ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

映画「オリエント急行殺人事件」

2018-01-29 19:23:35 | 映画
1月3日新宿ピカデリーで、映画「オリエント急行殺人事件」を見た(監督・主演:ケネス・ブラナー)。

ご存知、名探偵ポワロが活躍する最も有名な事件の映画化。
かつてアルバート・フィニー主演、イングリッド・バーグマン、ローレン・バコール、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンス、
リチャード・ウィドマーク、ジャクリーン・ビセットなどの豪華キャストでシドニー・ルメット監督が作った映画であまりにも有名な作品。

何しろ事件は、走行する超豪華国際列車内で起きるのだから、究極の密室だ。
そして容疑者の人数が半端ない。何と12人!
これほど容疑者の数の多い事件はない、と断言できるだろう。

ポワロ役のケネス・ブラナーは、大げさな口髭をつけて登場。
この灰色の脳細胞を誇る小男はベルギー人で、フランス語訛りの英語を話す。だから本作で、我々はブラナーの口から終始フランス語訛りの
英語を聴くという面白い経験ができる(シェイクスピア役者である彼は、いつもは生粋の英国英語を話す)。

冒頭に、原作にないエピソードをつけ加えている。ポワロの謎解きの才能を見せつけるためだろうが、そんな必要があるだろうか。
この映画のためにオリエント急行列車を本当に作ってしまったという。しかも実際に走行可能!
ジュディ・デンチ、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、デレク・ジャコビ、ペネロペ・クルスら綺羅星の如きスターたちが次々登場。
絵葉書のように美しい雪山の連なりの中を、列車は進む。

原作がよく知られているので、そのままでは芸がないというわけか、所々変えてある。ポワロが銃で撃たれて出血するとか。

ラストはお決まりの、容疑者全員を集めての謎解きシーンだが、これを列車の外のトンネルの出入り口付近で行う。
すぐ外は雪が舞っている。絵になる光景だが、役者たちが寒そうで気の毒だと思ったら、こういうのは全部CGだそうだ。
それを聞いて安心したが、興ざめでもある。(フツーに車内でやりゃいいじゃん!)

おしまいに、次の作品もクリスティ原作のものになるかもと期待させるセリフで終わる。

仕方ないかもだが、ポワロの正義感を強調したりして、主役がいささかカッコ良過ぎるのが難点か。

少し前、三谷幸喜が作ったテレビドラマを思い出した。
あれは舞台を日本に移した翻案物だが、2つヴァージョンがあり、1つは普通の推理もので、もう1つは、何と犯人(達)の側から描いた
ドラマだった!
三谷という人は天才だと思う。
あの作品の印象が強いので、今回も、つい比べてしまうくらいだった。
ちなみに、背中に龍の刺繍のある「日本の着物風の赤いガウン」だが、この映画であのテレビ版とそっくりのものが出てきたので驚いた。



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「アテネのタイモン」

2018-01-22 16:32:51 | 芝居
12月28日彩の国さいたま芸術劇場大ホールで、シェイクスピア作「アテネのタイモン」をみた(翻訳:松岡和子、演出:吉田鋼太郎)。

アテネの貴族タイモン(吉田鋼太郎)は執事フレヴィアス(横田栄司)の助言、哲学者アペマンタス(藤原竜也)の皮肉を無視し、誰にも
気前よく金品を与え、ついに破産。友人たちが自分の金目当てだったことが分かり、すっかり人間不信に陥る。森に引きこもるタイモンは、
復讐のためにアテネを滅ぼそうと蜂起した武将アルシバイアディーズ(柿澤勇人)に掘り当てた金を与えるが・・・。

