ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「皇帝ティートの慈悲」

2024-12-20 22:14:09 | オペラ
11月29日北とぴあ さくらホールで、モーツァルト作曲のオペラ「皇帝ティートの慈悲」を見た(演出:大山大輔、指揮:寺神戸亮、オケ:レ・ボレアード)。




舞台は紀元1世紀のローマ。先々代ローマ皇帝の娘ヴィテッリアは、現皇帝ティートを憎みつつも妃の座を狙っています。しかしティートが
ユダヤの王女を妃に迎えると知り、自分のことを愛しているセスト(皇帝の忠臣)をそそのかし、ティートの暗殺を企てます。
この結婚は結局中止となるも、ティートがセストの妹セルヴィリアとの結婚を発表したため、ティート暗殺計画が再燃します。
ところが、兄の友人アンニオを愛していることをセルヴィリアが伝えると、ティートは快くこの結婚を取りやめにし、今度は
ヴィテッリアを妃とすると発表。しかし、その事情を知らないヴィテッリアはセストに暗殺を決行させてしまいます。
はたして皇帝ティートは無事なのか?悪女ヴィテッリアはどうなってしまうのか?(チラシより)

モーツアルト最晩年の傑作。
「魔笛」の作曲を中断して約18日間で一気に書き上げたという。
セミ・ステージ形式。イタリア語上演・日本語字幕付き。

いつものようにオケピットがなく、舞台中央にオケがいて、その前の横長の空間で歌手たちが歌い、演技する。
オケの奥にも細長い空間があり、階段と小高い台があって、時にはそこへも人々が移動して歌う。
今回の演出の大山大輔は、近衛隊長ブブリオ役も兼ねる。
主役セストと友人アンニオは、同じような黒服に白いマントをひるがえすが、セストが愛するヴィテッリアにそそのかされて
皇帝ティート殺害を決意するあたりから、その白いマントを取って黒服姿になる。わかり易い。
セストが宮殿に火をつけたらしく、舞台奥が赤くなり、炎がメラメラと上がる映像が広がり、ついには舞台全体が赤一色に染まる。
<休憩>
皇帝ティート暗殺は、幸い、失敗したらしい。
ティートが親友セストの裏切りを信じられず、人払いをして「二人きりだから本心を打ち明けてくれ、秘密があるのなら教えてくれ」
とまでセストに語りかけるのが感動的。
だがセストはヴィテッリアにそそのかされたことは決して言わない。
それ以外、彼に秘密はないのだから、皇帝に言えることは何もない。
ティートの優しさに応えられず苦しむ彼は、「早く殺してください」としか言えない。
そんな彼に、さすがのティートも心を固くし、諦めて去らせる。
だが「運命の神は私の心を(今までの寛大さを)変えさせようとするのか。いや、私は変わらないぞ」と
運命に逆らおうとし、一旦サインした処刑の命令書を破り捨てる。
セストの恋人と友人が、ティートに、セストの減刑を願い出るが、ティートは土壇場まで死刑と皆に思わせておく。
すると友人が「そんなすがすがしいお顔でセストを処刑なさるのですか」と言うのが可笑しい。そりゃそうだ。

ヴィテッリアが初めて白いドレス姿で現れる。
彼女はセストが自分のことを告白したかどうか心配している。
プブリオに尋ねると、「ティートと二人きりで話していたので、私も知りません」と答えてすぐに去る。
そのため彼女は思う、「私のことも自白したのね。プブリオも知っている。私から逃げるように去って行った様子から分かる」
彼女はやましいからそう思ったのだ。この辺り、現代的。
セストの恋人と友人が来て「皇妃様、セストの減刑をお願いして下さい」と頼むので、「私はまだ皇妃ではありません」と答える。
すると二人は「ティートが今日のうちに妃にするので準備するように、と命じられた。あなたの願いは聞かれるでしょう」と言う。
ヴィテッリアはハッとなる。
「セストは私のことを言ってないのね。何という愛・・・」
ここから彼女のまったく新しい苦しみが始まる。
「彼は一人で罪を抱えて死んでゆく。私の方が罪は重いのに・・」
「行って罪を告白しよう。・・みんな私をどう思うでしょう・・」
長い長いアリア。

照明が舞台を黄金色に染め、ティートによる裁きの場。
「楽しい催しの前に、罪人を連れて来い」
と、その時突然、ヴィテッリアが「首謀者を連れて参ります」と言い出す。
ティート「誰だ?!」
ヴィテッリア「私です」
驚いたティートが「誰を信じたらいいのか」「なぜそんなことを?」
ヴィテッリア「私は妃になれるかと思っていたのに、陛下が何度も私の気持ちをないがしろにされたからです」
ティート「セストを解放せよ」・・・
こうしてセストの冤罪も晴れ、セストの真心がヴィテッリアに伝わり、彼女は彼の愛に応えることになる。めでたしめでたし。

結局この皇帝は、3人の女性(ユダヤの王女、セルヴィリア、ヴィテッリア)と次々と結婚しようとしては断念することになる。
ラストも一人のままで、何とも気の毒な人だ。
歌手は皆うまい。特に、複雑なヒロインを演じたロベルタ・マメリが素晴らしい。
セストと男の友人をメゾソプラノの女性たちが歌い、演じるのが不思議だったが、当時はカストラート全盛期で、美声と言えば高い声とされていたからだそうだ。
ラストの皆の合唱も素晴らしい。
現代人には少々長過ぎるのが難点だが、美しい音楽を堪能できたし、意外とドラマチックな内容で、充実した作品だった。
プログラムに掲載の、寺神戸亮の「指揮ノート」と大山大輔の「演出ノート」が非常にわかり易く、また文章もうまくて大いに役立った。

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オペラ「ウイリアム・テル」

2024-12-13 00:30:11 | オペラ
11月28日新国立劇場オペラパレスで、ロッシーニ作曲のオペラ「ウィリアム・テル」を見た(演出・美術・衣裳:ヤニス・コッコス、指揮:大野和士、オケ:東フィル)。



フランス語上演、日本語及び英語字幕付き。
原語での舞台上演は本邦初の由。

オーストリア公国の圧政を嘆くスイスの山村。長老メルクタールの息子アルノルドはハプスブルク家の皇女マティルドへの恋に
悩んでいた。村一番の弓の名手ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)はアルノルドに圧政に抵抗するよう諭す。
総督ジェスレルに反抗した村人を匿ったメルクタールは殺され、マティルドはアルノルドと永遠の別れを交わす。
自分に従おうとしないテルと息子ジェミを捕らえたジェスレルは、息子の頭に載せたりんごを射ることができれば命を助けると告げる。
テルとジェミたちの運命、そしてアルノルドとマティルドの愛の行方は(チラシより)。

