ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「ローエングリン」

2018-03-26 00:08:17 | オペラ
2月24日東京文化会館大ホールで、ワーグナー作曲のオペラ「ローエングリン」を見た(指揮:準メルクル、演出:深作健太、オケ:都響、合唱:二期会合唱団)。

 領主が亡くなり、荒れるブラバント公国に赴いたドイツ国王ハインリヒは、テルラムント伯爵から訴えを受ける。それは、先代領主の遺児
ゴットフリートを、その姉エルザが殺害したというものだった。王の前に招聘された無実のエルザは何の釈明もせず、虚ろに「夢に見た騎士が
自分を救い出してくれる」と語る。
 いよいよ決闘による裁判が開かれることになり、エルザのためにテルラムントと剣を交える騎士を募るが誰も応えない。エルザが神に祈りを
捧げると夢に見た「白鳥の騎士」が現れる。
 騎士はエルザに、決して自分の名前や正体を尋ねないと約束させ、決闘に勝った際はエルザを妻にし、公国を治めると宣言する。見事決闘に
勝利した騎士はテルラムントを追放し、二人は人々に祝福される。
 だが追放されたテルラムントの妻オルトルートは、巧みにエルザに取り入り、素性の分からない騎士への疑念を起こさせる。
 婚礼の日。華やかな合唱に送られて婚礼の部屋へ入っていく二人だったが、エルザの疑念は頂点に達し、ついに「禁断の問い」を発して
しまう・・・。

第1幕
幕が開くと舞台前方に電光掲示板が!!オレンジ色でとにかく目立つ。23.59.59という数字が表示されており、そこから減ってゆく。
中央には白シャツ黒ズボンの少年が一人、天上から幾筋か白い光が差し込んでいて、彼を照らしている。近くに黒服の中年の小男が、本か何かを
抱えて立っている。時々少年の方を見る。
序曲が終わると王や貴族たちが大勢登場。上手にはノイシュヴァンシュタイン城の絵、下手にはルートヴィヒ二世の肖像画。それをさっきの小男が
裏返す。何だかいやな予感が・・・。
驚いたことに、さっきの少年がずっと舞台上にいて座って顔を伏せている。
エルザ登場。青いドレス。すると同時にすべてが青色に染まる。うーん、青は潔白の色だしなあと、この時は嬉しく思ったが。
彼女が夢に見た騎士のことを語り出すと、光り輝く鎧に身を包んだ美しい若者が現れるが、その姿は例の中年男にしか見えないらしい!
他の誰も若者に気がつかない。
黒い衣装の女たちが大勢入って来て祈る。
テルラムントの訴えは奇妙でいかにも怪しい。オルトルートは片目に黒い眼帯をして真っ黒な服に真っ黒なガウン。夫と騎士の決闘の際、彼女は
そのガウンを裏返して(中は暗い赤色)夫につけてやる。
皆が「白鳥の引く小舟に乗って・・・騎士がやって来た」と口々に言う。しばらくそれが続くので、どこから来るかと待ち構えていると、何と!
先ほどの中年の小男が、黒いジャケットを脱いで立っていて、(白シャツに金色の柄物のベスト姿)それが福井敬演じるローエングリンその人
だった!ハア??

第2幕
中央に少年がいると、天上から矢で射られた白鳥がドサッと落ちて来る。少年がそれを抱えて立ち上がる。
ルートヴィヒが下手から登場し、Lと書かれた本?を地面に叩きつけて退場。担架に乗せられた怪我人たちが運ばれて来る。皆痛さに呻いたり
一人なんか腹から腸が出てたりする。オルトルートは白いエプロンをつけているが、おなかの辺りが血まみれ。野戦病院のような光景。
彼らが去ると、テルラムントとオルトルートが残って会話。地面にいくつか十字架が立ててあり、今度は墓地のよう。
テルラムントは彼女に、剣さえあればお前を殺してしまいたい、と恨み言を言う。彼女は夫に、エルザが弟を湖に沈めたのを見た、と言ったらしい。
だがオルトルートは言葉巧みに彼を丸め込み、騎士が魔法を使って裁判に勝ったと思い込ませる。あの騎士は自分の名前と出自を知られたら力が
失せるし、体の一部を傷つけるだけでもいい、と言う。ヴォータンよ、とかフライアよ、とか北欧神話の神々の名を呼ぶ!

