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『雇用身分社会』ー格差と貧困が広がるなか、就職・採用時の”雇用形態”がその人の身分と将来を決定する

2016-02-28 13:23:21 | 最近読んだ本・感想

                               【雇用身分社会】 森岡孝二著  岩波書店 2015年刊


 「労働者派遣法」が1986年に初めて施行されてから30年たつが、それ以降日本の勤労者・労働者の姿は、その間に起きた世界経済の大変動にも影響されて、大きく様変わりした。

 この本の序章に『気がつけば日本は《雇用身分社会》』という項目見出しがついて、本のタイトルにもなっているが、《格差社会》でも《貧困社会》でもなく《雇用身分社会》という言葉が使われているのは意味深長である。


         〇           〇            〇

 現在の日本の労働形態がいかに歪められているかということを象徴的に表す「過労死」とか「ブラック企業」とか「ワーキング・プア」とかの言葉が巷を飛び交っているのは誰でも知っているが、その実態をどれだけ認識しているか-肌身に感じているか-という程度は当事者とそうでないものとは格段の違いがあるように思う。


 雇用の形態には「直接雇用」と「間接雇用」があるが、間接雇用の代表格である「派遣」が今一番大きな社会問題となっている。「派遣」の《めちゃくちゃさ》が、雇用の多様性という美辞麗句とともに「直接雇用」にもその雇用形態の多様性を生み出し、「パート」、「アルバイト」、「嘱託」などと名前を変えた新たな《階層》を「非常勤職員」の中に持ち込んだ。さらには「正職員」の中にも「限定正社員」というわけの分からない《身分》を作っている。


 「非常勤職員」とはいうけど、いわゆる「パート」や「アルバイト」「嘱託」の中には《常勤並》に働いている人は多数いて、しかも多くの人が【短時間の軽い仕事を自分から希望しているのではない】ということである。ましてや、《暇つぶし》や《こずかい稼ぎ》でしている人は例外的なわずかな人で、多くの人は《毎日の生活のため》に働いているという事実がある。


 今いる自分の職場でも、派遣職員こそ居ないものの、非正規職員の割合が非常に高くなっている。その中で、「この職場では、あと1年しか働けない。」とかいう話をよく耳にする。
 本来、労働者-働く者-の立場に立って、それを守るはずの法律が【労働者を苦しめている】という現実はいったい何のかと思う。
 【継続的に必要な仕事は、「臨時雇用」でなく、期限のない「正規雇用」にしなさいよ】というのが本来の趣旨で、それを逆手に取られて、【したい仕事が続けられない】という矛盾した現実。

 どう見ても政治が間違っている。


「派遣」も同様である。

 政府や、人材派遣会社の元締めである竹中某が言うような、【1つの会社に固定されないで、自分の個性と技術を生かし、多様なライフステージにあった職場を自由に行き来できる】なんていうカッコいいものではない。



 1947年4月に「労働基準法」、つづいて11月に「職業安定法」が制定されたのだが、前者の趣旨は言うまでもないが、後者の制定の目的はというと、この本でも引用されているが、『女工哀史』や『蟹工船』などで(-映画『ああ!野麦峠』ーでも)描かれている、戦前の周旋屋、募集人などの奴【隷的な人身売買】、【賃金の中間搾取(ピンハネ)】を伴う、有料の【中間悪徳業者】を排除するため設けられたのであるが、「労働者派遣法」の度重なる改正(改悪)により徐々に骨抜きにされている。


 「労働基準法」やその他の様々な規制は、過去の辛い労働実態の歴史から、労働者が1つ1つの労働争議を積み重ねて得られた貴重な成果を、《規制緩和》という名のもとに一刀両断のもとに切り捨ててしまうことは許されない。(最近起きた、スキー客を乗せていて、若い命を多数奪った【バス転落事故】も《規制緩和》の犠牲だ。


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 この本には、「派遣」の広がりや問題点、「非常勤職員」がいかに増えていったか、またそれと「正規職員」との格差の問題が数値やグラフを使って詳細に述べられている。

 そして、本書の本題である「雇用身分」について以下の記述がある。

 『雇用が「社会おける人々の地位や職業の序列」を作り出している面があることは否定できない。』(P-18)

 『正規、非正規という雇用形態の違いによる賃金格差は、学歴の違いによる賃金格差よりはるかに大きいい。』(P-19)

 この点については間違いないと思うが、少し物足りない感じがする。


 「身分」ということばで連想されるのはフランス革命の時代シエイエスによって著された『第三身分とは何か』という本のタイトルにある、その「身分」である。
 その本の中で、【聖職者】【貴族】に続く第三身分である【一般庶民】(=当時の新興勢力であるブルジョア階級)の権威を明らかにし、国民主権や代議制など近代憲法の基本原理の理論化して書かれ「法の下の平等にある国民」といった概念を築き、その後の革命に大きな影響を与えたといわれている。

 日本でも【士農工商】という身分制度があって、明治維新まで権力者が人民を【支配する道具】として使用していた。


 その【身分】という制度の特徴は、その人の【生まれながらの属性】として固定され、知識や能力、個人の努力に関係なく【終身変わり得ないもの】としてあるということだ。

 そして、ここでいう【雇用身分】も、生まれながらの属性ではないもののはずが、一度運悪く《陥ったら》、能力や個人の努力にでは、二度と這い上がれない、れっきとした【身分】なのだ。

 それはいみじくも、湯浅誠が『反貧困-「すべり台社会」からの脱出』で書いたように、一度滑り落ちたら這い上がることが困難なこの社会の現実なのだ。

 【雇用身分】とは、その身分につきまとう【格差】【貧困】が《一生ついて回る》ということを意味する、耐えがたい制度なのである。


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 【労働者派遣法】がそうであるが、多くの怪しい法律は、差しさわりのない異論が出そうもない部分だけを表に出し、それらしい文言で飾り立てた上で、【小さく生んで大きく育てる】やり方で成立させる。

 【TPP】しかり、【憲法改悪】しかり、【消費税増税】しかり、【PKO】をはじめとする【戦争法】に至る【安保法制】しかりである。
 
 -そうした手法には今後とも要注意である。



    








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