ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

2024年の回顧

2025-01-27 23:26:40 | 回顧
今日は、昨年見た芝居の回顧をしようと思います。
2024年に見た芝居は40コ。いつになく多いようですが、連作の「デカローグ」10篇を10コと数えてですので。
それにしても収穫の多い年でした。
その中から特に印象深かったものを10点、例年通り、見た順に挙げていきます。
カッコ内は、特に光っていた役者さんです。




兵卒タナカ   作:ゲオルク・カイザー     演出:五戸真理枝    吉祥寺シアター (土屋佑壱、平埜生成)
   *ドイツ人作家が日本を舞台にこんな戯曲を書いていたことに驚いた。戯曲としてもよくできているし、役者もみな滑舌よく、好演。

夜は昼の母   作:ラーシュ・ノレーン     演出:上村聡史     風姿花伝    (岡本健一、山崎一)
   *4人の役者の火花散る演技がすごい。特に山崎一の声の微妙なニュアンスの変化!   

アンドーラ   作:マックス・フリッシュ    演出:西本由香   文学座公演  文学座アトリエ (小石川桃子、渡邊真砂珠)
   *主演の二人がとにかく素晴らしい。ところで先日調べたら、アンドラ公国という小さな国が実在するとわかった。
    この戯曲は寓意劇として欧州各国の教科書に載っているらしいが、作者は意図的にこの名前をつけたのだろうか?

デカローグA~E(10篇)  作:キェシロフスキ 上演台本:須貝英  演出:小川絵梨子・上村聡史    新国立劇場
   *ポーランドの映画監督キェシロフスキの代表作を完全舞台化。旧約聖書の十戒(ポーランド語でデカローグ)をモチーフに、
    人間の脆さと普遍的な愛を描く。胸締めつけられる話が多いが、ユーモラスな場面もあり、異国の風習も興味深い。
    4月から6月まで3か月かけて10篇見終え、全貌が見えてきた。人間に向ける作者の眼差しが温かい。この年の特筆すべきイベントとなった。
    阿部海太郎の音楽も、その場面場面に見事にぴったりで素晴らしい。

母       作:フロリアン・ゼレール    演出:ラディスラス・ショラー  東京芸術劇場シアターイースト (若村麻由美) 
   *同じ作者の「父」と同様、一つの場面が少しずつ変えて演じられるので慣れるまでは面食らう。どれが現実でどれが主人公の妄想なのか、観客は翻弄される。
    主役の若村麻由美の演技がすごい。その狂気のさまは他の人には真似できまい。他の3人も好演。    

帰れない男   作:倉持裕           演出:倉持裕       本多劇場   (山崎一) 
    *内田百閒の作品から着想を得たというが、実に独創的で面白い。作者についてはまったく知らなかったが、どんな人なのだろう。
     山崎一が、こんな役にぴったり。他の役者陣もみなうまくて芝居を見る喜びを堪能した。  
   
ハムレット Q 1 作:シェイクスピア       演出:森新太郎              (吉田羊、飯豊まりえ)
     *吉田羊がハムレットをやる!当然満席。この年のメインイベントかも。彼女の王子は期待通り素晴らしかった。ただ他のキャスティングに難あり。
      よく知られた版と違う箇所が多い。例えば、王クローディアスが祈りの中で「不義密通」と口にしたり、王妃ガートルードがホレイショーに頼まれて
      復讐の仲間に加わったり!Q1を初めて見て、大いに参考になった。  

オーランド   作:ヴァージニア・ウルフ、翻案:岩切正一郎   演出:栗山民也  パルコ劇場(宮沢りえ)
     *原作を読んでなかったのが悔やまれる。宮沢りえが圧巻。その美貌と美声にうっとり。山崎一などキャスティングもよかった。

セチュアンの善人  作:ブレヒト        脚色・上演台本・演出:田中壮太郎    俳優座劇場 (森山智寛、渡邊咲和)
     *同じ作品を1ヶ月後に別の演出でも見たが、上演台本が違うので、印象がかなり違う。田中壮太郎の演出は、胸に迫って来るものがあった。
      音楽もよかったし、役者陣も好演。 もう一度見たい。

ドクターズジレンマ  作:バーナード・ショー  演出:小笠原響     調布市せんがわ劇場      (石川湖太朗)
     *作者の「隠れた名作」という演出家の言葉通り、素晴らしい戯曲。キャスティングも最高。実に楽しいひと時だった。

最優秀女優賞・・・吉田羊(「ハムレットQ1」での題名役)、宮沢りえ(「オーランド」での題名役)
最優秀男優賞・・・山崎一(「夜は昼の母」での父親役、「帰れない男」での夫役、「オーランド」での詩人役他)