序曲冒頭のチェロのソロが甘美で期待が高まる。
このオペラは序曲が長く、途中、運動会でお馴染みの、あの軽快な曲も流れて楽しい。思わず走り出したくなる(笑)
序曲が終わり、拍手とブラボーが起こると、指揮者はオケの団員たちを立たせた。初めて見る光景。
聴きごたえのある序曲の場合、こういうことをするそうだ。

幕が上がると、舞台上空からでかい矢の形をしたものがいくつもゆっくり降りて来て、人々が逃げ惑う。圧制の象徴。
村では3組の結婚式が挙げられようとしている。
弓の競技とか、逃げて来た老羊飼いをテルが「小舟に乗せて助ける」とかのシーンは、舞台の端の方で起こるのではっきりわからない。
<休憩1>
真紅のコート姿のマティルド(オルガ・ペレチャッコ)が現れ、アルノルドを思って歌う。
これが超絶技巧で、しかもこの人がうまい。
聞き取れたフランス語:la nuit (夜)、ton pere (お前の父)
日本語字幕が間違っていた。
敵のことを呪っていて「大地が彼らの墓となるように」とすべきところを「墓を拒むように」となっていた。
<休憩2>
3幕冒頭の音楽は、明るく軽快に始まるが、すぐに重く暗い曲調に変わり、マティルドとアルノルド登場。
二人は所詮結ばれない運命なのか。
聞き取れたフランス語:l'espoir (希望)
ダンサーたちが現れ、長いダンスシーンが続く。
彼らは結婚する3組のカップルだが、新郎たちは拉致され、新婦たちは男たちによって引き戻され、もてあそばれる。
明らかに圧制者側の、スイスの村の女たちに対する凌辱を表すもので、見ていて辛く苦しかった。
男性はこういうシーンを見ても平気なのだろうか。
言いたいことは分かるが、こういうシーンはほんのちょっとにしてほしい。
圧制者側の衣装はナチスを思わせる黒と赤の色。
総督ジェスレル(妻屋秀和)は皇帝の権力を象徴するトロフィーに頭を下げるよう民衆に命ずるが、一人テル(ゲジム・ミシュケタ)だけが無視する。
彼が弓の名手と知ったジェスレルは、息子の頭にりんごを載せて、それを射るよう命じる。
テルは、そんなことできるものか、と断ろうとするが、息子ジェミ(安井陽子)は父親の腕前を信じており、父を励ます。
そこでテルは神に祈り、「動いてはいけない」と歌って矢を放ち、見事りんごを射抜く。
(どうやるのかと思ったら、さすがに矢は刺さらず、りんごがうまい具合に砕け散る。)
二人は抱き合うが、テルが2本目の矢を隠し持っていたことが見つかり、二人は逮捕される。
そこにマティルドが割って入り、ジェミだけを何とか救い出す。
<暗転>
テルの妻エドヴィージュは、テルと息子ジェミが捕らえられたと聞いて嘆き悲しむ。
女たちが彼女を慰めていると、そこにマティルドがジェミを連れて来る。
母は喜びの声を上げる。
C'est lui.(あの子だわ!)
背後のスクリーンに海の波が現れ、舞台全体が海のようになる。面白い。
船で護送されてきたテルは、船が岸に近づくと岩場に飛び移る。
ジェスレルの姿が見えると、言う。
C'est lui. (あいつだ!)・・・さっきと同じ文章でも日本語にすると全然違うニュアンスが表現できる。実に面白い。
テルはジェミが手渡した弓矢を取り、ジェスレルに矢を放つ。
ジェスレルの胸に矢が刺さり、彼は地下に吞み込まれる。ドン・ジョバンニのようだ。
ラスト、敵を倒し、歓喜の歌声を高らかに響かせる人々の後方に、皇女マティルドが一人、佇み、ゆっくり歩いて行く。
この人はこの後どうなるのだろう・・。
~~~~~~~ ~~~~~~~
音楽は素敵だが長い。長過ぎる。休憩含めて5時間!だから滅多に上演されないのだろう。
繰り返しをあちこちカットしたらいいと思う。
歌手では、メルクタール役の田中大揮と、ジェミ役の安井陽子、そしてマティルド役のオルガ・ペレチャッコがいずれも素晴らしかった。
昔、初級だけ習ったフランス語を、この日ちょっぴり聞き取ることができたのも嬉しかった。


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オペラ「影のない女」

2024-12-03 17:47:46 | オペラ
10月24日東京文化会館大ホールで、リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「影のない女」を見た(ペーター・コンヴィチュニー演出、アレホ・ペレス指揮、
オケ:東響)。



 東南の島々に棲む皇帝は、影を持たぬ霊界の王カイコバートの娘と恋に落ち、皇后とした。
皇帝は3日間、狩りに出かけると宮殿を発つ。皇后のもとへ一羽の鷹が舞い降り、「影を宿さぬ皇后のため/皇帝は石と化すさだめ」と
告げる。期限まであと3日。乳母は、人間をだまして影を買い取ることができると皇后に教え、二人は人間の世界へと降りていく。
染物屋バラクとその妻も子供に恵まれていない。乳母は、自分たちが3日間召使いとして仕え、妻の影を買い取る契約を交わすが、
妻の耳には生まれざる子供たちの恨みの声が聞こえ、夫を拒否してひとり眠りにつく。
 妻は若い男との不貞をでっち上げ、乳母と皇后の二人に影を売り払い、母親になることを諦めたと告げる。
温厚なバラクも激怒し、妻を殺すと宣言すると、天から裁きの刀が降り、地が裂け、バラクと妻を飲み込み、家は崩れ去る。
 染物屋夫妻を救うため、裁きの場へと出ることを決意する皇后。そこに石となった皇帝の姿が浮かぶ。
湧き出る「生命の水」を飲めば、影を得られるという試練に、「飲まぬ」と宣言する皇后。
すると皇后の体に影が宿り、皇帝はもとの姿へ。染物屋夫婦は互いの無事を喜び合う(チラシより)。

さて、今回の上演は、上記のあらすじとはほとんど違う!
「問題児」コンヴィチュニーが、またしても波乱を巻き起こした。
この人は2011年に「サロメ」を演出した人で、当時のブログにも書いたように、もう二度とこの人とは関わるまいと思っていたのだが、
めったにやらないオペラなので、やはり見たくなって、おっかなびっくり出かけたのだった。
結果は・・やはり恐れていた通りだった。

舞台は照明で真っ赤。車が一台止まっている。
サングラスの男たちが4~5人いて、一人が銃で撃つと、みんな倒れる。
乳母に男(父王の使者)が話しかける。これが前後関係の説明となる。
若い女が3人、意味ありげに立っている。その内の一人が鷹らしい。
太った男が「皇帝と呼ばれるボス」。そして乳母。
皇后に影ができないと(妊娠しないと)皇帝は石になってしまう。
期限は12か月で、あと3日でその期限が来る。
日本語字幕で皇后のことを「お嬢」というのが面白い。

バラクは妻を金で買ったことになっている!
二人はまったくうまくいっていない。
妻はずっと、お腹に枕を入れている。
バラクがベッドに横になってデッキで音楽(このオペラの音楽)を聴いていると、妻が来て、うるさくて眠れやしない、と言って
ストップボタンを押して去る。
妻が去ると、バラクはまた音楽を聴く。するとまた妻が来て・・
3度めに妻が来ると、今度はデッキごと持ち去ろうとするので、バラク「ちょっと!」
妻「何よ」
ドイツ語で歌っていたのが、突然日本語の会話が始まったのでびっくり。
会場も衝撃を受けて、固唾を飲んで舞台を見守る。
・・・
バラク「自分で洗濯する方がきれいになるからいいよ」
妻「洗濯ってのはね、洗って干して取り込んで、畳んでタンスにしまうまでを言うのよ。
  あなたにそんなことができるかしら」
原作とはすっかりかけ離れているが、この時の二人の会話が可笑しい。

ダブル不倫!
昼間、皇帝がなぜかバラクの家にやって来て妻をレイプ。しかも同じベッドにバラクが寝ている隣で!
妻は叫び声を上げてバラクに助けを求めるが、バラクは寝たまま。
妻「仕事の時間に寝てて・・そんなら私は・・・」
妻は緑の服を羽織り、カバンを持って皇帝と共に出て行く。
皇后がそれを見送り、バラクを起こし、抱きしめて、二人は関係する。
が、皇后は「皇帝は石になる。私の罪のせいで」と言い出し、頭を抱えて苦しむ。
歌いつつ、自ら幕を引く。
~休憩~
乳母はセラピストになっている。
バラクが妻を探しに来ると、「彼女はあなたの死を願いながらあちらに行った」と下手を指す。
バラクはそちらに向かう。
次にバラクの妻が来ると、「バラクはあなたを殺そうとあちらに行った」と上手を指して、そちらに行かせる。
その後、男女が来て・・
皇帝と皇后が来る。・・・乳母は追い出される。
皇后は一人になると、携帯電話で父王カイコバートと話す。
突然、皇后は赤ん坊を出産!二人の女性がそばに来てケアし、赤子を取り上げる。
バラクと車椅子に乗った皇帝(赤薔薇の花束を抱えている)が入って来て、喜ぶ。
だがその時、子供の声が日本語で響き渡る。
 「ぼくはあなたの子供だよ。ぼくを殺して。もういやだ!」
ちなみに字幕の英語は "I am your child. Kill me ・・"なので、性別は不明。
こうはっきりした声で言うので、皇后はその子を皇帝だかバラクだかの膝の上に置く。

バラクは皇帝と二人でテーブルにつき、こちらを向いて酒を飲み、しゃべる。
その間、妻はずっとバラクへの思いを歌い、バラクを褒め続け、バラクへの愛を歌い、「聴いて」と言うが、
バラクはまったく無視して、皇帝とおしゃべり。
ついに妻が「私を早く殺して」と言うと、バラクは彼女をピストルで撃ち殺す。

最後のシーンはレストラン。・・・
不条理性を強調しているようだが、意味不明。
~~~~~~~ ~~~~~~~
暗転して音楽が終わった途端にブーイングの嵐が起こって実に愉快だった。
ブラボーと言ってる人もいたけど。
いつかまた、別の演出のを見たくなった。
やっぱりこの人の演出は嫌だ。
どんなに音楽がよくたって。
この演出家についてはいろいろ言われているが、私に言わせれば、ただ単に、F〇〇〇が好きで聴衆の度肝を抜くのが趣味なんじゃなかろうか。
もちろん原作は男性優位の思想で、その点腹立たしくはあるが、だからってこんな風にしてしまう必要があるだろうか。
シュトラウスの音楽に浸るのに、そのことがそれほど邪魔になるだろうか。
少なくとも私は、2010年に同じ会場でこれを見た時、ラストで気持ち良く涙を流せた。
単純?
別にそう言われてもいい。
あらすじをここまで変えなくても十分楽しめるのは、私のような人間の特権なのかも知れない。






