気がつけば思い出Ⅱ

日々の忙しさの中でフッと気がついた時はもう
そのまま流れていってしまう思い出!
それを一瞬でも残せたらと...。

母さんへ~電話ができないから手紙を書くね (^.^)/ ✉25

2021年08月30日 | 母への手紙

母さん、明日で8月も終わりです。

今年はお盆の頃に雨が降り続き、気温もぐっと下がって「もしやこのまま秋?」なんて思いましたが、

やっぱり暑さはぶり返しました。ここ数日は35度前後の暑さです。

ぶり返したと言えば、コロナは収束どころか、感染者が脅威の数値になっています。

神奈川県でも2000人を超える日が続き、その1/3の近くはこの市です。

しかも最近は子供にも感染者が多くなってきました。

市立の小中学校は取り敢えず9月1日から13日まで学級内で分散登校だそうです。

子供たちも可哀想ですが、仕方ありません。

ママがカレンダーに〇印を付けました。

名簿順での振り分けになったようで、うちは小、中に別れていても(あ)の行なので二人一緒です。

でもそうすると(な)行の家などはバラバラになる可能性があるので親は大変なのではとママが言っていました。

また、「うちのように家に誰かしらいる家庭は良いけれど、両親とも仕事の家やシングルマザーの家庭など大変かもしれません。」と言っていました。

ゆえ食事もできない子もいるかもしれないということなのか?小学校では一日おきの登校でも給食はあるそうです。

親も先生も大変です。戦中か…。って感じです。

まぁ母さんの体験した戦中には比べようもないと思いますが、ある意味戦いなのでしょうね…きっと。

ママの職場では、PCR検査の陽性率が50%(つまり二人に一人が感染者)の時があって、薬剤師さんたちで「ええっ…。」て言っていたらしいです。

みんな危機感半端ではないらしいです。うつらないようには細心の注意はしているけれど「私が持ち帰るかもしれません」と言っています。

先生か?生徒か?分からないけれど感染者が出たようでの学習塾は9月から全面リモート授業になるようです。

そんな中、リモート生活も一年半のじじ が毎日出社することになりました。

社長さんが8月初めに病気で長期入院したのですが、代わりに現場の手配などをしていた工務課長も先日、重篤な病気で入院してしまったそうです。

また、代わりに頑張っていた事務員さんが産休に入り…。

またまた、本当はタイミングよく職場復帰する予定の産休明けの事務さんがいたのですが、

こういう時世のため赤ちゃんを預かってくれるところが見つからずに復帰できず…。

(見つかったとしてもコロナ感染者が毎日5000人近くも出ている東京では預けたくないのかもしれません。)

そこでじじが(昔取った杵柄~気力だけの72歳!)再度、先週から電車で東京へ通い始めました。

二回のワクチンは済んでいますが、うつらないという確証は無く、そして他の人にはうつすらしいので、ワクチン未接種の孫達にうつさないかとても心配です。

私も毎日行っているスーパーから感染者が出たので、近くて散歩にはならないけれどあまり客のいない生協へと行きはじめましたが、そこも出ました。

どこに感染者が出ているか調べても、あまり多くて…もうどこもかしこもという感じです。

そんなわけでじじの出社で私も朝早く起きる事になったので、雨の間に伸びた草を取ろう思い庭に出てますが、汗が頬を伝わって落ちます。

こちらにも熱中症という敵がいるようで、9時ぐらいまでに家に入ります。

この間は一日に救急車のサイレンを(熱中症だか?コロナだか?それとも?)を5回も聞きました。

お隣の畑だった空き地への新築工事も始まってその音と相まって、家籠りも静かではありません。

今日は何だか愚痴ばなしの便りになってしまったようです。

でもいまのところ家族みんな元気で過ごしています!

