ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

オペラ「班女」

2009-08-29 18:30:05 | オペラ
8月26日サントリー小ホールで、細川俊夫作曲のオペラ「班女」(はんじょ)を観た。
またしても日本初演!(既にフランスやドイツでは演奏されている。)
原作は世阿弥作とされる能をもとに、三島由紀夫が新たな登場人物を加え、ストーリーを大きく変貌させた作品で、三島の「近代能楽集」に収められている。
作曲家細川はドナルド・キーンの英訳に基づいて自ら台本を書いた。
休憩なしで75分で終わる短い作品。

花子は吉雄を待ち続けるうちに心を病む。女絵描き・実子(じつこ)は花子に惚れ、自宅に連れ帰って保護している。ある日、ついに吉雄が現れ、実子は花子を奪われると脅えるが、狂った花子にはもはや吉雄が分からない。あなたは吉雄ではない、と拒絶され、吉雄は失意のうちに去る。

実子役のフレドリカ・ブリレンブルクの声と演技が素晴らしい。

実子の不安、そして最後に訪れる安堵と喜びが、かえって胸に沁みて痛い。
気の毒な花子。彼女の人生はただ「待つ」ことだけ、しかもその対象は、もはや実体とかけ離れ、虚像となってしまっているから、決してその人と再会することはないのだ。そして失意の吉雄。実子はどうか?彼女の不安は消えたが、彼女の愛する人は、これからも別の人を待ち続け、慕い続け、決して彼女の方を振り向いてはくれないのだ。三者三様の苦しみ、哀しみ・・。それでも実子は「素晴らしい世界」と言う。ただ花子と共に暮らせるだけで満足なのだろうか。

三島はやっぱり面白い。もとの能のストーリーは至ってシンプルだが、そこからこういう新たな世界を紡ぎ出すとは、尋常なことではない。

オケ(東京シンフォニエッタ)の演奏は上質。
音楽は・・よく分からないが、能と三島の世界に違和感なく溶け込んでいて美しい。心地よさと、そのゆるやかなテンポに、中盤つい眠気に誘われてしまった。
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D.ハロワー作「BLACKBIRD」

2009-08-17 15:42:48 | 芝居
 8月7日、世田谷パブリックシアターでD.ハロワー作「BLACKBIRD」を観た(演出:栗山民也、翻訳:小田島恒志)。
 2007年度オリビエ賞最優秀作品賞受賞作品とのこと。

 音楽は一切ない。これは非常に珍しい。
 舞台はある会社の一室。
 若い女の突然の訪問に怯える中年男。次第に二人の過去が明らかになってくる。男は12歳の少女だった彼女と関係を持った罪で服役し、今は名前も住所も変えて生きている。
 だが彼女の方は同じ名前で同じ家に住み続け、町の人たちから白い目で見られ、友人たちを失っていた。
 ということは、彼女は復讐のためにやって来たのだろうか。

 しかし、事の真相は我々が想像していたような単純なものではなかった。
 男が異常だったと言うよりは、むしろ少女の方が異常に早熟だったのだ。
 彼女はあの日よりずっと前から男に恋していた、と言う。男と男の恋人との仲を裂こうとまでしていた、と。
 
 この場合、少女だけが被害者と言えるだろうか。
 もちろん、まともな40男なら12歳の少女の誘いに乗ったりはしないだろうから、男の側にも問題はある。
 だが事件の後、通りで彼女を見つけた男の恋人は、彼女に近づいて平手打ちしたという。つまり彼女にとって、この少女こそが誘惑者であり、加害者とまでは言えなくとも、少なくとも少女さえいなければ二人の仲は裂かれることなく、男は刑務所に入ることもなかったということなのだ。

 男と成長した少女、この二人のセリフの応酬だけで、「あの日」の情景がまざまざと浮かび上がる。このあたりのセリフの巧みさ。

 二人の愛の逃避行は、ちょっとした行き違いから失敗し、刑事事件に発展してしまう。だが、少女があと数年年取ってさえいれば、特に問題にもならず、よくある「少女の家出」に過ぎなかっただろう。

 ところで、途中で男が突然ゴミ箱の中身を撒き散らし始め、女も一緒になって部屋中ゴミだらけにするシーンがあるが、あれは一体何なのか?さっぱり分からない。イギリス人なら分かるのか??
 
 伊藤歩は声もよく、セリフ回しもなかなかうまい。舞台経験は浅いらしいが、熱演だ。内野聖陽も少女に振り回される情けない男を好演。

 終わり方はあっけなく、力が足りない。それまでは非常に面白いのに残念だ。ただ、曖昧さは大いに結構。

 蛇足だが、「クリネックス」は日本語では普通「ティシュー」もとい「ティッシュ」と言うのだから、そう訳したほうがいいのでは?

コメント (2)
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坂手洋二作「鵺(ぬえ)」

2009-08-01 16:34:34 | 芝居
 7月20日新国立劇場小ホールで、坂手洋二作「鵺(ぬえ)」を観た(演出:鵜山仁)。
 
 世阿弥の謡曲「鵺」をもとにした3部からなるオムニバス劇で、脚本は言葉のセンスがいい。平家物語に出てくる妖怪から東南アジアでの臓器売買へとつながっていく流れは少々強引とも思えるが、時代を超える普遍的なものを捉えようとする作者の目は確かだ。
 舞台は源平合戦の時代から現代へ、そして昭和、次に現代のベトナムへと移り変わる。

 始めと途中でロマンチックなピアノ曲が流れる。ドビュッシーか?

 田中裕子の声は少し鼻にかかっていて独特の美しさがある、と改めて思った。この年代で、彼女ほど「可憐さ」を表現できる女優が他にいるだろうか。しかもその表情は、瞬時に潔さ、凄みへと変化するのだ。
 実は彼女を生で観るのはこれが初めて。大竹しのぶと田中裕子、この二人は私が最も高く評価する演技派女優だが、大竹さんの方はもう何度も観ているのに、田中さんは蜷川「ペリクリーズ」のタイーサ姫そしてその娘マリーナを演じているところをテレビで観たくらいだ。あの時も可憐で美しかった。

 源頼政、火の用心の男、「村上さん」と呼ばれる元商社員を演じるたかお鷹が安定した演技を見せる。
 
 美術(堀尾幸男)がいい。舞台奥から近づいてきて、また遠ざかる小舟が印象深い。


 
 
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