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オペラ「デイダミーア」

2024-06-19 21:11:03 | オペラ
5月25日めぐろパーシモンホール 大ホールで、ヘンデル作曲のオペラ「デイダミーア」を見た(二期会公演、演出・振付:中村蓉、指揮:鈴木秀美、
オケ:ニューウェ―ブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ)。



イタリア語上演、日本語字幕付き。
トロイア戦争で劣勢のギリシャ軍。戦士アキッレを探すため、ウリッセとその腹心フェニーチェがスキュロス島にやってくる。
アキッレはスキュロスのリコメーデ王によって匿われ、女性ピッラとして生活し、王の娘デイダミーアとは密かに恋仲にあった。
ウリッセらの目的を察したデイダミーアは、アキッレの正体が見破られないよう、事情を知る友人ネレーアにも協力を仰ぐ。
そんななか、リコメーデ王は客人をもてなすための狩りを女性たちに命ずる。
デイダミーアはなんとか彼らをアキッレから遠ざけようとするが、狩り好きのアキッレは見事に雄鹿を仕留める。
その勇ましい様子をウリッセたちは見逃さなかった。
正体を完全に突き止めるために、ウリッセは女性たちへの贈り物として美しい装飾品を用意し、そこに武具を紛れ込ませた。
アキッレが見事な武具に気を取られていると、そこに偽の襲撃のラッパ音が響く。
思惑通りアキッレに戦士としてのスイッチが入り、ウリッセは彼が探し人であることを確信する。
絶望するデイダミーアであったが、変わらぬ愛を信じてアキッレを戦地へ送る決意をする・・・(チラシより)。

1741年ロンドンで初演された、ヘンデル最後のオペラの由。

この作品の主役は、恋人と引き裂かれる悲劇の女性デイダミーア。
そして彼女の恋人がギリシャ軍の英雄アキッレ(アキレウス)なのだが、彼は何と女装する!
しかも一時的に女装するのではなく、最初から最後まで女装のままであり、それを演じるのが何とソプラノの女性歌手という、
実に珍しい、入り組んだオペラだ。

衣裳(田村香織)が分かり易い。
女性はスカートの上にクジラの骨のような輪っかをつけているが、それがカラフルで、人によって色が違う。
主役デイダミーアは紫色、アキッレは黄緑色、ネレーアは黄色というように。
振り付けが面白い。ダンサーたちも見事。
バロックオペラの上演では映像を使うことが多いが、今回は映像無しで、全編緻密に練り上げられたダンスを組み込んで、聴衆を楽しませてくれた。

