ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「渦が森団地の眠れない子たち」

2019-11-23 11:07:14 | 芝居
10月8日新国立劇場中劇場で、蓬莱竜太作・演出の「渦が森団地の眠れない子たち」を見た(ホリプロ企画制作)。

作者曰く「団地大河ドラマ」とのこと。

小4の圭一郎(鈴木亮平)は震災後、大規模な団地に引っ越してきた。その団地には母(奥貫薫)の姉(奥貫の二役)とその息子も住んでいた。
だが母と母の姉は関係がよくないため、圭一郎はこれまで自分にいとこがいることすら知らなかった。
そのいとこ、鉄志(藤原竜也)も小4。彼の父は行方不明ということだが、実は町でその姿を見たという人がおり、保険金詐欺と噂されている。
鉄志はガキ大将で、友人達に自分のことをキングと呼ばせ、エアガンで脅したり駄菓子屋でおごってやったり金をやったりして彼らを支配している。
圭一郎は彼から圭君と呼ばれ、「親戚だから」と特別扱いされる。だが圭一郎は、鉄志がこの世で一番嫌いなのだった・・・。

圭一郎の妹キッコ(青山美郷)は利発で足が速い。いつもランニングしている。実は圭一郎とは血がつながっていない。子連れ同士の再婚らしい。
団地の自治会長、安部さん(木場勝己)の部屋は子どもたちのたまり場。
時々余震が起こり、団地の人々の心に重くのしかかる。
野球をやっている時、圭一郎の打った球がティーンモデルの少女ダイアナ(太田緑ロランス)の顔に当たり、大騒ぎに。圭一郎はすぐに謝らず、
鉄志が、彼女と親しくなるために彼女の方に打て、と言ったと言う。その後ごたごたが続くが、結局鉄志はキングの座を追われ、一人に。
ダイアナと、彼女につきまとう少女のやりとり、そして二人の関係の変化が面白い。

結局、保険金詐欺がばれて、鉄志親子は団地を出て行くことになる。
子ども達は鉄志の送別会を開くことにするが・・・。

鉄志がエアガンを撃ちまくり、子供たちが逃げ惑うシーンが何度も繰り返されるのが、見ていてあまりいい気分ではない。
子供たちの関係が変化してゆくのが、リアルで面白い。
木場が伴奏に合わせてたっぷり2曲も歌うのが・・・はっきり言って、いらない。
蓬莱が井上ひさしを尊敬しているのは分かるが、劇中に歌を入れるところまで真似しなくてもいいのでは?
だが木場が演じる「安部さん」は重要。何しろ唯一の大人の男性で、この芝居に重みと温かみを与える不可欠の存在。
木場は例によって癖が強いが、その低い声がいい。
母と母の姉の二役を演じた奥貫薫が好演。一人二役で、しかも同じ舞台上で、ほとんど連続して演じるというなかなかの難役。
鉄志役の藤原竜也は、ガキ大将になりきっている。こういう役が向いているのかと思ったが、実はこの芝居は、彼と鈴木亮平に当てて
書き下ろされた由。なるほど。それで納得がいったが、それにしても蓬莱の人を見る目の鋭さと深さに改めて感銘を受けた。
役者たちはあまり有名でない人も多かったが、皆、好演。



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「オイディプス」

2019-11-06 22:36:14 | 芝居
10月7日シアターコクーンで、ソフォクレス原作、マシュー・ダンスター翻案・演出の「オイディプス」を見た(翻訳:木内宏昌)。

「父を殺し母をめとるであろう」という恐ろしい予言から逃れるため、放浪の旅に出た古代ギリシャ・コリントスの王子オイディプス。
旅先のテーバイで怪物スフィンクスを退治し同国の王となり、先王の妃を妻に迎え安寧な日々を送る。だが、ほどなくしてテーバイ中に疫病が
蔓延。オイディプスは国を救うため神託に従い先王殺害の犯人を捜すが、やがて恐るべき真実が明らかになる・・・。

古代のギリシャ悲劇「オイディプス王」を英国のマシュー・ダンスターが現代の物語として翻案した。
その初日。
舞台下手に頑丈そうな扉あり。上手は大きく開いていて通路になっている。上階があり、必要に応じて分厚いカーテンが上がり、中が見える。
中はテーバイの国王夫妻の寝室。オイディプス(市川海老蔵)と妃イオカステ(黒木瞳)が今しも事終えて衣服を身につけているところ。
下手の扉が開くとサイレンが鳴り響き、もうもうたる白煙と共に防御服に身を包んだ人々が入って来る。一人ずつ水か何かを噴射されて放射能を
洗い流されると防御服を脱ぐ。そう、この建物の外、テーバイの街は放射能に汚染されているのだ。
一階奥にガラス戸で囲まれた部屋がある(開演前そこのソファで女の子二人が遊んでいた。オイディプスとイオカステの間に生まれた娘たちだ)。

オイディプスはグレイのスーツで一人だけパリッとしてカッコいい(衣装:ジョン・ボウサー)。
彼は市民たちにせがまれ、先王ライオス殺しの犯人を知る者は名乗り出よ、とテレビで国中に放送する。その大画面が上階を覆うカーテンに
映し出される。
王妃イオカステは紺のワンピース。派手ではないがデザインがしゃれていて上質な感じ。彼女の立場と年齢にふさわしい。
盲目の予言者テイレシアスはすべてを知っている。王の前にコリントスからの使者が来て、さらに昔のことを知る羊飼いの老人が連れて来られ、
次第に恐るべき真相が明らかになってゆく。

「あの神」という表現が何度も出てきて耳障りだ、と言うか、非常に気になるし引っかかる。
アポロンのことをなぜアポロンと言わないのか。「あの神ってどの神やねん?!」と、その都度我が脳内は一時的に関西人になって
突っ込んでしまうのだった。

王妃イオカステ役の黒木瞳が圧巻。この人はいつまでも若々しく美しい人だとは思っていたが、声がまたうるおいがあって素晴らしい。
「妻が実は母だった」という今回の役はなかなかの難物だが、この人なら説得力がある。
主役の市川海老蔵は体の動きが機敏で自信に満ち溢れ、滑舌もよくオーラがある。
最後の決め手となる証言をする召使い役の笈田ヨシは、今回、あまりパッとしなかった。重要な役で、ここが物語の核心というところで
焦点がぼやけてしまい、衝撃が弱まってしまった。残念だ。
昨年の秋、三島由紀夫の「豊饒の海」では見応えある演技を見せてくれたのだが。

初日ゆえか、芝居の進行面で若干、不手際があった。
ダンス(群舞)は特にどうということはない。個人的にはあまり必要を感じなかった。

王妃が先王の死んだ時の状況を語り出すと、オイディプスは急に怯えたように顔をこわばらせる。
その後オイディプスが、かつて「三本の道が交わる所で」一人の男を殺した話をすると、今度は王妃が固まってしまうのだった。

事の真相に気づき、恐怖にかられた王妃が「この話はもうおしまい」と言うと、オイディプスは言う、「自分が誰なのか知りたいんだ」。
この心の底からの叫びのような言葉が印象的だ。人間誰だってそうだろう。だが彼の場合、それを知ることは破滅の始まりなのだった。
ああ、呪われた運命!











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