開涅槃門扇解脱風
おしひらく草の庵の竹の戸に袂(たもと)涼しき秋の初風
半紙
【題出典】『無量義経』徳行品
【題意】 開涅槃門扇解脱風
涅槃の門を開き、解脱の風を扇ぐ。
【歌の通釈】
草庵の竹の戸を押し開くと袂に涼しい秋の初風が吹いてきた。(二乗から脱し菩薩となると、涼しい解脱の風が初めて袂に吹いてきた。)
【考】
二乗の位から菩薩の位を得て初めて解脱の風を受けることを、秋の初風を迎える「立秋」の心により詠んだ。草庵に止まることは、自利に徹する二乗の立場に止まることである。その草庵の戸を開け放てば、涼しき秋の初風が吹き込み、利他に尽くす菩薩の道が開ける。
★二乗=声聞と縁覚。これは、現世の執着を断つが自己中心的で利他の行に欠ける者。これを脱した者が菩薩となる。
(以上、『寂然法門百首全釈』山本章博著 による。)
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この「寂然法門百首」も21番となり、ここから10首は秋の歌。この歌は、「立秋」ですね。
菩薩というのは、現世への執着を断つだけでなく、利他の心を持つ者。菩薩とは「悟りを求める人」の意味ですが、その中でも、最上位ということになるのでしょう。菩薩は、大乗仏教を理解する上でのキーワードのようです。
前回の歌と同様に、この歌でも、「悟り」が、「涼しい」秋風に例えられています。湿気が多く暑い夏に苦しんだ日本人には、涼しい秋風は、何にもまして嬉しいものだったのでしょう。それは現代でもまったく同じですね。