アキッレ(栗本萌)はまるで子供。
女性の恰好をしてはいるが、大好きな狩りに夢中で、彼を探しに来たウリッセ(一條翠葉)たちに正体を見破られたら戦争に行くことになるというのに、
まるで平気なようだ。能天気で楽観的。
そのためデイダミーア(七澤結)は可哀想に、絶えず心配と不安を抱えている。
ウリッセはアキッレの情報を得ようと彼女に近づいて話しかける。
デイダミーアがウリッセと二人きりでいるところを見て、アキッレは腹を立て、彼女と喧嘩になってしまう。

ウリッセは女装のアキッレに近づいて、女性として扱い、彼の反応を見る。
アキッレは、男である自分を真剣に口説いてくる英雄に興味がわき、つい話し込んで悪ノリする。
このように、アキッレは意外とお調子者。
それを目撃したデイダミーアは、ますます不安になる。
ウリッセが去り二人きりになると、デイダミーアとアキッレは、またもや言い争ってしまう。

彼女の友人ネレーア(河向来実)は彼女と強い絆で結ばれているが、その胸の内には友情以上のものがあるようだ。
だが、ギリシャ軍のフェニーチェ(亀山泰地)と出会い、誠実に愛を訴える彼に惹かれてゆく・・。

ウリッセが用意した、女性たちへの贈り物を見ると、彼の思惑通りアキッレは、中に紛れ込ませた武具の方に興味を示す。
さらに、その時、襲撃を知らせる偽のラッパの音が響く。
アキッレは戦士として目覚め、「王宮は僕が守る!」と叫んでしまう。
ウリッセは彼が探し人であることを確信し、自らの正体も明かし、ギリシャ軍の現状を伝え、戦地に君が必要だと訴える。
アキッレは、戦士としてギリシャに勝利をもたらすことを勇ましく宣言する。
絶望するデイダミーア・・。

歌手がみなうまくて聴いていて実に快い。
ダンスの振り付けも面白くて飽きさせない。
だが、時にアリアを歌っている歌手にまで踊らせるのは、ちょっとどうかと思った。
歌手には歌に集中させて欲しい。
ラスト、音楽は穏やかに終わるが、演出がうまく処理して、アキッレの戦死と、それを知らず彼との再会を信じて明るい表情で待つ
デイダミーアとの対比を表していた。




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オペラ「エレクトラ」

2024-04-30 23:46:18 | オペラ
4月18日東京文化会館大ホールで、リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「エレクトラ」を見た(指揮:セバスティアン・ヴァイグレ、オケ:読売日響)。
演奏会形式。字幕付き。



作家ホフマンスタールとリヒャルト・シュトラウスが初めてコンビを組んだ作品の由。
シュトラウスの申し入れにより、作家がソフォクレスの「エレクトラ」をオペラの台本に仕立てたという。

エレクトラはミケーネの王アガメムノンと妃クリテムネストラの娘だが、父アガメムノンは、クリテムネストラとその情夫エギストによって殺されてしまっている。
エレクトラは亡き父を慕い、父の復讐に執念を燃やす。
彼女には妹クリソテミスと弟オレストがいるが、オレストは外国に行っている。

序曲もなく、いきなり始まる。姉と妹の会話。
エレクトラ(エレーナ・パンクラトヴァ)「二人で父の復讐をしよう」
妹クリソテミス(アリソン・オークス)は、子供を産みたい、子供を胸に抱いて乳をやりたい、女としての人生を生きたい、と歌う。
ここは音楽も柔らかい。
エレクトラは、父の敵討ちを一緒にやってくれるなら、姉らしくして、あなたのお婿さんが来る時、
そばにいてあげる、と甘い言葉をかける。
音楽も甘い。
だがクリソテミスは、私が人を殺すの?この手で?!と両手を見つめて怯える。
彼女は憎しみに燃える姉について行けず、去る。
エレクトラは去ってゆく妹を見て「呪われるがいい」と言い放つ。
彼女は自分一人で復讐をする他ないのなら、そうしよう、と思う。

エレクトラが待っていた弟オレスト(ルネ・パーペ)がついにやって来る。
だが彼は、義父と母に復讐するため正体を隠しているので、彼女は弟だと気づかない。
弟も姉がわからない。
義父に殴られたのか、エレクトラの目には凄みがあり、頬は瘦せこけている。
彼女の異様な風貌に気づき、オレストが尋ねると、エレクトラは名を名乗る。
そしてオレストが自分の正体を明かす前に、エレクトラはようやく弟に気がつく。
音楽が早くも調子を変える。
期待に満ちた音楽。
オレストが館に入って行くと、音楽が止む。
緊張に満ちた数秒が過ぎ、奥から女の叫びが聞こえる。
エレクトラは「もう一度!」と叫ぶ。
再び叫び声が聞こえる。
義父が不在なので、オレストは、まず母を手にかけたのだ。
エレクトラは喜びを抑えることができない。
そこに義父エギスト(シュテファン・リューガマー)が帰って来る。
エレクトラは彼に話しかけるが、義父は、いつもと感じが違う、と不審がる。
彼女は、強い人に従うことにした、とうまくごまかす。
彼女はもう踊り出している。
奥に入って行くエギスト。
すぐに叫び声が聞こえる。
エレクトラは歓喜。
クリソテミスと侍女たちが出て来る。
妹は語る。
オレストが来て母と義父を殺した。
義父を憎んでいた人々が、義父の部下たちを襲い、殺している。
こうなったことを、結局、妹も喜んでいる。

ラスト、同じ音が続くが、歌はない。
舞台上の姉妹は手持ち無沙汰な感じ。
オペラ形式だったらここで何か動きがあるのかも知れない。
いつかオペラ形式で見てみたい。

あらすじを読んだだけでは、母親クリテムネストラが極悪人のように思えるが、話はそれほど単純ではない。
彼女の夫アガメムノンはトロイア遠征の際、長女イピゲネイアを戦勝のため人身御供にしたことがあり、彼女はそのことを当然ながら強く恨んでいた。
さらに夫は、トロイアの王女カッサンドラを愛し、不貞行為を働いた。そのことも彼女は知っている。
また、義父エギストはアガメムノンの従兄弟に当たるが、父親がアガメムノンの父から迫害されたことを恨み、復讐のためにアガメムノンを討ったのだった。
そもそもこのアルゴスの王家は呪われた家系で、代々血なまぐさい内争が絶えなかったという。
呪われた王家の辿る悲劇的没落の一環として起こった事件と見るのがギリシア人の伝統的な解釈だったらしい(ちくま文庫「ギリシア悲劇Ⅱ」の解説による)。

