9月26日俳優座劇場で、ベルトルト・ブレヒト作「セチュアンの善人」を見た(脚色・上演台本・演出:田中壮太郎、音楽:寺内亜矢子・森山冬子)。
人間が人間を搾取する架空の町セチュアン。
そこに住む男娼のシェン・テは、神様に一晩の宿を提供し、そのお礼にちょっとしたお金を手に入れる。
シェン・テはそのお金で小さな店を開くと、噂を聞きつけた知人や親戚が店に押し寄せ、居候。
困ったシェン・テは架空の人物、従兄のシュイ・タに変装。
優しいシェン・テがこさえる問題を、時折現れる従兄のシュイ・タが冷徹に解決していくのだが・・・(チラシより)。
俳優座創立80周年・俳優座劇場創立70周年・桐朋学園芸術短期大学創立60周年記念事業。
ブレヒトの有名な戯曲を初めて見た。
善人シェン・テ(森山智寛)は夜、公園で首を吊ろうとしている男ヤン・スン(八柳豪)を見つける。
ヤンはパイロットになる資格を取ったが、職がなく、絶望して死のうとしていた。
彼女は恋に落ちてしまい、金があればパイロットになれる、という彼の話を信じる。
じゅうたん屋の夫婦が金を200貸してくれる。
ヤンの母親(青山眉子)が来て、息子がパイロットになれそうだが、そのために500いる、と言う。
シェン・テは、その場でじゅうたん屋が貸してくれた200を渡してしまう。
女家主ミー・チュー(坪井木の実)がシェン・テに半年分の家賃を請求する。
シェン・テは店を売りたいと言い出す。
売った金(300)で恋人にパイロットになってもらうつもりなのだ。
だが、その後シュイ・タ(森山智寛の二役)がヤンから話を聞くと、航空会社に知り合いがいて、一人辞めさせれば、その代わりにパイロットになれるが、
そいつはベテランで落ち度がない、と言う。
どうも難しそうだ。
水売りの少年ワン(渡邊咲和)は床屋シュー・フー(加藤頼)に手を殴られ、傷つき、右手が使えなくなる。
訴えるから証人になって、とその場に居合わせた人々に頼むが、みな後ろ暗いところがあるので警察と関わりたくない、と断る。
一方、床屋シュー・フーはシェン・テに惚れる。
ヤンは、残りの300をもらいにシェン・テの元に来る。
そこにいたのはシュイ・タ。
スンは彼に「シェン・テは頭が悪い、あの女には理性なんてないんだ・・」と言う。
シュイ・タ(実はシェン・テ)はやっと男の正体に気がつく。
シン(山本順子)はシェン・テに、床屋と結婚するといい、と勧める。
シェン・テもその気になる。
床屋とヤンが鉢合わせし、そこにシェン・テが来て・・だがヤンが泣き出すと、シェン・テはすぐにほだされ、抱き起こしてキスする。
驚く床屋を置いて二人は出てゆく。
結婚式。スンは赤いスーツ。彼の母はシェン・テの従兄シュイ・タを待たなきゃ、と主張する。
シェン・テは二人に、シュイ・タは来ません、と言うのだが。
シュイ・タはなかなか来ない。(そりゃそうだ)
牧師は、次の式の時間があるから、と行ってしまう。
スンは「俺はシュイ・タと妙に気が合うんだ。あいつと俺は一心同体なんだ」と、これまた妙なことを言い出す。
牧師が帰ったので式もお流れとなり、みな帰り、スンは歌う。
<休憩>
また3人の神様が来る。
ワンと話す。シェン・テの結婚がダメになったことなど。
神様「経済のことはちょっと・・・」(笑)
他の人々が来ると、神様3人は下手に退き、ジャングルジムに登って顔を葉っぱなどの描かれた紙で隠す。
床屋は太っ腹なところを見せようと、からの小切手を切ってシュイ・タに渡し、好きな金額を書き込むようシェン・テに言ってくれ、と言う。
シュイ・タは「1万」と書く。周りの人々は驚く。
この金で店は大きくなり、シュイ・タは居候たちを雇って働かせることにする。
スンと母親も来る。
母親は「息子はもらった200を使い込んでしまいました。とんだドラ息子・・」と嘆く。
シュイ・タはスンも雇う。
彼はうまく立ち回り、現場監督になる。
突如ショスタコーヴィチの5番が鳴り響き、場面は2年後。
Shentes Coffee という銀色のライトが頭上にきらめく。
スンはシュイ・タに、コーヒーにニコチンを入れたらどうか、と密かに提案。
ある日、シュイ・タは青いスカーフを肩にかけ、口紅を塗ろうとしてシンに見られる。
シンは驚くが、口止め料の代わりに役員にしてくれ、と要求。
役員会はシュイ・タと役員2名だったが、これで計4名になる。
ここで車のブレーキの大きな音が響く。
4人での初の会議で、シュイ・タは、昨晩スンが車に轢かれて死んだ、と報告。
だが事故か事件かわからない、とも。
彼が「シェン・テに会いたい。会わせろ、でないとコーヒーにニコチンが入ってることをばらすぞ」と自分を脅していた、とも。
そして、自分は近々ここを去らなければならない、しばらくシェン・テの代わりをするつもりだったが、長くい過ぎた、とも。
みな驚いて反対するが、シュイ・タは聞かない。
シュイ・タは店の従業員たちの前に立ち、実は・・と告白。
だが皆、さほど驚かない。前から気がついていたらしい。
そこにワンと神様たちが来る。
ワンは明るい色の服を着て、ペットボトルの水をたくさん載せた車を引いている。
「湧き水を見つけて売ったら、観光客が買ってくれて、しかも高くするほどよく売れるんだ。お陰でちょっとした小金持ちになったよ」
シェン・テとワンは再会を喜び合う。
めでたしめでたしかと思いきや・・
シン「ちょっと待って!じゃあシュイ・タがシェン・テだったってわかってなかったのは私とスンとワンと神様たちだけだったっての?」
これがおかしい。
この後、死んだヤンも出て来て、シェン・テと再会したり・・
ワンが「カフェとコンビニと百均があれば・・」と愉快なことを言ったり・・
神様たちは、この世になぜ悪がはびこり、善人が報われないのですか?と問い詰められると、
困った顔をして言う。
「そうですか・・・では、これからは善も悪もありません。・・・多様性・・でしょうか。
2000年後に、また来るかも知れません。来ないかも知れません」
・・・ワンは「だって」と言って客席の上方を見上げる。
暗転の後、舞台上に「2000年後」の文字が掲げられ、みな楽しげに歌い踊る。幕。
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少年ワン役の渡邊咲和が声もよく通り、演技もうまい。
シェン・テとシュイ・タ役の森山智寛も声がいい!
神様役の3人のうち1人は危なっかしい。セリフが止まりがちでハラハラ。
他の役者さんたちは、みなうまい人がそろっていて楽しい。
ブレヒトの言いたいことはよくわかるし、この人は真面目で誠実な人だと思う。
途中、皆でこの世の不条理を神に問いかけ、歌い踊るシーンが圧巻。
神様たちが、まるで頼りなくて自信なさげなのがおかしい。
3人なのは、三位一体を表しているのだろう。
キリスト教を揶揄し、茶化し、おちょくっているけど、面白い。
今回、疑問が一つ、シェン・テは「男娼」とパンフにあり、確かに男性俳優が演じているが、
彼に求愛する二人の男は、相手を男だとわかって求愛しているのだろうか?
かつて、例えば日本では、市原悦子や栗原小巻がこの役を演じたというが?
音楽の使い方がうまくて快感。