この他、印象的だった役者さんたちは次の通りです。

玉置玲央・・・3月に東京芸術劇場で「リア王」のエドマンド役
高橋ひろし・・・7月に紀伊國屋サザンシアターで「オセロー」のブラバンショー役
増岡裕子・・・同上の「オセロー」でエミリア役

やれやれ、やっと昨年のまとめが終わりました。
いつも拙文を読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。
今後ともよろしくお付き合いくださいませ。

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「見知らぬ女の手紙」

2025-01-14 17:36:47 | 芝居
12月25日、紀伊國屋ホールで、シュテファン・ツヴァイク作「見知らぬ女の手紙」を見た(翻案・演出:行定勲)。



抑圧された心に潜む想いは狂気か、それとも純粋な愛なのか?
「恋」という熱病に侵された女の究極のラブストーリーを描くモノローグドラマ

世界的なピアニスト”R”は、演奏旅行で一年の大半は自宅を留守にする。
そんなある日、演奏旅行から戻ると郵便物の束の中に妙に分厚い、
見覚えすらない文字で綴られた手紙が届いていた。
その手紙の差出人はまったく知らない女。
28歳だという女は手紙を書く前日に子供を亡くしたという。
男は脈絡も分からぬまま、その”見知らぬ女”の
12歳からの自分語りを読みはじめる・・・(チラシより)。

篠原涼子の、ほぼ一人芝居。満席。
舞台は狭い。
小さなピアノが一台。中央に小テーブルと椅子一つ。小さな寝椅子。
男の声が響く。
「〇〇〇はピアニスト。外国から帰国し、部屋に戻ると、召使いが留守中に届いた手紙を盆に載せて来る。
一つずつ見てゆくと、その中に、差出人の住所も名前も書いていないものがあった」
男(首藤康之)が登場。すると頭上から便箋がたくさん、フワフワと舞い降りて来る。
また声がする。「それは何十枚もあり、手紙と言うよりは原稿のようだった」
紗幕の向こうから女(篠原涼子)が現れる。
「私の子供は死にました」といきなり語り出す。
「13歳の時、隣に引っ越して来たあなたを見て、すぐに恋に落ちた。
若くて優雅な物腰に。・・・
母が再婚することになり、引っ越すと聞いて私は気絶」・・・
こうして彼女はウイーンからインスブルックに引っ越すが、15歳の時、ウイーンの学校に入る。
毎年、彼の誕生日に白いバラを贈り続けた。
18歳の時、ついに再会。
その後、深い仲になり、3回泊まった。
最後の日、男は北アフリカに行く、と言い出す。
私「残念ね」
その3回のどこかで妊娠し、男児を産む。
その子が3歳の時病死。
「私の子供は死にました」
それからしばらくして、また出会い、夜を共にする。
その時、女は娼婦になっている。
女は、男が自分に気がつくだろうか、あの時の女だと気づいて欲しいと熱望するが、男は気づかない。
男は彼女のマフの中に紙幣を何枚かねじ込む。
女はそれを鏡越しに見て、衝撃を受ける。
急いで部屋を出る時、彼女は召使いのヨハネスとぶつかりそうになる。
「彼はよけながら私の顔を見て、私に気がついた!」

「私は一生あなただけを愛して生きた。でも後悔していない。
今でもあなたを愛しています。
なぜ子供があなたの子供だと言わなかったか。
それは、自分から唯々諾々と体を委ねた私が、あなたをだましていると疑われるのを恐れてのこと。
あなたはきっと私のことをお疑いになるでしょう・・・」
「私の子供は死にました」
~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~

ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」が何度も何度も流れてうんざり!
名曲は、ここぞという時に使ってこそ胸に沁みるのに、使い方がもったいない。
途中、雷が鳴ったりするが、特にストーリーとは関係なかった(笑)。
男は最初の一言以外、口を開かず、じっと立ってたり座ってたり、女の体にまとわりついたり、くねくねと踊ったり・・。
つまりこれはほぼ篠原涼子の一人芝居だった。

はっきり言って、この女は常軌を逸している。
まさに不毛の愛だ。
彼女が敢えて名前を名乗らなかったのは奥ゆかしいとも言えるが、ちょっと不自然でもある。
名乗らないから、男が自分を金で買える娼婦として扱うのは当然なのに、それにショックを受けるのは愚かしい。
恋したことのない人から見たら信じられない話だろう。
時代が古いこともあるが、これほど男にとって都合のいい女もいない。
男が書いた話だから仕方ないのだろうか。
ツヴァイクと言えば、私など、昔「マリー・アントワネット」を読んだことを懐かしく思い出す。
あの人がこんな芝居を書いていたのか。
こんな妄想を抱いていたのか・・。

