この映画・本、よかったす-旅行記も!

最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

「北アルプス・裏銀座を行く」-その4(最終回)

2011-06-14 22:04:06 | 山・旅行



       【2010年9月21日】 (山行第4日目と最終日)

 6時前目を覚ますと、猛烈な風と雨。夜中にトイレに起きたときも雨が降りしきり、10mほど離れたトイレに行くのにカッパを着てもびしょ濡れになった。そのときよりも風雨はさらにきつくなっている。屋根をたたく雨音と窓を揺らす風の音を聞いて、早々に下山を決める。下山をするにしてもこの天候だ、何の楽しみもない。

 小屋から出ることを躊躇わざるを得ない。食事を終えて宿泊者が次からつぎへと雨の中へ出て行き、とうとう最後になってしまった。

 相変わらず激しい雨が降っている。昨日と同じく周囲の景色は何も見えない。小屋を出てすぐのザレ場の急坂も足元が不安定で怖い。

 山登りで周りの景色が見えないというのは何も面白くないし、山に登っているという実感もない。それに今どの辺りを歩いているのか、どれだけ距離を稼いでいるのか、全く見当がつかない。ただ、つらいだけだ。



  



 昨日通ったた道を真砂岳分岐までやってくる。ここから湯俣温泉まで4時間半の下りだ。ガスで何も見えない道を重い足を引きずって進んで行く。
 下山するはずのコースがまた大きく上り返している。地図を見ると、下り一筋と思っていたが、南真砂岳が尾根の途中で大きくそびえている。


   
                     




 相変わらず何も見えない。やっとの思いで、南真砂岳を過ぎる。辛いだけだと消耗度も激しくペースも落ちる。分岐を過ぎて5時間近くが経とうとする。もういい加減、湯俣に着いてもいい時間なのに高度的に全然下っていない。足の疲労を考えると最後の下りがきつそうだ。ますますペースが落ちる。
 湯俣岳を過ぎた辺りでようやく向かい側の稜線の一部が見えはじめた。それでも槍ヶ岳や鷲羽岳があると思われる方向は厚い雲に覆われ何も見えない。

 Yさんは先を行っているがどの辺を行っているのか。自分の歩行タイムは予想時間をかなりオーバーしている。



                                
                                     【 ようやく見えてきた山陰 】



 湯俣岳の近くになって雲が切れ始めた。向かい側の山の稜線がガスの切れ目から顔を覗かす。見晴らし台というところに出てきた。はるか下の方に河原の様子が見える。まだ、あれだけ降らないと目的地につけないのかと思うと、急に疲れが出てくる。


                                            
                                                      【ようやく晴れ間から燕岳が輝いて見える】


 左に振り返ると、高瀬渓谷を挟んで、燕岳の花崗岩が白く輝いている。膝の痛さをこらえ一歩一歩降りていく。



     
               【 湯俣温泉『晴嵐荘』】


 やはり到着は5時近くになってしまった。Yさんはもっと早く着いていると思ったが、30分ほどしか違わず、やはり夕食は間に合わなかった。

 それにしても、ここ『晴嵐荘』の管理人は愛想が悪い。というか、1軒の宿として、山小屋として「これでいいのか」という対応だ。

 Yさんが、到着と同時にきいた言葉は、「こんな時間に来て、夕食はない。ラーメンでも食べてくれ。明日の朝は、7時までに荷物をまとめて退去してくれ。」ということだった。にこりともせず、有無を言わさぬ口調で、一方的に伝えたということだった。
 「それなら、他を当たります。」とも言えず、やむなく受け入れたという。宿泊者は私らを含めて5人。


 かつてここは、北鎌尾根を経て槍ヶ岳頂上を目指す前進基地として有名な登山家たちが集ったところだ。いい温泉も沸く。山登りをするものにとって別天地のようなところだ。そこに『晴嵐荘』という温泉に浸かれる山小屋(旅館)があって、その名前にも憧れ、一度は行ってみたいと訪れたのに、この有様だ。今は、往時の面影もない。現代人にとってはアクセスの適当な交通手段がなく、遠すぎるのだ。せめて、高瀬ダムから送迎バスでもあればと思うのだが、無理な話だ。

