3月19日新国立劇場オペラパレスで、マスネ作曲のオペラ「ウェルテル」を見た(演出:二コラ・ジョエル、指揮:ポール・ダニエル、オケ:東響)。
ゲーテの小説「若きウェルテルの悩み」をマスネがオペラ化したフランスオペラ珠玉の名作。
かつて演奏会形式で見たことあり。甘い音楽に魅了された。
今回ようやく本来の形で見ることができた。
若き詩人ウェルテルはシャルロットに恋心を抱くが、彼女に婚約者がいることを知り絶望する。数か月後、アルベールと結婚したシャルロットに、ウェルテルは
再び愛を告白するが、シャルロットは彼に町を去るように言う。クリスマスイブの夜、ウェルテルからの手紙に心乱れるシャルロットの前にウェルテル本人が
現れ、激しく求愛し彼女を抱きしめる。やっとの思いでシャルロットは抱擁を逃れ、永遠の別れを告げる。絶望したウェルテルは自ら命を絶つ・・・(チラシより)。
いやはや、こういうまとめ方をすると、まったく身も蓋もないが、内容は決してこんな単純なものではない。
惹かれ合う二つの魂が、現実社会のしきたりに阻まれて苦しみ、もがき、ついには自分でもどうしようもなくなるところまで追い詰められてしまうのだ。
忘れてはいけない肝心なことは、シャルロットの方も初めから彼に強く惹かれていた、ということだ。
ただし、彼女がようやく自分の気持ちを認めるのは、彼が死ぬ間際のことだが。
1幕
舞台装置がすごい。原作の挿絵そのままのような、どっしりした建物と、その奥に広がる深い森(美術:エマニュエル・ファーヴル)。
二人の出会い。ウェルテルはシャルロットと数時間を過ごし恋に落ちるが、別れ際、彼女に親の決めた婚約者がいることを知って絶望する。
2幕
教会の中庭か。時々パイプオルガンの音が聞こえる。アルベールとシャルロットが登場。二人は結婚して数か月たっている。アルベールは妻に、どんなに
感謝しているか、と幸せに溢れた歌を歌うが、シャルロットはそれに対して少し寂しげな様子。シャルロットが一人になると、ウェルテルがやって来て彼女に話しかける
が彼女は町を出るように、でもクリスマスにはまた来るように、と言う。彼女はどこまでも貞淑な妻だった。ウェルテルは再び絶望して、自殺しかない、と思い始める。
自殺は罪だが、神は苦しみから逃れて家に帰った息子を暗闇に追い出したりなさらないだろう、と歌う。
一方シャルロットの妹ソフィーは、ウェルテルを密かに愛しているのだった。
牧師夫妻の結婚50周年を祝う会が開かれている。ラストは前景でウェルテルの出発を嘆くソフィーと、「永久に去る」とウェルテルが言った、と聞いて
立ちすくむシャルロット、「彼は(私の)妻を愛している」と暗い思いを込めて歌うアルベール、後景では牧師夫妻に白い花々を投げてお祝いする人々。
3幕
アルベールとシャルロットの住む家。ソフィーが遊びに来て、「家に来てね、約束よ」と言って去る。ところがその後、ウェルテルがやって来て「ここは
昔と変わらない。家具も何もかも・・・」と言う。つまりその時、舞台はシャルロットの実家になっているようなのだ。そんなの困る。混乱するではないか。
何とかならないものか。少しの間暗転して、家具をちょっと変えるとかしてほしい。
シャルロットはウェルテルからの手紙を読んで心を揺さぶられる。そこにウェルテル本人がやって来て情熱的に愛を告白するので、彼女はつい我を忘れて
彼と抱き合う。だがすぐに気を取り直して別れを告げる。ウェルテルは立ち去る。アルベールが入って来て、ウェルテルが手紙にピストルを貸してほしい、と
書いていたので、ピストルを妻に渡し、彼女から使いの者に渡させる(!)。
3幕と4幕の間は休憩無しで暗転のみ。
4幕
ウェルテルの部屋。彼は舞台中央で、客席に向かってすでに椅子からずり落ちかけている。白いブラウスの左胸には血が。
背後に天井までの作りつけの巨大な本棚があり、びっしり本が収まっている。はしごもかけてある。これはどういうことか。図書館じゃあるまいし。
まだ若い、ただの駆け出しの詩人に過ぎないウェルテルの部屋にしては大げさでは?
