ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

清水邦夫作「楽屋」

2010-04-30 22:09:12 | 芝居
先日TVで、2009年5月シアタートラムにて上演された清水邦夫作「楽屋」を観た(演出:生瀬勝久)。

残念ながらチケットが取れなかったので、劇場では観られなかったもの。

かすかにピアノ曲が流れ、ロシア語らしい言葉を語る男女の声が聞こえてくる。
役者は4人、女優A:小泉今日子、同B:渡辺えり、同C:村岡希美、同D:蒼井優。

女優AとBは舞台上手の机の前に陣取り、いつ終わるともなく訳の分からないメイクをしている。次第に状況がはっきりしてくる。どうも二人の姿は女優Cには見えないらしい。Aは首に、Bはこめかみにそれぞれひどい傷がある。

渡辺えりは昔から男の役が得意だったが、ここでもチェーホフの「かもめ」のトリゴーリンを演じてみせ、面白い。メリハリがくっきりしていて実にうまい。

蒼井優は声を初めて聞いたがなかなかいい声だ。

小泉今日子と渡辺えりがそれぞれマクベス夫人を演じてみせるが、世代がかなり違うという設定なので二人が覚えている訳が違う、というのがおかしい。

素のセリフかと思って聞いていると、実はいつの間にか一人で芝居の稽古を始めていたらしい、というのもおかしい。

最後は「三人姉妹」のラストで締める。
ただ、チェーホフの珠玉のようなセリフを粗雑に口にしないでほしいような気もした。特にニーナのセリフはきらめくような、と同時に胸を打つ痛々しいセリフなのだから、もっと大事にしてほしい・・・これは役者でなく作者に言うべきことだが。
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蜷川版「ヘンリー六世」後編

2010-04-20 00:13:15 | 芝居
お待たせしました。3月30日に埼玉で観た「ヘンリー六世」ですが、途中で息切れしちゃってしばらくお休みしてました。

後編は、薔薇戦争のさなかに、ヨーク公の末息子である幼いラットランドが殺されるシーンから。
彼の父ヨーク公がクリフォード卿を殺したというので、息子のクリフォード(名前が同じなのでややこしい)が仕返しに彼を殺そうとする。彼は幼いながらも殺されまいとして言葉を尽くして哀願するが、相手は聞く耳持たず、とうとう殺される。その時彼は言う、「これがおまえの運命の絶頂であるように!」と。そう、丸腰の子供を卑怯にも殺そうとする敵に対して、子供はただその男を呪うことしかできない。だが、呪うことだけはできるのだ。それがこの子にできる唯一の仕返しだが、子供だからと馬鹿にしてはいけない、その呪いはまもなく成就するのだ。子殺しのクリフォードには全く同情の余地はなく、こいつが殺される時はむしろほっとするくらいだ。これぞまさしく「天網恢恢疎にして漏らさず」ではないか。というわけで、ここのラットランドの最後のセリフは省略しないでほしい。
それから、子役が慣れないらしく早口になってしまっていた。これは演出家が直してやるべきだ。ここだって大事な見せ場なのだから、雑に扱わないでほしい。

ヘンリー六世は清純でいつも穏やかで争いを好まぬ人格者だが、こうした美点もあの時代にあってはすべて裏目に出る。戦闘で優位に立った白バラのヨーク側に退位を迫られると、「私が生きている間は王にしておいてくれ」と信じられないような情けない申し出をして、王を守ろうと周囲を取り囲んでいた忠臣たちを唖然とさせる。彼らはその場で弱気な王を見限り、口々に捨てゼリフを吐いて、もっと頼もしい王妃のもとへと去ってゆく。

第3部第2幕第2場で、赤バラ白バラ双方が対立して激しく言い合った後、ヨーク側が怒って立ち去ろうとすると、マーガレットが「お待ち、エドワード!」と言うはずだが、このセリフがなかった。ここは大事なポイントなのだが・・・。つまり、この女の言葉が過ぎて両者の歩み寄りが不可能になったということの、このセリフは象徴なのだ。この時彼女がもう少し思慮深く話をしていたら、あるいは息子を殺されはしなかったかも知れず、彼女の運命も変わっていたかも知れないのだから。

キングメーカー、ウォリック役の横田栄司は声がいい。
暴徒の首領ジャック・ケード役の山本龍二はどこかで見たと思ったら、井上ひさし作「組曲虐殺」で警官をやった人だった。一度見たら忘れられないアクの強い顔でもあり、はったりの利いた演技も的確でケードは適役だった。

二組の息子と父のシーンで、それぞれの最後のセリフ、「おふくろが聞いたら・・」「女房が聞いたら・・」が省略されたが、これもほしい。

大竹しのぶは最近、単語のつど息を吸ってアクセントをつけて発声する癖がついたようだ。そこがちょっと気になるが、声はよく通るし、演技力はもちろん申し分ない。乙女ジャンヌが悪霊たちと会うシーンでは、悪霊たちが省略されたので舞台にたった一人で、ただ照明が少し変化するだけという中で悪霊たちとの交信を表現する。演出家は言わば彼女に丸投げしたわけだが、彼女はその信頼によく応えて場を一人で持ちこたえる。他の女優だったらこんな風に丸投げできるかどうか。また、淫乱な魔女ジャンヌとして火刑に処された直後マーガレットとして登場し、サフォーク伯爵(池内博之)に一目惚れされるが、ここでは可憐で初々しい。こんな芸当が他の誰にできるだろうか。

