ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「白衛軍」

2024-12-28 22:12:24 | 芝居
12月5日新国立劇場中劇場で、ブルガーコフ作「白衛軍」を見た(演出:上村聡史)。




1918年、ウクライナの首都キーウ。前年、ロシア帝政が崩壊。ソヴィエト政権が誕生するが、
キーウではウクライナ人民共和国の樹立を宣言。ロシア帝国軍(白衛軍)を中心とした新政府軍が
誕生する。しかし内乱が続き、キーウの街には緊張が走っていた。やがて、白衛軍側のトゥルビン家の
人々の運命は歴史の大きなうねりにのみ込まれてゆくのだった・・・(チラシより)。

舞台奥に上流階級らしい家庭の居間。暖かい色調の照明とゆったりしたソファやテーブルなどの家具。
一人の兵隊が中央から奥に歩くに従って、一段高くなった奥にあった家庭がせり出して来る。
これがトゥルビン家。
次男ニコライ(村井良大)がギターを弾きながら歌い出す。
テーブルについていた兄アレクセイ大佐(大場泰正)が「うるさいよ」。
ニコライ「えーっ?」と驚き、隣の部屋(たぶんキッチン)に向かって「姉さん!・・どう?」
姉エレーナ(前田亜希)「下手!」
ニコライ「昨日はいいって言ってくれたのに」
エレーナは夫タリベルク大佐(小林大介)の帰りを待っている。
仲間のヴィクトル大尉(石橋徹郎)がこの家にたどり着く。何時間も雪の中を歩いて来たので足が凍傷にかかっている。
皆、急いで彼の体を温め、足の傷を手当てする。
そこに兄弟のいとこラリオン(池岡亮介)がやって来て、明るく親しげに挨拶するが、皆、きょとんとしている。
行き違いがあったらしく、彼の母親が出した電報が、まだ届いていなかった。
彼が母親の手紙を読んで聞かせたので、やっと事情がわかり、皆、彼を歓迎する。

客のレオニード(上山竜治)がエレーナに迫る。
彼はゲトマン軍に属しており、以前彼が歌っている時に、エレーナの方から彼の口にキスしたことがあるという。
この日も、彼女は拒絶し続けるが、結局はキスに応える。
男たちの乾杯につき合わされて酔っぱらっていたラリオンが、それを見て驚く。

ゲトマン軍の部屋。レオニードが入ると、従僕フョードル(大鷹明良)が一人いる。
そこにゲトマン(采澤靖起)が来て「これからウクライナ語で話せ」とレオニードに命じる。
レオニードが困っていると、仕方なく「ロシア語でいい」。
部屋には電話と野戦電話があり、しきりにあちこちにかける。
ドイツ軍の将軍と中尉が来てドイツ語で挨拶する。
レオニード「何語で話しましょうか」
ロシア語で話すことになる。
ドイツ軍の将軍が「ドイツ軍はウクライナから全軍撤退した」と衝撃の発言をする。
昨夜は共にパーティを楽しんだのに、とゲトマンたちは愕然となる。
民衆がペトリューラ軍に加わり、20万を超える軍勢となったために、撤退することになったという。
ここも陥落は時間の問題だから、とドイツ人たちはゲトマンに、一緒にドイツに来るように言う。
周到に計画していたらしく、ゲトマンが承諾するや、即ピストルを撃ち、部屋の外にいる兵士に向かって「ドイツ軍の将軍が、誤って頭を負傷した。担架を運べ」。
さらにゲトマンをドイツ軍の制服に素早く着替えさせ、彼の頭を包帯でぐるぐる巻きにする。
かくしてゲトマンは、まんまとドイツ軍の将軍に化けて担架に乗せられ、ドイツ軍に守られて一人逃れる。
置いて行かれたレオニードは呆然とするが、ゲトマンが脱ぎ捨てた服から金目のものを頂戴する。
次にトゥルビン家に電話して状況を話し、フェードルと別れの握手をし、自分も部屋を出る。

