ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

マメット作「オレアナ」

2015-12-27 22:51:57 | 芝居
11月9日パルコ劇場で、デイヴィッド・マメット作「オレアナ」をみた(演出:栗山民也)。

1992年の初演後、全世界で上演が続く傑作2人芝居。アメリカ演劇界の鬼才デイヴィッド・マメットの代表作(チラシより)。
昇進目前の大学教師ジョン(田中哲司)の研究室に訪ねて来た女子学キャロル(志田未来)は、授業についていけない、どうか単位を取らせてほしいと
懇願する。後日、ジョンはセクハラで訴えられ、立場は逆転してゆく…。

<1幕>
舞台の床は全体に左に傾いている(美術:松井るみ)。教授の研究室。抽象画が1つ。電話がひっきりなしにかかってくる。妻からと男の友人から。ジョンは「終身在籍権」を得られそうなので、それを機に新しい家を買おうとしているが、契約上厄介な問題が生じているらしい。
キャロルは授業中のみんなの議論について行けないと訴える。ジョンは、レポートがひどいのでいい点をつけられないと言う。彼女はその授業の単位をどうしても落とすわけにはいかないから何とか助けてほしい、と懇願する。
途中、彼女は何度か諦めて帰ろうとしたので、彼女から逃れるチャンスはあったのに、彼は親切心と責任感から彼女を引き留め、自分の若い頃の話などをして、何とか彼女を理解しようとする。彼は親切にも彼女のために一対一で特別授業をしてやろう、と提案。「何回かやったら今学期の君の成績はAだ」と言う。どうしてそこまでしてくれるの?と尋ねる彼女に「君が好きだから」と答える彼。「ハァ~?」と衝撃を受ける彼女。

ここまで見ての感想は「どう見てもキャロルはおかしい」。

<2幕>
1幕後、キャロルがジョンをセクハラで訴えたことが彼のセリフから分かる。キャロルは青いカーディガンに黒っぽいスカート。教授は背広。
キャロルは1幕とはがらりと変わってすっかり落ち着き、自信たっぷり。1幕ではおどおどし、教授の使う専門用語がどれも理解できず、「助けて!」
と泣き叫んでいたのに、「君を救いたくて」と彼が言うと、「誰がそんなこと頼みました?」と言う。明らかに矛盾していると思うが。
「私の仲間たち」と彼女は言う。1幕では1人も友人がいないように見えたが、性差別主義者として彼を訴えたことで同じ大学の女子学生たちの
賛同を得たのかも知れない。
彼の側も不用心だった。時代の変化について行けない(気づいてなかった)こともあるが、女子学生と2人きりで部屋にいること自体危険だと
いうこと、自分が圧倒的な権力を持つ側だということをわきまえておくべきだった。結局彼はこれまで築いてきたものすべてを失うことになる…。

彼女の言い分にももっともな点はある。始終メモしている彼女のノートには、彼が何月何日に女子学生に性差別的発言をしたかが記録されていた。
肝心なことは、彼が何をしたかでなく、彼女がどう感じたか、ということなのだろう。
これは中国や朝鮮半島の人々と日本との関係にも通じることだ。

キャロル役の志田未来がすごい。熱演と言っていいだろう。初めて見たが、うまい。
教授役の田中哲司ももちろんうまい。この人は8月に新国立劇場でやった2人芝居「RED」の上演中に、この芝居のセリフを覚えたという。
そんなことができるのか?!どちらもかなりのセリフの量だが、中身が全く違うから可能なのかも知れない。

タイトルの意味は?てっきり女子学生の名前かと思ったが、彼女はキャロルと呼ばれているし…?

前半と後半のキャロルがまるで別人のようなのが解せない。そこが説明不足で、唯一残念な点だ。
マメットと言えば、「グレンギャリー・グレンロス」というすごく面白い芝居を書いた人だ。この作品も、上記のような弱点はあるものの、
迫力ある2人芝居で、観客を全く飽きさせない。
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マーロウ作「フォースタス」

2015-12-21 00:44:11 | 芝居
10月20日東京芸術劇場シアターウエストで、クリストファー・マーロウ作「フォースタス」をみた(演劇集団円公演、上演台本・演出:鈴木勝秀)。