篠原涼子は何十枚もある手紙を、読みながら歩き回り、読み終えると床に落として、次の手紙を読む。
つまり、これは朗読劇だった。
なるほど!これなら役者は楽だろう。セリフを暗記しなくてもいいのだから。
この戯曲は全部女の手紙という設定なのだから、問題ないし。

彼女をナマで見たのは初めてだが、特に演技がうまいわけではなかった。
ただ、顔立ちも声も個性的で独特の魅力がある。
大きな息子たちがいるとはとても思えないほど可愛らしい。
だから満席なのだろう。

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岡本健一版「ロミオとジュリエット」

2025-01-07 15:21:35 | 芝居
12月9日新国立劇場小劇場で、シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」を見た(翻訳:河合祥一郎、上演台本・音楽・演出:岡本健一)。



新国立劇場演劇研修所第18期生公演。
敵同士の家に生まれた若い二人の悲恋物語。

開演前、役者たちが冒頭のセリフを口々に朗読しながら会場中を歩き回る。
実にやかましくて本も読めない。とんだ迷惑だ。やめて欲しい。
劇団「地点」を思い出した。

冒頭、役者たちは口々に数字を羅列する。これが何のことか意味不明。
若い役者たちは狭い舞台を走り回る。
まるで初期の野田秀樹の芝居だ。

キャピュレット家のパーティ。
これがまたうるさい。
舞台上で人々が踊っている時、その外の反対側にいるロミオとジュリエットは相手に向かってセリフを叫ぶ!
実に不自然だ。
このシーンは、二人がすぐそばに、二人きりでいてささやき合うのでないとおかしいでしょう?
実に醜悪。
いいセリフをいっぱいカットしていて、もったいない。
これでは何のために来たのかわからない。
ティボルトが、敵であるロミオを見つけていきり立つと、キャピュレットは、ロミオが「評判のいい青年だ」と言って止める。
そこも大事なとこなのにカット。

ロレンス神父の庵には、天井からいろいろぶら下がっている。
神父役の石井暸一がうまい。

剣はバトンのようなもので、打ち合うと金属音がする。
けんかのシーンが長過ぎる。
乳母は俗物で軽薄な女性のはずが、しっかり者になっていて、原作と全然違う。
彼女の言葉を聞いてジュリエットは、地獄に落ちても仕方ない人だ、と軽蔑し、真に精神的に自立するきっかけとなるのだが。
追放の宣告を受けて絶望するロミオを神父が諌めるセリフが素晴らしいのだが、それもカット。
ジュリエットが例の薬を飲む前のセリフもカット。
キャピュレット(ジュリエットの父親)役の中西良介がうまい。
ジュリエットの死(仮死)を知った両親の嘆きに、なぜか他の人々も加わる。
これが大袈裟。

ロミオの召使いは馬を飛ばして、主人にジュリエットの死を伝える。
この男がロミオに対して友人のような言葉遣いをするのが、聞いていて実に居心地が悪い。
この男は友人ではない!
(ちなみに、彼があまりに主人に忠実だったために二人の悲劇が起こったと言えなくもない)
(それと、神父がロミオ宛てに書いた手紙を持たせた使いの修道士が、ペストの濃厚接触者とされて隔離されるという不運もある)
キャピュレット家の墓所でロミオは毒を飲み、ジュリエットの体の上に倒れて絶命。
こんなの初めて見た。重いだろうに。
だからジュリエットは目覚めるとすぐ、自分の体の上に夫を発見する。

ラスト、二人の遺体を囲んで両家の両親と他の人々が大声で二人の名前を呼んで嘆き悲しむ。
大公は来ない。
この時、モンタギュー夫人は既に死んでいるはずなのに変だ。
キャピュレット夫妻は、葬儀も済ませた娘が血を流して死んでいるのを見て、驚くだろうが、果たして泣くだろうか。
もう十分涙を流しただろうに。
むしろ、娘が自分たちをだましたのか、と、そっちの方がショックだろうに。

これは、今まで見た中で最悪のロミジュリだった。
岡本健一は第一級のうまい役者だと思うが、演出家には向いてないとわかった。
名優必ずしも名演出家ならず。
その意味では吉田鋼太郎と同じだ。
いや、この人もシェイクスピア以外ならいいのかも知れない。
シェイクスピアの芝居は、ほぼ韻文で書かれていて、セリフを耳で聴いて楽しむものなので、他の芝居とは勝手が違うのだ。

演出家はウクライナだ何だと書いているが、結局、シェイクスピアを使って自分の思いついたことを描いただけ。
つまり、シェイクスピアのストーリー(枠組み)を利用しているだけだった。


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