イギリス南部の海辺の町シーフォード。近くの崖下には「ホープ・ギャップ」と呼ばれる入り江が広がり
美しい景色が散策する者たちの心を癒してくれる。この町で暮らすグレースとエドワードは、もうすぐ
結婚29周年を迎えようとしていた。仕事を引退したグレースは詩集の作成に時間を費やし、エドワードは
高校で教師をしている。独立して家を出た一人息子のジェイミーが久しぶりに帰郷した週末、エドワードは
突然、「家を出て行く」とグレースに別れを告げる。その理由を聞いて耳を疑うグレースとジェイミー。
絶望と怒りに支配される母を支えるジェイミーも、自身の生き方や人間関係を見つめ直していく。
3人それぞれの痛みはしかし、思いもしなかった明日を連れて来る──。
「グラディエーター」などの脚本で知られるウィリアム・ニコルソンが、成人してから両親が離婚する
という体験に基づいて、そこから映画用の脚本も書いて監督を務めたそうです。
口うるさい妻と寡黙な夫の夫婦像に、自分を重ねる女性は多いでしょう・・・夫婦間の辛辣なやりとりが
リアルすぎて胸が痛いが、アネット・ベニングとビル・ナイの至芸とも言える名演に引き込まれます。
ベニングが演じるグレースは、引退後に詩選集作りを始めるなど詩をこよなく愛するロマンティストで
喜怒哀楽も豊か、信心深い理想主義者でもあり、夫や息子に対して不満があればはっきり言う。
一方、ビル・ナイが扮する歴史教師のエドワードは、家では寡黙で、妻にお茶を淹れてと言われれば文句
も言わずに従い、夫婦の会話を避けるかのように自室に引っ込んでウィキペディアの書き込みに没頭して
いる。都会で一人暮らす息子のジェイミーが父に呼び出され、週末に海辺の町シーフォードの実家に帰ると
エドワードは家を出ていくと言う・・・張り詰めたシーンから、一気に広がる入り江の開放感。
グレースの心境が少しずつ変化していく様に、同情し共感を覚えながら、女性のしなやかな生命力を
確信しました。そしてズレてしまった心はもう、戻らない事を知るのみである
ハッキリしない割と不穏な終わり方は、逆にリアリティーがあると思いました。 ☆☆☆☆