エルザ登場。オルトルートは同情を誘い、騎士の正体を疑わせようとするが、エルザは信じることの幸せを「教えてあげる」と幸せそうに歌う。
オルトルートは「思い上がった女、後悔させてやる」と独白。二重唱。ここは説得力がある。オルトルートの気持ちが分かる!
こうしてオルトルートはエルザと共にまんまと邸に入ることに成功。
テルラムントの仲間4人がいると、女たち(黒服のまま)が道を開けよ、と歌い、純白の花嫁姿のエルザ登場。オルトルートは暗い赤と黒の
ドレス姿。突然オルトルートは「もう我慢できぬ、お前の後ろに付き従うのは。お前こそ私の後ろに従うがいい」と本性を現す。その途端、
舞台全体が暗い赤に染まる。王と騎士登場。騎士はオルトルートに「エルザから離れよ」と言い、エルザに「惑わされたか」と聞くが、エルザは
「信じる」と答える。テルラムントがルートヴィヒの肖像画を抱えて乱入し、あの裁判はまやかしだった、素性を名乗れ、と騎士に迫るが、
騎士は、自分にその質問ができるのはエルザだけだ、と言う。エルザは悩みながらルートヴィヒの肖像画を手に座り込む。皆固唾を飲んで
見守るが、ここは何とか切り抜ける。肖像画そっくりのルートヴィヒが現れ、奥の壁が割れ、彼に導かれるように二人は歩み去る。

第3幕
エルザの元に黒い衣装のままの女たちがやって来て、花を渡す。無事に結婚式が終わってこれから初夜だというのに黒服のままなのには驚いた。
こんなのは初めて見た。フィガロの頃のような古風な衣装の男2人もいる。中央に白い薄い布に囲われた小さな青いベッド。そこから騎士が
現れるが、その格好と言ったら、もう危うく吹き出すところだった。
金ピカの衣装にど派手な黄色い羽根のついたバカでかい黄色い帽子をかぶったお姿・・・。これってコメディだったっけ?一体どうなってるのか。
上手にノイシュヴァンシュタイン城の模型のようなのがあり、途中壊れるのを、例の少年が元に戻そうとして積み上げるが、できたと思ったら
また壊れてしまう。
エルザと騎士は、初夜を前に初めて二人だけになり、喜びに満ちた言葉を交わすが、エルザは次第に不安に駆られる。自分が捨てて来たもの
は最上のものだった、と彼が言うので、あなたはいつまた私を捨ててそこに帰るか分からない・・・あなたは誰?と禁断の問いを発してしまう。
そこにテルラムントが乱入し、騎士が殺す(はずだ)が、手に剣はなく、「この死体を運んで行け」と歌うのに死体はない(こういうの本当に
イヤだ)。
男たちが武装して集まり、女たちも待つ中、騎士はなぜか鎖で縛られて連れられて来る。顔を上げると彼と分かり、皆喜ぶが、彼がテルラムントを
殺したこととエルザの裏切りを話すと皆驚く。
騎士はここで初めて自分の名前と素性を人々の前で明らかにする。
エルザは冒頭の青いドレスに戻っていて、ルートヴィヒの肖像画をずっと抱きしめている。
一年たったら聖杯の力により自由になれて、本当の姿になれたのに・・・と騎士。
別れに際し、騎士はエルザの弟がもし戻って来たら渡してほしい、と3つのもの(剣など)を渡す。だが実際にはそう歌うだけで手には何も
ない(ムカつく)。
「白鳥に引かれて」の歌で、やっと少年は皆の目に見えるようになり、中央に立つ。上から三角形の穴の開いた三角形の大きな台が降りて来て、
少年の周りにいる人々を押しつぶしそうになって止まる。騎士のセリフを字幕は「この人こそフューラー(導き手)だ」と訳す。
「ハイル(万歳)!」とわざわざ訳していることといい、これといい、ヒトラーになぞらえていることは明らか。

