ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

寺山修二原作「かもめ」

2016-11-26 23:07:04 | 芝居
10月25日芝居砦・満天星で、寺山修司作「かもめ 或いは寺山修司の少女論 2016 エスポワール編」をみた(Project Nyx 公演、
構成:水嶋カンナ、演出:金守珍)。

青森で一人の少年がレコードをかける。ダミアのシャンソン「かもめ」。その歌から彼は想像を膨らませてゆく。
とある港町で、少年は少女に一年後の再会を約束して船出する。少女は毎日彼のことを思い、彼を待ち続ける。ところが一年たっても二年
たっても彼は帰らない。彼女は少しずつおかしくなってゆく。ある時酒場で荒くれ男たちに暴行され、以来彼女は本当に気がふれてしまう・・・。
この主筋に世界三大美女子(クレオパトラ、楊貴妃、かぐや姫)の話が絡む。

会場が初めての所で、しかも分かりにくく、やっとたどり着いたら最前列の椅子無しシートと背もたれのみの席しかなく(全席自由席ゆえ)、
お尻が少々痛かった。スカートで来なくてよかった。

音楽は、シャンソン、ワーグナー「ローエングリン」、ラヴェル(「亡き王女のためのパヴァーヌ」を歌で)等々。

いつもながら役者たちはよく訓練されていて、段取りもバッチリ。

ただ原作の書かれた時代と今とでは女性のありようが大きく変わってきている。
女はもはや、か弱くもなければ、ただ待っているだけの存在(これはこの芝居の中で楊貴妃がかぐや姫に向かって言うセリフだが)でもない。
英国の首相も女なら東京都知事も女なのだ。世界はこの数十年でとてつもなく変化してきた。だからこういうストーリーが古めかしく感じられる
のは仕方ない。
それでも今だに寺山のファンは途絶えないらしい。彼の詩的で叙情的な言葉の魅力だろう。

ワーグナーは、特に「ローエングリン」は評者にとって特別なものだ。
ニヒリズムに陥りがちな心に、それこそエスポワール(希望)を与えてくれる命綱のような奇跡の音楽だ。
芝居を見ながらこんな風に改めて再確認し、胸を打たれていた(寺山とは直接関係ないかもだが)。
ワーグナーの偉大さ、音楽の持つ力の大きさを今さらながら感じていた。
かくしてこの夜は、ワーグナーに乾杯!の一夜だった。
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トマ作「一人二役」

2016-11-13 22:23:03 | 芝居
10月22日シアタークリエで、ロベール・トマ作「一人二役」をみた(上演台本、演出:福島三郎)。

1960年代、パリ郊外にある豪邸。天涯孤独だが莫大な財産を相続したフランソワーズ(大地真央)は、リシャール(益岡徹)という
魅力的な男と結婚したが、まもなく彼が財産目当てのとんでもない男であることが判明!フランソワーズは疲れ果て、離婚を考え始めていた。
そんなある日、家政婦のルイーズ(森公美子)の恋人がリシャールの代わりに投獄された弟ミシェル(益岡徹の二役)だと分かる。しかも彼は
兄リシャールと瓜二つ。フランソワーズは夫の留守中に、弁護士サルトーニ(山崎一)の目の前で弟ミシェルに兄リシャールを演じさせ、離婚
の手続きを済ませてしまおうと企む。
ところがミシェルはリシャールと正反対の性格で、臆病者でヘマばかり。さらに、離婚調停の最中に何とリシャールが予定を早めて帰ってきて
しまう!果たしてフランソワーズが仕組んだ逆転劇は成功するのか?

この芝居は2010年にル・テアトル銀座で見たことがある(上演台本、演出:G2、主演:中越典子)。

ヒロイン役の大地真央が登場すると拍手が・・・。
家政婦ルイーズ役の森公美子と大地は、話に合わせてレコードをかける。すると照明も変わったりする。
大地は相変わらず面白い。少々大げさでわざとらしいが、すべてのセリフが明瞭で、すべての動作が計算されていて的確で心地よい。
森の張りのある声が楽しい。
ラストの大団円で、ヒロインが正体を明かす時、照明が劇的に青く変わるのが効果的。
最後に大地が、歌いながら金髪の長いかつらをさっとはずして暖炉に投げ捨てるさまがかっこいいが、歌は音程が低めでなくもがな。

弁護士役の山崎一は、井上ひさしの芝居なので何度か見てきたが、今回が一番よかった。
ルイーズが看護婦に扮して登場すると、東北弁を話して別人ぽく振舞うのもおかしい。
この二人は三役やってたわけだ。

大地真央が夫に愛嬌たっぷりに話しかけ、甘えた声を出す時、たいていの男性はたまらないのではないだろうか。評者は女ながら、吸い込まれ
るような抗いがたい魅力を感じた。天性の能力だろう。こんな女優は滅多にいるものではない。
評者はかつて「ヘッダ・ガブラー」で驚嘆させられて以来、彼女のファンだ。多くの人々が追っかけるのも無理はないと感じる。
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「お国と五平」、「息子」

2016-11-02 23:11:21 | 芝居
10月11日吉祥寺シアターで、谷崎潤一郎作「お国と五平」と小山内薫作「息子」をみた(演出:マキノノゾミ)。

Ⅰ 谷崎潤一郎作「お国と五平」
武家の後家お国(七瀬なつみ)は夫の敵、池田友之丞(佐藤B作)を探すため、五平(石母田史朗)と共に仇討の旅に出て早3年。二人の心は
いつとはなしに相寄っていた。そんな二人の前に、ある日、友之丞が姿を現す。