今庭に咲いている花です。仏花にと思って種を蒔いたアスターが咲き始めました。

百日紅

隣の花水木がうどん粉病になってしまって、微かにうつっている様だったので心配していたのですが、今年も綺麗に咲きました。

俳句もはじめて7カ月、ちゃんと続けています。

母さんのくれた宿題だと思い、気長にやっていきます。母さん。

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はじめての俳句🖊23~月見草(待宵草)

2021年08月26日 | 喜代の俳句

地ならしの下や蕾の月見草

季語:月見草(つきみさう)待宵草(まつよひぐさ):夏

※俳句歳時記:アカバナ科の二年草で、夏の夕方、葉腋(ようえきとは枝の付け根)に直径3センチの白い四遍弁花を開き、翌朝しぼむと赤変する。

北米原産。嘉永年間に渡来し観賞用に栽培されたが、あまり見られなくなった。直立した茎は高さ60センチほど。

一般に黄色い花を開く待宵草・大待宵草を月見草と呼んでいる。

作品の背景:毎年、月見草(待宵草)の咲いている隣家の畑に家が建つことになり、地ならしが始まった。

明日咲くだろうと思われる蕾を持った月見草が土の下に埋もれてしまう。とても惜しい。

提出した句:【地ならしの下に明日咲く月見草】

先生の添削:細かなところにまで目を配った素敵な句ですね。観察眼が光ります。

ただ、「明日咲く」がやや説明的でしょうか。そこで「蕾の」としました。

また、「に」が散文的なので切字の「や」を用いて一呼吸置かせました。こちらの方がより詩らしくなります。

【地ならしの下や蕾の月見草】

          

お隣のものは~多分大待宵草(オオマツヨイグサ)です。ずうっと、月見草だと思っていました。

月見草とは白い花で、夜に咲くことで「月見草」という名前で呼ばれるようになりましたが、

今ではほとんど姿を消してしまい、黄色い待宵草が月見草という名前で呼ばれているようです。

太宰治の「富嶽百景」で「富士には月見草がよく似合うふ。」という文面がありますが、これは(オオマツヨイグサ)ではないかとされています。

      

句を詠んだ見出しの写真はちょうど一カ月ほど前に撮ったものです。

最近、地ならしも終わり、いよいよ施工が始まって建設会社の囲いができました。

でも工事の人も咲き続けている花を抜くのに忍びなかったのか?端の方の月見草だけ残してありました。

それで、まだ咲いています。蕾もあります。ちょっと嬉しくなりました。

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ある夏の終わりに~高校時代の創作(3)♪secret base~君がくれたもの~ /ZONE COVER by Uru

2021年08月25日 | すずかけ

【ある夏の終わりに】(3)

