ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「尺には尺を」

2023-11-21 21:49:31 | 芝居
11月9日新国立劇場中劇場で、シェイクスピア作「尺には尺を」を見た(翻訳:小田島雄志、演出:鵜山仁)。




ヴィ―ンの公爵ヴィンセンシオは、後事をアンジェロに託し突如旅に出る。謹厳実直なアンジェロは早速、婚姻前にジュリエットと
関係を持ったクローディオに死刑の判決を下す。それを知ったクローディオの妹、修道尼見習いのイザベラは、兄の助命嘆願のため
アンジェロのもとを訪れる。兄のため懸命に命乞いをするイザベラの美しい姿に理性を失ったアンジェロは、こともあろうに
自分に体を許せば兄の命は助ける、という提案をする・・(チラシより)。

この芝居の鑑賞歴は次の通り。
①1991年・・・コンパス・シアター来日公演、パナソニック・グローブ座
②1994年・・・チーク・バイ・ジャウル来日公演、デクラン・ドネラン演出、パナソニック・グローブ座
③2014年・・・文学座、鵜山仁演出、小田島雄志訳、あうるすぽっと  (イザベラ:高橋紀恵、アンジェロ:大場泰正、公爵:石田圭祐)
④2016年・・・・・蜷川幸雄演出、松岡和子訳、彩の国さいたま芸術劇場(イザベラ:多部未華子、アンジェロ:藤木直人、公爵:辻萬長)
この他、ロンドンのテレビで英国の劇団の上演を見たこともある。
こうしてみると、マイナーな芝居だと思っていたが結構見ている。すっかり忘れていたものもある。
時々確認しないといけませんね。
①と②は、まだ字幕がなかった時代なので、展開についていくのが大変だったような記憶が・・💦

舞台は、背景に大きな赤黒い壁。これが修道院の壁となり、監獄の壁となる。
岡本健一がアンジェロ役。この役には年を取り過ぎていると思ったが、とにかくうまい。
今日では典型的なパワハラ・セクハラをする犯罪者として厳しく糾弾されるべき男だが、そんな役柄でも
時にセリフにユーモラスな味を出して観客を喜ばせてくれる。
公爵役の木下浩之の声がいい!
イザベラをソニンが演じる。昨日は美しい脇役だったが、今日は主役の一人。
これが熱演で実に見応えがある。
ルーシオ役の清原達之も声がいい。
死刑囚クローディオ(浦井健治)の衣装が変だ。青地に赤の制服みたいなパリッとした服で、かっこ良すぎる。
なぜ囚人服を着せないのか。
ついでに言えば、浦井の演技がまずい。
妹に事情を告げられた時、最初は「あのアンジェロが?!」「・・・お前にそんなことはさせられない」と言うが、思い直して、
自分の命を救うためにアンジェロの申し出を承知してくれ、と言い出すのだが、その大事なところが下手。
演出家は、こんな演技でもいいと本当に思っているのか?
このシリアスな芝居の中で息抜きとなる、ポンピーたちのコミカルなシーンが退屈。実につまらない。
ここは思い切ってカットした方がよかった。
音楽がいつもながら最悪。今さら驚かないが、いちいち芝居の邪魔!

<休憩>
イザベラがアンジェロのもとに行くと、アンジェロは真紅のガウンを脱ぎ、イザベラを押し倒す!
首切り役人が登場するシーンで、彼が何かしゃべるたびに舞台全体に赤い血のような照明が当たるのが変だ。
ルーシオの衣装も変だ。道化みたいなつぎはぎ服で、わかり易くはあるが。
公爵は土色の僧服の下に真紅のガウンを着ていて、頭巾を取られると全身を現す。

現代人にはラストが退屈。早く水戸黄門の印籠を出せばいいのに、と思ってしまう。
解放された兄クローディオと抱き合おうとするイザベラを、クローディオが拒絶する演出もあるが、今回は、しっかり抱き合っていた。
ラスト、唐突にイザベラに求婚した公爵は、彼女が返事をしないのに、その手を取って舞台奥に歩いて行く!
イザベラは落ち着かず、右を見たり左を見たり、周囲の人々を振り返り振り返りついてゆく。
ここは原作に何も書いてないので、いろんな演出があって面白い。
たいてい、イザベラが当惑して公爵に返事をしない形が多い。
2016年の多部未華子のイザベラは、微笑んで公爵の手を取ったが、こういう演出は珍しい。

昨日は面白かったが、今日の演出はどうか・・。
衣裳が前田文子とあって驚いた。この人の衣装には、いつも良い印象しかなかったのだが・・・。
今日はどうしたことでしょう、残念です。
イザベラ役のソニンは、演技はもちろんだが声が美しい。
いろいろ不満の多い日だったが、彼女のイザベラを堪能できてよかった。