ペトリューラ軍の陣地。
足が凍傷にかかった男が捕らえられて来る。逃亡?コサック兵。軍医が死んだのでどうしたらいいかわからず、病院を出て隠れていた、と言う。
大隊長(小林大介)は、本当に凍傷かどうか確かめさせ、「では病院に連れて行け」と命じた後、後ろから銃殺する。
「あんな奴が行っても面倒だ」と。
次に、ユダヤ人か共産党員だと疑われた男が連れて来られる。
彼はただの靴屋だった。
商売道具の靴を一杯入れたカバンを持っているので、皆、爆弾でも入っているのかとおびえる。
ただの靴屋だとわかると「そのカバンを置いて行け」と言われ、「困ります」と泣きつくが、追い出される。
そこに、ゲトマン軍が撤退したという知らせが入る。
勝利だ!よし、もっと広い家に移るぞ!と皆、勇んで出て行く。

<休憩>

学校。跳び箱やロッカーが並んでいる。
アレクセイ大佐に手紙が届く。
彼はそれを読むなり、隠せる場所を学監(大鷹明良)に尋ね、ロッカーに入れて彼に鍵をかけさせる。
そして部下たちを呼び、「白衛軍は解散」と告げる。
突然のことに、皆、信じられない。
大佐がおかしくなったと思い、命令に背き、逆に彼を捕えようとする者たちさえいる。
大佐はそんな彼らを辛抱強く説得しようとする。
その間も、時折激しい爆撃が続くので、ようやく部下たちも差し迫った危険を感じて立ち退く。
大佐はさっきの手紙や書類を燃やすため、今度はロッカーを開けようとするが、当然開かない(客席から笑い)。
鍵を預けた学監は、どこかへ行ってしまった。
彼は力任せにロッカーの扉をこじ開け、中の手紙と書類を取り出して、火にくべる。
だが彼は、なぜか一枚一枚確認しながら火に投じていく。
一度に全部燃やして早く逃げればいいのに、と見ている方は、ヤキモキしてしまう。
弟ニコライ(士官候補生)が来る。その時また激しい爆撃が・・・。

トゥルビン家。エレーナとラリオンがクリスマスツリーを片づけている。
ラリオンがエレーナに告白すると、エレーナ「付き合ってる人がいるの」。
がっくり来たラリオンは、彼女に頼まれて酒を買いに行く。
当の男・レオニードがやって来る。
エレーナ「あなたは嘘が多い」。それに・・・と不安を述べ、「変わって欲しい」と言う。
レオニード「オーディションに受かったんだ」。
ヴィクトルとアレクサンドルも来る。
ヴィクトルはゲトマンが逃げたことを聞いていて、その時の状況をレオニードに尋ねる。
レオニードは、ゲトマンと感動的な別れをしたと、ウソを並べ立てる。
純金の煙草入れを放り投げ、別れる時にゲトマンがくれたんだと自慢する。
実はそれは、ゲトマンが脱ぎ捨てた服のポケットからちゃっかり取ったものだった。
皆、アレクセイとニコライ兄弟の安否を心配する。
そこにニコライが帰って来る。
頭に大怪我をしている。皆、彼を床に寝かせて介抱し、アレクセイの安否を尋ねる。
だがニコライは苦しそうにするのみ。・・・
エレーナ「死んだんでしょ。わかってた。ニコライの顔を見てわかった」
ニコライは苦しげに声を振り絞って言う、「兄アレクセイは、死にました!」

学校。床に沢山の遺体が並べられている。ろうそくも沢山。
学監が遺体の上に百合の花を一本ずつのせてゆく。

トゥルビン家。
エレーナは兄の死を嘆き悲しむ。「どうして兄だけが死んだの?!」
アレクサンドルがピストルを頭に当てて「私のせいだ」
皆、止めようとする。
エレーナもさすがに「もう誰にも死んで欲しくない」と言う。
結局ヴィクトルがピストルを奪い取る。(このシーンが長い)

