ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「トスカ」

2018-08-15 16:21:35 | オペラ
7月4日新国立劇場オペラパレスで、プッチーニ作曲のオペラ「トスカ」を見た(演出:マダウ=ディアツ、指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ、
オケ:東フィル、イタリア語上演)。

1800年6月、オーストリア支配下のローマ。共和派の画家カヴァラドッシは、脱獄した友人をかくまった罪で捕らえられる。
彼の愛人である歌姫トスカをわがものにしようと狙う警視総監スカルピアは、トスカの面前でカヴァラドッシを拷問し、彼の命を救う代償に
その体を要求。トスカは取引に応じ、カヴァラドッシを形だけの死刑とする約束を取り付け、出国許可証を手にするが、偶然手にしたナイフで
スカルピアを刺し殺す。明け方、見せかけのはずの銃殺刑が行われるが・・・。

20年来見たかったが事情により見られなかったオペラをやっと見ることができた。

ヒロインは自他共に認める嫉妬深い女性。おまけにおしゃべりで口が軽い。
そのため彼女の愛人は、脱獄した政治犯である友人のことを彼女に打ち明けるのをためらってしまう。
オペラの主役が、そういう、何と言うかネガティブな個性を与えられているのは珍しい。

主役のカップルは結婚こそしていないが、すでに女性の別荘を愛の巣にしている仲。
それゆえこのオペラでは、二人の出会いや、二人が恋に落ちるさまを見て楽しむことができない。
シェイクスピアの芝居で強いてたとえるなら、「アントニーとクレオパトラ」みたいな大人の恋の話なのだった。

最初のアリアが終わると盛大な拍手が。
あー、やっぱり、とがっかりしていたら、この夜はそれどころではなかった。
幕間ごとにカーテンコールがあり、歌手たちが出て来て、その都度拍手を浴びる。
まだ話の途中なのに、敵同士で互いに殺したいほど憎み合っているはずの男二人も仲良く手を取り合ってにこやかに出て来る。
そんなところ見たくないと思う評者のようなのは、どうやら少数派らしい。

ただ、ラスト近くで牢獄のカヴァラドッシが歌うアリア「星は光りぬ」の後は、さすがに拍手できないよう次の音楽が即始まるように
できていて助かった。この曲が白眉。プッチーニらしい甘美なメロディが聴けた。こんなところで拍手されたらたまらない。

スカルピアは「ヤーゴはハンカチで嫉妬をかき立てた」と言って「自分も」と別の女性の扇をトスカに見せて、カヴァラドッシの浮気を
疑わせようとする。ヤーゴって何?虫かしら?(いやそれはヤゴだし)と思ったら、「オセロー」の悪役イアーゴーのことらしい。
なぜここで唐突にイアーゴーに言及する?その後も「もう毒が回ってきた」とかイアーゴーのセリフを口にするスカルピア。
どうもこの男(と言うか原作者)はシェイクスピア好きらしい。

スカルピア役クラウディオ・スグーラは、声も演技もいい上に、背も高く押し出しがよく、権力をかさに着てやりたい放題やる悪役を
見事に造形していた。悪役がうまいことが、この種のオペラでも芝居でも重要なのだ。

カヴァラドッシは拷問から解放された後、トスカが友人の隠れている場所をスカルピアに白状したことを知り、怒る。
だが彼のことを心配するあまりの行動なのだから、もっとやさしくしてもいいのでは?



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「フリー・コミティッド」

2018-08-04 16:30:36 | 芝居
7月3日青山クロスシアターで、ベッキー・モード作「フリー・コミティッド」を見た(翻訳:常田景子、演出:千葉哲也)。

成河(ソンハ)の一人芝居。
チラシを見たわけでなく、新聞記事を読んであわててチケットを入手して駆けつけた。

マンハッタンの大人気レストランで予約の受付係をするサム(成河)は売れない役者。仕事をしながらオーディションの結果を待つ身だ。
舞台は有名レストランの階下にある殺風景な事務所。そこには予約専用の電話が2台、上階のレストランに通じる1台、キッチンに通じる1台、
シェフに通じる1台、と計5台の電話があり、始終鳴り続ける。それらをさばきつつ、たまに静かになると、自分の携帯からオーディションの
件について問い合わせる。
VIPの予約漏れ、英語の分からない日本人客、グルメ雑誌の記者とカメラマンによる取材、ダブルブッキング、果ては女性客のトイレでの失敗
の後始末・・・と次々に困難が降りかかり、目まぐるしく振り回されるサム。しかもコックや上司は勝手な命令ばかりしてくる。
あまりに惨めな自分に泣き出しそうになる彼だが、そんな彼に思わぬ幸運が訪れる。

英語のタイトルの意味は、「満席です」いや「いっぱいいっぱいなんです(汗)」か。
ラスト近くで上司との関係が、思いがけず劇的に変化するのがおかしい。
父親と兄との電話から、彼の家族の状況が次第に見えて来るのもうまい。

1999年にブロードウェイの小劇場で初演された人気作品の由。
まことに後味のいい、心温まる、よくできた芝居だ。
ベッキー・モードという新しい劇作家の登場を歓迎したい。

音楽は、ショスタコーヴィチの5番を、面白く使っている。

成河と言えば、ある時は森の妖精、ある時は米国人でIRAの兵士、そしてまたある時はホテルの奇妙な従業員、と実に多彩(多才)な人。
そしてこれまで一度も期待を裏切られたことがない。
今回も、38人もの人物を様々な声音で描き分けて見せてくれた。歌もうまい。
女性の声も魅力的。これなら今後、女役もやれると思う。
イケメンを演じる時、本当に美しかった。これぞ芸の力。




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