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「終わりよければすべてよし」

2023-11-16 22:32:38 | 芝居
11月8日新国立劇場中劇場で、シェイクスピア作「終わりよければすべてよし」を見た(演出:鵜山仁)。




伯爵夫人の息子バートラムはフランス王に召しだされ、故郷を後に、パリへと向かった。もう一人、伯爵夫人には侍女として
育てていたヘレナという娘がいて、彼女は密かに身分違いのバートラムのことを慕っていた。その想いを知った伯爵夫人は、ヘレナにバートラムを追ってパリへ
向かうことを許す。パリに到着したヘレナは王に謁見し、医師であった亡き父から託された薬で王の病を見事に治す。
王はヘレナに望みのものを褒美として与える約束をするが・・・(チラシより)。

この秋最大のイベント。
「新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズのチームが堂々再集結」というわけで、懐かしい人々にまた会えた。
これと「尺には尺を」を組み合わせての交互上演というが、後者は傑作だけど、それと一緒にどうしてこんなつまらない芝居を、と思ったが、
今回読み直してみたら、意外と面白かった。
冗長なところも多いが、面白いセリフや会話も多い。
マイナーな戯曲だが、演出の力と役者たちの力で、とても楽しいひと時だった。

ネタバレあります注意!
舞台前面に池が作ってある。
冒頭、ルシヨン伯爵夫人(那須佐代子)の屋敷。小田島訳ではロシリオン伯爵夫人だが、なぜか今回、ルシヨンになっている。
皆、喪服。
養女ヘレナ(中嶋朋子)は一人になると、夫人の息子バートラムへの苦しい片思いを吐露する。
ここはまるでオペラのアリアのようだ。
さすが中嶋朋子、早くも彼女の独壇場といった感じで、観客の同情を一身に集めてしまった(と筆者は感じた)。
場面が変わって彼女が王の前に出る時、白いドレス姿になっていて美しい。
あちこち冗長な部分がカットされて、分かりやすく軽快になった。
バートラム役の浦井健治は、いつもながら颯爽としているが、声が高くて残念。滑舌もイマイチ。横を向いてしゃべるともう聞こえない。
フランス王役の岡本健一が最高。
最初は、この人がこんな年寄りの役を、と思ったが、病気が治ってからは元気一杯で、楽しそうに演じている。
ヘレナは王の王笏を取って振り回す!お人払いをしているので、こんなことができるのだ。

ヘレナはどんな医者も治せなかった王の病気を見事に治し、褒美に欲しいものを尋ねられ、バートラムとの結婚を願い出る。
ところが、当のバートラムがこれを聞いて嫌がり抵抗するので、王はメンツをつぶされ、怒る。
ヘレナは「もう結構でございます」と願いを引っ込めようとするが、王は「いや、わしの威信がかかっておるのじゃ」と言ってバートラムを池に蹴り落とす!
これには参った(笑)。(こんなこと、原文には書いてありません)
このために舞台にわざわざ池を造ったのかと思うと、実におかしい。
このあたりのセリフも、基本は小田島訳だが、よりわかり易い言い方に変えてある。
ずぶ濡れになったバートラムはついに諦め、ヘレナと強制的に結婚させられる。
だが彼は、彼女と初夜を過ごすつもりはなく、すぐにフローレンスでの戦いに参加することに決める。
要するに、好きでもない新妻から逃亡しようというわけだ。
ヘレナと別れる時、彼女が遠回しにキスをして欲しいとほのめかすと、(原作には何も書いてないが)バートラムは彼女に軽くキスする!!
当然、ヘレナは大喜び。声も上ずり、ウキウキ。実に可愛らしい。

<休憩>
フローレンスで戦功をあげたバートラムは、ダイアナという乙女に惚れ、いろいろ贈り物をして言い寄るが、彼女はいっこうになびこうとしない。
巡礼の旅に出たヘレナは、偶然ダイアナと出会い、そのことを知って、策を講じる。
ダイアナ役のソニンがうまい!バートラムとの絡みが実に色っぽいし、若々しく初々しい。18歳くらいに見える。
ダイアナがバートラムの指輪をもらうシーンがよくできている。抱きしめられた時、自然に指輪に目をとめた形。