エレーナの夫タリベルク大佐の足音がする。
皆、ピストルを出して構える。
タリベルクは相変わらず堂々としている。
「仕事の途中だが、エレーナに会うために密かに戻った」と偉そうに言う。
皆、「送って行く」と言い、(この時、タリベルクは少しビビる)タリベルクの後に続いて男全員が外に出るや銃声が!
そして皆、さっぱりした顔で戻って来て、口々にエレーナにプロポーズ!!
今まで静かだったアレクサンドルまで男たち3人全員が。
だがエレーナは「私、レオニードと結婚します」
3人はがっくりするが、すぐに気を取り直して歌い出し、酒を酌み交わす。
その時また外で爆撃のような音がする。
「あれは祝砲だ。ペトリューラ軍の勝利を祝ってるんだ」とヴィクトル。
ニコライが頭に包帯を巻いた姿でよろよろと入って来る。
祝砲が聞こえるたびにおびえる。暗転。

~~~~~~~ ~~~~~~~ 

この作品は1925年に小説として発表され、翌年、作家自身が戯曲化して上演した由。
1918年、革命直後のウクライナで起きた内乱と、ロシア、ドイツとの関わりが非常に興味深い。
だが芝居としては、いささか長過ぎるし、場面によっては冗長なところもあるのが残念だ。
紅一点のエレーナをめぐって男たちが争うのはいいとして、皆で彼女の夫を殺して、直後にプロポーズ合戦というのがびっくり。
まるで漫画だ。
役者では、皆に慕われるアレクセイ大佐役の大場泰正が、こんな役にぴったり。
ラリオン役の池岡亮介も好演。
総じてキャスティングがよかった。






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オペラ「皇帝ティートの慈悲」

2024-12-20 22:14:09 | オペラ
11月29日北とぴあ さくらホールで、モーツァルト作曲のオペラ「皇帝ティートの慈悲」を見た(演出:大山大輔、指揮:寺神戸亮、オケ:レ・ボレアード)。




舞台は紀元1世紀のローマ。先々代ローマ皇帝の娘ヴィテッリアは、現皇帝ティートを憎みつつも妃の座を狙っています。しかしティートが
ユダヤの王女を妃に迎えると知り、自分のことを愛しているセスト(皇帝の忠臣)をそそのかし、ティートの暗殺を企てます。
この結婚は結局中止となるも、ティートがセストの妹セルヴィリアとの結婚を発表したため、ティート暗殺計画が再燃します。
ところが、兄の友人アンニオを愛していることをセルヴィリアが伝えると、ティートは快くこの結婚を取りやめにし、今度は
ヴィテッリアを妃とすると発表。しかし、その事情を知らないヴィテッリアはセストに暗殺を決行させてしまいます。
はたして皇帝ティートは無事なのか?悪女ヴィテッリアはどうなってしまうのか?(チラシより)

モーツアルト最晩年の傑作。
「魔笛」の作曲を中断して約18日間で一気に書き上げたという。
セミ・ステージ形式。イタリア語上演・日本語字幕付き。

いつものようにオケピットがなく、舞台中央にオケがいて、その前の横長の空間で歌手たちが歌い、演技する。
オケの奥にも細長い空間があり、階段と小高い台があって、時にはそこへも人々が移動して歌う。
今回の演出の大山大輔は、近衛隊長ブブリオ役も兼ねる。
主役セストと友人アンニオは、同じような黒服に白いマントをひるがえすが、セストが愛するヴィテッリアにそそのかされて
皇帝ティート殺害を決意するあたりから、その白いマントを取って黒服姿になる。わかり易い。
セストが宮殿に火をつけたらしく、舞台奥が赤くなり、炎がメラメラと上がる映像が広がり、ついには舞台全体が赤一色に染まる。
<休憩>
皇帝ティート暗殺は、幸い、失敗したらしい。
ティートが親友セストの裏切りを信じられず、人払いをして「二人きりだから本心を打ち明けてくれ、秘密があるのなら教えてくれ」
とまでセストに語りかけるのが感動的。
だがセストはヴィテッリアにそそのかされたことは決して言わない。
それ以外、彼に秘密はないのだから、皇帝に言えることは何もない。
ティートの優しさに応えられず苦しむ彼は、「早く殺してください」としか言えない。
