ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

サルトル「汚れた手」

2013-06-28 22:22:34 | 芝居
6月3日俳優座劇場で、サルトル作「汚れた手」をみた(劇団昴公演、演出:森新太郎)。

狭い舞台のほとんどを大階段が占めている(美術:伊藤雅子)。

出所してきたユゴー(中西陽介)に黒いパンツスーツの女オルガ(高山佳音里)がピストルをつきつける。ユゴーの後をつけて
きた男たちが彼を殺そうとするのをオルガは止め、今夜12時まで猶予をもらう。
ユゴーは彼女にこれまでの経緯を話し始める。1943年、21歳の彼は党に入り、新聞を作って発行していた。金持ちの
御曹司で博士号を持つインテリで、直接行動に憧れていた。党では「ラスコーリニコフ」と自称。その若さで既婚。
妻ジェシカ(染谷麻衣)は夫をからかってばかりで、常にふざけた態度しか取れない。
彼は党内抗争に身を投じ、エドレル(水野龍司)暗殺の役を自ら買って出る。秘書として彼に接近するが、相手は思慮深く、
豊かな人間性を備えた魅力的な男だった・・・。

フランスが舞台かと思ったが違うようだ。「ドイツ軍がハンガリーに行くのにこの国を通って行く」というセリフあり。
どこか東欧の国のようだ。
エドレルはホテルの一室に住み、3人の護衛が銃を手に二六時中監視している。そこに新しい秘書として妻と共にやって来た
ユゴーは、所持品検査を拒否したことをきっかけに、護衛たちといざこざを起こす。同じ党員とは言え、彼と彼らとは、生い立ち
が全く違ったし、貧富の差があり過ぎた・・。

エドレルの人間的な魅力は圧倒的。戦争中とて、党内で意見の異なる者を暗殺することが日常的だったが、彼はそんな時代に
ありながら、自分を暗殺しようとした若者ユゴーのプライドを傷つけないように気をつけてやり、彼を送り込んだ男ルイと
話し合おうとする。常に冷静さを失わず、「話せば分かる」と考える。

結局暗殺は未然に防げたかに見えたが、意外なところに盲点があった。
まず、凶器のピストルを部屋の中にそのまま置いておいたこと。次に、ユゴーと同じ位、いやそれ以上にジェシカもまたエドレル
の魅力にひかれてしまったこと・・。

ユゴーの心理は分かり易いが、彼と妻ジェシカとの関係がよく分からない。

ユゴー役の中西陽介は熱演だが、体の動かし方が少し過剰。
エドレル役の水野龍司が素晴らしい。この役は実においしい役なので、役者なら誰でもやりたいことだろう。
ジェシカ役の染谷麻衣は大胆な若い女を好演。

サルトルも中年の頃、エドレルのように若い女にもてただろうな、とふと思った。




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井上ひさし作「うかうか三十、ちょろちょろ四十」

2013-06-16 23:42:00 | 芝居
5月21日紀伊国屋サザンシアターで、井上ひさし作「うかうか三十、ちょろちょろ四十」をみた(演出:鵜山仁)。

井上ひさし24歳の幻のデビュー作の由。

お侍医(小林勝也)をお供に村をお忍びで歩いていた殿様(藤井隆)は、美しく働き者の娘ちか(福田沙紀)に一目惚れ。
だが気が小さくてなかなか思いを打ち明けられない。ようやく打ち明けると、権ず(ごんず)という大工と所帯を持つことに
なっている、とあっさり振られ、がっくりして城に帰る途中、嵐に会い正気を失う。
それ以後2人(殿と侍医)は、村を回り、病気の人を見つけては、診察すると称して体を見、どこも病気ではない、健康体だ、
と告げて人々の喜ぶ顔を見て喜んでいた。
ちかの夫となった権ず(鈴木裕樹)は結婚後1年もしないうちに胸の病に倒れ、以来8年間寝たきり。
そこに現れた2人がどこも悪くないと言うので、権ずもすっかりその気になり、夫婦はひと時喜び合う。明日からうんと働くぞ、
と言っていると、侍がやって来て、先ほどの2人連れは気がふれていて病気の人をつかまえては病気じゃないと言う・・と
告げるので、権ずはがっくり。また元に戻ってしまう・・・。
次に2人が村にやって来た時にはちかも権ずも亡くなっており、2人の娘れい(福田沙紀の二役)が母親と同じように歌を歌い
ながら働いていた・・。

うむ、何と言うか、変わった話だ。
まず「村の殿様」はおかしい。村なら名主さまだろう。

自分の子供である「おれい」を母ちかも父権ずも「あのわらし」と呼ぶのはどういうわけか。

殿様はなぜ20年もの間記憶を失うのか。その間侍医も彼の奇妙な行動につき従うのはなぜか。

東北弁は楽しかったが、これまで上演されなかったのも無理はない。

庶民の側にとことん立つ作家の心意気は十分伝わってくるが、んだども後味はあんまし良ぐねえなっす・・・。

東北弁の魅力が味わえたのと、帰りに山形のお米「つや姫」を一人150gずつもらえたのはよかったけど。



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寺山修司作「レミング」

2013-06-09 22:55:17 | 芝居
5月14日パルコ劇場で、寺山修司作「レミング」をみた(上演台本:松本雄吉・天野天街、演出:松本雄吉)。

これは没後30年を迎えた寺山修司の「天井桟敷」の最終公演だった作品。

冒頭、男2人が客席に向かって座り、中華料理の名を列挙、しかも早口で交代で。相当練習しただろう。

一群の人々が簡単な打楽器に合わせてリズミカルに行進する。時々リズムが変わる。

2人のコック見習いの男が住むアパートの部屋に、突然隣室の男女がいる。間の壁がなくなったのだ。
男は病気で女が看病している。コック見習いの男は壁をもう一度作ろうとするが・・。

突如、ビデオカメラやマイクなどを持った人々がやって来る。
これは実は、精神病院での治療の一環で、一人の患者のために大勢が演技をしているのだった。

ところが後になって分かったことは、そのシーン全体が、或る人の夢なのだった・・。

コック見習いの男(八嶋智人)の母役の松重豊が怪演(快演!)。その姿には作者とその母との重苦しい関係が反映されている。

「群舞」に近い集団の動きの美しさ。どれほど練習を重ねたことだろう。これがあの「天井桟敷」の最終公演だったのか・・。
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