この芝居の副筋に、ぺーローレスという噓つきで卑怯な男が罠にはめられてひどい目に合わされるというのがある。
このぺーローレス役の亀田佳明がうまい。
始めはやはり、この人がこんな役を、と可哀想に思ったが、違った。
この男は嘘つきでバカで臆病者だが、こんな役を下手な人がやったら全然面白くないだろう。
彼くらいうまい人が演じてこそ、芝居全体が引き締まるのだ。
かつて「シンベリン」で勝村政信さんが、クロートンというおバカな王子を演じて客席を沸かせたことを思い出した(2012年、蜷川幸雄演出)。
この人だけ全身黄色の奇抜な衣装で、道化じゃないのにちょっと変だが、分かり易いことは確か。
常に小さな太鼓を提げていて、時々叩く。

道化が面白くない。可笑しい箇所がたくさんあるのに、それを生かし切れてない。
ラスト、バートラムはついに自分のしたことを認め、ヘレナに赦しを乞い、彼女を妻として受け入れるのだが、
その肝心な、気持ちの大変化を、もっとうまく表現してほしかった。
今回、バートラムと道化を別の人にすれば、もっと面白くなったと思う。

高校生の団体がすぐ後ろの席にいて「あちゃー」と思ったが、静かで助かった。
ただ「池に人が落ちた音で目が覚めたから、筋がよくわからなかった」とか「あの二人は兄妹でしょ?なんで・・・?」とか話すのが聞こえた。
せっかくの観劇なのにもったいない。より楽しむために、事前にあらすじくらい教えてあげたらいいのに、と思った。

この話は、ベッド・トリック、女性を死んだことにする、指輪が重要証拠となる、など他の作品と共通する点が多くて興味深い。

意志の強い女性が主人公で、一途な思いを成就させるという珍しい喜劇だが、実はシェイクスピアの戯曲で
強い女性がリードしてストーリーをぐんぐん引っ張ってゆくというのは決して珍しくはない。
「ロミオ」だって「ヴェニスの商人」だって「お気に召すまま」だって「冬物語」だって実はそうなのです。

さて、この翌日「尺には尺を」を見たのですが、それについては次回書きます。
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「検察側の証人」

2023-11-08 23:57:49 | 芝居
10月26日俳優座劇場で、アガサ・クリスティー作「検察側の証人」を見た(演出:高橋正徳)。





マレーネ・ディートリヒ主演の映画「情婦」の原作であるクリスティ作の戯曲。

真実と嘘、その間にあるものは一体何か・・・
アガサ・クリスティ、法廷サスペンスの金字塔
驚愕の展開と結末からはだれも目が離せない・・・
俳優座劇場プロデュースの原点
1983年から7年間、日本全国で上演された名作が
34年の時を超えて今、蘇る!
story
エミリー・フレンチという金持ちの老嬢が自宅の居間で殺された。容疑者として逮捕されたのは、彼女と親しくしていた
レナード・ヴォール(采澤靖起)という青年だった。彼の弁護を依頼されたサー・ウィルフレッド・ロバーツ(金子由之)は、
弁護士仲間のミスター・メイヒュー(原康義)と共に調査を開始する。レナードの証言に疑わしいところはないのだが、
状況証拠は必ずしも彼にとって有利なものではなかった。しかしサー・ロバーツもメイヒューも、レナードの無罪を確信している。
弁護側の切り札は、レナードの妻ローマイン(永宝千晶)のアリバイ証言だった。
だが、検察側の証人として登場した彼女は、あろうことか夫の犯行を裏付ける証言をする。
一方的にレナード不利な状況の中、事態は急転直下、思わぬ方向に動き始めるのだった・・・(チラシより)。

1幕1場
弁護士事務所。女性事務員の声がいい。
レナードが相談に来る。彼は若く、気の優しい青年だが、頭があまりよくないし、仕事がなかなか続かず、最近は無職だと言う。
ドイツで出会った女性ローマインを連れて英国に帰り、結婚した。
数か月前に偶然、被害者の50代の女性と出会って親しくなった。
数日前の夜、その女性が殺され、警察が来ていろいろ質問された、その後、帰宅して
妻にそのことを話したら、妻はひどく心配して、彼が疑われているんじゃないか、と言う。
まさか、と思ったが、弁護士に相談することにした、と言う。
彼は純朴でお人好しで、どう見ても自分に親切にしてくれているシニア女性を殺すなんて考えられない。
その時、警察官たちがやって来て、彼を容疑者として連れ去る。
だが弁護士2人も事務員も、彼の無実を信じ、何とかして彼を救いたいと考える。
彼は、3人の心をつかんだのだ。

彼と入れ違いに、彼の妻が来て、一種奇妙な対応を見せるので、弁護士2人は困惑する。
彼は、自分の妻のことを、素晴らしい女性なんです、と褒め、自分と妻とは深く愛し合っている、と言っていたのに、
彼女の方は、彼のことを話す時、何やら冷たく突き放した言い方をするのだ。
しかも、自分は彼の妻ですらない、と言い出す!実は、ドイツで彼と出会った時、彼女の夫はまだ生きていた、という。