今回の歌手陣は国際色豊か。
ヒロインの題名役がロシア、その妹役が英国、その弟役と義父役がドイツ、母クリテムネストラ役が日本の藤村美穂子。
皆、素晴らしかった。
先日「トリスタンとイゾルデ」のブランゲーネ役で我々を圧倒した藤村美穂子が、この日はクリテムネストラを聴かせてくれた。
彼女がまた聴けてよかった。
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オペラ「トリスタンとイゾルデ」

2024-04-09 11:02:13 | オペラ
3月29日新国立劇場オペラパレスで、リヒャルト・ワーグナー作曲のオペラ「トリスタンとイゾルデ」を見た(演出:デイヴィッド・マクヴィカー、指揮:大野和士、
オケ:都響)。



コーンウォールのマルケ王の甥、騎士トリスタンは、アイルランドの王女イゾルデを王の妃として迎えにいく。
かつて愛し合ったことのある二人は毒薬で心中を図るが、侍女ブランゲーネの手により毒薬は愛の媚薬にすりかえられていた。
二人の愛は燃え上がり逢瀬を重ねるが、密会の場面を王に見つかり、トリスタンは王の家臣メロートの剣により重傷を負う。
トリスタンは故郷の城でイゾルデを待ち、やっと到着した彼女の腕の中で息を引き取る。イゾルデもまた彼を追い愛の死を迎える(チラシより)。

このオペラは、2007年秋にバレンボイム指揮、ベルリン国立歌劇場の引越し公演を見たことがある(演出:ハリー・クプファー、NHKホール)。
今回の公演は、13年ぶりの再演の由。

舞台下手側に白い太陽?が浮かび、水面に映っている。それが前奏曲に合わせて少しずつ上ってゆく。
音楽はもちろんロマンティックかつドラマチック。
作曲家自身が自分の書きたい音楽に合わせて好きなように台本を書いているし。
とにかく人を陶酔の極みに引きずり込む力がある。
その力には到底あらがえません。

イゾルデの母は魔法が使えたという。いろいろな薬を作り、娘の結婚に際し、それらを侍女に持たせたという。
イゾルデは混乱している。
トリスタンは、かつて彼女の婚約者を殺した男なのに、その彼を愛してしまい、傷を治してやったという過去がある。
そして今、彼はマルケ王の使いとしてやって来て、彼女を王の妃として、王のもとに送り届けようとしている。
イゾルデは揺れている。
もう、二人で死ぬしかない・・・。

日本語字幕と英語字幕がだいぶ違っていて興味深い。
筆者は言葉に特に興味があるので、こういう場合、いつも目が忙しくなる。

余談だが、花嫁を花婿本人が迎えに行くのでなく別の男に迎えに行かせるというのは、オペラ「薔薇の騎士」やシェイクスピアの「ヘンリー六世」など
にも見られるが、これはあまりよい風習ではないと思う。
代理の男が年寄りならまだしも、若い溌剌とした青年などを使いに出すから面倒なことが起こるんじゃないか(笑)。
 ~休憩~
<2幕>
幕が開くと中央に巨大な柱(少し円錐形)、その上方を巨大な銀色の輪が幾重にも囲んでいる。
途中それが銀色に光り輝く。
本物のたいまつが1本、赤々と燃えている。
さらに、多くの人々が赤々と燃える灯火を手に次々と入って来る。
ブランゲーネ(藤村美穂子)が忠告するのも聞かず、イゾルデ(リエネ・キンチャ)は自ら警告のたいまつを取り、消して投げ捨てる。
トリスタンが来て、二人は愛の夜を讃える。
だが、これは廷臣メロートの策略だった。二人は王の部下たちに囲まれる。
マルケ王(ヴィルヘルム・シュヴィングハマー)は愕然として、甥であるトリスタンに問いただすが、彼が「何も答えられません」
としか言わないので、ショックで倒れてしまう。
メロートが助け起こすが、王はその後、彼を押しのける。
王は「余計なことをしてくれた、トリスタンたちの裏切りなど知りたくなかった」と思っているのだ。
このあたりの演出が非常にいい。

トリスタンはイゾルデに、私の行くところについて来てくれますか?と尋ねる。
生まれる前にいた世界のことを言っているようだ。(彼の母は、彼を産んですぐ死んだという)
イゾルデ「あなたの世界に私も行きます」
二人は抱き合ってキスする。
兵士たちは、あわてて身構える。
メロートは二人を指差して「言いたい放題!」と叫ぶ。
だが、ここの英語の字幕は "Traitor! "だった。
全然違うんですけど・・。
どっちが原文に忠実なのだろうか。
たぶん英語の方ですよね。
日本語の方が、この場の状況にぴったりで、すごく面白くはあるけれど。
このように、日本語の字幕が時々非常に面白い。

トリスタンは剣を取ってメロートと向き合うが、最初から死ぬつもりだったらしく、すぐに剣を捨ててメロートの剣に
自ら身を投げる。
 ~休憩~
<3幕>
(当然ながら)暗く重い音楽。
重傷を負ったトリスタンは椅子の上でうなだれている。
そばに従者クルヴェナールがいて、今にイゾルデが船でやって来ますから、とトリスタンを励ます。
牧人の吹く笛の音が淋しげに聞こえて来る。
コール・アングレの調べが心に沁みて美しい。
トリスタンは自らの人生を顧み、夢見るようにイゾルデの美しさを讃えて歌う。
彼女の乗った船は、なかなかやって来ない。
彼は途中から立ち上がり、歌い続けるが、ついに力尽きて倒れる。
ようやくイゾルデが到着。
真紅の長いドレス姿。
歌いながら彼のそばに横たわる。
そこに兵士たちとメロートが来るので、クルヴェナールは「やっと仇が打てる、この時を待っていた!」とメロートを刺し殺す。
ブランゲーネとマルケ王も来る。
ブランゲーネが秘薬のことを王に告白したので、王はようやく真相を知り、トリスタンが自らの意思で裏切ったのではないことを知り、
二人を許そうと思って来たのだった。
だが「みんな死んでしまった」。遅過ぎた・・・
と、倒れていたイゾルデが起き上がり、トリスタンへの愛を歌う。
音楽が高まる。
イゾルデは後ろを向いて数歩歩いてゆく。幕(!)

