ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「シラノ・ド・ベルジュラック」

2010-12-22 16:59:52 | オペラ
12月11日新国立劇場中劇場で、フランコ・アルファーノ作曲のオペラ「シラノ・ド・ベルジュラック」を観た(東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団、指揮:時任康文、演出:馬場紀雄)。
原作はご存じフランスのエドモン・ロスタンの名作。それに曲をつけたアルファーノという人は、プッチーニの未完のオペラ「トゥーランドット」を補筆完成させたことで一躍脚光を浴びた人。今回はその日本初演。

まず出だしの音を聴いてフランス風の音だと思った。ストーリー展開も原作に忠実。

シラノ役の土師雅人が素晴らしい。ロクサーヌ役の鈴木慶江も、声、演技共にいい。

クリスチャンとロクサーヌの結婚前後は省略。残念だけど仕方がない。でないとオペラとしてはあまりにも長くなってしまう。
スペインの戦陣を勇敢にも通り抜けてきたロクサーヌには素晴らしい歌が与えられている。クリスチャンに向かって「始めは貴方の見た目の美しさに惹かれていたが、今では貴方の心を愛するようになった。たとえ貴方が醜くなったとしても愛は変わらない」と歌うシーンは実にオペラ的。ここを作りたくてこの人はこの曲を作り始めたのではないか・・と思ったが、いやいや、最後にもすごい山場が控えていた。

いつも書くことだが、クリスチャンはいい奴だ。そして作者ロスタンの筆は巧妙。
ガスコン人たちの連隊の合唱も魅力たっぷり。
クリスチャンが撃たれる直前に、日本語で「おにいちゃん、助けて!」という男の子の声が響き渡ってびっくり。後で「電気系統の故障で・・」というお詫びアナウンスがあったが・・。初演でこんなミスをやらかすとは情けない。

第4幕は中央に大木のある戸外。クリスチャンからもらった最後の手紙をロクサーヌがシラノに渡すと、もう辺りは暗くなってきたというのに彼は朗々と暗唱し出す。そのことと、さらにその声音から、彼女はついに手紙の書き手が彼だったことに気づく。しかしシラノは最後まで認めようとしない。彼の誇りがそれを許さない。彼女に笑われるのは耐えられないのだ。
それにしても14年は長い。いや何年たってもシラノの方からは言い出せなかっただろう。
二人の最後の会話には涙が止まらなかった。
この日は期待していなかった分、感激も大きかった。まだこんな曲が埋もれていたとは。しかもその記念すべき日本初演の場に立ち会えて幸せだった。客席中が喜びに沸いていた。また何年後かに観たいものだ。
これが私にとって、今年最後を飾るオペラとなった。大満足です。
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オペラ「ラ・カリスト」

2010-12-18 18:17:50 | オペラ
12月5日渋谷区文化総合センター大和田内さくらホールで、フランチェスコ・カヴァッリ作曲のオペラ「ラ・カリスト」を観た(東京室内歌劇場公演)。

日本初演。何と320年もの間演奏されず、忘れられていた作品だが、バロックオペラの傑作だそうだ。今回指揮の濱田芳通氏が編曲したが、即興が多いので、二日間の公演でも日によって少し違う由。

舞台はギリシャ神話の世界。ジョーヴェ(ジュピター)は月の女神ディアーナに仕えるニンフ、カリストを見そめ、ディアーナに化けて彼女をたぶらかしてしまう。女主人の特別な寵愛を受けたと思い有頂天のカリストは、女神に会うと親しげに振舞うが、訳の分からぬディアーナは激怒し、不品行ゆえ追放すると脅す。しかもジョーヴェの妻、女神ジュノーネが(例によって)夫の裏切りに感づき、カリストを熊に変えてしまう(まったく踏んだり蹴ったりだ・・)。一方ディアーナは冷たい処女神のはずが、羊飼いの青年の一途な求愛に心動かされ・・。

17世紀の古いオペラなのに、コミカルなシーンも多く美しいアリアもあり、退屈しない。何せ日本初演ゆえ、次に何が起こるか分からず、淫靡なシーンで客席が固唾を呑むのがおかしい(筆者も含めて)。

音楽はのどかで牧歌的な曲が多いが、リズムが軽快で心が浮き立つようだ。

歌手はカリスト役の澤村翔子とディアーナ役の松井亜季、そして羊飼いエンディミオーネ役の上杉清仁がよかった。

衣裳がカラフルで楽しい。
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「令嬢ジュリー」

2010-12-14 18:13:35 | 芝居
11月30日赤坂レッドシアターで、ストリンドベリ作「令嬢ジュリー」を観た(演出:毬谷友子)。

二人芝居に書き直したもの(台本:木内宏昌)。

昔(バブルの頃)、この芝居とは不幸な出会いをした。スウェーデンから劇団が来日し、東京グローブ座でこれをやったのだが、当時はどこの劇場にも字幕というものがなかった。彼らはスウェーデン語で上演したため私は訳が分からず、ひたすら退屈していたのだった・・。
恥ずかしながら、今回、この作品の魅力がようやく分かった。