そんな彼に、さすがのティートも心を固くし、諦めて去らせる。
だが「運命の神は私の心を(今までの寛大さを)変えさせようとするのか。いや、私は変わらないぞ」と
運命に逆らおうとし、一旦サインした処刑の命令書を破り捨てる。
セストの恋人と友人が、ティートに、セストの減刑を願い出るが、ティートは土壇場まで死刑と皆に思わせておく。
すると友人が「そんなすがすがしいお顔でセストを処刑なさるのですか」と言うのが可笑しい。そりゃそうだ。

ヴィテッリアが初めて白いドレス姿で現れる。
彼女はセストが自分のことを告白したかどうか心配している。
プブリオに尋ねると、「ティートと二人きりで話していたので、私も知りません」と答えてすぐに去る。
そのため彼女は思う、「私のことも自白したのね。プブリオも知っている。私から逃げるように去って行った様子から分かる」
彼女はやましいからそう思ったのだ。この辺り、現代的。
セストの恋人と友人が来て「皇妃様、セストの減刑をお願いして下さい」と頼むので、「私はまだ皇妃ではありません」と答える。
すると二人は「ティートが今日のうちに妃にするので準備するように、と命じられた。あなたの願いは聞かれるでしょう」と言う。
ヴィテッリアはハッとなる。
「セストは私のことを言ってないのね。何という愛・・・」
ここから彼女のまったく新しい苦しみが始まる。
「彼は一人で罪を抱えて死んでゆく。私の方が罪は重いのに・・」
「行って罪を告白しよう。・・みんな私をどう思うでしょう・・」
長い長いアリア。

照明が舞台を黄金色に染め、ティートによる裁きの場。
「楽しい催しの前に、罪人を連れて来い」
と、その時突然、ヴィテッリアが「首謀者を連れて参ります」と言い出す。
ティート「誰だ?!」
ヴィテッリア「私です」
驚いたティートが「誰を信じたらいいのか」「なぜそんなことを?」
ヴィテッリア「私は妃になれるかと思っていたのに、陛下が何度も私の気持ちをないがしろにされたからです」
ティート「セストを解放せよ」・・・
こうしてセストの冤罪も晴れ、セストの真心がヴィテッリアに伝わり、彼女は彼の愛に応えることになる。めでたしめでたし。

結局この皇帝は、3人の女性(ユダヤの王女、セルヴィリア、ヴィテッリア)と次々と結婚しようとしては断念することになる。
ラストも一人のままで、何とも気の毒な人だ。
歌手は皆うまい。特に、複雑なヒロインを演じたロベルタ・マメリが素晴らしい。
セストと男の友人をメゾソプラノの女性たちが歌い、演じるのが不思議だったが、当時はカストラート全盛期で、美声と言えば高い声とされていたからだそうだ。
ラストの皆の合唱も素晴らしい。
現代人には少々長過ぎるのが難点だが、美しい音楽を堪能できたし、意外とドラマチックな内容で、充実した作品だった。
プログラムに掲載の、寺神戸亮の「指揮ノート」と大山大輔の「演出ノート」が非常にわかり易く、また文章もうまくて大いに役立った。

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オペラ「ウイリアム・テル」

2024-12-13 00:30:11 | オペラ
11月28日新国立劇場オペラパレスで、ロッシーニ作曲のオペラ「ウィリアム・テル」を見た(演出・美術・衣裳:ヤニス・コッコス、指揮:大野和士、オケ:東フィル)。



フランス語上演、日本語及び英語字幕付き。
原語での舞台上演は本邦初の由。

オーストリア公国の圧政を嘆くスイスの山村。長老メルクタールの息子アルノルドはハプスブルク家の皇女マティルドへの恋に
悩んでいた。村一番の弓の名手ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)はアルノルドに圧政に抵抗するよう諭す。
総督ジェスレルに反抗した村人を匿ったメルクタールは殺され、マティルドはアルノルドと永遠の別れを交わす。
自分に従おうとしないテルと息子ジェミを捕らえたジェスレルは、息子の頭に載せたりんごを射ることができれば命を助けると告げる。