滝子と菊代が外へ出た時はもう日はだいぶ西へ傾いており、夕陽が杉の木の間を縫って差し込み、木々に映えて美しかった。

五条の墓は、一番西の三列目の端にあった。

苔生した墓が並ぶ中の真新しい墓だったのですぐ分かった。

そこには菊の花がいっぱいさしてあった。それは確かに寺の花壇に咲いていたものだったので、滝子はすぐに菊代が生けたものと分かった。

「私ね、毎日換えているのよ。」

菊代は、運んできた手桶の水を下に置くと、その脇の杉の木に寄りかかった。

「それに私は、お稽古に使ったお花を全部ここへ持ってくるの。」

滝子は、誰も墓参り人の無い叔父の墓を想像してきただけに、そうした菊代の言葉を聞いて、嬉しく思った。

彼女にとって、わずか一年の間でも、叔父の墓が取り残される事は、大きな心配の種であったのだった。

彼女は持参した花を墓の上に置いた。

すると菊代が「まあ綺麗なお花。」と言って一本の花たてから花を全部抜き取ると滝子の花を代わりに生けた。

そして再び杉の木に寄りかかった。

墓の前にあらためて立つと、滝子は初めて涙を流した。線香の匂いが五条の死を確実のものにするのだった。

面白くない家庭や学校生活、人生を逆恨みでもするような彼女の心にとって一番の安らぎであり楽しみであったのは、

叔父に絵を習う事であり、共に絵や芸術について語り合い、情熱を燃やす事であった。

五条は彼女の先生であり、親であり、友人であった。

ゆえに彼の死によって彼女は一度にそのすべてを失ってしまったのだ。

「ねえ、滝子さん。叔父さんは何故、自ら死を選んだと思う。」

西の空の方を見つめながら菊代が言った。

滝子は後を振り向いた。

「私にはよくわかりません。でも、もしかすると、絵が原因なのかもしれません。叔父は絵描きとして世に出ることを願っていました。

きっとなって見せると言っていました。叔父はその時こそ、自分が生きるためのあらゆる敵に勝利を得た時だと言っていました。」

「それなのに叔父が何故絵を捨てたか…。つまり絵に対して自信を失ったのだと思います。そしてその時、叔父の人生も終わりだと考えたのだと思います。」

菊代はじっと聞いていた。

「私の考えはまだまだ幼いかもしれません。きっと大人というものはもっと複雑だと思います。」

「ううん私も、そう思うわ。原因の一つはその大人の世界かもしれない。でも私はそう考えたくない。

私たちだってずうっと深く物事を考えると生きていることが、何か全く無意味に思えてくるものね。でも結構みんな生きているじゃないの。

私は五条さんがこの世の中に負けたと思いたくない。だから絵に対する余りにも深い情熱のために亡くなったと思いたいの。」

菊代の目は輝いていた。二人は顔を見合わせた。滝子は自分の考えは何て単純なのだろうと思った。

それは全く現実離れした空想のような気もして、菊代の考えに賛成したいと思った。

「私たちどうやら何もかも考えることが同じらしいわね。」菊代はそう言うと、五条の墓の前に進み出て手を合わせた。

二人は肩並べて墓地を出た。そして、菊代は滝子に

「ねえ、よかったら夕ご飯を食べていかない。今母が親戚へ行っていて、ろくなおもてなしもできないけど。」としきりに誘った。

しかし滝子は遅くなるからという理由でそれを断った。

「私、来年きっとまた来ます。あの夏の絵を書こうと思います。その時はよろしくお願いします。」

帰り際に滝子は住職にもそう言って、夕食を辞した。彼は

「絶対来てくださいね。来年が待ち遠しい。絵もちゃんと用意して待っていますよ。」と言って快く彼女を送ってくれた。

そして滝子は、「お嫁に行っても帰ってくるわよ。」と言って笑った。

滝子が住職と菊代に別れを告げて再び寺の境内に立った時、夕陽はおおかた西へ傾いており、山間はオレンジ色に彩られていた。

彼女は五条の墓の方に向って言った。

「叔父さん、滝子は来年大学を受けます。そして絵の勉強を本格的にはじめます。今日はそれを告げにきました。

来年もきっと来ます。今度は叔父さんの絵を続いて書くために…。それまでどうか見守っていてくださいね。」

滝子自身、五条の後を継ぐ事に一抹の不安があった。それは「もしかすると自分も同じ道を歩くのではないか。」という事だった。

しかし彼女は、遣ろうと決心したのである。

そしてその決心は、今日の訪問でことさら強くなった。

石段の上から静かに下がっている百日紅のその可憐で寂し気な細かな花が、彼女の肩に散った。

そして風が彼女の頬をかすめて行った。秋風だった。それは確かに秋風だった。

石段を下りる滝子の背後から、五条の声がその風と共に聞こえてきた。

「だんだんと大人に近づくにつれて、苦しみや悲しみが多くなり、世の中の矛盾が大きくなるのを滝子も分かってきただろう。

しかし現実は想像以上に厳しいものなのだ。だが、人間誰しも生きていかなくてはならない。実際みんな生きている。

滝子だって、できないはずはない。頑張ってくれ叔父さんの分まで・・・。」

 

寺を出た滝子は、大きく息を吸い込んだ。

「もうじき秋だ…。そして来年の夏ももうすぐだ。それまでがんばるぞ。」

ふり返ると夕闇に包まれかけた寺が、美しく雄大にそびえていた。

滝子は、その寺をもう一度確かめるように見つめると駅へと道を急いだ。

<完>

今回はこの曲をお借りしました。

アニメ「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」のエンディング曲【君がくれたもの】

secret base~君がくれたもの~ /ZONE COVER by Uru

      