法廷の場。舞台が非常によくできている。
検事役の声がいい。
家政婦ジャネット・マッケンジー(井口恭子)は、被害者の女性から遺産をほとんどもらうはずだったのに、彼が現れて女性のお気に入りになり、
遺言書を書き換えられてすべて取られたこともあり、彼を憎んでいるようだ。
彼女は彼が結婚していると聞いて驚く。被害者が彼との結婚を考えていると思っていた、と言う。
当夜の状況について、彼女の補聴器について、サー・ロバーツは、あの手この手で熱弁をふるって戦う。
次に、ローマインが、なぜか検察側の証人として登場する。
しかも呼び上げられた姓がヴォールではない別の姓だった!
<2幕>
ローマインは警察で話したことと違うことを言い出す。
彼が帰宅したのは夜9時半でなく10時10分だった、袖に血がついていて「洗え」と言われた、「あの女を殺してきた」と言った、と。
警察で言ったことは、彼に「そう言え」と脅されたからと。
彼は驚き叫ぶ、「ローマイン、どうしてそんなことを言うんだ!?気でも狂ったのか!?」「全部嘘だ!」

弁護士二人が事務所に戻り、頭を抱えていると、電話がある。
下品な女の声で、大事なものを渡したい、と場所を指定して、そこに来るように言う。
二人がそこに行くと、浮浪者が数人いて、ボロをまとった女が来る。
重要な証拠となる手紙の束を持っている、と言う。
サー・ロバーツが20ポンド渡して読むと、驚くべき内容だった。
彼は彼女の身の上を聞いて同情し、さらに5ポンド渡す。

新たな証拠を入手したため、弁護団が開廷を要求。ローマインを再度呼ぶ。
例の手紙の宛先であるマックスという男について尋問し、手紙を読み上げる弁護士。
マックスは英国にいて、何らかの政治工作に携わっているらしい。
「彼が死刑になったら、やっと自由になれる、二人で・・」
この手紙を自分が書いたことを、ついにローマインは自白させられる。
これには検事も茫然自失。
陪審員の評決は無罪。
閉廷後、彼と弁護士は喜び合う。そこにローマインが来る。
弁護士が彼を守ろうと立ちふさがると、ローマイン「彼を救ったのは私よ」と言いながらサー・ロバーツに近づき・・・
彼は驚いて「ど、どうして・・そんなことまでしなくても勝てたのに?」
彼女「そうかしら、イギリス人はドイツ人の言うことを信じてはくれない・・・
だが、衝撃はこれだけではなかった。
この後に、さらに驚くべきことが待ち受けているのだった・・・

だまされるって快感なのか??
人間はだまされることが好きなのだろうか?
自分でも不思議でしょうがない。
昔、映画「情婦」を見たことがあり、この「妻」が露悪的だが、実は夫を深く愛していた、というところだけは覚えていた。
その他の細かい(けれど重要な)ところをすっかり忘れていたので、この日、完全にだまされてしまった。
だが、それがよかった。
最後のどんでん返しに、ええっ?!というほど驚き、そして、それが非常な快感だった。
忘れていて本当に良かった。
役者も皆さん好演だったし。

ただ演出については、1点だけ不満がある。
ここで「妻」は、終始、仏頂面で、周りの人や観客の反感を買う。
それは彼女自身の計略だった。
だが、裁判で「夫」が無事に無罪を勝ち取った後、再び登場する時は、喜びに輝いているはずだ。
しかも、その勝利は弁護士の力によるものではなく、他ならぬ自分の力で勝ち取ったものなのだ。
自分が愛する人の命を救ったという喜びに溢れているのだから、満面の笑みを浮かべていて欲しい。
芝居としても、ここが唯一、彼女の笑顔を見られる場面なのだから。
しかも、あっと言う間に彼女の喜びはかき消されてしまう。
本当に束の間の幸せだった。
だからこそ、輝くような笑顔がここでどうしても必要なのです。

レナード役の采澤靖起が、期待通りの好演。
今回は、この人がいるからこそ上演できたと思う。
ベテラン金子由之と井口恭子の安定した演技で、芝居がビシッと引き締まった。
声のいい役者が多いのも嬉しい。
今回のキャスティングは非常に良かった。

シリアスな話なのに、所々にユーモアを散りばめ、笑わせてもくれる。
そして何より、戯曲の求心力と、見る者に息もつかせぬ迫力。
ミステリー作家クリスティは、劇作家としてもすごいことがわかった。

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