テルとジェミたちの運命、そしてアルノルドとマティルドの愛の行方は(チラシより)。

序曲冒頭のチェロのソロが甘美で期待が高まる。
このオペラは序曲が長く、途中、運動会でお馴染みの、あの軽快な曲も流れて楽しい。思わず走り出したくなる(笑)
序曲が終わり、拍手とブラボーが起こると、指揮者はオケの団員たちを立たせた。初めて見る光景。
聴きごたえのある序曲の場合、こういうことをするそうだ。

幕が上がると、舞台上空からでかい矢の形をしたものがいくつもゆっくり降りて来て、人々が逃げ惑う。圧制の象徴。
村では3組の結婚式が挙げられようとしている。
弓の競技とか、逃げて来た老羊飼いをテルが「小舟に乗せて助ける」とかのシーンは、舞台の端の方で起こるのではっきりわからない。
<休憩1>
真紅のコート姿のマティルド(オルガ・ペレチャッコ)が現れ、アルノルドを思って歌う。
これが超絶技巧で、しかもこの人がうまい。
聞き取れたフランス語:la nuit (夜)、ton pere (お前の父)
日本語字幕が間違っていた。
敵のことを呪っていて「大地が彼らの墓となるように」とすべきところを「墓を拒むように」となっていた。
<休憩2>
3幕冒頭の音楽は、明るく軽快に始まるが、すぐに重く暗い曲調に変わり、マティルドとアルノルド登場。
二人は所詮結ばれない運命なのか。
聞き取れたフランス語:l'espoir (希望)
ダンサーたちが現れ、長いダンスシーンが続く。
彼らは結婚する3組のカップルだが、新郎たちは拉致され、新婦たちは男たちによって引き戻され、もてあそばれる。
明らかに圧制者側の、スイスの村の女たちに対する凌辱を表すもので、見ていて辛く苦しかった。
男性はこういうシーンを見ても平気なのだろうか。
言いたいことは分かるが、こういうシーンはほんのちょっとにしてほしい。
圧制者側の衣装はナチスを思わせる黒と赤の色。
総督ジェスレル(妻屋秀和)は皇帝の権力を象徴するトロフィーに頭を下げるよう民衆に命ずるが、一人テル(ゲジム・ミシュケタ)だけが無視する。
彼が弓の名手と知ったジェスレルは、息子の頭にりんごを載せて、それを射るよう命じる。
テルは、そんなことできるものか、と断ろうとするが、息子ジェミ(安井陽子)は父親の腕前を信じており、父を励ます。
そこでテルは神に祈り、「動いてはいけない」と歌って矢を放ち、見事りんごを射抜く。
(どうやるのかと思ったら、さすがに矢は刺さらず、りんごがうまい具合に砕け散る。)
二人は抱き合うが、テルが2本目の矢を隠し持っていたことが見つかり、二人は逮捕される。
そこにマティルドが割って入り、ジェミだけを何とか救い出す。
<暗転>
テルの妻エドヴィージュは、テルと息子ジェミが捕らえられたと聞いて嘆き悲しむ。
女たちが彼女を慰めていると、そこにマティルドがジェミを連れて来る。
母は喜びの声を上げる。
C'est lui.(あの子だわ!)
背後のスクリーンに海の波が現れ、舞台全体が海のようになる。面白い。
船で護送されてきたテルは、船が岸に近づくと岩場に飛び移る。
ジェスレルの姿が見えると、言う。
C'est lui. (あいつだ!)・・・さっきと同じ文章でも日本語にすると全然違うニュアンスが表現できる。実に面白い。
テルはジェミが手渡した弓矢を取り、ジェスレルに矢を放つ。
ジェスレルの胸に矢が刺さり、彼は地下に吞み込まれる。ドン・ジョバンニのようだ。
ラスト、敵を倒し、歓喜の歌声を高らかに響かせる人々の後方に、皇女マティルドが一人、佇み、ゆっくり歩いて行く。
この人はこの後どうなるのだろう・・。
~~~~~~~ ~~~~~~~
音楽は素敵だが長い。長過ぎる。休憩含めて5時間!だから滅多に上演されないのだろう。
繰り返しをあちこちカットしたらいいと思う。
歌手では、メルクタール役の田中大揮と、ジェミ役の安井陽子、そしてマティルド役のオルガ・ペレチャッコがいずれも素晴らしかった。
昔、初級だけ習ったフランス語を、この日ちょっぴり聞き取ることができたのも嬉しかった。