 せめてもの慰めで、内湯の温泉を引いた風呂に入る。いい湯だ。無愛想な管理人でなかったら、もっと楽しんで入れたのにと思う。消灯と同時に眠りに着く。



   
             【 とても入れそうもない河原の温泉 】



 翌日は、6時に朝食を摂り、せわしく7時に追い出される。せっかくだから、河原に沸いている温泉に挑戦する。
 和歌山の川湯温泉と同様に、河原の砂利を掘り起こすとお湯が沸いてくる場所がある。すでに、掘ってある場所があって、湯加減をみる。いい温度だが、川湯温泉に比べるとだいぶ汚い。入るのにためらうが、Yさんが果敢に挑むので、つられて入る。藻だかわけのわからないヌルヌルのものが足にまとわり着き、とても温泉を楽しむという気分ではない。



                        
                             【湯俣温泉の河原で】


 それでも、目をつぶって入っていると、心地よい。何と言っても天然の河原である。山の緑と川を渡る風が気持ちいい。



          
                     【 槍ヶ岳北鎌尾根に至る道しるべ 】

 橋を渡り、『晴嵐荘』を後にする。つり橋を渡ったところに、道しるべがあった。左に折れると、槍ヶ岳北鎌尾根に至る。所要時間を見ると、8時間とある。今日降りてきた『水晶小屋』までより短い。しかし、自分らが今の体力で行ったら12時間はかかるだろうな、と思う。途中でへばったら逃げるところがない。独標あたりで雨風にでもあたられたら、ひとたまりもない。いつか挑戦しようと思っていたが、自分らにはやはり無理か。

 

          
               【高瀬湖から船窪岳を望む】



 道標を左に折れ、高瀬ダムの道へ進む。高瀬川沿いの道は、ダムまでおよそ4時間の行程である。はじめから退屈なのはわかっていた。

 高瀬ダムに堰き止められた湖を左に見ながら、ほぼ北向きにまっすぐ伸びた道を進むと正面に船窪岳が見える。3日前はあの頂からこちらを見ていたのだ。

 また雨が降ってきた。途中、『名無避難小屋』で雨宿りを兼ね一服する。雨に打たれ気力も萎える。

 気力を取り戻して、再び歩き出す。幸いなのは、道が平坦なことだ。この後、ダムまでは下りも登りもない。トンネルを2つくぐり、長い最後のトンネルを出るといきなりダムサイトに出た。



  
        【 高瀬ダム 】 



 あと、もう少しだ。さらに幸運なことには、ロックフィルダムの斜面にジグザグにつけられた道をダムの下まで降り、最悪の場合、更に七倉温泉まで歩いて行かなければならいと思っていたところ、ちょうど乗り合わせのタクシーが堤防の道をこちらに走ってくるではないか。2人しか乗っていないタクシーは相乗りの相手を探していた模様で、むこうも快く同乗を勧めてくれた。単独でタクシーを呼び寄せるよりも、時間も料金も助かった。

  
      
                                   
                                             【 七倉温泉 】


1時間かかるところを10分で七倉まで降りてきた。駐車場で早速、着替えて1つ下の葛温泉に向かう。10年ほど前、単独で立山に来たとき、やはり長雨に合い、剣岳をあきらめこの温泉に浸かった事がある。前の印象では、もっと大きな露天風呂と思っていたが、気持ちのいい温泉だ。



     
            【 葛温泉『高瀬館』】


 湯俣温泉で落とし切れなかった5日分の垢と、河原でついた気味の悪い“ぬめり”を落とし、たっぷりのお湯にゆっくり浸かる。



  
      【葛温泉高瀬館の露天風呂】


 まっすぐ京都に帰ってもよかったが、予備日が1日あるのと、翌日は休日だから午前0時を超えれば1000円で帰れる。急いで帰ることもない。松川町の『安曇野ちひろ美術館』に立ち寄ることにする。



                         
                                 【 松川町の『安曇野ちひろ美術館』】


 『ちひろ美術館』でお気に入りの絵を2点買い込んで、松本でそばを食べて、草津に午後11過ぎについたので、更にそこで時間をつぶし、東山インターを出たのは、12時15分。自宅に12時30過ぎにたどり着き、今回の山行は大きなけがもなく終了。

 そういえば、出発前の前は扁桃腺の奥が腫れ、何とか山行きに間に合うように点滴を2日連続で打ってもらっての強行だった。こんな無理ももう今回限りだろうか。


                                       【 終わり 】






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