ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「アルファとオメガ」

2012-06-29 15:21:40 | オペラ
5月20日オーチャードホールで、ギル・ショハット作曲のオペラ「アルファとオメガ」をみた(演奏会形式、指揮:ダン・
エッティンガー、オケ:東京フィル)。

日本初演。ヘブライ語原語上演。
「ムンクの連作版画による現代版アダムとイヴ」とのこと。絵画「叫び」で有名なムンクの版画を見た作曲家が、その後
詩人たちと3年の月日をかけて台本を書き、オペラ化した。

楽園の最初の人類である男アルファと女オメガ。二人は森で蛇の誘惑から嫉妬を知る。女は森の動物たち、熊、虎、ロバ、
豚とも奔放なやりとりを重ねてしまう。「葛藤する感情と人間の本性、そこに隠された寓意性はさまざまな聴き方が予想
されよう。濃密な色気が薫る音楽である」とのこと(チラシより)。

音楽は徹頭徹尾甘美にして華麗。しかし、その内容はと言うと、聖書の物語とは全く違ってグロテスクで陰惨。
その隔たり・ギャップがどうしても理解できなかった。何しろ女は獣姦を繰り返し、半人半獣の子供たちを生み、男は
そんな女を手にかけて殺し、しまいに子供たちによって殺されるのだ。

発端となった連作版画はムンクが重度の精神病のため入院中に描かれたもの。彼はある女性に出会い、愛し合った後
捨てられた経験があり、そのことが背景にあると言われている。
それはそれで別にいいけど、こういうストーリーにどうしてこういう甘い曲をつけることができるのか、それが分から
ない。我々聴衆は、ただうっとり聴いていればいいとでも言うのだろうか。

演奏は素晴らしかった。ソリストもオケも合唱も。
こういうのが一番困るのです。全く評者の手に負えません。
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「2ピアノ4ハンズ」

2012-06-23 21:48:20 | 芝居
5月15日日生劇場で、「2ピアノ4ハンズ」をみた(作・演出・出演:テッド・ダイクストラ、リチャード・グリンブラット)。

カナダ出身の2人の俳優による、2度目の来日公演。英語上演(字幕あり)。
ピアノを習う10歳の少年たちが身勝手な大人―怒る親、個性的な教師たち―に振り回されながらもピアニストになるため
競い合い、葛藤しながら成長してゆく。しかしある時2人は壁にぶち当たる。それは誰もが直面する現実・・・。

世界唯一の「生ピアノ二重奏×2人芝居」で、少年たちの成長物語を面白おかしく演じて見せる。実際の彼らはピアニストではなく
俳優業。本作が大当たりし、今や二人は世界中を回っている。全世界で200万人がみた大ヒット作。

舞台には2台のグランドピアノ。2人は少年、父、母、ピアノ教師、審査員などの役を次々に演じながら、バッハ、モーツアルト
からビリー・ジョエルまで様々な曲を演奏する。その軽妙な掛け合いとユーモアのセンスに観客は大喜び。
親との関係・・父との約束。
様々な変わり者のピアノ教師たちとの関係。
コンクール・・連弾の練習。それも小学生の時から!
音大受験・・挫折。
ジャズの学校受験・・挫折。

教師たちが面白い。「1ビット、2ビット・・」のバーコフ先生、イタリア人、フランス人、ギーゼキング先生・・。

英語圏で、子供に楽典を教えるやり方が実に興味深い。もっとじっくり聴いてみたい。

バッハのチェンバロ協奏曲が最初と最後に置かれる。彼らにとって特別な曲なのだろう。
ショパンの「雨だれ」の解説が面白い。眠って夢をみていた女が目を覚まし、赤ん坊の様子を見に行く。そしてまた
眠りにつく・・と曲に合わせて自由に想像してゆく。
その他ホロヴィッツ75歳の時のカーネギーホールでの「メフィストワルツ」の再現、映画音楽、ジャズなど25曲を演奏。
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「ロミオとジュリエット」

2012-06-16 18:01:19 | 芝居
5月1日赤坂ACTシアターで、シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」をみた(演出:ジョナサン・マンビィ、
上演台本:青木豪、翻訳:松岡和子)。

「ロンドン演劇界で破竹の快進撃を続ける英国きっての人気若手演出家」の演出が目当てで赤坂まで出かけた。

上演台本を書いた人がいて「原作:シェイクスピア」とあるので翻案だが、セリフはほとんど変えていない。
ただ時々女性歌手が出てきて歌うのが余計。

ロミオ役の佐藤健は初舞台にして初主演とのことだが、なかなかの好演。声もよく通る。
乳母役のキムラ緑子がうまい。
キャピュレット夫人役の石野眞子も好演。
ジュリエット役の石原さとみは熱演だが、時々声が高過ぎる。ティボルトの死の知らせを聞いた時のセリフなど早過ぎる。
大事なセリフは客席まできっちり届くようにしっかり発音してほしい。
マーキュシオ役の菅田将暉もいい。
ロレンス神父役の橋本さとしはうまいが、思った通り若過ぎる。元気一杯で脂ぎってて世俗的でちっとも神父らしくない。

3幕3場の神父の素晴らしいセリフが一部カットされたのは残念だ。ここだけはカットしないでほしい。

キャピュレット氏は確かに時として暴君のように振る舞うが、乳母に暴力を振るうことはない。これはおかしい。

キャピュレット夫人は娘のベッドでカラの薬瓶を発見する。時々こういう演出を見かける。確かに飲んですぐに隠すという
セリフがないから(隠した可能性も残るが)、ジュリエットの体のそばにあったかも知れないし、だとすれば乳母か母が
発見することもあり得るわけだ。ただここにセリフがないから、夫にそのことを伝えて娘は自殺だと皆が知るところまでは
行かない。
みんな何かというと十字を切る。
葬列・・上手から下手へ、皆1輪の白バラを手にミサ曲を歌いながら足取りをそろえてゆっくり歩く。