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オペラ「影のない女」

2024-12-03 17:47:46 | オペラ
10月24日東京文化会館大ホールで、リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「影のない女」を見た(ペーター・コンヴィチュニー演出、アレホ・ペレス指揮、
オケ:東響)。



 東南の島々に棲む皇帝は、影を持たぬ霊界の王カイコバートの娘と恋に落ち、皇后とした。
皇帝は3日間、狩りに出かけると宮殿を発つ。皇后のもとへ一羽の鷹が舞い降り、「影を宿さぬ皇后のため/皇帝は石と化すさだめ」と
告げる。期限まであと3日。乳母は、人間をだまして影を買い取ることができると皇后に教え、二人は人間の世界へと降りていく。
染物屋バラクとその妻も子供に恵まれていない。乳母は、自分たちが3日間召使いとして仕え、妻の影を買い取る契約を交わすが、
妻の耳には生まれざる子供たちの恨みの声が聞こえ、夫を拒否してひとり眠りにつく。
 妻は若い男との不貞をでっち上げ、乳母と皇后の二人に影を売り払い、母親になることを諦めたと告げる。
温厚なバラクも激怒し、妻を殺すと宣言すると、天から裁きの刀が降り、地が裂け、バラクと妻を飲み込み、家は崩れ去る。
 染物屋夫妻を救うため、裁きの場へと出ることを決意する皇后。そこに石となった皇帝の姿が浮かぶ。
湧き出る「生命の水」を飲めば、影を得られるという試練に、「飲まぬ」と宣言する皇后。
すると皇后の体に影が宿り、皇帝はもとの姿へ。染物屋夫婦は互いの無事を喜び合う(チラシより)。

さて、今回の上演は、上記のあらすじとはほとんど違う!
「問題児」コンヴィチュニーが、またしても波乱を巻き起こした。
この人は2011年に「サロメ」を演出した人で、当時のブログにも書いたように、もう二度とこの人とは関わるまいと思っていたのだが、
めったにやらないオペラなので、やはり見たくなって、おっかなびっくり出かけたのだった。
結果は・・やはり恐れていた通りだった。

舞台は照明で真っ赤。車が一台止まっている。
サングラスの男たちが4~5人いて、一人が銃で撃つと、みんな倒れる。
乳母に男(父王の使者)が話しかける。これが前後関係の説明となる。
若い女が3人、意味ありげに立っている。その内の一人が鷹らしい。
太った男が「皇帝と呼ばれるボス」。そして乳母。
皇后に影ができないと(妊娠しないと)皇帝は石になってしまう。
期限は12か月で、あと3日でその期限が来る。
日本語字幕で皇后のことを「お嬢」というのが面白い。

