11月29日北とぴあ さくらホールで、モーツァルト作曲のオペラ「皇帝ティートの慈悲」を見た(演出:大山大輔、指揮:寺神戸亮、オケ:レ・ボレアード)。
舞台は紀元1世紀のローマ。先々代ローマ皇帝の娘ヴィテッリアは、現皇帝ティートを憎みつつも妃の座を狙っています。しかしティートが
ユダヤの王女を妃に迎えると知り、自分のことを愛しているセスト(皇帝の忠臣)をそそのかし、ティートの暗殺を企てます。
この結婚は結局中止となるも、ティートがセストの妹セルヴィリアとの結婚を発表したため、ティート暗殺計画が再燃します。
ところが、兄の友人アンニオを愛していることをセルヴィリアが伝えると、ティートは快くこの結婚を取りやめにし、今度は
ヴィテッリアを妃とすると発表。しかし、その事情を知らないヴィテッリアはセストに暗殺を決行させてしまいます。
はたして皇帝ティートは無事なのか?悪女ヴィテッリアはどうなってしまうのか?(チラシより)
モーツアルト最晩年の傑作。
「魔笛」の作曲を中断して約18日間で一気に書き上げたという。
セミ・ステージ形式。イタリア語上演・日本語字幕付き。
いつものようにオケピットがなく、舞台中央にオケがいて、その前の横長の空間で歌手たちが歌い、演技する。
オケの奥にも細長い空間があり、階段と小高い台があって、時にはそこへも人々が移動して歌う。
今回の演出の大山大輔は、近衛隊長ブブリオ役も兼ねる。
主役セストと友人アンニオは、同じような黒服に白いマントをひるがえすが、セストが愛するヴィテッリアにそそのかされて
皇帝ティート殺害を決意するあたりから、その白いマントを取って黒服姿になる。わかり易い。
セストが宮殿に火をつけたらしく、舞台奥が赤くなり、炎がメラメラと上がる映像が広がり、ついには舞台全体が赤一色に染まる。
<休憩>
皇帝ティート暗殺は、幸い、失敗したらしい。
ティートが親友セストの裏切りを信じられず、人払いをして「二人きりだから本心を打ち明けてくれ、秘密があるのなら教えてくれ」
とまでセストに語りかけるのが感動的。
だがセストはヴィテッリアにそそのかされたことは決して言わない。
それ以外、彼に秘密はないのだから、皇帝に言えることは何もない。
ティートの優しさに応えられず苦しむ彼は、「早く殺してください」としか言えない。
そんな彼に、さすがのティートも心を固くし、諦めて去らせる。
だが「運命の神は私の心を(今までの寛大さを)変えさせようとするのか。いや、私は変わらないぞ」と
運命に逆らおうとし、一旦サインした処刑の命令書を破り捨てる。
セストの恋人と友人が、ティートに、セストの減刑を願い出るが、ティートは土壇場まで死刑と皆に思わせておく。
すると友人が「そんなすがすがしいお顔でセストを処刑なさるのですか」と言うのが可笑しい。そりゃそうだ。
ヴィテッリアが初めて白いドレス姿で現れる。
彼女はセストが自分のことを告白したかどうか心配している。
プブリオに尋ねると、「ティートと二人きりで話していたので、私も知りません」と答えてすぐに去る。
そのため彼女は思う、「私のことも自白したのね。プブリオも知っている。私から逃げるように去って行った様子から分かる」
彼女はやましいからそう思ったのだ。この辺り、現代的。
セストの恋人と友人が来て「皇妃様、セストの減刑をお願いして下さい」と頼むので、「私はまだ皇妃ではありません」と答える。
すると二人は「ティートが今日のうちに妃にするので準備するように、と命じられた。あなたの願いは聞かれるでしょう」と言う。
ヴィテッリアはハッとなる。
「セストは私のことを言ってないのね。何という愛・・・」
ここから彼女のまったく新しい苦しみが始まる。
「彼は一人で罪を抱えて死んでゆく。私の方が罪は重いのに・・」
「行って罪を告白しよう。・・みんな私をどう思うでしょう・・」
長い長いアリア。
照明が舞台を黄金色に染め、ティートによる裁きの場。
「楽しい催しの前に、罪人を連れて来い」
と、その時突然、ヴィテッリアが「首謀者を連れて参ります」と言い出す。
ティート「誰だ?!」
ヴィテッリア「私です」
驚いたティートが「誰を信じたらいいのか」「なぜそんなことを?」
ヴィテッリア「私は妃になれるかと思っていたのに、陛下が何度も私の気持ちをないがしろにされたからです」
ティート「セストを解放せよ」・・・
こうしてセストの冤罪も晴れ、セストの真心がヴィテッリアに伝わり、彼女は彼の愛に応えることになる。めでたしめでたし。
結局この皇帝は、3人の女性(ユダヤの王女、セルヴィリア、ヴィテッリア)と次々と結婚しようとしては断念することになる。
ラストも一人のままで、何とも気の毒な人だ。
歌手は皆うまい。特に、複雑なヒロインを演じたロベルタ・マメリが素晴らしい。
セストと男の友人をメゾソプラノの女性たちが歌い、演じるのが不思議だったが、当時はカストラート全盛期で、美声と言えば高い声とされていたからだそうだ。
ラストの皆の合唱も素晴らしい。
現代人には少々長過ぎるのが難点だが、美しい音楽を堪能できたし、意外とドラマチックな内容で、充実した作品だった。
