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一日一書 1631 春の日の夕暮 中原中也

2020-05-30 14:44:02 | 一日一書

 

中原中也

 

春の日の夕暮

 

半紙

 

 

  春の日の夕暮

 

トタンがセンベイ食べて

春の日の夕暮は穏かです

アンダースローされた灰が蒼ざめて

春の日の夕暮は静かです

 

吁(ああ)! 案山子はいないか──あるまい

馬嘶(いなな)くか──嘶きもしまい

ただただ月の光のヌメランとするまゝに

従順なのは 春の日の夕暮か

 

ポトホトと野の中に伽藍は紅く

荷馬車の車輪 油を失ひ

私が歴史的現在に物を云へば

嘲(あざけ)る嘲る 空と山とが

 

瓦が一枚 はぐれました

これから春の日の夕暮は

無言ながら 前進します

自(みずか)らの 静脈管の中へです

 

 

中原中也の有名な初期の詩です。

いわゆるダダイズムの詩として有名なのですが、

この詩を初めて読んだのは、たぶん、高校生のころの現国の授業のプリント。

 

なんだか変な詩だなあと思ったけれど

忘れられません。

 

結局、中原中也の詩では、これがいちばんいい、のかも、なんて思ってしまうのも

一行一行が、炊きたてのご飯みたいに「立っている」からかもしれません。

 

鬱屈して、何も考えたくないとき

頭の中を「トタンがセンベイ食べて……」が旋回するわけです。

 

 

 

 

 

 

 


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