マチンガのノート

読書、映画の感想など  

同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬 早川書房 感想 ネタバレ

2022-06-25 00:29:56 | 日記

’85年産まれの逢坂冬馬さんのデビュー作であり、’21年の本屋大賞受賞作です。

多くの書店で、平積みで売られています。

[感想]

内容のかなりの部分は、映画「ロシアン・スナイパー」(’15年ロシア・ウクライナ合作)や、

「スターリングラード 史上最大の市街戦」(’14年ロシア)を参考にして作られていました。

映画『ロシアン・スナイパー』の感想・レビュー[1791件] | Filmarks

映画『ロシアン・スナイパー』の感想・レビュー[1791件] | Filmarks

レビュー数:1791件 / 平均スコア:★★★3.4点

 

 
映画『スターリングラード 史上最大の市街戦』の感想・レビュー[248件] | Filmarks

映画『スターリングラード 史上最大の市街戦』の感想・レビュー[248件] | Filmarks

レビュー数:248件 / 平均スコア:★★★2.9点

 

 

本書を書くにあたり、多くの事を調べたようですが、様々なところで、

上記の映画の内容を少し変えて使っているところが著者の限界を示していると思います。

また、第二次大戦当時のソ連国民や、ソ連兵やドイツ兵達は現代の日本とは

ものの捉え方、感じ方、そして生活の様々なところが大きく違ったでしょうが、

その事を考えて書いているようには思えませんでした。

扱っている題材と比べ、表紙の絵が小綺麗なことから、この本を作った関係者も、

それ程そのような事を考えずに作ったのでしょう。

そのため日本国内向けのエンタメ小説以上のものではありませんでした。

様々な表現が現代の日本的なので、違和感を感じるところが多かったです。

著者は若い方なので、歴史などに関する知識が浅く、このような小説になったのでしょう。

多くのソ連映画やロシア映画を観てきた人には、内容が浅く、物足りないだろうと

思いました。

歴史に関する世代間の知識の断絶を感じさせる内容でした。

本作が本屋大賞に選ばれたのも、書店員の歴史に関する知識が浅くなっているからでしょう。

それでも著者はデビュー作で、これだけまとめられるだけの才能があるので、

本作が売れたことに惑わされずにいれば、今後は良い小説が書けるように

なるのではないかと思いました。

 


戦争体験の捉え方に関するマリーン・コープス・タイムズの記事

2022-06-21 06:30:36 | 日記

 

Marine veteran reframes fear as fuel for overcoming life’s challenges

Marine veteran reframes fear as fuel for overcoming life’s challenges

The Iraq War vet faced down his struggles with education, writing and adventure.

Marine Corps Times

 

この記事で取り上げられている人にとっては、恐怖や怒りなどを感じても、

それに振り回されないようにすることが「障害」にならないための

ポイントになっているようです。

一部の「セラピー」のように、「あなたの気持ちを表現してみてください」、

などという関わりは、本人の自律性を減らしていくので、

良い影響は与えないのかもしれません。


由宇子の天秤  監督 春本雄二郎 出演 瀧内公美 光石研 河合優美 感想

2022-06-17 22:55:50 | 日記

「火口のふたり」「彼女の人生は間違いじゃない」などの瀧内公美さん主演の

現代社会を描いた秀作です。なんでも明確にしようとする風潮やネット社会のことを

扱っている映画です。

[あらすじ]

ドキュメンタリー監督の木下由宇子は女子高校生自殺事件のための取材をしながら、

父親が一人で切り盛りする学習塾も手伝っています。

取材対象の亡くなった女子高校生が通っていた高校も、何か隠蔽しているようなので、

その女子高校生の家族や、その女子高校生と交際しているとされていた

高校教師の家族を取材しているのでした。

[感想]

由宇子は父子家庭で育ち、学校の勉強も頑張ってドキュメンタリー監督になったのでしょうから、

それなりに苦労してきていて、正義感などはそれを支えていた要素だったのでしょう。

そのため、自分の作るドキュメンタリーも公正なものを目指すのですが、

父親が塾の生徒との間で犯した問題から、自分にも関係のある事柄として、

学校どころではない家庭に関わることになるという、二段構えの展開です。

何かと苦労して来ていて、努力して活躍している人には、その努力自体をする

基盤がない人のことは、見えないことが多いようです。

由宇子は自分が当事者になることにより、物事を明確にすることが、

いかにいろいろな人に回復不能なダメージを与えるのかを知る辺りは、

何かと物事をはっきり明確にしようとする近年の社会のあり方を問うているところです。

2時間半と長い目の映画ですが、この内容を描くには、それくらいは必要だったのでしょう。

ザラついた映像や、背景のノイズの多い音声などが、物語の内容を上手く補強していると

思いました。

映画『由宇子の天秤』予告編

露出せよ、と現代文明は言う:「心の闇」の喪失と精神分析 立木康介

という本を思い出す内容でした。