このように、イゾルデは死なない。ここが、今回の演出の大きな特徴。
従来の演出とは違うが、そもそも「悲しみのあまり死ぬ」というのは死因としてなかなか受け入れにくいので、
これはアリだと思う。
音楽の友社の解説本には「イゾルデはトリスタンの遺体に静かに倒れつつ、忘我のうちに息絶える」とあるし、
今回のチラシのあらすじも同様だけど。
そして作曲家自身も、イゾルデの死を当然想定していただろうけれど。

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の翻案であるミュージカル「ウエストサイド物語」を思い出した。
ロミジュリと違って、ラストでトニーは死ぬがマリアは死なない。

今回、演出もよく、久々にワーグナーの愛と官能の世界を堪能できた。
2度の休憩を含めて5時間25分の至福の時。
歌手では、主役の二人ももちろんよかったが、ブランゲーネ役の藤村美穂子と、マルケ王役のシュヴィングハマーが断然素晴らしかった!
都響の演奏もよかった。
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オペラ「カルメル会修道女の対話」

2024-03-10 22:03:05 | オペラ
3月1日、新国立劇場中劇場で、フランシス・プーランク作曲のオペラ「カルメル会修道女の対話」を見た(新国立劇場オペラ研修所修了公演、
演出:シュテファン・グレーグラー、指揮:ジョナサン・ストックハマー、オケ:東フィル)。



1789年、革命下のパリ。ド・ラ・フォルス侯爵家の令嬢ブランシュは、内気で怯えやすい少女。
度重なる暴動の不安から、修道院に入ることを決意する。
折しも革命政府の政策による宗教弾圧が激しさを増し、カルメル会修道院の閉鎖を告げられてしまう。
修道院を守ろうと殉教の誓いを立てた修道女たちだが、待ち受けていたのは収監と死刑判決であった。
1794年7月17日、修道女たちは聖母マリアを讃えつつ、断頭台へとのぼっていく・・・(チラシより)。

フランス語上演、日本語字幕付き。
このオペラは2009年に、やはりここの研修所の修了公演で見たことがある。
プーランクの最高傑作であり、20世紀を代表するオペラとのこと。
彼は熱心なカトリック信者だった由。

史実に基づいた物語。
彼女らに刻々と迫り来る過酷な運命に、ぴったり寄り添うプーランクの音楽が、劇的で不穏で素晴らしい。
特にラストシーン。修道女たちがとうとう処刑されることに決まり、一人また一人とギロチン台に歩いて行く時の音楽が凄い。
胸が締めつけられる。

カルメル会修道女の多くは貴族の出身だったという。
そのことと、革命政府に弾圧されたこととは関係があるのだろうか。

歌手では修道院長・クロワシー夫人役の前島真奈美と、新しい修道院長・リドワーヌ夫人役の大高レナが好演。

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オペラ「ファウスト」

2024-02-03 10:50:21 | オペラ
1月27日東京文化会館で、グノー作曲のオペラ「ファウスト」を見た(演出:D.G.ライモンディ、指揮:阿部加奈子、オケ:東京フィル)。



舞台はドイツ。老博士ファウストは孤独を悲しみ、「悪魔よ来たれ!」と叫ぶ。すると悪魔メフィストフェレスが出現。
「現世での願いは叶えるから、あの世では私に仕えろ」と持ちかける。若返った博士は、悪魔と共に祭りの場に繰り出し、出征するヴァランタンと
その妹マルグリート、マルグリ―トを慕う少年シーベルと出会う。いまや美青年のファウストは乙女の心を掴むが、
未婚の身で子を宿した彼女を世間は冷笑。ヴァランタンは妹の不始末を恥じてファウストと決闘し落命。
マルグリ―トは赤子を死なせた罪で牢に入る。救いに来たファウストと悪魔の前で、マルグリートは神に慈悲を乞い、男たちを拒む。
天界からの合唱が彼女の罪を赦して幕となる(チラシより)。

藤原歌劇団創立90周年の公演。
ゲーテの劇詩を題材に、1859年に作曲されたグランドオペラ。
全5幕。字幕付きフランス語上演。
このオペラは、2005年にレニングラード国立歌劇場の来日公演を見たことがある(武蔵野市民文化会館大ホール)。

幕が開くと、ファウストが長めの机の前に、こちらを向いて座っている。
机は布で覆われており、中に黒子が数人いてうごめいている。実に気持ち悪い。
しばらくして黒子たちが出て来て部屋の中を動き回る。
メフィストフェレスが背後に現れ、ファウストの様子をうかがう。彼には赤い照明が当たっている。
ファウストが「悪魔よ、来い」と言った途端、メフィストは彼の肩に手をかけ「来ましたよ」。
ビビるファウスト。
契約を持ちかけられてファウストが迷うと、メフィストは若い娘マルグリートの幻影を見せる。
そそのかされたファウストは、ついに契約書にサインする。

暗転(場面転換)の後、酒場。
驚いたことに、大勢の男女がいるのに全員が真っ黒な衣装。
よくよく見ないと男か女かも分からない。
こんなつまらない舞台ってあるだろうか。ここは衣装担当者の腕の見せ所なのに。

マルグリートの兄ヴァランタンは出征前に、マルグリートを慕う少年シーベルに彼女のことを頼む。
マルグリートら兄妹の母親は、すでに亡くなっているという。
メフィストとファウストが入って来る。
メフィストはヴァランタンの手を見て「私の知っている人に殺される」と不吉な予言をする。
さらにシーベルの手を見ると「触った花がしおれる」と嫌な予言をする。
メフィストが「金の仔牛の歌」を歌い、奇怪なことばかりするので、人々は彼が悪魔だと気づき、男たちは剣を逆さに持って十字の形にし、メフィストに向ける。

<2幕>
シーベル登場。
ここはマルグリートが毎日来て祈るところだと言う。
彼が花に触れると、花はみるみるうちに枯れる。
昨夜メフィストが不吉な予言をしたからだ、とショックを受ける。
そばに聖水があり、彼は思いついて、手をその聖水に浸す。
すると悪魔の呪いは消えて、花に触れても枯れない。
喜んだ彼は、白い花束をマルグリートに捧げようと、テーブルの上に置いて去る。
メフィストとファウストが来る。
メフィストはシーベルの置いた花束を床に投げ捨て、宝石箱を取って来てテーブルの上に置く。
二人が去ると、マルグリートが登場。
宝石箱を見て驚き、迷いながらも開けて、早速イヤリングやネックレスをつけてみる。
鏡も入っていたので、自分の姿を見てうっとり。「これはマルグリートじゃない、お姫様よ」
マルトが来て「それはあなたに騎士からのプレゼントよ」「私の亭主とは大違い」
メフィストとファウストが戻って来る。
メフィストは邪魔なマルトを引き離そうと話しかける。
「ご主人が亡くなりました」
ショックを受けるマルト。
だがメフィストと話をするうちに、すぐに気を取り直す。
「いつも旅してばかり」「若いうちはいいけど、年取ったら寂しいでしょう」とか話が進む。
マルトは何と、メフィストと再婚する気になる!
メフィストの方は「この人、ちょっと熟れ過ぎだな」と独り言を言い、逃げ腰なのが可笑しい。
一方、二人きりになったファウストはマルグリートに愛を告白。
いったんは盛り上がるが、マルグリートが「怖いわ」と尻込みし、ファウストは「あなたの清らかさに負けた」
「また明日」と言って別れる。
メフィストが来て「先生は勉強し直さないといけませんな」(笑)と言って、マルグリートが一人、星を見ながら祈っているところを見せる。
マルグリート「あの人は私を愛している!・・生きてるって素晴らしいわ・・」
これを見て勇気を得たファウストは彼女に近づき、二人は抱き合う。
メフィストは高笑い。
<3幕>
マルグリートが一人、白い長い衣に身を包み、赤い布にくるんだ赤子を抱いている。
子供たちが彼女をからかう声。みんなが私を侮辱する、と嘆くマルグリート。
立ち上がって赤い布をパッと広げると、中から白い紙片が散らばる!
何と!?赤子じゃなかったのか?
「あなたはどこにいるの?私、待ちくたびれた」「あなたに会いたい」と切々と歌うマルグリート。
シーベルが来て優しく話しかける。
「あなただけは優しいのね」
「あいつに復讐してやる」「君をだました男・・」
だが「まだ彼を愛してるの?」と聞かれると、彼女は「ええ」と答えるのだった。