フォースタスとはファウストの英語読みで、ヨーロッパに古くからある伝説上の人物の名。ゲーテの「ファウスト」が有名だが、これはシェイクスピア
の頃のイギリスの劇作家マーロウによる作品。
フォースタス博士は学問に身を捧げてきたが満たされず、好奇心から魔術の研究を始め、悪魔メフィストフィリス(メフィストフェレスのこと)を呼び出す。すると大魔王ルシファーとベルゼバブも現れ、擬人化された七つの大罪(傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、大食漢、怠惰、色欲)も次々に出て来る。ついに彼は悪魔と契約を結び、24年という契約期間中、あらゆる快楽をむさぼる。ドイツ皇帝カールがアレキサンダー大王とその恋人に会いたい、と言うと、そっくりのスピリットを出してやったり、ヴァンホールト公爵夫人が真冬の1月にぶどうを食べたいと言えば出してやったり。絶世の美女トロイのヘレンを呼び出したり。自分を侮辱した人間を動物に変えたり。だが契約の時が迫るにつれ、彼は悔恨、恐怖、絶望に捕えられ、最後には雷鳴轟く中、地獄へ連れ去られる。

1時間45分の芝居に仕立ててあるが、その中に原作とはまるで関係ないシーンやセリフが挿入されている。「枯れ葉女子」のシーンと「ラジオ体操
第3」のシーン。これらが残念ながら全然面白くない。ただの一人よがりで、観客を甘く見ているとしか言いようがない。
昨年見たベン・ジョンソンの「錬金術師」の時も同様のことが起こったが、あの時、客席の反応がいいと思ったのだろうか。

場と場のつながりがぎこちなく、白ける。

ちなみに衣装は紙製とか黒いゴミ袋とか、超安上がりなもの。
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「ヴェローナの二紳士」

2015-12-11 22:08:10 | 芝居
10月12日彩の国さいたま芸術劇場で、シェイクスピア作「ヴェローナの二紳士」をみた(演出:蜷川幸雄、オールメールシリーズ)。
その初日。

ヴェローナの紳士ヴァレンタイン(高橋光臣)は修学のためにやって来たミラノで大公(横田栄司)の娘シルヴィア(月川悠貴)と恋に落ち、駆け落ち
を画策する。ところが後からやって来た幼馴染のプローティアス(三浦涼介)も彼女に一目惚れしてしまう。そこへ遠く離れた故郷から恋人プローティアスを追ってジュリア(溝端淳平)までもが現れる。道中、身の安全を守るためセバスチャンと名乗って男装していたジュリアは、あろうことか恋人に従者として雇われてしまい…。

幕が開くと舞台は前の方が全面鏡張りとなっていて、そこに客席が映っている。その狭い空間が西洋の家具で一杯(美術:中越司)。
上手に楽士が2人。チェロとマンドリン奏者。

ジュリア役の溝端淳平が美しい。ただ舞台は初めてなのか、セリフの語尾が時々消えてしまうのが惜しい。

ヴァレンタイン役の高橋光臣は、途中でセリフを忘れ、何度も言い直した挙句、満面の笑みで「ちょっと頭の中を整理して来る」とか言って下手に引っ込んで出直す有様。初日だからか。それにしても大した度胸だ。が芝居は下手。
特に前半の召使いスピード(大石継太)とのやりとりは、間が空いて芝居になっていなかった。

ジュリアがプローティアスからの手紙を、侍女の手前、わざと破って床に落とし、ためらった後それでもやっぱり拾おうとすると、黒子が小さい扇風機を回して吹き飛ばそうとするのがおかしい。
ランスは道化のまだら服を着て白い犬を連れて登場。その犬クイールが傑作。始終ランスの腕に食いつき、帽子をくわえ、体に飛びかかり、ちっともじっとしないで客席を沸かせる。

シルヴィアの求婚者シューリオ役の河内大和が面白い。ラスト、ようやくシルヴィアを諦めるが立ち去るわけでもなく、他の山賊たちの真似をして木の枝や葉をかぶって茂みのふりをするのもおかしい。

ヴァレンタインと召使いは森に入り、茂みに向かって放尿する!水が出てきてそれを山賊が浴びてしまう。

マイナーな作品だが、十分面白く、観客にもちゃんとウケていたのは誠にめでたい。

音楽(阿部海太郎)も久々によかった。最近蜷川さんの演出に対しては文句ばかり書いているが、今夜は楽しかった。



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オペラ「オリンピーアデ」

2015-12-01 10:49:19 | オペラ
10月6日紀尾井ホールで、ペルゴレージ作曲のオペラ「オリンピーアデ」をみた(セミステージ形式、演出:粟國淳、オケ:紀尾井オペラ・アンサンブル)。

