2月8日吉祥寺オデオンで、マーティン・マクドナー監督の映画「イニシェリン島の精霊」を見た(脚本:マーティン・マクドナー)。
ネタバレあります注意!
舞台は1923年のアイルランドの孤島。
パードリック(コリン・ファレル)は親友コルム(ブレンダン・グリーソン)を誘って、いつものようにパブに行こうとするが、
突然断られる。彼にはわけがわからない。すっかり取り乱す彼。まるで恋人に振られた男のようだ。
コルムはフィドラー(バイオリン弾き)で作曲もしている。やりたいことがあるのに、先のことを考えると時間が足りない。
だからパードリックのおしゃべりにつき合っているのが嫌になったと言う。
パードリックは困る。困ってしきりに嫌がるコルムにつきまとい、ますます嫌われてゆく。
放っておいて欲しいというのがコルムの唯一の願いなのに、それができない。
そのために、次々と予想もしないことが起こってしまう。
コルムは彼に対して奇妙なことを宣言し、それを実行に移してゆく。
それは、もはや狂っているとしか思えないことだ。
当時、島での暮らしは貧しく、単調だった。
男たちは午前中、牛の世話などをすると、もうやることがない。
午後はパブでビールを飲みながら、仲間と世間話に興じて時間をつぶす。
その話し相手に嫌われたら、もうお手上げだ。
今ならテレビやスマホがあるから、どんな人でも時間をつぶすのは簡単だけど。
パードリックは妹(ケリー・コンドン)と二人で住んでいて、ジェニーと名づけたロバを可愛がっている。
妹は読書好きで、本さえあれば退屈しない。
このように兄妹は全然タイプが違うが、非常に仲が良く、深く愛し合っている。
貧しいせいか寝室まで同じなのは、ちょっとどうかと思うが。
この島には「マクベス」に出てくる魔女を彷彿とさせるような不気味な老婆がいて、予言したりする。
郵便局の女性は、村人に届いた封筒を勝手に開けて中の手紙を読むし、警官は何かというとすぐ人を殴る。
ここは無法地帯か。この島には法律も届かないのか。
コルムが一人住む家はマッチ箱のように小さいが、中には住人の趣味を表わすように、さまざまな物が飾ってある。
天井からは、何と能面までぶら下がっている。
二人のいさかいはあっと言う間に島中に知れ渡るが、個人主義が徹底しているようで、誰も仲介して仲直りさせてやろうとはしない。
唯一、司祭がとりなそうとするが、まるでうまくいかない。
誰かに「12歳か?!」と言われる通り、二人の行動は、とても大人のやることとは思えない。
パードリックは嫉妬とやきもちの塊で、どんどん過激で危険な行動に出る。
コルムは知的な男なのだから、もっと穏便な言い方で、友人の気持ちを傷つけることなく、彼から距離を置くことができたはずだ。
しかも、彼が友人を避けるために取った方法は、自分のフィドラーとしての生命が断たれるようなことだった・・・。
二人共、常軌を逸しているとしか思えない。
この話はひょっとして寓話なのだろうか。
そう思うしかないかも。いや、きっとそうだ。そうに決まってる。
この島には子供の姿が見えない。
学校はあるのだろうか。島の人々の教育はどうなっているのか。
寓話だから深く考える必要はないのかも知れないが。
一方、アイルランドの孤島の風景は、素晴らしい。
さらに音楽がいい。背景に流れる曲も、コルムたちが演奏するケルト音楽も。
そして、件のロバを始め、牛・羊・犬ら、動物たちが可愛い。
笑えるシーンもある。
特に司祭とコルムのシーンでは、映画館内に笑い声が響き渡った。
妹は島の未来に見切りをつけ、最愛の兄と別れ、本土で自分に合った職を見つける。
船で島を離れる彼女の顔は、希望に満ちて輝く。
彼女の存在が爽やかな風をもたらし、明るい印象を残すのが救いだ。
字幕がいい。
reading (読書)という語が2回言われるが、2つ目を「本かあ・・」と訳していたのが、特に忘れられない。
久し振りに映画館で映画を見た。
「本年度アカデミー賞最有力!」「主要8部門ノミネート」という文句にひかれたこともあるが、作者(脚本&監督)に興味があるからだ。
マーティン・マクドナーの戯曲はたくさん見てきた。
「ビューティー・クイーン・オブ・リーナン」、「スポケーンの左手」、「イニシュマン島のビリー」、「ハングマン」、「ピローマン」。
いずれも一筋縄ではいかないものばかりだが、奇妙な味わいがあって、いつまでも心に残る。
この映画も、やはり余韻が半端ない。
ネタバレあります注意!