蜷川幸雄亡き後、彩の国シェイクスピア・シリーズの二代目芸術監督に就任した吉田鋼太郎が、残る5作品を演出するらしい。

冒頭、全員白い衣装でダンスパーティの趣き。
哲学者アペマンタス役の藤原竜也は茶色っぽいボロい衣装に毛皮を引っ掛けて登場。
予想通り emotional 。すべてのセリフを絶叫する。そのため(いつものことだが)かえってよく聞こえない時もある。
想像できると思うが、これではとても哲学者には見えない。
宴会で踊る女性たちの衣装はアラビアンナイト風。

人々が手にして返済を迫る借用書が赤い紙で統一されている。視覚的インパクトがあり効果的。
借金の依頼を断る友人たちのシーンが面白い。
一人は寝椅子にゆったり横たわってワインを飲みながら。
一人は友人と酒を飲みつつタイモンの噂をしていて。
一人は家でたらいの湯につかり、召使に湯をかけさせながら髪を洗っている時。

タイモンが「アテネよ、燃えてしまえ」と2台の燭台を倒すと、しばらくしてパチパチと音がし、煙が客席にまで流れて来る。赤い紙が
天井から次々と降って来る。蜷川風。

武将アルシバイアディーズ役の柿澤勇人は赤い軍服で凛々しい姿。声もよく、セリフも聞き取り易く、好演。

休憩後、舞台はガラリと変わって深い森の中。落ち葉がうず高く積み重なっている。
二人の泥棒が森に棲むタイモンのところにやって来て、彼と話すうちに改心して生き方を変えようとしていると、タイモンがいきなり銃で
彼らを撃ち殺してしまう。これには驚いた。
タイモンはすべての人を言葉で呪いまくるが、一人も殺しはしない。元々あれほどの善意の人が、そんなことできるわけがない。
一体なぜ原作をこうも捻じ曲げてしまう?
主人公の絶望を強調したいだけのためか?
全く納得できない。

それ以外の演出は全体にいいと思ったが、音楽が一貫してカタルーニャ民謡の「鳥の歌」なのはどういうわけか。
短調だからこの芝居に合ってるとでも思ったのか?

滅多に上演されることのない作品をとにかくナマで見ることができたのは幸いだった。
今後も、彩の国に関する限り、この表現を使うことになるのかも(笑)。
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「斜交」

2018-01-17 20:07:05 | 芝居
12月9日 草月ホールで、古川健作「斜交」を見た(演出:高橋正徳)。

東京オリンピックの興奮冷めやらぬ昭和40年。日本中が注目する誘拐事件の容疑者の取り調べが始まった。刑事に許された期限は十日間。
三度目の取り調べとなるこの機会を逃したら、もうその男を追求することはできない。警視庁がメンツをかけて送り出したこの刑事の登場に
取り調べ室は最後の格闘の場となった(チラシより)。

戦後最大の誘拐事件と言われる「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐事件」(昭和38年発生)。容疑者拘留の最後の日、劇的な展開で解決に至った
この事件を、劇団チョコレートケーキの古川健が戯曲化した。
この事件は、身代金の受け渡しが行われたのに犯人を取り逃がすという警察側の大失態と、二年後、迷宮入り寸前と思われる中、呼ばれた
平塚八兵衛が自供を引き出し、遺体発見、死刑判決、処刑に至るという劇的展開で有名である。

結局、供述の「裏を取る」という初歩の初歩を怠った以前の二度にわたる捜査の失敗のために、三塚(作中の平塚刑事の名)は苦労したのだった。
二度の警察の失敗を見て、木原は自信をつけ、「あんな化物になってしまった」。しかも当時、容疑者の人権保護が叫ばれ始め、刑事としては
それまでよりやりにくくなったという時代背景もあった。

あることからそんな木原が油断して自慢話を始め、その内容が発端となって、ついに彼のアリバイが崩れてゆく。事態の意味を悟り、彼は
ガタガタ震え出す・・・。
自白後はナレーションのみだが、木原は人が変わったように素直にすべてを語ったという。
自供と遺体発見は、殺された4歳男児とその両親にとってせめてもの救いであると同時に、犯人である彼自身にとっても大きな救いだったことが
分かる。貧しさと足の障害もあって道を踏み外してしまった彼は、現世で人生をやり直すことはできなくなったが、その代わり、今度こそ「真人間
として」生まれて初めて清々しい気持ちで残りの日々を生きることができるようになったのだ。
彼は教誨師に短歌を教わり心の平安を得られたという。本当によかった。

