ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「近松心中物語」

2018-02-17 22:55:13 | 芝居
1月12日新国立劇場中劇場で、「近松心中物語」を見た(作:秋元松代、演出:いのうえひでのり)。

忠兵衛と遊女梅川の話に、与兵衛と妻お亀の話が絡み、交互に進展する。
誠実で生真面目な忠兵衛は、ひょんなことから遊女梅川と出会い、互いに一目惚れし、逢瀬を重ねる。だが彼女に身請け話が起こり、何とか手付け
50両を工面して払うが、相手の金持ちが更に300両払うと聞き、頭に血が上り、つい商売上の預かり金の封を切ってしまう。ちょうど同じ額の
金が入っていたのだ。梅川は、お上に追われる身となった忠兵衛と共に逃げるが・・・。
一方与兵衛は、妻がある身で女郎屋に入り浸り、姑に説教され、連れ戻される。妻お亀にさんざん恨みつらみを言われ、責められる。
忠兵衛がやって来て、50両貸してほしいと言う。彼は同郷の友人で、その金を梅川の身請けの手付けにするつもりだった。彼は快く承諾し、店の
たんすの引き出しを開けようとするが、鍵がかかっていて開かないので鍵を無理に壊して開け、金を貸す。彼は、もう家に戻れないと覚悟し、お亀に
別れを告げるが、彼女はどこまでもあなたについて行くと言って親を捨て、密かに家を抜け出すのだった・・・。

与兵衛の妻お亀役の小池栄子が出色。実にうまい。大いに笑わされた。
与兵衛の姑役の銀粉蝶も素晴らしい。
この他、忠兵衛の母役の立石凉子ら、脇を固めるベテランの俳優陣がいい。
市川猿弥は憎まれ役をきっちり好演。
主演の宮沢りえ、堤真一は絵になるカップル。特に梅川役の宮沢りえは凄絶な美しさ。

全編を通じて耳に入ってくる大阪弁の美しさ、柔らかさが印象的。

音楽はロマンチックで胸に迫って来る。

劇作品としての出来は、必ずしも最高傑作というわけではないようだ。
主役の二人(梅川と忠兵衛)が惹かれ合う過程をもっと描写してくれたら感情移入し易かろうに(例えば映画「マディソン郡の橋」みたいに)。
いくら一目惚れとは言え、それだけでは後半、死に向かう過程をどれほど美しく描いても、なかなか難しい。   
それと、ラストがくどい。美しく心中する梅川忠兵衛と対照的に、心中に失敗し、なかなか死ねない与兵衛の描写が長過ぎていけない。




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「黒蜥蜴」

2018-02-06 10:45:16 | 芝居
1月9日日生劇場で、三島由紀夫作「黒蜥蜴」を見た(原作:江戸川乱歩、演出:デヴィッド・ルヴォー)。

宝石商・岩瀬は娘・早苗を誘拐するという脅迫状に脅え、私立探偵・明智小五郎を雇う。大阪のホテルに身を潜める父娘の隣室には、岩瀬の
店の上客である緑川夫人が宿泊していたが、実は彼女こそ、誘拐予告をした張本人の女賊・黒蜥蜴だった。黒蜥蜴は部下の美しい青年・雨宮
を早苗に紹介すると見せかけ、彼女を奪い去り、そうとは知らず犯人を警戒し続ける明智の前に、何食わぬ顔で現れる。
クールでいながら犯罪へのロマンティックな憧れを隠さない明智に魅入られた緑川=黒蜥蜴は言う。「要するにあなたは報いられない恋を
してらっしゃる。犯罪に対する恋を」。明智はすかさず切り返す。「でも自惚れかも知れないが、僕はこう思うこともありますよ。僕は
犯罪から恋されているんだと」。自信に満ちたその態度を裏打ちするかのように、明智は見事に早苗を奪還してみせる。
が、黒蜥蜴は怯まない。
美の狩人・黒蜥蜴VS.名探偵・明智小五郎の勝負は、報われない結末に向かってさらにヒートアップしてゆく・・・。

その初日を見た。
この作品はこれまで2回見たことあり。その前にテレビで見たこともあった。主演は三輪明宏、そして麻実れいだったか。
原作は江戸川乱歩。それを三島由紀夫がよくできた芝居に仕立てた。
ただ、最後のソファのくだりはいろんな意味であまりいただけない。
突っ込みを入れる余地が大いにあるが、やめておこう。ここを認めないと、この感動的な芝居は成立しなくなるので。

「~したの」の代わりに「~したんだわ」というなど、古い東京弁が多用され、いささか耳に引っかかる。

緑川夫人(実は女賊、黒蜥蜴)役の中谷美紀は声が素晴らしい。「猟銃」で演技のうまさは知っていたが、第一声を聴いた時、評者は思わず
オシッ!と心の中で叫んだほど。それはまさに緑川夫人の声だった。セリフ回しも演技も申し分ない。

名探偵・明智小五郎役の井上芳雄は受身の役だが、なかなかカッコいい名探偵ぶり。少々若過ぎるが、中谷美紀の情熱をしっかり受け止める。

雨宮潤一役の成河は適役。
家政婦ひな役を朝海ひかるがやるというのには驚いた。今まで若きヒロインを演じるところばかり見てきたので。
だが、この役は重要かつ結構面白いし、もちろん達者に演じていた。

「私が死ぬのは捕まったからじゃないの。私の本心を聞かれてしまったからなの」
人を人とも思わぬ恐ろしい犯罪を重ねてきた女が、生まれて初めて人を愛してしまった。彼女は自分が自分でなくなることへの恐れに錯乱し、
どうしていいか分からない。そして探偵もまた、そんな彼女に強く惹かれているのだった。切ない・・・。

そんな切ない気分をますますかきたてる生演奏。いささか通俗的だが、要所要所に適切に使われ効果的。悪くない。
ただ、時々肝心のセリフが聞こえない。三島の芝居は華麗なセリフがキモなのだから、そこは気をつけてほしい。

緑川夫人はシーンごとに服を変え、それが皆、その場にふさわしく、しかも非常に美しい(衣装:前田文子)。
今回の衣装は決定版ではなかろうか。

今まで見た中で、一番ロマンチックで官能的な演出だった。忘れがたい。
ただ、残念ながら芝居の流れが悪い所があり、役者がセリフを忘れたのかとハラハラさせられる場面もあった。


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