ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

木下牧子作曲のオペラ「陰陽師」

2025-02-11 17:35:59 | オペラ
2月1日、調布市文化会館たづくり くすのきホールで、木下牧子作曲のオペラ「陰陽師」を見た(原作:夢枕獏、台本:木下牧子、指揮:鈴木恵里奈、演出:久恒秀典、
管弦楽:アンサンブル・ノマド、声楽アンサンブル:コロス)。




第1幕 蟇(ガマ)
 源博雅(片倉旭)が横笛を吹きながら登場。月を見上げて、昔、堀川端で一度だけ出会った姫のことが忘れられないと歌う。
 安倍晴明(川出康平)の屋敷に行くと、木犀の花の式神が若い女の姿になって現れ、二人は彼女・薫(東幸慧)の酌で、しばし酒を飲む。
 応天門に出没する妖(あやかし)のせいで死人が出た事件があり、晴明と博雅は牛車に乗って真相を探りに行く。
 昔、応天門で多聞という子供が妙な死に方をしたことが事件と関係しているらしく、晴明は妖の正体を突き詰めに行くと言う。

 多聞の両親の家に行くと、荒れ果てた屋敷で首なし夫婦(栗原剛・大津佐知子)が会話している。
 息子の多聞が蟇(ひきがえる)に祟られて死んだこと、同じ時期に応天門が焼け落ち、夫婦に呪詛の疑いがかかって首を切られたこと。
 捕まる前に、どうせなら本当に祟ってやろうと、蟇と多聞を焼いて壺に入れて埋めたことなどを語る。
 それを聴いていた博雅は思わず「何と哀れな」と声を上げてしまい、首なし夫婦に気づかれる。
 夫婦は二人を追いかけ、鬼たちも湧いて来る。薫(式神)が鬼たちを引きつけている間に、二人は何とか逃げ延びる。
 夜、二人は応天門に来て、夫婦が話していた場所を掘ると、古い壺が出てくる。
 壺から飛び出したガマを晴明が捕まえ、式神にする、と言う。
 博雅が壺を逆さにすると、多聞の骨がさらさらと落ち、ようやく親子は解放され、事件も解決する。

第2幕 鉄輪(かなわ)
 徳子(遠藤紗千)という女人が丑の刻参りのため、夜中に一人で貴船神社に行き、杜で人形に釘を刺している。
 宮司(金沢平)が彼女に声をかける。夢に龍神が現れ、「汝の願いは聞き届けられた・・・」と告げたと言う。
 徳子は喜び、急ぎ家に駆け戻る。
 博雅は晴明の屋敷に来て、友人の藤原為良(鳥尾匠海)が女性に祟られて怯えているので、助けてやって欲しい、と頼む。
 晴明は、男と女のことには関わらない、といったんは断るが、博雅ががっかりするのを見て、話ぐらいは聞こう、と言う。
 為良が来る。
 彼の顔のやつれ方を見た晴明は、鬼は今夜来るだろう、と予言する。
 さらに晴明が彼に「何か思い当たることは?」と尋ねると、為良は話し出す。
 実は徳子という妻がいたが、別の女性を好きになり、徳子を捨てた。でもまさか徳子が鬼になるとは・・。
 晴明が「で、徳子さまへの愛情は?」と尋ねると、「哀れとも思いますが、今はただもう恐ろしいばかりで」と答える。
 それを聞くと、晴明は彼の命を救うための方法を教える。
 まず自分の代わりに藁人形を置き、彼自身は隣の部屋で護身の呪文を唱えるようにと指示する。
 指示通りにしていると、徳子登場。
 龍神のお告げ通り、顔を赤く塗り、赤い着物を着て鉄輪を頭にかぶった恐ろしい姿。
 徳子は藁人形を為良と思ってしがみつき話しかけるが、返事がないので怒り、釘を額に打ちつける。
 隣室にいた為良は恐怖のあまり部屋から転がり出、「徳子、許してくれ、命ばかりは助けてくれ」と叫ぶ。
 徳子は「はて?」と藁人形をよくよく見て、やっと人形だと気がつき、本物の為良に向かって来る。
 晴明と博雅は、結界から飛び出し、為良をかばって前に立つ。
 博雅を見た徳子は、なぜか動揺し、鉄輪を投げ捨てて走り去る。
 彼女の声を聞いて、博雅は、彼女こそ、昔、堀川端で出会った姫であることに気づき、後悔の念に駆られる。
 二人が荒れ果てた庭にたどり着くと、徳子が自害している。
 博雅は徳子に駆け寄り、謝罪する。
 徳子はかつて博雅と出会った時のことを語り、「あの頃に帰りたい」と言うのだった。
 「あなたに浅ましい姿を見られてしまい・・・私はもう死んで鬼になるしか・・」
 博雅は彼女をしっかり抱きしめ「死んでも心が休まらぬなら、私のところに出て来てください」と温かい言葉をかける。
 「私には何もしてあげられぬ」
 すると徳子は「お願いがあります。私のために笛を吹いて下さいませんか」
 彼はすぐに笛を取り出して吹き始める。
 徳子はうっとりと、ひとしきり聴き惚れているうちに、ついにこと切れる。
 博雅は、ハッと笛を捨てて彼女を抱き上げ、晴明に言う。
 「お前の言った通りだった。為良殿を助けようとして、徳子殿を死なせてしまった」
 だが晴明は 「徳子殿の顔を見てみろ。鬼でなく姫に戻られている。お前の笛が徳子殿を救ったのだ」
 博雅は彼女の顔をよくよく見て「私が救ったのか?」
 今は苦しみも消え、その顔は穏やかな安らぎをたたえている。

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待ちに待った木下牧子のオペラ。
2009年にオペラ「不思議の国のアリス」(ル・テアトル銀座にて、演出:鵜山仁)を見て以来、ずっとこの日を待っていました。
今回の作品は、夢枕獏の「陰陽師」シリーズから2つの話を選んで作曲したもの。
1幕と2幕はまったくテイストが違うが、1幕冒頭で主人公博雅が、かつて出会った姫のことを今も忘れられないと歌う、その姫が、
2幕のヒロイン徳子、という点で、つながっている。
1幕ではモクセイの式神、薫の歌と踊りが美しく、また百鬼夜行の場面も面白い。
首なし夫婦の着物に細工がしてあり、時々首ががっくりと下がってギョッとさせられるなど、趣向を凝らしていて楽しい。
2幕では、迫力ある徳子の姿が恐ろしくも哀れ。
彼女は鬼になりかけの「生成り」という状態になり、人と鬼を行き来する、というのが興味深い。
ラストでは涙が止まらず困った。
ただ、「女性」とか「愛情」とかいう言葉がちょっと気になった。
「女人」とか「お気持ち」とかにした方が、平安時代の雰囲気が出ると思う。
歌手は皆、歌も演技もよく、管弦楽も素晴らしく、大満足の一日でした。




コメント
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