歌手は、主役の福井敬を始め、オルトルート役の中村真紀、テルラムント役の大沼徹、エルザ役の林正子のいずれも好演。
松井るみさんの装置と前田文子さんの衣装にはいつも感心してきたが、今回は、演出家の奇抜な意図に忠実に従ったらしく、評者には全く
面白くなかった。

演出の深作健太は、2015年にリヒャルト・シュトラウスのオペラ「ダナエの愛」の演出で絶賛された人だった。信じられない。
評者もあの時、大いに楽しんだ一人だったが・・・。考えてみれば、あれは日本初演だったから他の演出と比較できなかったし、音楽が最高
だから高評価になったのも仕方ないのかも。
今回は明らかにブーイング覚悟の暴挙だろう。
このオペラを見に来る人々が何を期待しているか、分かっている癖に、それを裏切って腹立たしい思いをさせる。
そんな必要があるのか!?

音楽はとてもよかった。それが救い。
耳にはまだ美しい旋律が残っている。

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2017年の芝居の回顧

2018-03-16 16:37:49 | 回顧
さて、今年もまた昨年の総括をしなくてはいけない季節となりました。
昨年は22作品を見ました。その中から、特に印象深かったものを挙げてみましょう。
カッコ内は特に光っていた役者さんです。


7月  怪談 牡丹燈籠    三遊亭円朝原作フジノサツコ脚本 森新太郎演出    すみだパークスタジオ倉 (太田緑ロランス、花王おさむ)                                  
                  ※脚本、演出、役者の三拍子そろって圧倒的な迫力!
         
10月 トロイ戦争は終わらない  ジャン・ジロドゥ作     栗山民也演出    新国立劇場中劇場    (一路真輝)      
                  ※いかにもフランス的な?とは言え迫力ある魅力的な大作

    リチャード三世      シェイクスピア作      プルカレーテ演出  東京芸術劇場プレイハウス    
                  ※「リチャード三世」という芝居は、ある意味、楽しんだ者勝ち!
 
    危険な関係        ラクロ原作、ハンプトン作  R.トワイマン演出  シアターコクーン   (鈴木京香)      
                  ※日本趣味な演出はさておき、実に面白い作品

11月 プライムたちの夜     ジョーダン・ハリソン作   宮田慶子演出    新国立劇場小劇場          
                  ※道具立ては変わっても、変わらないのが人間の心

    THE DEAL~取引   マシュー・ウィッテン作   松本祐子演出    シアター711     (田中壮太郎)        
                  ※小さな会場にふさわしい、実によく出来た魅力的な芝居 
   

最優秀女優賞:一路真輝(「トロイ戦争は終わらない」におけるエレーヌ役)  

最優秀男優賞:該当者なし

その他、特に印象に残った役者さんたちは次の通り。

篠山輝信・・・「チック」の主人公の少年マイク役
筑波竜一・・・「斜交」の犯人木原役
柿澤勇人・・・「アテネのタイモン」の若き武将役
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「アンチゴーヌ」

2018-03-03 13:45:39 | 芝居
1月23日新国立劇場小劇場で、ジャン・アヌイ作「アンチゴーヌ」を見た(原作:ソフォクレス、演出:栗山民也)。

アンチゴーヌは、反逆者として野ざらしにされていた兄の遺体に弔いの土をかけたことで、捕らえられてしまう。
王クレオンは、一人息子エモンの婚約者である彼女の命を助けるため、土をかけた事実をもみ消す代わりに、遺体を弔うことをやめさせようとする。
だがアンチゴーヌは兄を弔うことをやめようとせず、自分を死刑にするようクレオンに迫る。懊悩の末、クレオンは国の秩序を守るために苦渋の
決断を下すが・・・。