このアニメを視た時ほど泣いたことはありませんでした。

もう涙腺崩壊状態で、何回も繰り返し視て、半年ぐらいこの曲は頭の中を駆け巡っていました。

歌詞「♪君と夏の終わり 将来の夢 大きな希望忘れない 10年後の8月 また出会えるのを信じて~♪」の10年後がもう今年だそうです・・・。

私の半世紀も前の思い出にお付き合いいただきありがとうございました。

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ある夏の終わりに~高校時代の創作(2)♪夏の終り/オフコース

2021年08月24日 | すずかけ

【ある夏の終わりに】(2)

「お茶をと思ったのだけれど、この方が良いと思って」と言うとその人は飲み物の入ったコップと、メロンを置いた皿を滝子の前へ出した。

「失礼ですが、何故私の名前を知っていられるのですか、たぶん私はお会いするのは初めてだと思いますけど。」

彼女がそう尋ねると、その人はニコッと笑顔を見せた。そして

「滝子さんというお名前はいつも五条さんに聞いていました。ほんとう言うとあなたが滝子さんだとはっきり確信がなかったの。でもやっぱりそうだったわね。」と言った。

「実はね、私は五条さんの絵を時々拝見させてもらっていたの。そのたびにあの方は(滝子だったら何て言うだろう)などといつも言っていたの。

どんな人と聞いたのだけれど教えてくれなかったわ。去年父に、五条さんが連れていらした女の人の話を聞いて、滝子さん、つまりあなただと思ったの。」

その人は、時々笑顔をチラッと滝子に移しながら話を続けた。

その純情そのもののような顔を見ていると、何か張り詰めたような滝子の心は少しずつ和らいできたようだった。

二人はお互いのことを話し合った。

それで滝子はその人が菊代という名で、五条を好いていた人だという事を知った。

菊代は菊代で彼女が五条の姪だということで少しほっとしたらしくさらに笑顔となった。

そんな事で住職が現れるまでに二人はすっかりうちとけてしまった。

 

