウッドから撮影隊が来るというビッグニュースを運んでくる。浮き足立つ人々。
ヘレンは島で唯一のハンサムガイ・バビーボビーに島への送迎を頼み、撮影隊に接触しようとする。話を聞いていたビリーもいつにない熱心さで
「作戦」を練り、行動を起こす。
ハリウッドと映画。島の人々にとっての夢は、ビリーの運命を大きく変えていき…。
ヘレン役の鈴木杏は、気の強い女(の子)をやらせたら天下一品。
ビリー役の古川雄輝は肉体的に大変だったと思うが、好感の持てる自然な演技。
脇を固める山西惇、江波杏子、藤木孝といったベテラン俳優たちの演技が味わい深い。
この芝居の中で、一部、日本人たる我々には受け入れ困難な箇所があった。「食べ物を粗末にしてはいけない」という伝統的な戒め・価値観・考え方
に、私達はずっと慣れ親しんできた。このため、そのシーンで客席から悲鳴が上がり、観客がサーッと引くのが分かった。おそらく日本独特の現象
だろう。面白い作品なのに、残念だ。
この島では、人はいつでもどこでも立ち聞きされている可能性があり、自分でも立ち聞きする。何せ田舎だし、閉じられた狭い社会なので、
好奇心には勝てないのだ。
登場人物の人間像がクルクル変わる。いい加減な奴だと思っていたら、実はすごくいい人だったり…。何が真実で何が嘘なのか、それを知りたい観客
は目が離せない。人々の運命もまたクルクルと変遷する。我々は見事に引き回される。だが決してチラシが言うような「ブラックコメディ」ではない
と思う。作者の眼差しは温かい。
マクドナーの魅力的な作品に、また一つ出会えた。
1930年代半ば。アイルランドのアラン諸島にあるイニシュマン島。辺鄙な島の中でもさらに田舎の一角に、アイリーンとケイトという二人の老女
が営む小さな商店がある。彼女らと一緒に住んでいるのは、生まれつき手足が不自由な甥のビリー(古川雄輝)。島民みなから哀れまれ、馬鹿に
されているビリーだったが、彼自身は悟りでも開いたかのような穏やかさで、読書と、時折ぼんやり牛を眺めて日々を過ごしている。
島中の噂話を新聞屋よろしく触れ回っては食料などをたかるジョニーパティーンマイク(山西惇)とアル中の母親マミー(江波杏子)。可愛い容姿
とは裏腹に口も態度もサイアクのヘレン(鈴木杏)と薄馬鹿のバートリー(柄本時生)姉弟。島の人々に振り回されるドクター・マクシャリー
(藤木孝)。ろくでもないご近所づきあいと変わらぬ毎日に誰もがうんざりしているのが島での暮らしだ。
そんな時ジョニーパティーンマイクが、近くのイニシュモア島にハリウッドから撮影隊が来るというビッグニュースを運んでくる。浮き足立つ人々。
ヘレンは島で唯一のハンサムガイ・バビーボビーに島への送迎を頼み、撮影隊に接触しようとする。話を聞いていたビリーもいつにない熱心さで
「作戦」を練り、行動を起こす。
ハリウッドと映画。島の人々にとっての夢は、ビリーの運命を大きく変えていき…。
ヘレン役の鈴木杏は、気の強い女(の子)をやらせたら天下一品。
ビリー役の古川雄輝は肉体的に大変だったと思うが、好感の持てる自然な演技。
脇を固める山西惇、江波杏子、藤木孝といったベテラン俳優たちの演技が味わい深い。
この芝居の中で、一部、日本人たる我々には受け入れ困難な箇所があった。「食べ物を粗末にしてはいけない」という伝統的な戒め・価値観・考え方
に、私達はずっと慣れ親しんできた。このため、そのシーンで客席から悲鳴が上がり、観客がサーッと引くのが分かった。おそらく日本独特の現象
だろう。面白い作品なのに、残念だ。
この島では、人はいつでもどこでも立ち聞きされている可能性があり、自分でも立ち聞きする。何せ田舎だし、閉じられた狭い社会なので、
好奇心には勝てないのだ。
登場人物の人間像がクルクル変わる。いい加減な奴だと思っていたら、実はすごくいい人だったり…。何が真実で何が嘘なのか、それを知りたい観客
は目が離せない。人々の運命もまたクルクルと変遷する。我々は見事に引き回される。だが決してチラシが言うような「ブラックコメディ」ではない
と思う。作者の眼差しは温かい。
マクドナーの魅力的な作品に、また一つ出会えた。