紀尾井ホール開館20周年記念バロックオペラ。
日本初演。全3幕を2部に分けて上演。

古代ギリシャの都市国家シチョーネの僭主クリステーネの娘アリステアはアテネの青年メガークレと愛し合っていたが、父クリステーネは結婚を許さず、メガークレは失意の内にクレタ島に行く。そこで王子リーチダに命を救われ、二人は揺るぎない友情を築く。
リーチダはアルジェーネという娘と密かに婚約していたが、父であるクレタ王は身分違いの結婚を許さず、アルジェーネは祖国を捨ててエーリデへと逃げてしまう。その地で彼女は身を隠すため、羊飼いの服を着てリーコリと名を変えて暮らしていた。
エーリデでは4年ごとにギリシャ全土から参加者が集うオリンピックの祭典競技が開催されていた。リーチダは悲しみを紛らわせようと、これに参加することにする。そこにシチョーネの僭主クリステーネがやって来て、優勝者に自分の娘アリステアをめとらせると決める。
リーチダはアリステア姫を見て恋に落ちてしまう。(かつて愛したアルジェーネを忘れている。)だが自分には戦いの経験がなく優勝には程遠いと感じる。そこで優勝経験のある親友メガークレを自分の身代わりとして戦わせることを思いつく。だがもちろんリーチダは、メガークレが昔アリステアと愛し合っていたことなど知る由もない。友からの強い願いでメガークレもエーリデの地に向かう…。

驚くなかれ、これはこのオペラのあらすじではない。このオペラが始まる前に起こった出来事なのだ!
リーチダへの友情から競技に出場する英雄的なメガークレ、愛情深いアリステア、不義と打算の人リーチダ、そして寛大で貞節を守るアルジェーネらが織りなす人間模様のドラマが展開する。

作曲家は26歳でこれを作り、27歳で早世したという。まさに天才だと思う。
ストーリーはシェイクスピアの「ヴェローナの二紳士」に似ている。2組のカップルが紆余曲折の末に結ばれる話だがその4人が全員女性という
のは…!?当時(バロックと古典の狭間の新古典の時代)カストラートが全盛だったらしいが。

チラシを読んだ時は、女性が一人で家を捨て祖国を捨てて旅に出る、というのはあまりにも危険なのでは?と思ったが。

D dur で明るく軽快に物語られてゆく。いわゆる貴種流離譚。

メガークレがリーチダから身代わりの出場を頼まれ、悩んだ末、親友のために恋人を諦める決心をし、「アリステアに会わないようにしないと。会ったらどうなるか自分でも分からない」と言っていると、すぐにアリステアがやって来て再会してしまうシーンが面白い。

リーチダは女二人から憎しみの言葉を浴びせられ、秘密をバラすと脅され、困ってメガークレに相談しようと思っていると、そこに彼の死の知らせが届く。畳みかけるような展開が素晴らしい。

メガークレが死んだと偽ってリーチダに反省させるという点は、これまたシェイクスピアの「冬物語」に似ている。

ズボン役の2人も、始まってみると全く違和感がない。
メガークレが絶望のあまり川に身を投げ自殺したという知らせを聞いて、リーチダは八方塞がりとなる。片思いの相手には呪われ、元カノからは、すべてを王にバラすと脅され、頼みの親友が死に、神の怒りが自分の身に降り注ぐのを感じ、恐れおののく。

ここから第2部。
アリステアはメガークレが秘密を打ち明け、別れを告げると嘆き悲しんで倒れる。メガークレは彼女をリーチダに託して去る。
リーチダに介抱されて気がついたアリステアは、リーチダが名乗ると「全部あなたのせいよ!」と怒りのアリアを歌う。思いがけぬ言葉に面食らうリーチダ。このアリアは爽快。評者など嬉しくて涙が出た(笑)。

自暴自棄のリーチダは王を襲って捕らえられるが何も語らず、「この不幸な若者に居合わせた人々が同情した」と王の家来が報告する。このアリアが思いがけず美しい。もう一度聴きたい。

リーチダの顔を初めて見た時、王は早くも驚きと戸惑いを見せる。
リーチダがかつてアルジェーネに与えた宝石が決め手となり、かつて神託により、アリステア姫と共に生まれた双子である彼を海に流せと告げられ、そうするようにと命令を受けたが、果たせず、海岸で見知らぬ異邦人に託した、と王の家来が告白(ここも「冬物語」などに似ている)。その赤ん坊は生後すぐ死んだ王子の代わりにとクレタ王に献上され、養育されてきたと分かる。
彼の罪を許すかどうか、最後は民の判断に委ねる、と王。

リーチダは処刑される前に、何か願いは?と問われ、友人に会わせてほしいと言う。メガークレが来ると、リーチダは「君が生きていてくれてよかった。一言だけ言う、生きろ、死ぬな」と。ここでも泣かされた。王子ハムレットが死ぬ前に親友ホレイショーに言うセリフそのままだ。

とにかく歌手陣がすごい!澤畑恵美、向野由美子、林美智子、幸田浩子、望月哲也、彌勒忠史、吉田浩之。全員の素晴らしい歌唱力に酔いしれた。
セミステージ形式はあまり好きではないが、今回全く違和感なく、ストーリーに没入できた。ペルゴレージの音楽と歌手陣のお陰だろう。
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