ロミオは友人ベンヴォーリオからジュリエットの死の知らせを聞く(原作では召使いから)。墓の前までついて来るのも
ベンヴォーリオ(これも本当は召使い)。このように、あちこち改変しているのは役者の数が足りないからか。

原作では可哀想なパリス伯爵の顔を、ロミオは殺すまで見ていない。殺してから見てパリスと気づく。これは割と重要な点。

「公爵」とは名ばかりで、実際は警察署長。ちゃんと制帽をかぶって制服を着ている。パトカーがサイレンを鳴らし、
警官たちが町を取り締まる。

ラスト、墓場に両家の人々や公爵が集まっている時、上方に乳母が一人いて泣き崩れる。普通ここに乳母はいないが、
いて正解だと思う。自分のしたことの重大な結果をしかと見届けて深く悔い改めてほしい。

モンタギュー夫人(ロミオの母)は生きて息子の亡きがらに取りすがる(原作では前日に悲しみのあまり死んでいる)。
しかしこれでもいい。初めてこの芝居を見る人にはシンプルで分かり易いのが一番だ。

何だか間違い探しのようになってしまった。久々に突っ込み所満載の芝居でした。
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オペラ「ドン・ジョヴァンニ」

2012-06-09 23:55:31 | オペラ
4月24日新国立劇場オペラハウスで、モーツアルト作曲のオペラ「ドン・ジョヴァンニ」をみた(演出:グリシャ・アサガロフ、
オケ:東京フィル)。

舞台が美しい。背景にヴェニスの港の風景(美術:ルイジ・ペーレゴ)。序曲の途中から小舟がすべるように下手からやって
来る。そこに悪党とその召使いが乗っている。ここで早くも胸が高鳴る。こんな風に優雅に登場したドン・ジョヴァンニは
これまでいなかった。中央で舟が止まると彼は降りて、上手にある屋敷への階段を登ってゆく。そこがドンナ・アンナの邸。

彼女の父(騎士長)が死ぬ時のドン・ジョヴァンニと騎士長の動きなどは美しく様式化されている。

上方に眼鏡橋のような美しい形の橋が現れ、主従2人が話していると、その下を、彼がかつて捨てた女エルヴィーラが通り
かかる。赤に白と黒の縁取りのドレス。少女に荷物を持たせている。

村の娘ツェルリーナは白い花嫁衣裳。村の人々は陽気な感じの服。男たちのジャケットまで花柄。

主人公は自邸に戻ると派手な紫のベストとズボンで現れ、いかにも悪党っぽい。

歌手は、何と言っても主役(マリウシュ・クヴィエチェン)の張りのあるビロードのような声が素晴らしい。
騎士長役の妻屋秀和も、特に最後の石像のシーンは聴きごたえがあり見事だった。この二人は、評者が今まで見た中で
それぞれの役のベストと言える出来。
レポレッロ役の平野和もうまい。この主従は二人共、演技も素晴らしかった。

森は何やらなまめかしい形の巨大な木々。

エルヴィーラが最後にドン・ジョヴァンニに改心を迫ると、彼は長いテーブルに彼女を押し付けてドレスの裾をめくり、暴行
しかける。これは珍しい。彼は一度ものにした女には決して手を出さないと言われているが。

最後のシーンで彼は黒シャツ黒ズボンに白いベスト姿で、何やら赤いワインっぽい液体を飲んでみせる。
石像は上方に現れ、手を差し伸べる。男はテーブルの上に飛び乗り、手を伸ばすが届かない。それでも霊力で?石像の手が
触れたらしく「何て冷たいんだ・・・」というセリフへと続いてゆき、石像はカーテンで隠され、長テーブルが男を乗せた
ままゆっくり沈んでゆく。するとそこに、何本もの白い手が現われ、彼を引き降ろそうとする。彼は叫びつつ硝煙とともに
地獄に落ちてゆく。
何度見ても(聴いても)このシーンはたまらないが、今回の演出は説得的で感銘深かった。

衣装(美術と同じくルイジ・ペーレゴ)は良い意味でオーソドックス。奇をてらうところがないのが嬉しい。この点でも
今までみた中で一番かも知れない。



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チェーホフ短編集「賭け」

2012-06-01 00:39:56 | 芝居
4月22日あうるすぽっとで、アントン・チェーホフ作「賭け」をみた(脚本・演出:山崎清介)。

彼は働かずとも食事も酒も与えられ、望めば本を読むこともピアノを弾くことも許された。しかし、人と話すこと、部屋
から出ることは一切許されなかった。15年たてば、一生遊んで暮らせるだけの大金が彼のもの、のはずだった・・。

死刑と終身禁固刑のどちらがより人間的な刑罰かを巡り、自由と金を賭けることになった「賭け」。その物語の中に
チェーホフの短編小説5つが編み込まれ、万華鏡のように展開してゆく。そこに映し出されるのは、「無くて七癖、あって
四十八癖」な人物ばかり。馬鹿馬鹿しくも哲学があり、おかしくも悲しい。人間っぽさが沢山詰まった小説の魅力が満載。
オムニバスの新しい形を作り出した本作品は2010年度紀伊国屋演劇賞団体賞受賞・・とのこと。

確かにめまぐるしくも面白い。俗物の警察署長、変わった夫婦、小心者の森番・・・。ここには紛れもなくロシアの風土が
あり、と同時にその中に普遍的なものがあるのが魅力だ。人間、この不可思議なるもの!

6人の役者がとっかえひっかえいろんな役をやる。犬の役も!みなうまい。
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