プログラムに掲載の、寺神戸亮の「指揮ノート」と大山大輔の「演出ノート」が非常にわかり易く、また文章もうまくて大いに役立った。
舞台は紀元1世紀のローマ。先々代ローマ皇帝の娘ヴィテッリアは、現皇帝ティートを憎みつつも妃の座を狙っています。しかしティートが
ユダヤの王女を妃に迎えると知り、自分のことを愛しているセスト(皇帝の忠臣)をそそのかし、ティートの暗殺を企てます。
この結婚は結局中止となるも、ティートがセストの妹セルヴィリアとの結婚を発表したため、ティート暗殺計画が再燃します。
ところが、兄の友人アンニオを愛していることをセルヴィリアが伝えると、ティートは快くこの結婚を取りやめにし、今度は
ヴィテッリアを妃とすると発表。しかし、その事情を知らないヴィテッリアはセストに暗殺を決行させてしまいます。
はたして皇帝ティートは無事なのか?悪女ヴィテッリアはどうなってしまうのか?(チラシより)
モーツアルト最晩年の傑作。
「魔笛」の作曲を中断して約18日間で一気に書き上げたという。
セミ・ステージ形式。イタリア語上演・日本語字幕付き。
いつものようにオケピットがなく、舞台中央にオケがいて、その前の横長の空間で歌手たちが歌い、演技する。
オケの奥にも細長い空間があり、階段と小高い台があって、時にはそこへも人々が移動して歌う。
今回の演出の大山大輔は、近衛隊長ブブリオ役も兼ねる。
主役セストと友人アンニオは、同じような黒服に白いマントをひるがえすが、セストが愛するヴィテッリアにそそのかされて
皇帝ティート殺害を決意するあたりから、その白いマントを取って黒服姿になる。わかり易い。
セストが宮殿に火をつけたらしく、舞台奥が赤くなり、炎がメラメラと上がる映像が広がり、ついには舞台全体が赤一色に染まる。
<休憩>
皇帝ティート暗殺は、幸い、失敗したらしい。
ティートが親友セストの裏切りを信じられず、人払いをして「二人きりだから本心を打ち明けてくれ、秘密があるのなら教えてくれ」
とまでセストに語りかけるのが感動的。
だがセストはヴィテッリアにそそのかされたことは決して言わない。
それ以外、彼に秘密はないのだから、皇帝に言えることは何もない。
ティートの優しさに応えられず苦しむ彼は、「早く殺してください」としか言えない。
そんな彼に、さすがのティートも心を固くし、諦めて去らせる。
だが「運命の神は私の心を(今までの寛大さを)変えさせようとするのか。いや、私は変わらないぞ」と
運命に逆らおうとし、一旦サインした処刑の命令書を破り捨てる。
セストの恋人と友人が、ティートに、セストの減刑を願い出るが、ティートは土壇場まで死刑と皆に思わせておく。
すると友人が「そんなすがすがしいお顔でセストを処刑なさるのですか」と言うのが可笑しい。そりゃそうだ。
ヴィテッリアが初めて白いドレス姿で現れる。
彼女はセストが自分のことを告白したかどうか心配している。
プブリオに尋ねると、「ティートと二人きりで話していたので、私も知りません」と答えてすぐに去る。
そのため彼女は思う、「私のことも自白したのね。プブリオも知っている。私から逃げるように去って行った様子から分かる」
彼女はやましいからそう思ったのだ。この辺り、現代的。
セストの恋人と友人が来て「皇妃様、セストの減刑をお願いして下さい」と頼むので、「私はまだ皇妃ではありません」と答える。
すると二人は「ティートが今日のうちに妃にするので準備するように、と命じられた。あなたの願いは聞かれるでしょう」と言う。
ヴィテッリアはハッとなる。
「セストは私のことを言ってないのね。何という愛・・・」
ここから彼女のまったく新しい苦しみが始まる。
「彼は一人で罪を抱えて死んでゆく。私の方が罪は重いのに・・」
「行って罪を告白しよう。・・みんな私をどう思うでしょう・・」
長い長いアリア。
照明が舞台を黄金色に染め、ティートによる裁きの場。
「楽しい催しの前に、罪人を連れて来い」
と、その時突然、ヴィテッリアが「首謀者を連れて参ります」と言い出す。
ティート「誰だ?!」
ヴィテッリア「私です」
驚いたティートが「誰を信じたらいいのか」「なぜそんなことを?」
ヴィテッリア「私は妃になれるかと思っていたのに、陛下が何度も私の気持ちをないがしろにされたからです」
ティート「セストを解放せよ」・・・
こうしてセストの冤罪も晴れ、セストの真心がヴィテッリアに伝わり、彼女は彼の愛に応えることになる。めでたしめでたし。
結局この皇帝は、3人の女性(ユダヤの王女、セルヴィリア、ヴィテッリア)と次々と結婚しようとしては断念することになる。
ラストも一人のままで、何とも気の毒な人だ。
歌手は皆うまい。特に、複雑なヒロインを演じたロベルタ・マメリが素晴らしい。
セストと男の友人をメゾソプラノの女性たちが歌い、演じるのが不思議だったが、当時はカストラート全盛期で、美声と言えば高い声とされていたからだそうだ。
ラストの皆の合唱も素晴らしい。
現代人には少々長過ぎるのが難点だが、美しい音楽を堪能できたし、意外とドラマチックな内容で、充実した作品だった。
プログラムに掲載の、寺神戸亮の「指揮ノート」と大山大輔の「演出ノート」が非常にわかり易く、また文章もうまくて大いに役立った。