3年前、新国立劇場研修所の公演を見た。役者たちは全員無名だったが、皆迫力ある素晴らしい演技で、将来が楽しみな人々だった。

今回、アンチゴーヌの叔父にして王クレオン役の生瀬勝久が素晴らしい。
アンチゴーヌ役の蒼井優は期待通りの好演。

かのオイディプス王は自己の呪われた運命を知り盲目となって国を出て流浪の末死ぬ。その娘アンチゴーヌはテーバイの都に帰るが、王位を
争う彼女の二人の兄は、激しい攻防戦の間に刺し違えて死ぬ。空位となった王座には、母方の叔父クレオンがつき、厳しいお布令を出す。
町を守って戦った人々、特に彼女の上の兄をねんごろに葬った一方、攻めて来た敵方、とりわけその将である下の兄の屍は、野ざらしにして
鳥獣の餌食とするよう、哀悼も埋葬も厳禁し、これを犯す者は死に処するとまで宣告した。
クレオンは国家秩序維持のために最善の道を選んだはずだったが、たった一人の小娘の反逆のために、跡継ぎの一人息子を失い、更には
妻をも失うという思いがけない不幸に見舞われる。
彼女さえ意地を張らなければ、そんなことにはならなかったのに。
この芝居は、はっきり言ってよく分からない。
娘はなぜ、かくもかたくなに叔父に反抗するのか。言葉を尽くして彼女を説得しようとする王の方に、どうしても感情移入してしまう。
そもそも兄たちの遺体は激しい戦いのゆえに絡み合っていて、どっちがどっちの体なのか分からなかった。それで、よりきれいな方を
国のために戦った長男として丁重に埋葬し、他方を反逆者である次男のものとして放置したのだった。
それを聞くと、さすがに彼女は動揺するが、それでもなお遺体に土をかける行為に執着する。
ひょっとしてこの娘は死にたがっているのか、と疑わしくなってくるほど、その言動は奇妙で逸脱している。
婚約者エモンに対する態度も理解し難い。

そこで、手元にアヌイの本はないが、ソフォクレスの原作の和訳があるので、読み直してみた。
それでだいぶ視界が開けた。
アンチゴーヌは誇り高い王女であり、かつ生まれながらに暗い宿命を背負って生きてきたのだった。
原作の中で、彼女は叔父に向かって言う(訳は、呉茂一の訳を読み易いようにアレンジした)。
「だって別に、お布令を出したお方がゼウスさまではなし、あの世をおさめる神々といっしょにおいでの正義の女神が、そうした掟を、
人間の世にお建てになったわけでもありません。またあなたのお布令に、そんな力があるとも思えませんでしたもの、書き記されては
いなくても揺ぎない神さま方がお決めの掟を、人間の身で破り捨てができようなどと。」
「だってそれは今日や昨日のことでは決してないのです。・・・いずれ死ぬのは決まったこと、無論ですわ、たとえあなたのお布令が
なくたって。また、寿命の尽きる前に死ぬ、それさえ私にとっては得なことだと思えますわ。次から次と、数え切れない不仕合せに、
私みたいにとっつかれて暮らすのならば、死んじまった方が得だと、言えないわけがどこにあって。」
「ですからこうして最期を遂げようと、私はてんで、何の苦痛も感じませんわ。それより、もしも同じ母から生まれた者が死んだというのに、
葬りもせず死骸をほっておかせるとしたら、その方がずっと辛いに違いありません。」

つまり、彼女にとって、叔父の出したお布令よりも神々の掟の方が、権威としてはるかに上位にあるのだった。そして他の人々は、
暴君である叔父が怖いために口をつぐんで従っているに過ぎない、と彼女はそこまで見抜いている。
彼女にとって叔父はただの成り上がり者に過ぎない。彼女の父はその父親をそれと知らずに手にかけて殺し、その母親と、それと知らずに
結婚してしまった。真実を知った父は自分の両目をつぶし、母は自殺。彼らの息子二人は戦って刺し違えて死んだ。そのため母の弟である
クレオンが王国を継ぐことになったのだった。叔父の権威は言わば棚ボタで手にした権威だから、特に尊重する気にもなれないのだ。
彼女がもしも男だったら、クレオンの代わりに王に即位していたはずだし。

アヌイは短気で愚かで冷酷なクレオンを、知的で心根のやさしい魅力的な人物に変えている。
だから、アンチゴーヌの言動がやたらと反抗的に見えてしまう。
なぜアヌイが原作を、そのように大きく変更したのか、そこが知りたい。
予言者の存在も重要だが、アヌイはそこをバッサリカットしている。

蛇足だが、チラシに掲載されている人物相関図に間違いあり。
クレオンが死体を野ざらしにしたのは、長男エテオークルではなく次男ポリニスです!


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