第5幕の大詰めで、一人息子を殺されたマーガレットが「私も殺して!」と叫び、リチャード(高岡蒼甫)が「ああ、いいとも」と近づいて刀を構えたその時、長兄エドワード(長谷川博己)が「待て」と止める、その息詰まるシーンの間合いがうまく行かなかった!まずマーガレットのセリフが少し聞こえにくく、リチャードのセリフも歯切れが悪くタイミングが合わなかった。こんなことがあるのか。

この後マーガレットが息子エドワードの仇であるヨークの兄弟たちをののしり嘆くと、ヨーク側のエドワード(ああ、ややこしい!)は壁にもたれて腰を抜かしてしまう。なぜ?彼女の迫力に気おされたか。

最後はまた肉片が落ちてくるに違いないと思っていたら、案の定・・・。

6時間に短縮したといっても上手にカットされているので不自然な所がないのはさすが(構成:河合祥一郎)。ただ、これまで述べてきたように小さな箇所でいくつか不満はある。

半年のうちに2種類の「ヘンリー六世」を観ることができ、ついあれこれ比較してしまった。それにしてもこれほど面白い芝居があるだろうか。しかも大筋は実際に起こったことなのだから、驚く他ない。おなか一杯、ご馳走様。



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蜷川版「ヘンリー六世」前編

2010-04-09 23:19:01 | 芝居
3月30日彩の国さいたま芸術劇場で、蜷川幸雄演出「ヘンリー六世」を観た。

舞台のあちこちに血溜まり。それを拭き掃除する掃除婦たち。ヘリの音。機関銃の音。しまいに頭上から肉片(のつもりの、でかいハンバーグの種みたいなの)がボトッボトッと落ちてくる。これも掃除婦たちが片付ける。それから赤バラ、白バラの花びらもどんどん落下。

やがて静かな音楽。壁に教会のステンドグラスの影が映し出される。
亡きヘンリー五世の棺を囲む諸卿たちは、ものすごいスピードでまくし立てるのでセリフが聞き取り辛い。怒鳴り合いのセリフは特に聞こえない。いつも言うことだが、誰かに客席に座ってもらって台本を渡し、聞こえないセリフに赤線でも引いてもらえばいい。それを参考にして、ちゃんと客席に聞こえるよう練習してほしい。芝居、特にシェイクスピアの芝居はセリフが命なのだから。

ヘンリー六世は何と子役!
グロスター公爵の家来たちが青い服、ウィンチェスター司教の家来衆がその青に合う茶色い服なので、双方の小競り合いは色彩的に実に美しい(衣裳:小峰リリー)。

ジャンヌ・ダルク役の大竹しのぶ登場・・・やはり10代の娘は少し難しいか。下品な声丸出しだが、乙女ジャンヌは田舎娘だし、後半マーガレット姫に変身しないといけないのだから当然の戦略だろう。

舞台後方にも客席を設け、その上方に階段と細長い空間を作ってうまく使っている。

ジャンヌ処刑の時の衣裳の青い色が実に美しい。絵画によくある色だ。
処刑台の上にわらのようなものが積まれ、本物の火のついたたいまつを掲げた兵士が2人出てきてびっくり。ちょ、ちょっと待って、そんなもの、危ないでしょ、とうろたえたが、うまくできていて、点火後しばらくすると煙がどんどん出てジャンヌの姿を隠す。

戦闘シーンのたびに肉片落下・・・演出の蜷川さんは観客の想像力を信じていないのだろう。そんなことする必要ないのに。

成人したヘンリー六世(上川隆也)はフランスからマーガレット(大竹しのぶ)を王妃として迎えるが、この結婚に反対する貴族たちの気持ちをまるで分かっていない KY ぶり(演出はそこをうまく強調する)で客席の失笑を買う。

グロスター公爵の恋女房エリナー役の立石涼子は声がよく、安定した演技。しかしエリナーにはもう少し背丈がほしい。その点ちょっと惜しい。それと、非常に家柄のいい(王の血を引く!)女なのだから、どんな時も上品さを失ってはいけない。

エリナーと巫女たちの場・・・3人の頬かむりした女たちが丸くなって懐から何と大きなぬらぬらした(ような)魚を取り出して呪文を唱える。

マーガレットは舞台の端にいるエリナーに向かって「そこの女、扇を取って」と命じる。これは不自然。なぜもっと近くに立たせておかないのか。

薔薇戦争を引き起こした白薔薇側のヨーク公の主張する王位継承権は、日本的に言うと「女系」なのだが、日本と違ってイングランドではそのことは全く問題にならない。何せ現代に至るまで女王を何人も輩出してきた国だから。

音楽はパイプオルガンやヴァイオリンソロの曲など。
ヘンリー六世役の上川隆也は初めて観たが、昨秋同じ役を演じた浦井健治より遥かにうまい。こちらは根っからの俳優なのだから当然か。

まだまだ続くが、あとは次回ということで。乞うご期待!










コメント (3)
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