かつて見た女性二人の芝居を思い出した。
2014年10月、新国立劇場小劇場で上演されたデヴィッド・ヘア作「ブレス・オブ・ライフ」。
蓬莱竜太演出、久世星佳と若村麻由美の共演だった。
あの時もやはり天井までの巨大な本棚が印象的だったが、あれは中年作家の部屋だから違和感はなかった。
シャルロット役の藤村美穂子は、歌はともかく演技にもっと工夫がほしい。
3幕で、アルベールはシャルロットに対して非常に冷たく厳しい。
2幕ではあれほど感謝していたのに。
今後どうなるのだろうか。
前にも書いたが、シャルロットはアルベールの元に戻れるのだろうか。
もはや修道院に入るしかないのではなかろうか(ついこんなしょうもないことを考えてしまう)。
かつて演奏会形式で見た時、甘美な音楽に打たれ、いつか本物のオペラ形式で見たいと思っていた。
その願いがやっと叶ったわけだが、期待し過ぎたのだろうか。
音楽にも舞台全体にも、残念ながら、さほど心動かされなかった。
ゲーテの小説「若きウェルテルの悩み」をマスネがオペラ化したフランスオペラ珠玉の名作。
かつて演奏会形式で見たことあり。甘い音楽に魅了された。
今回ようやく本来の形で見ることができた。
若き詩人ウェルテルはシャルロットに恋心を抱くが、彼女に婚約者がいることを知り絶望する。数か月後、アルベールと結婚したシャルロットに、ウェルテルは
再び愛を告白するが、シャルロットは彼に町を去るように言う。クリスマスイブの夜、ウェルテルからの手紙に心乱れるシャルロットの前にウェルテル本人が
現れ、激しく求愛し彼女を抱きしめる。やっとの思いでシャルロットは抱擁を逃れ、永遠の別れを告げる。絶望したウェルテルは自ら命を絶つ・・・(チラシより)。
いやはや、こういうまとめ方をすると、まったく身も蓋もないが、内容は決してこんな単純なものではない。
惹かれ合う二つの魂が、現実社会のしきたりに阻まれて苦しみ、もがき、ついには自分でもどうしようもなくなるところまで追い詰められてしまうのだ。
忘れてはいけない肝心なことは、シャルロットの方も初めから彼に強く惹かれていた、ということだ。
ただし、彼女がようやく自分の気持ちを認めるのは、彼が死ぬ間際のことだが。
1幕
舞台装置がすごい。原作の挿絵そのままのような、どっしりした建物と、その奥に広がる深い森(美術:エマニュエル・ファーヴル)。
二人の出会い。ウェルテルはシャルロットと数時間を過ごし恋に落ちるが、別れ際、彼女に親の決めた婚約者がいることを知って絶望する。
2幕
教会の中庭か。時々パイプオルガンの音が聞こえる。アルベールとシャルロットが登場。二人は結婚して数か月たっている。アルベールは妻に、どんなに
感謝しているか、と幸せに溢れた歌を歌うが、シャルロットはそれに対して少し寂しげな様子。シャルロットが一人になると、ウェルテルがやって来て彼女に話しかける
が彼女は町を出るように、でもクリスマスにはまた来るように、と言う。彼女はどこまでも貞淑な妻だった。ウェルテルは再び絶望して、自殺しかない、と思い始める。
自殺は罪だが、神は苦しみから逃れて家に帰った息子を暗闇に追い出したりなさらないだろう、と歌う。
一方シャルロットの妹ソフィーは、ウェルテルを密かに愛しているのだった。
牧師夫妻の結婚50周年を祝う会が開かれている。ラストは前景でウェルテルの出発を嘆くソフィーと、「永久に去る」とウェルテルが言った、と聞いて
立ちすくむシャルロット、「彼は(私の)妻を愛している」と暗い思いを込めて歌うアルベール、後景では牧師夫妻に白い花々を投げてお祝いする人々。
3幕
アルベールとシャルロットの住む家。ソフィーが遊びに来て、「家に来てね、約束よ」と言って去る。ところがその後、ウェルテルがやって来て「ここは
昔と変わらない。家具も何もかも・・・」と言う。つまりその時、舞台はシャルロットの実家になっているようなのだ。そんなの困る。混乱するではないか。
何とかならないものか。少しの間暗転して、家具をちょっと変えるとかしてほしい。
シャルロットはウェルテルからの手紙を読んで心を揺さぶられる。そこにウェルテル本人がやって来て情熱的に愛を告白するので、彼女はつい我を忘れて
彼と抱き合う。だがすぐに気を取り直して別れを告げる。ウェルテルは立ち去る。アルベールが入って来て、ウェルテルが手紙にピストルを貸してほしい、と
書いていたので、ピストルを妻に渡し、彼女から使いの者に渡させる(!)。
3幕と4幕の間は休憩無しで暗転のみ。
4幕
ウェルテルの部屋。彼は舞台中央で、客席に向かってすでに椅子からずり落ちかけている。白いブラウスの左胸には血が。
背後に天井までの作りつけの巨大な本棚があり、びっしり本が収まっている。はしごもかけてある。これはどういうことか。図書館じゃあるまいし。
まだ若い、ただの駆け出しの詩人に過ぎないウェルテルの部屋にしては大げさでは?
かつて見た女性二人の芝居を思い出した。
2014年10月、新国立劇場小劇場で上演されたデヴィッド・ヘア作「ブレス・オブ・ライフ」。
蓬莱竜太演出、久世星佳と若村麻由美の共演だった。
あの時もやはり天井までの巨大な本棚が印象的だったが、あれは中年作家の部屋だから違和感はなかった。
シャルロット役の藤村美穂子は、歌はともかく演技にもっと工夫がほしい。
3幕で、アルベールはシャルロットに対して非常に冷たく厳しい。
2幕ではあれほど感謝していたのに。
今後どうなるのだろうか。
前にも書いたが、シャルロットはアルベールの元に戻れるのだろうか。
もはや修道院に入るしかないのではなかろうか(ついこんなしょうもないことを考えてしまう)。
かつて演奏会形式で見た時、甘美な音楽に打たれ、いつか本物のオペラ形式で見たいと思っていた。
その願いがやっと叶ったわけだが、期待し過ぎたのだろうか。
音楽にも舞台全体にも、残念ながら、さほど心動かされなかった。