住職は手に大きな額絵を四枚持って二人のいる書院に入ってきた。

「どうも待たせてすみません。なかなか重いもので…。でも良かった、その間にすっかり菊代と気が合ったものと見える。」

その絵は相当重いらしく彼は壁にそれを立てかけた。

滝子にはすぐにそれが五条のものだと分かった。

「五条さんの絵です。この寺の春夏秋冬を書いて下さったのですが、残念なことに夏の絵が未完成なのです。」

滝子と菊代はその絵に目をやった。春・秋・冬、それはどれも美しいこの寺の風景だった。

春は花に包まれ、秋は紅葉に、そして冬はまっ白な雪の中に、その姿を誇っていた。

滝子は十九世紀に栄えた絵画が好きだった。

そしてどことなくそれを思わせる五条の絵も同じように好きだった。

「ねえお父さん、滝子さんはね、五条さんの姪なんですって。今高校三年生なのよ。」

菊代は、二人の前に座った彼女の父にそう言った。

「うん、わしも今聞いたところだ。何しろあの人は親戚関係が全然なかったようだったから、てっきり五条さんに絵でも習っていた人かと思った。」

滝子は叔父が彼女の父と母親を異にする兄弟だという事や、叔父の母が勝気な人で、彼を父の家に入れなかった事などを二人に話した。

住職も菊代もそのような事をまるで知らなかった様子であった。

「私が叔父を知ったのは、美術館でした。私が中学三年生の時です。ちょうど叔父が大学四年生の時です。最初叔父の方が話しかけてきたのです。

叔父は私のことをいろいろと知っていました。私が度々絵を見に行くことも。そして姪だという事まで・・・。」

滝子は初対面も同様な彼らに向って何の抵抗も感じずに、話すことができた。

「あなたはよほど絵が好きらしいわね。」と菊代が言った。

「ええ好きです。でも下手な横好きかもしれません。高校へ入ってからずっと叔父について絵の勉強をしましたが、さっぱりです。」

「私も一度五条さんに習ったのだけれど、すぐやめてしまったわ。滝子さんは続けている。その点偉いもの、きっと上手に決まっているわ。」

菊代は一人でそう決めてしまったように得意そうな顔をしてみせた。住職の前で滝子を独り占めした感じであった。

「菊代に絵は向いていない。でもいいですね若い時は、芸術だのなんのって夢中でなるものがありますから、現実の世から離れて。」とそこへ住職が口を入れた。

すると菊代はちょっとふくれたような表情をわざとらしく見せて

「あらお父さんたら・・。お父さんだって結構植木に夢中ではありません。

それに芸術だって現実との戦いはありますよ。もしかしたら芸術の方が激しいかもしれないわ。」と言った。

住職は大きな声で笑った。そして

「全く幾つになっても親いびりは忘れないらしい。」と言った。

滝子はそんな二人を見ていて、今まで忘れかけていた淋しさがふと心をかすめた。

「なんと理想的な親子だろう。」と彼女は思った。

せめて彼女の父がこの何分の幾つかでもそのようだったらと思った。」

 

「それにしても五条さんは死ななくても良かったのに。」と住職がふいにいった。

すると「自殺なんて…。」と菊代が言った。

先ほどの明るさが少しずつ萎んでいくようだった。

親子は五条の死を真剣に考えているらしかった。滝子にもそれが分かった。

人付き合いの嫌いだった叔父も、反面に真剣に考えてくれる友を得ていたのである。

叔父がこの寺を好きだった理由はここにもあるのだと思った。

「私もはじめは信じられませんでした。あの夏、私がここへ連れてきてもらって、家へ帰る時、叔父も東京へ帰るはずだったのに、留まるというのです。

絵を書きたいからというのが理由でしたので、私もすっかり賛成しちゃって。それに、あの時の叔父の顔は普段と違って晴れ晴れとした感じだったのです。」

滝子は話しているうちに次第に悲しくなってきた。涙が出そうになったが、一心にこらえていた。

「それには裏があるという事にあの時気がつきさえすれば・・・。」

「やっぱり無理だったでしょう。私も前の日に会っていたのですから。それにあなたは十七歳という若さだ。」

そう言った住職の顔には、先ほど滝子に見せた時と同じように失敗したという表情が現れてきた。

そして「どうも私はあなたや菊代を悲しがらせる話ばかり始めてしまっていけない。」と言って、

「どうですか、二人して五条さんの墓参りをしたら。」と滝子と菊代を、五条の墓へと向けた。(3)へ続く・・・。

 

この回はこの曲をお借りしました。

オフコース/夏の終り
 
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ある夏の終わりに~高校時代の創作(1)♪夏の終わり / 森山直太朗

2021年08月23日 | すずかけ

高校時代、文芸部に所属していました。

部は1年に1度、部員の詩とか散文などを寄せて、文芸誌「すずかけ」を発行していました。

当時はかなりの時間をかけ苦心して書いた作品ですが、今読み返すと誤字脱字はもとより、内容自体が幼くて笑ってしまいます。

けれど、54年前(時の流れにビックリしますが)17歳で書いたその時の想い、せっかくブログをやっているので自分の記録(思い出)として推敲せずに書き写してみようと思いました。

【ある夏の終わりに】(1)