兵隊たちが町に帰って来る。迎える女たち。
マルグリートの兄も戻って来て、シーベルを見て妹は?と聞く。
シーベルは「マルグリートを責めないで」と言いつつ、家に入ろうとする兄を止める。
メフィストとファウストが来て、ファウストはマルグリートに会おうとするが、メフィストは適当に歌いながら邪魔する。
兄は事情を知り、ファウストに向かって剣を抜く。
ファウストはマルグリートの兄と知って戸惑うが、メフィストが「私の力で守ってあげる、大丈夫」と言う。
兄は、妹にもらってずっと身につけていたメダルを地面に投げ捨てる。
メフィスト「後悔するぞ」
二人は戦い、兄は刺されて倒れる。
ファウストとメフィストは逃げる。
倒れた兄にマルグリートが駆け寄ると、兄「来るな、お前は悪の道を選んだ。神はお前を赦すだろうが、この世では
お前は呪われる」と言い残して死ぬ。
人々「最後にこんな不幸な言葉を・・神を冒涜する・・」

<バレー>
ここでバレーが挿入される。しかも長い!
前回見た時も感じたが、未婚の少女がたった一人の肉親である兄を殺され、恋人にも捨てられたと思って赤子を自ら殺すという大変な時なのに、
ここで延々とダンサーたちのバレーを見せられるって一体・・・。
こちらはもう、続きが気になって気になって落ち着かないんですけど。
フランスのオペラだから仕方ないけど、我々とはやっぱりちょっと違うと思った。
でも音楽がいいし、ダンサーたちもうまいので、結局は見とれてしまったけど(笑)
ちなみに、このオペラで一番有名なのは、ここのバレー音楽。

バレーが終わると、マルグリートは子殺しの後らしく、牢獄の中。
ファウストが話しかけると、マルグリートは嬉しそうに答え、彼と初めて会った時のことを懐かしそうに思い出す。
メフィストが現れると、マルグリートは「悪魔が!」と驚く。
メフィストはファウストに言う、「牢番は眠っている。これが鍵だ。早く連れ出して一緒に逃げよう」
庭に処刑台が作られている、とか言う。マルグリートはすぐにでも処刑されるようだ。
ファウストがしきりに誘うが、マルグリートは「いや」「ここにいる」「神様・・・」と祈り続ける。
彼女の白衣にさらに白い照明が当たり、神々しい。
するとなぜか黒衣の女性たちが現れて彼女を取り巻く。
しまいに一人が彼女を抱きしめる。
赤い照明がメフィストに当たり、メフィストとファウストは出口の方に退く。幕。

今回の演出は、赤子の布の一件を始め、いろいろと納得のいかない点が多かった。
衣裳も手抜きでつまらない。予算の関係もあるのだろうか。
歌手は、メフィストフェレス役のカッチャマーニ、シーベル役の向野由美子、マルグリート役の砂川涼子が好演。
題名役の人は、この日、調子がよくなくて残念だった。
ダンサーの方々は、素晴らしかった。
いろいろ不満はあったが、めったに上演されない作品を久し振りに見ることができてよかった。


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オペラ「レ・ボレアード」

2023-12-18 09:58:36 | オペラ
12月8日北とぴあ さくらホールで、ラモー作曲のオペラ「レ・ボレアード」を見た(指揮・ヴァイオリン:寺神戸亮、演出:ロマナ・アニエル、オケ:レ・ボレアード)。



セミ・ステージ形式、フランス語上演、日本語字幕付き。

レ・ボレアードという団体が、同名のオペラを上演する。
ちょっとややこしいが、これが指揮者・寺神戸亮の悲願だったという。
この作品は1763年に完成し、リハーサルが始まっていたが、初演を待たずに作曲家ラモーが亡くなり、その後、何と200年もの間忘れられていて、
20世紀後半に再発見された由。
しかも、そんなに古い作品なのに、様々な事情から今日でもめったに上演されないという。
この北とぴあ国際音楽祭がスタートした時、寺神戸亮氏が、フランス・バロックオペラの巨匠ラモーの最後の作品であり
知られざる傑作の評判高い「レ・ボレアード」(北風の神々)と、北区の「北」をかけてオケの名前にしたという。
以来、この作品の上演は彼の悲願となり、今回、セミ・ステージ形式での全曲演奏となった。
全曲演奏は日本初演。

バクトリアの女王アルフィーズは、国のため北風の神ボレ(ボレアス)の血を引くボリレとカリシスのいずれかと結婚しなければならない定めにある。
しかし彼女は出自の分からないアバリスという青年と愛し合っていて、他の男性との結婚など考えられないと侍女セミルに打ち明ける。
一方アバリスの方も、苦しい恋心を吐露していると、大司祭アダマスが現れ、彼を励ます。
そこに、アルフィーズがボレから逃げて来る。
愛の神アムールが降臨し、アルフィーズに魔法の矢を手渡す。
アルフィーズとアバリスは希望を抱き、喜びを取り戻す。
ボリレとカリシスがアルフィーズに結婚の決断を促し、民衆も国王選びにしびれを切らす。
アルフィーズは覚悟を決め、女王の座を退くと宣言。
アバリスは喜ぶが、ボレの息子たちは怒る。
アバリスは自分のために身分を捨てさせてはいけないと思い直し、愛よりも王位を優先するようアルフィーズを諫めるが、彼女の意思は固い。
ボレの息子たちは復讐すべく、二人の不正を罰するよう訴えると、ボレの怒りは嵐となって猛威を振るい、つむじ風がアルフィーズを連れ去ってしまう。
人々はボレの怒りが収まるように祈りを捧げる。
大司祭アダマスが現れる。
アバリスはアルフィーズから授かった愛の矢で自殺しようとしてアダマスに止められる。
合唱が、西風の神ゼフィールの翼について語る。
アバリスは死を覚悟しつつも、アルフィーズを助けるため、愛が呼ぶところへ飛んでいく、と叫ぶ。
激怒するボレの拷問に苦しむアルフィーズのもとに、愛の矢に導かれたアバリスがやって来る。
ボレたちはアバリスを殺そうとするが、アバリスが矢で制止する。
その時アポロンが降臨し、アバリスは我が息子であり、母親はボレの血を引くニンフであると明かし、王位を与えるよう告げる。
ボレはこれを受け入れ、二人の結婚を祝福する。
二人は抱き合い愛の勝利を喜び合う。
二人の愛を祝福してコントルダンスが踊られ幕となる。