友之丞はお国に懸想しており、憎い恋敵である彼女の夫を卑怯にも闇討ちして逃亡したのだった。

長旅を続ける身分の高い女と彼女に仕える若者。お国が「五平、お前には本当に済まない・・・」と言うと、五平は立ち上がり、明るく力強く
希望に満ちた顔と表情と声で「もったいない。私は5年でも10年でも20年でも、どこまでも奥方様にお供します」と宣言する。このセリフ、
まるでオペラのアリアのよう。若い彼の幸福感が伝わってくる。

二人が道端で休んでいると、虚無僧の尺八の音が次第に近づいてくる。それが、実は彼らが追っていたはずの友之丞だった。
次第に3人の関係が明らかになってくる。
「自分の性格が悪いのは生まれつきで、お国殿が美しいのと同じだから自分のせいではない」とうそぶく友之丞。開き直るとはこのことだ。
実は彼は、2人がこの4年の間、自分を探して広島から大阪、京、江戸・・と旅する間、ずっと彼らの後をつけてきたのだった。
熊谷での一夜、宇都宮での2ヶ月・・二人の間に起こったこともすべて宿の隣室などで見聞きしていた・・・。
早く遠くに逃げればいいのに、なぜそんなことをする?しかもなぜわざわざ自分から二人の前に現れる?
彼は臆病者で剣はからきし弱い。一方五平の剣術の腕は確かだ。命が惜しくないのか?
それはただ「お国さんの顔をもう一度見たいがため」だった・・(!)。

死ぬ間際に友之丞が五平に或ることを暴露する。それで、辺りの風景がいっぺんに変わってしまった。
女の身でありながら夫の仇討のため長く苦しい旅を続ける健気にも見上げた武士の妻・・・だったはずが、実は当時の身分の高い女としては
驚くほど性的に奔放で身持ちのよろしくない女だったということが明らかとなってしまった。
女は後ろを向いて顔を隠し、恥に崩折れそう。だが彼女が一番心配なのは、それを聞いた五平の心だ。
「恨みに思っているのではないかえ?」「これからも可愛がってくれるかえ?」
さて五平はどうするか、というと、しばしの後、明るい声で「可愛がらずしてどうしましょう」。
これで女はすっかり元気になる。もう彼女は笑いが止まらない。短刀を渡して敵の首を取るよう指示する。
二人して死体を前にこちらを向いていざ首を挙げんというところで幕。

設定は深刻だが、これは喜劇だ。
調子のいい、自分勝手な屁理屈をこねて、仇討を免れたい、いやできることならお国とまた親しくなりたい、ととんでもなく図々しいことを
言い出す友之丞。
無事夫の仇討を果たすや、次なる男が自分のかつての過ちを許してくれるかどうかだけに気をもみ、その心配がないと見るや笑顔を隠そうとも
せず、もうすっかり恋する女になりきったお国。
どちらも実におかしい。言わば仇討のパロディだ。

友之丞はまるでシェイクスピアの「リチャード三世」でリチャードがアンを口説く時のようにお国に言い寄る。
リチャードはアンの夫を殺したが、アンにそれを責められると「あなたへの愛ゆえだ」と言葉巧みにすごいレトリックを使ってまんまと言いくるめ、
復讐をやめさせるばかりか彼女のハートを射止めてしまうのだ。
だがここではそうはいかない。お国には五平という新たな恋人がいる。

お国の過ちに関しては、五平さえそれでいいなら別にいいわけだ。
作者の皮肉な目。後味はほろ苦いが、実によくできた芝居だ。

お国役の七瀬なつみが美しく愛らしい。3人の男たちの心をとらえ、特に友之丞の人生をめちゃめちゃにする運命の女だが、説得力がある。
この人は、2009年にドイツ人作家の「昔の女」というしょうもない芝居で一度見たことがある。当時から魅力的でうまかった。
五平役の石母田史朗も爽やかで一途な青年を好演。
友之丞役の佐藤B作も適役。

ラスト、フランクのヴァイオリンソナタがチェロで流れる。このセンス、好きだ。
恋に突き動かされて生きる3人のほろ苦い話には、ロマンチックな曲と渋い低弦の音色がぴったりだ。

作者谷崎は五平になりたかっただろう。それは確かだ。

Ⅱ 小山内薫作「息子」
老人(佐藤B作)の火の番小屋に若い男(佐藤銀平)がやって来る。老人は中へ入って火に当たれと勧めた。しばらく話をするうちに二人は
互いの境遇に触れる。若者は大阪へ行っていたと言う。老人の息子も大阪へ行って、久しく消息を絶っている。やがて捕吏(山野史人)が
姿を見せると、若者はなぜかそわそわし出した。雪降る一夜を温かくも切なく綴る父と子の物語(チラシより)。

現代の我々には分かり易過ぎていささか単調にも思えるが、それでもセリフがすべて生き生きしていて無駄がない。
そして息子役の佐藤銀平も老父役の佐藤B作もやはりうまい。味わい深い演技だった。今回は初の父子共演とか。その場に居合わせることが
できてよかった。   

ラストはラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。この選曲も素晴らしい。
チェロの響きが両作品にフィットしていて心地良い一夜だった。
休憩中に流れたのも、やはりチェロで、バッハの無伴奏チェロソナタ。
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