貴族の令嬢ジュリー(毬谷友子)は、最近或る青年との婚約が破綻したばかり。夏至祭の夜、彼女は下男ジャン(谷田歩)をからかうが、野望を抱く彼は言葉巧みに彼女を自室へと招き入れ・・・。
ジャンは飽くなき上昇志向の持ち主だが、ジュリーは生い立ちや性格など様々な要因から、下に堕ちてゆく・・・。
二人は同じ屋敷に住みながら、身分も住む世界も全く違う。ところが話すうちにその二人の関係が少しずつ変わってゆく。特に小鳥のシーンを境に、声音も態度も一変するジュリー。この役をやりたくなる女優の気持ちが分かる。

ところで気になったことが一つ、夏至祭をゲシサイと読むのはどんなものだろう。ここはぜひとも「げしまつり」と発音してほしい。


コメント (2)
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「タンゴ」

2010-12-09 17:13:18 | 芝居
11月23日シアター・コクーンで、「タンゴ」を観た(演出:長塚圭史)。

ポーランド人のムロジェックという人が書いた戯曲で、1965年初演の作品。
共産主義時代に書かれた寓話劇だというが、シェイクスピアも顔負けの膨大なセリフに驚かされる。
既成の芸術・道徳・慣習に反抗する青春時代を過ごしてきた両親。母エレオノーラ(秋山菜津子)は使用人エーデック(橋本さとし)を愛人とし、父ストーミル(吉田鋼太郎)はそれを見て見ぬふり。部屋は散らかり放題。祖母エウゲーニャ(片桐はいり)と叔父エウゲーニュシュ(辻萬長)は賭け事ばかり。アルトゥル(森山未来)はそんな彼らに我慢できず、美しい従妹アラ(奥村佳恵)と「伝統的な仕方で結婚」することによって、この家に秩序をもたらそうと、彼女にプロポーズしようとするが・・・。

吉田鋼太郎が舞台奥で「全裸で」劇中劇を一人で演じるという珍しい見ものも。

祖母が主人公とその婚約者とに「祝福を与える」シーンで、祖母が二人にお辞儀をするのは変だ。普通しないだろう。

役者はみな達者な演技。膨大なセリフと格闘する森山未来は好感が持てる。

演出家がしょっちゅう舞台端に出てきて、立っていたり座っていたりするのが邪魔。

しかし「喜劇としてやる」という彼のもくろみは一応成功したと言える。

後半は突然暗くおぞましくなってゆき、ポーランドの歴史を知らないことにはなかなか理解しにくい。
従妹アラの心情だけはよく分かる。
ここで思い出したのは、シャーロット・ブロンテの「ジェイン・エア」で、St.John (発音はスィンジョン)がジェインに求婚した時のことだ。
彼はジェインを異性として愛するからではなく、彼女が丈夫な体を持っていて宣教師の妻に向いているからという理由で彼女に求婚し、承諾するのが義務だと迫る。
彼が稀に見る美貌であることもあってジェインは危うく承知しそうになるが、その時遥か彼方から愛するロチェスターの魂の叫びが聞こえてきたのだった・・・。
という訳で、スィンジョンは振られ、単身インドに宣教に赴くが、志半ばにして病に倒れる。
作者は愛を冒涜した彼を罰したのだった。
愛を求める女の場合、男が自分のもくろみに夢中になるあまり、そこに思い至らぬと、後でひどい目に合うのだ。

・・・今回は思いっきり脱線してしまった・・。
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巨大なるブッツバッハ村 --- ある永続のコロニー

2010-12-04 23:40:50 | 音楽劇
11月20日東京芸術劇場中ホールで、クリストフ・マルターラー演出の「巨大なるブッツバッハ村 」を観た。

舞台は室内のように見えるが、そこにはガレージ、ベランダ、カウンター、果ては街灯まであり、窓ガラスの向こうには事務室のような部屋も見える。どうも破産した事務所の内部らしい。家具には次々と売却済みの札が貼られ、持ち出される。俳優たちはシューベルト、ベートーヴェン、マーラーなどの歌曲やリリー・マルレーンなどのヒットソングを歌う。
そう、これは「音楽劇」というジャンルに属するそうだ。

俳優たちは歌も楽器演奏も驚くほど達者。役者が演奏しているというより、音楽家が芝居をしているのかも。

この作品はリーマンショック後の金融危機による経済破綻を描いているらしいが、私にはよく分からなかった。
大好きな「詩人の恋」やバッハの「マニフィカート」などが次々と流れるのは嬉しかったが、それは芝居とは直接関係ないようだ。
特にファッションショーが延々と続くシーンが退屈で困った。

ドイツの芝居はやはり私には向いていないようだ。ドイツ語の勉強にはなったが、これからは避けようと思う。
今までで面白いと思えたのはブレヒトの「三文オペラ」だけだから・・・。
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