舞台は1923年のアイルランドの孤島。
パードリック(コリン・ファレル)は親友コルム(ブレンダン・グリーソン)を誘って、いつものようにパブに行こうとするが、
突然断られる。彼にはわけがわからない。すっかり取り乱す彼。まるで恋人に振られた男のようだ。
コルムはフィドラー(バイオリン弾き)で作曲もしている。やりたいことがあるのに、先のことを考えると時間が足りない。
だからパードリックのおしゃべりにつき合っているのが嫌になったと言う。
パードリックは困る。困ってしきりに嫌がるコルムにつきまとい、ますます嫌われてゆく。
放っておいて欲しいというのがコルムの唯一の願いなのに、それができない。
そのために、次々と予想もしないことが起こってしまう。
コルムは彼に対して奇妙なことを宣言し、それを実行に移してゆく。
それは、もはや狂っているとしか思えないことだ。
当時、島での暮らしは貧しく、単調だった。
男たちは午前中、牛の世話などをすると、もうやることがない。
午後はパブでビールを飲みながら、仲間と世間話に興じて時間をつぶす。
その話し相手に嫌われたら、もうお手上げだ。
今ならテレビやスマホがあるから、どんな人でも時間をつぶすのは簡単だけど。
パードリックは妹(ケリー・コンドン)と二人で住んでいて、ジェニーと名づけたロバを可愛がっている。
妹は読書好きで、本さえあれば退屈しない。
このように兄妹は全然タイプが違うが、非常に仲が良く、深く愛し合っている。
貧しいせいか寝室まで同じなのは、ちょっとどうかと思うが。
この島には「マクベス」に出てくる魔女を彷彿とさせるような不気味な老婆がいて、予言したりする。
郵便局の女性は、村人に届いた封筒を勝手に開けて中の手紙を読むし、警官は何かというとすぐ人を殴る。
ここは無法地帯か。この島には法律も届かないのか。
コルムが一人住む家はマッチ箱のように小さいが、中には住人の趣味を表わすように、さまざまな物が飾ってある。
天井からは、何と能面までぶら下がっている。
二人のいさかいはあっと言う間に島中に知れ渡るが、個人主義が徹底しているようで、誰も仲介して仲直りさせてやろうとはしない。
唯一、司祭がとりなそうとするが、まるでうまくいかない。
誰かに「12歳か?!」と言われる通り、二人の行動は、とても大人のやることとは思えない。
パードリックは嫉妬とやきもちの塊で、どんどん過激で危険な行動に出る。
コルムは知的な男なのだから、もっと穏便な言い方で、友人の気持ちを傷つけることなく、彼から距離を置くことができたはずだ。
しかも、彼が友人を避けるために取った方法は、自分のフィドラーとしての生命が断たれるようなことだった・・・。
二人共、常軌を逸しているとしか思えない。
この話はひょっとして寓話なのだろうか。
そう思うしかないかも。いや、きっとそうだ。そうに決まってる。
この島には子供の姿が見えない。
学校はあるのだろうか。島の人々の教育はどうなっているのか。
寓話だから深く考える必要はないのかも知れないが。
一方、アイルランドの孤島の風景は、素晴らしい。
さらに音楽がいい。背景に流れる曲も、コルムたちが演奏するケルト音楽も。
そして、件のロバを始め、牛・羊・犬ら、動物たちが可愛い。
笑えるシーンもある。
特に司祭とコルムのシーンでは、映画館内に笑い声が響き渡った。
妹は島の未来に見切りをつけ、最愛の兄と別れ、本土で自分に合った職を見つける。
船で島を離れる彼女の顔は、希望に満ちて輝く。
彼女の存在が爽やかな風をもたらし、明るい印象を残すのが救いだ。
字幕がいい。
reading (読書)という語が2回言われるが、2つ目を「本かあ・・」と訳していたのが、特に忘れられない。
久し振りに映画館で映画を見た。
「本年度アカデミー賞最有力!」「主要8部門ノミネート」という文句にひかれたこともあるが、作者(脚本&監督)に興味があるからだ。
マーティン・マクドナーの戯曲はたくさん見てきた。
「ビューティー・クイーン・オブ・リーナン」、「スポケーンの左手」、「イニシュマン島のビリー」、「ハングマン」、「ピローマン」。
いずれも一筋縄ではいかないものばかりだが、奇妙な味わいがあって、いつまでも心に残る。
この映画も、やはり余韻が半端ない。