犯人木原役の筑波竜一が驚くばかりの名演。
木原の母親役の五味多恵子も適役で、素晴らしい味わい。
刑事三塚役の近藤芳正は、いかにも昭和30年代の刑事らしい雰囲気を出していた。
若い刑事石橋役の中島歩は、とにかく声がいい。

客席には吉展ちゃん事件を知らないような若い女性が多い。脚本家古川健のファンなのか、あるいはイケメン中島歩目当てなのだろう。

タイトルの意味が分からない。読みもしゃこうでなく、しゃっこうだという。

木原が愛人に向かって、手で、ある仕草をしたことが彼を追い詰める一つの材料になっている。
わが愛する「カラマーゾフの兄弟」で、長男ミーチャが三男アリョーシャに対して、自分の胸の、首の下あたりを指差す仕草をしきりとしていた
ことを思い出した。それが一つのきっかけとなって、アリョーシャは兄の(父親殺しの件での)無罪をますます確信するのだった・・・。

    
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The Deal (取引)

2018-01-03 22:50:36 | 芝居
11月13日シアター711で、マシュー・ウィッテン作「The Deal 取引」を見た(演出:松本祐子)。

オフィス コットーネ プロデュース。

1987年アメリカ。小さな田舎町に左遷された崖っぷちFBI捜査官ピーター(田中壮太郎)とアレックス(小須田康人)は手柄を上げようと、
お得意の「おとり捜査」でターゲットに罠を仕掛ける。FBI本部の情報は硬い。後はターゲットを「取引」に陥れればいい。
交錯する嘘、駆け引き、はかりごと。The Deal 。たった一度の「取引」が男たちの運命を変えてゆく・・・。(チラシより)

ピーターとジミー(福井貴一)が差し向かいでワインを飲みながら話している。奥の暗がりに机があり、アレックスが座っている。
会話の途中でピーターがアレックスの方に走り寄り、ジミーは動きを止める。アレックスはテープで二人の会話を聞いていたのだ。
FBI捜査官の二人は、ジミーの収賄の証拠を押さえようとしている。少し話すとピーターはまたジミーの前に戻り、会話を続行。
芝居は終始このようにして進行する。
ジミーは苦労して育った生い立ちや家族のことを話す。彼とピーターは次第に家族ぐるみで親しくなるが・・・。

ピーター(ピート)役の田中壮太郎が好演。捜査官にしては少々脇が甘いが正義感の強いピートは、そのために落伍してゆく。
ジミー役の福井貴一は、2011年にハーウッド作「コラボレーション」で作家ツヴァイクを演じたのを見た時には発声がよくないという印象
だったが、今回は全く問題なかった。4人の登場人物の中で最も人間味溢れる人物が、この人には似合っていた。
トミー役の金井良信は、いかにも海千山千の政治家らしく人当たりが柔らかでそつがない男を好演。

おとり捜査は米国では違法ではないが、FBI本部の情報も必ずしも正確とは限らない。
彼らの「ターゲット」がもしも今まで一度も法を犯したことがない「ヴァージン」だったらどうなる?
捜査官がうまい話を持ちかけたから、ついその気になって、生まれて初めて話に乗ってきたのであって、誘惑されなければ収賄の罪を犯す
こともなかっただろう。だとしたら、捜査官が罪を作ってしまったことになるではないか。
こうして途中から重苦しい展開になるが、笑える箇所も何箇所かあり、よくできた芝居だ。

とにかくキャスティングがいい。
演出も素晴らしい。

あまり宣伝していなかったのか、直前に知って急に見に行くことにしたが、これが思わぬ拾い物だった。

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