永子の窓

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枕草子を読んできて(126)その2

2019年12月09日 | 枕草子を読んできて
113 方弘は、いみじく(126)その2  2019.12.9

 女院なやませたまふとて、御使ひにまゐりて来たる、「院の殿上人はたれたれかありつる」と人の問へば、「それかれ」など四五人ばかり言ふに、「または」と問へば、「さてはぬる人どもぞありつる」と言ふをまた笑ふも、またあやしき事にこそはあらめ。
◆◆女院がご病気になられたというので、方弘がお見舞いの勅使として参上して、きたので、「院の殿上人は誰誰がいたのか」と人が尋ねると,四、五人ほど言うので、「他には」と問うと、「それから寝る人たちがいた」というのを又笑うのも、また奇妙なことであろう。【寝る人=宿直の人?】◆◆

■女院=東三条女院詮子(せんし)。一条天皇の正母。藤原兼家二女。

 人間に寄り来て、「わが君こそ。まづ物聞こえむ。まづまづ人ののたまへる事ぞ」と言へば、「何事にか」とて、几帳のもとに寄りたれば、「『むくろごめに寄りたまへ』と言ふを、『五体ごめに』となむ言ひつる」と言ひて、また笑ふ。除目の中の夜さし油するに、灯台の打敷を踏みてつるに、あたらしきゆたなれば、強うたらへられにけり。さし歩みて帰れば、やがて灯台は倒れぬ。襪は打敷につきて行くに、まことに道こそ震動したりしか。
◆◆人のいない間に寄ってきて、「あなたさま。何はさておいてお話申し上げましょう。何はさておき、何はさておき、お人がおっしゃっておいでのことですぞ」と言うので、「何事ですか」と言って、几帳の傍に寄ったところ「『身体ごとお寄りください』というのを『五体ごと』と言った」といってまた笑う。除目の二日目の夜、灯火にさし油をするときに、灯台の下の敷物を踏んで立っていると、新しい油単なので、足袋が強くくっついてつかまえられてしまったのだった。しずしずと歩いてもどるので、そのまま灯台は倒れてしまった。足袋は敷物にくっついていくので、ほんとうに方弘の歩く道は震動していた。◆◆

■むくろごめ=身体ぐるみ。だが「むくろごめ」も中古文献に聞きなれぬ語。
■襪(したうづ)=下沓。足袋の類。指は分かれぬ。


 頭着きたまはぬほどは、殿上の台盤に人も着かず。それに方弘は、豆人盛を取りて、小障子のうしろにて、やをら食ひければ、ひきあらはして笑はるる事ぞ限りなしや。
◆◆蔵人の頭がご着席にならないうちは、殿上の間の台盤にはだれも着席しない。それなのに方弘は、豆一盛りを台盤から取って、小障子の後ろで、こっそり食べたので、小障子を引きのけて丸見えにして笑われることとといったら限りもないことよ。◆◆



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