ふう・・・あらすじを書いただけで、もうぐったりです(笑)

久し振りにバロックオペラを見た。
ストーリーだけなら1時間くらいで終わるところを、それとは無関係にやたらとダンスが入る。
しかもそれぞれ繰り返しつきで。
もちろんその間のラモーの音楽は素敵なのだが、とにかく長い(3時間15分)!
現代人にはいささか忍耐が必要かも。
ひょっとしたら歌舞伎みたいに飲み食いしながら鑑賞していたのかも知れない。
昔の人は、ダンスの間にそれまでのストーリーを忘れてしまったりしなかったのだろうか。

歌手ではアルフィーズ役のカミーユ・プール、セミル役の湯川亜也子、アダマスとアポロン役の与那城敬が特に印象に残った。
フランスとポーランドから招いたというバロックダンスのスペシャリストたちのダンスも素晴らしく、見応えがあった。

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オペラ「午後の曳航」

2023-12-07 22:19:20 | オペラ
11月24日、日生劇場で、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲のオペラ「午後の曳航」を見た(原作:三島由紀夫、台本:ハンス=ウルリッヒ・トライヒェル、
演出:宮本亜門、指揮:アレホ・ペレス、オケ:新日本フィル)。
二期会創立70周年記念公演、日生劇場開場60周年記念公演。




少年・黒田登は、父を亡くし、夜毎自分の部屋の秘密の穴から寝床にいる母・房子の姿を覗いていた。
ある日、登と房子は航海士の塚崎竜二と出会う。登は屈強な身体の竜二に強く惹かれるが、房子と竜二がベッドで抱き合う様子を
覗き穴から見てしまう。
やがて房子と竜二は結婚する。海を離れ、房子の経営するブティックを手伝うようになった竜二を、登は軽蔑する。
ある夜、房子と竜二は、登の部屋からの覗き穴を見つける。寛容な態度をとる竜二に対して、登はさらに憎悪を募らせ、
少年たちとともに竜二に裁きを与えることを決意する(チラシより)。

この日のために原作を読んだ。
最初の数ページで作者の才能に驚嘆。恥ずかしながら、ようやく三島の天才がわかったのでした。
(これまでに「憂国」と「金閣寺」を読んではいましたが)
読み進むうちに、当然ながら破局が待ち受けているのがわかり、もう怖くて怖くてたまらなかった。
こんな経験は初めてのこと。「カラマーゾフの兄弟」を読んだ時だって、全然怖くなかったのに。
房子と竜二が惹かれ合う様子をほほえましく思い、応援したい気持ちが芽生えたからなのか。
だがそれにしても二人は、あまりにもトントン拍子に現世的な幸福を築いてゆく。
いまどきの言葉を使えば、死亡フラグだらけだ。
登の友人たち、特に「首領」(このオペラでは1号)と呼ばれる少年は、留守がちな両親の所有する大量の書物を読破したという子で、
その結果、奇妙な思想に取りつかれている。
それは、奇怪で危険で、もはや化け物的で、精神科の医師にカウンセリングしてもらうべき代物だ。
彼の率いる仲間たちは、みな良家のお坊ちゃんで、学校の成績もよく、教師にも一目置かれている。
にもかかわらず、彼らは非常に危険な集団で、「血が必要だ」と言って、仔猫を探して来て殺したりする。
ラスト近くで「午後の曳航」というタイトルの意味するところがわかり、ようやく最後まで読む覚悟ができた。

さて、そのオペラ化である。
何と、この日も高校生の団体が!よっぽどチケットが売れなかったのか。
確かに2階、3階はほぼ空席。
まず幕に一つの瞳が大写しになり、カメラが引いてゆくと、実はそれは三島本人の(たぶん)中学生時代の顔の写真だった。
開幕時の音楽が、早くも不穏!
青っぽい登の部屋と赤い母の部屋が、壁1枚隔てて現れる。
ダンサーらしい黒子たちが何人も動き回って目まぐるしい。
船はいくつかの三角形で簡潔に作られている。
登の友人たちが変だ。
制服の前をはだけ、目つきも悪く、見るからに不良。先に書いたように、原作では全員、いいところのお坊ちゃんなのに。
そして、登との関係も変だ。
彼らは仲間なのに、登はみんなにいじめられたり脅されたりしているようだ。
一番驚いたのは、母の恋人・塚崎が外で登を襲うこと!
なぜそんなシーンをつけ加える??意味不明。
だからなのか、夏の別れの日、登は塚崎に対して「早く行け」と心中を歌い、彼を突き放し、母にひっぱたかれる。これも変だ。
猫を殺すシーンで幕。
<休憩>
正月に塚崎帰還。外で母にプロポーズ。
母は赤いドレスを着て、部屋に一人でいる。登に結婚のことを告げ、「パパと呼ぶのよ」
洋服屋(貸衣装店?)にウエディングドレスが並んでいる。
母が来て、幸せそうに、一つ選ぶ。女店員が相手をする。
夜、母は登に覗かれていることに気づき、急いで隣の部屋へ。
塚崎は拳を振り上げるが、思い直して登を許す。
登は仲間を集め、「塚崎竜二の罪状」を読み上げ、仲間たちはそれをメモし、1号がそれに点数をつけ、奥に、その点数が表示される。
合計150点。
塚崎と少年たち。塚崎が、差し出された睡眠薬入りの紅茶を一口飲むと、ダンサーたちは縄を手に近づいて彼を縛る。
彼はよろよろしつつ海について歌い続ける。
ついに彼らは塚崎を、奥に斜めになったところに寝かせ、登が1号からナイフを渡され、腕を大きく振り上げる。
そこに赤いドレスの母親が来てひざまずき、手を祈りの形にする。
そこで幕。

以上、書いてきたように、全体に演出が変だ。
登の仲間たちの描き方。
彼らと登との関係。
最後に母親を登場させたのもいただけない。
特に原作にない塚崎の暴行シーンをつけ加えているのが理解できない。

歌手では1号役の加来徹が好演。張りのある声が素晴らしい。演技も切れがある。





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