午後一時近くなってやっと滝子は長福寺の境内に立った。

これまで太陽のぎらつく中を歩いてきたせいか顔は赤くほてり、そこへついた時はもう汗びっしょりで、

新しい紺色のワンピースはほこりにまみれて幾分白くなっていた。

境内はいたる所に杉の木やその他の樹々が立ちこめているせいか、蝉の声が騒がしく夏らしくもあったが、かなり涼しい所だった。

彼女はハンカチを取り出して汗をふくと、ていねいに服のほこりをはたいてから、もう一度きちんと立ち直った。

そしてあたりを懐かしそうに見渡し始めた。

山門に続く石段、目の前の本堂や庫裡その他、建物はみな荘厳で、去年と変わらなかった。

そして広い庭には、桜や藤の緑の中で百日紅の木が今年も又その淡紫色や紅色の花をつけており、

回りに石を置いた池では相変わらず鯉が気持ちよさそうに泳ぎまわっている。

ここは滝子の故郷では無かった。

しかし彼女はむしろここの方が好きだった。

回りを山に囲まれたこの土地は彼女の住んでいる地方に比べれば余り発展はしていなかったが、自然の風景は比べるには及ばなかった。

美しい山や川、そして古都にも似つかわしいこの町。

その町の中心にあるこの寺も単にそれだけが美しいのでなく、まわりの景色から多分に影響を受けていたのであった。

滝子の叔父五条はここで育ちここで死んだ。

彼女はそんな叔父を恨めしく思うことさえもあった。

彼の死の原因は何だったのか彼女にははっきりわからなかったが、もしこの故郷のためだったとしたら、何故か分かるような気もした。

寺の風景は何もかも去年と同じだった。

そしてそれは滝子の心に新たな寂寞とした思いを湧きたたせるのだった。

「叔父さんはなぜ死んだのだろう。」再度繰り返した疑問が再び湧き起った。

彼女はもう一度ゆっくり境内の全てを見渡すと、やがて庫裡の方へ向かった。

百日紅の花の下を通り池をぐるり回ると庫裡へでる。

池の辺には滝子の知らぬ白色の小さな花が、まるで粉でもまいたかのように咲いていた。

去年は見かけぬ花だった。

 

彼女が庫裡に入ると、寺の住職が植木鉢の手入れをしていた。

棚に並ぶ数十個の鉢はみなどれも、きれいな花をつけていた。

「すみません、お線香とお水を頂きたいのですが」 滝子の声に住職は頭を上げた。

そして彼女の顔をまじまじと見つめると「あなたは、もしかすると、いつか五条さんとみえた方ではないですか。」と言った。

「ええそうです。覚えていて下さったのですか?もう忘れてしまったかと思って挨拶もしませんで…」

「いいえ、私こそ植木なんぞに夢中でしたから、それにあなたのように、庭や私の植木を褒めてくれた人は忘れませんよ。」

彼は鉢を元の場所へ並べると、手桶に水を入れ始めた。

「目でわかるんですね。大抵の人は褒めてくれるのですが、あなたみたいに根っから花や樹を好いてくれる人は少ない。

あなたと五条さんくらいでしょう。」 彼はそう言った。

「五条さんも惜しいことをしましたね。もう少しで世の中に認められたでしょうに全く惜しかった。」

住職がことさらに惜しい様子を見せたので、滝子もなにか言おうとした。が、なぜか、それに答える言葉がでなかった。

それで彼女はつい気まずそうな表情をしてしまった。

すると住職は滝子のそれを見てとってか「私は悪いことを言ってしまったようですね。ごめんなさいよ。お嬢さん・・。

五条さんの墓参りなのでしょう。うっかりその事を忘れてしまって・・。本当に悪かった。」とわびを言った。

「いいえ叔父を惜しく思ってくれ嬉しいです。」

滝子は先ほどから自分にしきりに話しかけてくる住職を「なんて話好きな人なのだろう」と思った。

「叔父・・。そうですか、あなたは五条さんの姪御さんですか。私はてっきり五条さんの絵の生徒さんかと思った。そう言われてみればどことなく似ていますね。」

彼は再び滝子の顔をまじまじと見ていたが、「まあ立ち話も何ですから、こちらでお茶でも。」と彼女を書院の方へと促した。

滝子はちょっと戸惑ったが、言いなりになった。

なぜだかよくわからなかったが、たぶん叔父の話が彼女をそうさせたのだと思った。

書院からは寺の庭が全て見渡せた。

ついさっき彼女の通ってきた山門、桜の木、紅の百日紅、美しく置いた石や樹々や、それに囲まれる池などがみな目の前に開けた。

そしてあの白い花は一枚の白い布の様に輝いて見え、周りの緑を一層引き立てていた。

彼女が暫く庭の方を眺め入っているとそこへ、すっきりしたワンピース姿の二十二・三歳の娘が飲み物らしきものをもって現われた。

彼女は軽く挨拶をすると「さあ、滝子さん、どうぞ」と出し抜けにそう言った。

滝子は自分の名を知っているその人に驚いた。 (2)へ続く・・・。

 
2003年8月20に発売された森山直太朗 の「いくつもの川を越えて生まれた言葉たち」の収録曲からのシングルカット
素敵なピアノのカバーがあり同じ夏の終わりという題名なのでお借りしました。
 
【ピアノver.】夏の終わり / 森山直太朗 -フル歌詞- Covered by 佐野仁美
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