【 2016年5月15日 】 NHKスペシャル
IBMの「ディープ・ブルー」とチェス世界チャンピオンの「ガルリ・カスパロフ」との1997年の2回目の対戦で、コンピュータ(人工知能)が初めて人間を破ってから20年弱。
その後、【チェス】より複雑で手数のかかる【将棋】の世界でも、人工知能が人間を凌駕するようになってきた。
以前、同じNHKの番組で「コンピュータの人工知能がプロ棋士の実力に迫る」という内容の『「運命の一手」-渡辺竜王と人工知能「ボナンザ」の戦い』を見たのが2007年だった。
それから10年弱、とうとう囲碁の世界にまで『人工知能の実力』が迫ってきたが、局部の《定石》だけでなく、全体を見渡す《大局観》が必要で、しかも81しかマス目のない【将棋】に対し、361(19×19)箇所も打つ可能性のある【囲碁】では、従来の《しらみつぶし》の方法では到底対抗できず、人間にはまだ勝てないと思われていた。
だから、今回の、Googleの開発した囲碁の人工知能ソフトI『Alpha碁』が韓国No1の棋士「イ・セドル」を破ったことが世間の驚きとして(番組を見ると、「イ・セドル」自身が一番驚いていたようだ)伝えられ話題になっている。
コンピュータ等の「人工知能」と「頭脳」を持っている「人間」との違いに、
1.自律性 :コンピュータは独力では何もできない
2.代謝 :生物のように自力でエネルギーを生んだり取り込んだりできない
3.自己複製:コンピュータには自己複製能力はない
4.生存本能:コンピュータは自分が生き残れるか・・無頓着である
5.進化と適応:コンピュータは自力で進化したり適応する能力を備えていない
(『複雑性の世界』 メラニー・ミッチェル著(高橋 洋 訳) 2011年、紀伊国屋書店刊 P-193 より抜粋 )
等が挙げられるが、今回上の5.に当たる《進化・学習能力》が大幅に改良されたという。これまで「コンピュータ」といえば、所詮《計算機》に過ぎず、人間が「プログラム」で指示を与えなければ何もできない《道具》でしかなかったが、《経験》を蓄積し《学ぶ》という能力を得たとなると、状況は変わってくる。
番組では、囲碁の勝負だけではなく、『人工知能』がこれからの社会で、《いかに活用されるか》も描いている。【自動車の自動運転】とか、【不正を見抜くシステム】とか【人間の相手になるロボット】とか・・・。
優れた《頭脳》によって、世の中が便利になって良い事尽くめのような感じもするは、果たしてそうだろうか。
人工知能やロボットは、現状では、上の4.の「生存本能」を持たないし、何に価値を置くか無頓着であるから、当面は人間が【その価値観】に従った指示するのだろう!人の価値観はいろいろであり、【良いロボット】だけを作るとはだれも保証できない。(イラくやシリアを襲う《無人爆撃機》を想像すればいい!)
また、将来ロボット自身が価値観を自分で持つようになったら、どうなるのか? 《人の気持ちがわかる》人間相手の応答機械が紹介されていたが、いったいどんな知識を吸収するのだろうか。
以前読んだ、『心の理論』という本の中で、「鉄腕アトム」に言及した一文が思い出される。
『 人間は、たの動物と比べて格段に優れた身体能力を持っているわけでもなく、しか
も大人になるまでの成長に必要な期間も長い。そのため、人間は、集団生活を行なうこ
とによって身体的な弱さを補い、一人前になるまで他者からの援助を受けなければなら
ない。集団生活を営むためには、他社の心の理解が必要であり、それが人間の適応能力
の一つとして遺伝的に組み込まれていると考えられるのである。』
としたうえで、
【機械に「心」は移植できるか】という問いかけをした後【鉄腕アトムが悪意を持つとき】という項を設け、以下のように論じている。
『 「鉄腕アトム」は、・・・決して科学万能、技術礼賛の作品ではない。人間が科学
や技術を悪用することによって生じた危機を、アトムが修復する話がほとんどの作品の
テーマになっている。・・・ところで、高度な知識を備えているはずのアトムは、ある
行為や結果が人間の悪意にもとづくものかどうかということを何を基準に判断している
のだろうか。』
つづけて、
『 アトムは善意の人であり、悪意を持つ「能力」は組み込まれていない。そのような
ロボットに真に他者の悪意を理解し、悪意と対決しようとすることはできるのだろうか。』
と疑問を呈して、
『「悪い心を持たないのは人間として不完全だ」という命題は、大変意味深長であるよ
うに思われる。』
【『心の理論』子安増生著 2000年 岩波科学ライブラリー 】 P-120-124 より抜粋
と、筆者は述べている。
これはどういうことかというと、【自分に「悪意の心」がなければ相手の「悪意の気持ち」やその企てを理解することは不可能】ということだと思う。
その直後には、「アシモフ」の【ロボット3原則】
『第一則 ロボットは、人間を傷つけたり、見過ごすことによって人間が危害にまきこまれたりすることがあってはならない
第二則 ロボットは、第一則と矛盾しない限り、人間が与えた命令に従わなければならない
第三則 ロボットは、第一則、第二則と矛盾しない限り、自身の存在を守らなければならない 』
【 同書 】 P-125より抜粋
も引用されていて、何度読んでも、示唆の多い本である。
○ ○ ○
前述のように、当面はロボット自身に上のような能力がつく事は期待できないことであり、人間がロボットに命令を書くわけだから、それこそ使い方次第で【天使か悪魔】の世界である。
番組の終りの方で、『20年後くらいには、人間の数よりロボットの方が多くなる』とも予想していたが、そのロボットが仮に「アシモフの3原則」を備えたロボットであっても、【自己複製能力】や独自の【価値観】を獲得する能力を身に着けたら、いったいどんなことになるのか末恐ろしい気がする。(核兵器は論外として、【原子力】が平和利用と言いながら、結局人間の手に負えないものになっていることを考え合わせると、科学の発展を手放しで喜べない。)
なお、この番組『羽生義弘・人工知能を探る』は17日(火)深夜0:10よりNHK総合TVで再放送されるということです。興味ある方は是非ご覧になってください。
『NHKスペシャル番組案内』-のページ
『「運命の一手」-渡辺竜王と人工知能「ボナンザ」の戦い』-マイブログへジャンプ