バラクは妻を金で買ったことになっている!
二人はまったくうまくいっていない。
妻はずっと、お腹に枕を入れている。
バラクがベッドに横になってデッキで音楽(このオペラの音楽)を聴いていると、妻が来て、うるさくて眠れやしない、と言って
ストップボタンを押して去る。
妻が去ると、バラクはまた音楽を聴く。するとまた妻が来て・・
3度めに妻が来ると、今度はデッキごと持ち去ろうとするので、バラク「ちょっと!」
妻「何よ」
ドイツ語で歌っていたのが、突然日本語の会話が始まったのでびっくり。
会場も衝撃を受けて、固唾を飲んで舞台を見守る。
・・・
バラク「自分で洗濯する方がきれいになるからいいよ」
妻「洗濯ってのはね、洗って干して取り込んで、畳んでタンスにしまうまでを言うのよ。
  あなたにそんなことができるかしら」
原作とはすっかりかけ離れているが、この時の二人の会話が可笑しい。

ダブル不倫!
昼間、皇帝がなぜかバラクの家にやって来て妻をレイプ。しかも同じベッドにバラクが寝ている隣で!
妻は叫び声を上げてバラクに助けを求めるが、バラクは寝たまま。
妻「仕事の時間に寝てて・・そんなら私は・・・」
妻は緑の服を羽織り、カバンを持って皇帝と共に出て行く。
皇后がそれを見送り、バラクを起こし、抱きしめて、二人は関係する。
が、皇后は「皇帝は石になる。私の罪のせいで」と言い出し、頭を抱えて苦しむ。
歌いつつ、自ら幕を引く。
~休憩~
乳母はセラピストになっている。
バラクが妻を探しに来ると、「彼女はあなたの死を願いながらあちらに行った」と下手を指す。
バラクはそちらに向かう。
次にバラクの妻が来ると、「バラクはあなたを殺そうとあちらに行った」と上手を指して、そちらに行かせる。
その後、男女が来て・・
皇帝と皇后が来る。・・・乳母は追い出される。
皇后は一人になると、携帯電話で父王カイコバートと話す。
突然、皇后は赤ん坊を出産!二人の女性がそばに来てケアし、赤子を取り上げる。
バラクと車椅子に乗った皇帝(赤薔薇の花束を抱えている)が入って来て、喜ぶ。
だがその時、子供の声が日本語で響き渡る。
 「ぼくはあなたの子供だよ。ぼくを殺して。もういやだ!」
ちなみに字幕の英語は "I am your child. Kill me ・・"なので、性別は不明。
こうはっきりした声で言うので、皇后はその子を皇帝だかバラクだかの膝の上に置く。

バラクは皇帝と二人でテーブルにつき、こちらを向いて酒を飲み、しゃべる。
その間、妻はずっとバラクへの思いを歌い、バラクを褒め続け、バラクへの愛を歌い、「聴いて」と言うが、
バラクはまったく無視して、皇帝とおしゃべり。
ついに妻が「私を早く殺して」と言うと、バラクは彼女をピストルで撃ち殺す。

最後のシーンはレストラン。・・・
不条理性を強調しているようだが、意味不明。
~~~~~~~ ~~~~~~~
暗転して音楽が終わった途端にブーイングの嵐が起こって実に愉快だった。
ブラボーと言ってる人もいたけど。
いつかまた、別の演出のを見たくなった。
やっぱりこの人の演出は嫌だ。
どんなに音楽がよくたって。
この演出家についてはいろいろ言われているが、私に言わせれば、ただ単に、F〇〇〇が好きで聴衆の度肝を抜くのが趣味なんじゃなかろうか。
もちろん原作は男性優位の思想で、その点腹立たしくはあるが、だからってこんな風にしてしまう必要があるだろうか。
シュトラウスの音楽に浸るのに、そのことがそれほど邪魔になるだろうか。
少なくとも私は、2010年に同じ会場でこれを見た時、ラストで気持ち良く涙を流せた。
単純?
別にそう言われてもいい。
あらすじをここまで変えなくても十分楽しめるのは、私のような人間の特権なのかも知れない。






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